弁護士 秋山亘のコラム

2018.11.12更新

借地権付建物を競売により取得する場合の注意点

 

<質問>

 私は、借地権付建物を競売により取得しました。

 落札後、地主のところに行き、改めて借地契約の締結をしたい旨を話しましたところ、地主は、承諾料として借地権価格の1割を支払わなければ借地権譲渡は認めないと言ってきました。

 しかし、この競売物件の物件明細書には、借地人が借地上に建物を建てた際に地主が金融機関に提出したものと思われる借地上の建物に対する抵当権設定の承諾書が添付されており、その承諾書には「将来第三者が所有権を取得したときは、借主に対するもの同一の条件で、その者に引続き貸与します」と記載されており、地主の署名捺印が押されていました。

 この同意書によると、地主は、借地権の譲渡について、事前に承諾しておりますので、改めて借地権の承諾料を支払わなくてもいいのではないかと思います。

 このまま地主の同意を得ないでいても、地主に対し、借地権を主張することは出来るのでしょうか。

<回答>

1 まず、上記のような承諾書がない一般的な場合についてご説明致します。

競売により借地上の建物を取得した者は、建物の所有権と共に借地権も取得しますが、この借地権は地主の承諾を得て取得したものではないため、落札後に地主の承諾を得ないと、借地権の無断譲渡によって借地契約を解除されてしまいます。

  そこで、借地借家法第20条は、競売によって借地権付建物を取得した借地人を保護するため、地主の承諾に代わる裁判所の許可の審判を申立てることができるとされております。

  この許可の審判の申立てがあると、裁判所は、地主から介入権の行使があった場合や借地人が借地を暴力団事務所に使うなどの特段の事情がない限り、許可の審判を下します。ただし、自己の意思に関わりなく、借地権譲渡を認めなければならない地主の利益に配慮して、借地権価格の1割に相当する金員を借地権者が地主に支払うことが条件とされます。

 2 ところで、上記の借地借家法20条の審判申立は、借地人が競売代金を納付した日から2ヶ月以内に申立てなければならないとされており、これは、当事者間の合意によって伸長することができない不変期間だとされております(東京地方裁判所平成10年10月19日判決・判例タイムズ1010号267頁)。

この2ヶ月の不変期間を設けた趣旨は、自らの意思に関わりなく借地権譲渡への承諾か介入権行使かを迫られる地主側の不安定な状態を速やかに確定するためとされております。

  したがって、この期間を経過してしまうと、結局、競売によって借地権を取得した借地人は、地主に対し、借地権を対抗できなくなってしまい、地主の土地明け渡し請求に応じなければならなくなってしまいます(前記東京地方裁判所平成10年10月19日、東京高等裁判所平成17年4月27日判決)。

  このような結論は、借地人に対しあまりにも酷なように思え、上記裁判例に対して批判の声もありましょうが、借地借家法20条の申立期間を経過した借地権者に対する裁判例の態度は厳しい傾向にあるようです。

  なお、地主の土地明け渡し請求に対して、借地権を対抗できなかった借地人は、借地権を喪失することになりますが、裁判所は、そのような不利益も、借地借家法第14条に基づく建物買取請求権によって調整が図れるとしております。建物買取請求権を行使した場合に、地主が支払うべき建物代金には借地の場所的利益を金銭に換価したものも含まれますが、借地権価格と比べれば格段にその金額は低くなります。前記の東京地方裁判所平成10年10月19日判決は、場所的利益の金額を更地価格の1割として認定しておりますが、借地権価格が更地価格の7割前後であることに照らせば、借地借家法20条の申立期間を経過してしまったために、借地権付建物を競落した借地人が被った損失は極めて大きな額になります。

 3 さて、以上を踏まえて今回のご質問ですが、確かに地主の承諾書を読めば、地主は借地権譲渡を事前に承諾しているように思えます。

  しかし、東京高等裁判所平成17年6月29日判決(判例タイムズ1203号182頁)は、当該承諾書が提出されたのは競売物件の買受申出時から10年前であり、抵当権者に対して提出された書類に過ぎないことから、競売手続当時に承諾書の拘束力を有することを認めることが困難であるという理由で、借地権譲渡に対する地主の承諾を否定しました。

  そして、当該事案では、既に借地借家法20条の申立期間を経過してしまった事案であり、また、地主側も競売の物件明細書や競売後の事前の交渉段階から借地権譲渡に対し承諾せず、介入権を行使する予定である旨を明言していたこと、借地権者側も不動産業者であり前記申立期間を徒過した場合に自らが被るリスクを認識し得たことなどの事情も考慮して、借地権を地主に対抗できないとの判断を示しました。その結果、結局、借地権者は、借地権が消滅したことを前提に建物買取請求権を行使しておりますが、借地権価格が億単位であったため、この事案の借地権者側の損失はまさに億単位のものになりました。

  この裁判例の結論に対しても、学者の判例評者でも疑問が呈されておりますが、借地借家法20条の申立期間を経過した借地権者に厳しい態度を取っている点では、従前の裁判例の流れをつぐものと言えます。

 4 本件でも、地主と交渉してみるにしても、代金納付日から2ヶ月以内に借地借家法20条の審判申立をしなければ借地権そのものが消滅してしまう可能性が高いことに留意する必要があります。うっかり地主と交渉している間に上記の期間を経過してしまうと取り返しがつきませんので、地主の承諾が得られなそうな時や承諾料の金額で争いがある場合には、速やかに、借地借家法20条の審判申立をすべきでしょう。

本件では、まずは上記の申立をした後に、借地非訟手続きの中で、前記の金融機関への承諾書をもって、承諾料の支払いなく許可をすべきである、或いは、承諾料の減額をすべきであると主張をすればよいと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.11.05更新

借地条件変更の裁判

 

(質問)

 現在借地上に木造住宅を建てて住んでおりますが、私の借地を含む近隣の地域が高度利用地区に指定されたため、近隣の土地は高層ビルが建ち並んでおり、商業地域化が進んでおります。

 そこで、私の借地も鉄筋コンクリート造り5階建てのビルに全面改築しようと考えておりますが、賃貸借契約書では借地上の建物は「非堅固建物に限る」と記載されており、地主は、建物改築に承諾してくれません。

 この場合、どのような手続きを取ったらよいのでしょうか。

(回答)

1 借地条件変更の裁判

  本件のように賃貸借契約書において借地上の建物は「非堅固建物に限る」「木造家屋に限る」という建物の構造・規模等に関する制限(これを「借地条件」といいます)がある場合に、これを変更して「堅固建物」(例えば、鉄筋コンクリート造りの建物)に全面改築したい場合には借地条件変更の裁判を申立てる方法が考えられます。

  この借地条件変更の裁判は、増改築許可の裁判と異なり要件がだいぶ厳しくなり、また、承諾料も更地価格の10%と高くなります。

  そこで、今回は、借地条件変更の裁判の要件について詳しくご説明します。

2 借地借家法施行前(平成4年8月1日)に設定された土地賃貸借契約では、借地条件として「非堅固建物所有目的」を掲げているものがあります。

これは、土地の上に木造家屋といった非堅固建物を建設することは許可するが、鉄筋コンクリート造等の堅固建物を建設することは許可しないという内容の借地条件です。

これに反して無断で堅固建物を建てると契約違反となり賃貸借契約を解除されることがあります。

しかし、時の経過と共に木造建物は老朽化しますし、次に建物を建替えるときは、付近の建物にあわせて鉄筋造の堅固なビルにしたいという借地権者もいることでしょう。

  このような場合、まずは地主と協議して、借地条件の変更の承諾を得なければなりません。この際相当の承諾料を払わなければならないでしょう。

  しかし、それでも地主との協議がつかない場合は、裁判所へ借地条件変更の許可の裁判を求めることができます(借地借家法17条1項)。

なお、旧法では、この借地条件変更の許可の裁判ができる対象が、非堅固建物所有目的から堅固建物所有目的に限られていましたが、新法では、「建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合」に対象を拡張しています。

もっとも、実際に問題になるケースは非堅固建物から堅固建物への変更が多いようです。

3 裁判所は、法令の規制の変更(新たに防火地域に指定された、高度利用地区に指定された等)や近隣の土地の利用状況の変化(付近の土地上の建物では商業化に伴いほとんどが鉄筋の建物・高層のビルになっている)等のいわゆる「事情の変更」がある場合には、借地条件変更の許可の裁判をすることができます。

  但し、この借地条件変更の裁判の場合は、借地権譲渡の裁判と異なり、借地権の存続期間の延長を命ずる処分(通常は30年程度)がなされるなど(これは建物を保護する目的でなされます)、地主に対して不利な処分を伴いますので、借地権譲渡の許可の裁判や増改築許可の裁判と異なり、簡単にはでません。

例えば、単に、「家族が増えたから」とか「商業替えのための建て替え」「既存建物老朽化のための堅固建物への建て替え」といった借地人の個人的事情だけでは、許可の裁判はでないのです。

  そして、許可の裁判がでる場合にも、裁判所は大抵の場合借地人に相当の承諾料の支払を命じます。 

その承諾料の相場は更地価格の10パーセント前後となっています。この更地価格の10パーセントというのは、前記の地主との事前交渉の際にも一つの目安となるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.10.29更新

平成17年最高裁判例と原状回復義務

  

<質問>

私は、大家さんから家を賃借し、敷金として35万円を交付していましたが、賃貸借契約の終了により、借りていた家を出て、大家さんに対して敷金の返還を求めました。

しかし、大家さんは、退去時の原状回復義務に関して、賃貸借契約書では「生活することによる変色・汚損・破損」に対する修繕・補修費が賃借人の負担する旨の条項があるとして、敷金から家の補修費用として30万円を差し引いた5万円しか返還してくれませんでした。

大家さんは、通常の使用に伴う損耗についての補修費用まで敷金から差し引いているようですが、そこまで賃借人である私が負担しなければならないなんて納得できません。残りの30万円も返還してもらうことはできないでしょうか。

 

<回答>

1 敷金 

 不動産賃貸借成立の際には、通常、敷金と呼ばれる金銭の授受が行われます。

その目的は、借家契約の期間が満了して賃貸借契約が終了する時に、支払の滞っている賃料債務や建物に関する損害賠償債務を担保することにあり、延滞賃料や損害賠償額を控除して、残額は借家人に返還されます。

2 原状回復

賃貸借契約が終了し、借りた家を貸主に返す場合、借主は、借りた家を原状回復して返す必要があります(民法616条、598条)。

もっとも、ここでいう「原状回復」とは、借りた時の状態と同じに戻さなければならないという意味ではありません。借りた借家が、通常の用法で使用していればそうなるであろう状態であれば、「原状」にあたります。借家契約は、その借家を利用することが契約の本質的な内容ですから、通常の使用に伴う消耗は当然に予定されていることであり、損耗以前の状態にまで回復させることは民法は予定していないのです。

借りた家が通常の用法で使用していればそうなるであろう状態以上に痛んでいた場合には、借主は、借りた家を通常の用法で使用していればそうなるであろう状態に原状回復しなければなりませんが、その場合、通常は、補修費用を敷金から差し引くという形で清算されます。

本件では、通常の使用に伴う消耗についての補修費用まで敷金から差し引かれているということですが、上述したように、そのような補修費用は、本来、借主が負担すべき費用ではありません。そこで、原則として、借主は残りの30万円も返還してもらうことができます。

3 通常の使用に伴う消耗についての補修費用を賃借人に負担させる旨の特約の効力

 もっとも、賃貸借契約の際に、賃貸人と賃借人の間で、通常の使用に伴う消耗についての補修費用を賃借人に負担させる旨の特約がなされることがあります。

このような特約の効力については、有効であるか無効であるかという議論がなされてきましたが、最高裁は、平成17年の判決(平17.12.16第二小法廷判決・判例タイムズ1200号)において、一般的に特約を結ぶこと自体は民法90条の公序良俗違反に該当ぜず必ずしも無効とはならないとしつつ、特約に関する合意の成立要件を極めて厳格に解する立場をとることを明らかにし、結論としては、特約の成立を認めませんでした。

すなわち、最高裁は、このような特約は、賃借人に予期しない特別の負担を課すものであるから、賃借人がそのような特約の具体的な内容を明確に認識できるようなかたちで合意された場合のみ特約が成立するとしたのです。

 そこで、本件でも、上記のような特約がなされており、しかも、賃借人が補修費用を負担することになる通常消耗の範囲が、賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、賃借人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなどのような場合には、右特約は有効と解されます。そして、その場合には、賃借人は特約に従って、通常の使用に伴う消耗についての補修費用も負担することになりますので、残りの30万円の返還を請求することはできないということになります。

4 もっとも、前記判例の事案は本件と同様の事案ですが、賃借人の負担とされている修繕・補修の範囲・場所について、賃貸借契約書の別表である修繕費負担表で、襖紙、障子紙について「汚損(手垢の汚れタバコの煤けなど生活することによる変色を含む)・汚れ」、各種床仕上材・各種壁・天井等仕上材については「生活することによる変色・汚損・破損」に対する修繕・補修費が賃借人の負担とする旨が定められておりました。

しかし、最高裁は、上記のような条項では「賃借人が補修費用を負担することになる通常消耗の範囲が、賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているとはいえない」として、特約による賃借人の修繕費負担を認めませんでした。

上記の定めでは、「生活することによる変色・汚損」も賃借人負担とすることが書かれており、通常損耗についても賃借人が負担することが契約書でも書かれているように思われますが、最高裁は、上記のような書き方でも特約の成立を認めませんでした。

したがって、上記の最高裁の判断を踏まえると、修繕費負担の特約の成立が認められるためには、賃借人が退去するときに負担すべき修繕の範囲及び負担の程度が具体的に認識・予測できるほど一義的に明確にかつ具体的に契約書に明記されている必要があるということになります。すなわち、少なくても、契約書において、賃借人が負担することとなる通常損耗(通常の日常生活を送っていても生じる建物の傷み・汚損)の程度、通常損耗により補修すべき範囲、そして、賃借人が負担すべき修繕費の額若しくは計算方法などを明記した上、口頭でも十分説明をしておく必要があると思われます。

5 消費者契約法10条

 消費者契約法には、民法の規定の適用による場合に比べて消費者に不利な条項で、消費者の利益を一方的に害する契約は無効とする旨の規定があります(消費者契約法10条)。上記3で述べた特約は、民法の適用による場合よりも賃借人(消費者)に不利であるといえ、この規定によって無効になるのではないかという見解もあります。この点についての裁判所の判断はまだ明らかになっておらず、今後の動向が注目されています。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.10.22更新

賃借人による敷金と家賃の相殺の可否 

 

<質問>

 私は、店舗を借りて飲食店の営業をしている者ですが、賃貸借契約の際に、敷金として6ヶ月分を差し入れています。営業が不振なので、当面、敷金の一部を賃料の支払いに充てたいと考えております。家主に敷金と家賃の相殺を請求することは可能でしょうか。

 

<回答>

1 この問題は、賃借人が家主に預け入れた敷金の返還請求権の発生時期と関連する問題ですが、最高裁昭和48年2月2日判決(民集271・80)は、敷金返還請求権の発生時期について、建物の明け渡し時だと判示しています。

 これは、敷金の法的性質について、賃貸借契約の継続中の賃料だけでなく、賃貸借契約が解除等により終了した後の賃料相当損害金、また、建物の原状回復費用など明け渡し時までに賃借人が負担すべき一切の費用を担保するために預け入れられているものであることを理由とします。

 したがって、賃貸借契約の継続中においては、賃借人の家主に対する敷金返還請求権の弁済期が未だ発生しておりませんので、賃借人の方から家主に対し、敷金の一部と賃料との相殺を請求することは出来ません(大判大15年7月12日・民集5・616)。

 なお、上記の点は賃貸借契約書において相殺禁止の条項が入っていなくても同様です。

 もっとも、当然のことですが、家主が相殺を同意すれば相殺することも可能ですので、賃借人と家主の個別的な合意書を締結することによって相殺することは出来ます。

2 では、賃借人が家主に対し、一方的に敷金と家賃との相殺を通知した場合に、賃借人は、どのような不利益を被る事になるのでしょうか。

 前記の通り、建物明け渡し以前における家賃と敷金の相殺の主張は無効ですので、家主としては、賃料の不払いを理由に賃貸借契約の解除をすることができます。そして、賃料未払いの期間の長さや賃借人の対応に鑑みて、賃借人と賃貸人の信頼関係を破壊するとの事情が認められれば、契約解除は有効とされます。

 この点、最高裁昭和45年9月18日(判時612・57)も、敷金16万円、未払賃料20万円、賃料1ヶ月8万円という不動産賃貸借契約において、敷金と未払賃料を相殺すれば賃料の滞納は1ヶ月分にもならないという事案において、賃貸借契約において敷金が差し入れられていたとしても、敷金の性質上、特段の事情がない限り、賃料延滞を理由として契約を解除することができ、右解除が信義則に反し権利濫用であると認めることは出来ない旨判示して、解除を有効と判断しております。

 したがって、賃借人としては敷金を預け入れている場合においても、一方的に敷金と賃料の相殺を通知することは、賃貸人から契約解除をされてしまう不利益を被ることが予想されます。

3 なお、建物の明け渡し後において、賃貸人に対する敷金返還請求権と未払賃料を相殺する(或いは敷金と未払賃料が当然に充当される)ことは可能です。

実際にも、賃借人としても賃貸借契約の解約を考えているが、賃貸人側に敷金の弁済能力がなく、預け入れている敷金が返還される見込みがないという事案では、解約申し入れの数ヶ月前から賃料の支払いを停止し、賃貸借契約の解約を申し入れて、建物の明け渡しを行った後に、敷金と未払賃料を相殺する(或いは当然に充当される)という方法で預け入れ敷金の回収を図るという方法が実務上行われております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.10.15更新

借地権の存続期間

 

<質問>

 旧「借地法」と現「借地借家法」では借地権の存続期間に関してどのような違いがあるのでしょうか。

<回答>

1 旧借地法、現借地借家法は、借地人の保護と建物の保護のために、建物所有を目的で借りた土地賃借権の存続期間に関して、特別の定めをおいております。

  この存続期間に関する定めは、借地人の保護のための規定ですので、契約で法の定めより長い存続期間を設けることは可能ですが、契約でこれよりも短い存続期間を設けることはできません。

2 借地借家法は、平成4年8月1日に施行された法律で、同日以降に締結された借地契約に適用があります。

それより前に借地法下で設定された借地権(いわゆる既存借地権)の効力は、借地借家法の施行によって妨げられないとされています(附則4条)ので、存続期間に関する借地借家法3条は、既存の借地権には適用されません。

また、借地法の下で借地契約が成立した後、更新を重ねた借地契約も、存続期間との関係では借地法が適用となり、借地借家法の適用はありません(附則6条)。

したがって、原借地契約の成立時が平成4年8月1日以前か以後かで借地法と借地借家法のどちらの適用になるかが決まります。

3 借地法の存続期間

(1) 原借地契約の存続期間

借地法では、借地権の存続期間について、借地契約で期限の定めのない場合には、石造・土造・煉瓦造などの堅固の建物の所有を目的とするときは60年、その他の建物(いわゆる非堅固の建物)の所有を目的とするときには30年とされています(2条1項本文)。

これは建物の効用を全うするために設けられた規定ですので、その期間中に建物が「朽廃」すれば、借地権は目的を達成して消滅します(同項但書)。

なお、借地権設定契約で建物の種類・構造を定めなかったときは、非堅固の建物の所有を目的とするものとみなされます(3条)。

これに対し、借地契約で堅固の建物に関して30年以上、非堅固の建物について20年以上の存続期間を定めたときは、この合意が優先され、借地権はその期間の満了によって消滅します(2条2項)。この存続期間は合意の効果ですから、期間中に建物が朽廃しても借地権は消滅しません。

なお、借地契約で上記の期間よりも短い存続期間を定めた場合、そのような存続期間に関する合意は無効となりますので、結局、「期限の定めがない借地契約」になり、存続期間は堅固・非堅固の別により60年ないしは30年となります(最大判昭44・11・26民集23・11・2221)。

契約更新の場合の存続期間

(ア) 合意更新の場合

借地法では、借地契約の存続期間満了に際し、借地契約を合意によって更新する場合(但し、更新の合意だけで更新後の期間の定めの取り決めは特に行われない場合)の存続期間は、堅固の建物は更新時から30年、非堅固の建物は20年となります(5条1項)。

ただし、この期間中に建物が朽廃した時は借地権は消滅します(5条1項、2条1項但し書き)

当事者が上記より長い期間を定めて合意更新をしたときは、その合意に従います(5条2項)。この場合には朽廃の規定の適用はありません。

(イ) 法定更新の場合

期間経過後も借地上に建物が存在し、借地人が借地の使用を継続しており、地主が「正当事由」を具備して遅滞なく異議を申し出ないと、借地契約は更新したものを見なされます(6条、法定更新)。いわゆる法定更新の場合には、上記と同様、堅固の建物は更新時から30年、非堅固の建物は20年となります。

第2回目以降の法定更新の場合も、前記と同様です。

3 借地借家法の存続期間

(1) 原借地契約の存続期間

借地借家法では、借地契約で存続期間の定めをしていない場合、借地権の存続期間を30年と定めております。契約でそれより長い期間を合意したときはその期間となります(新法3条)。

借地借家法では、堅固建物・非堅建物の区別による存続期間の定めが廃止され、存続期間は上記のとおり30年に一本化されました。

また、借地借家法では、旧借地法下での建物朽廃による借地権の消滅の制度も廃止されました。

なお、契約で法の定める30年より短い存続期間を定めた場合には、そのような存続期間に関する合意は無効となりますので、結局、期限の定めがない借地契約ということになり、存続期間は30年になります。

(2) 契約更新の場合の存続期間

 (ア) 合意更新の場合

次に、借地契約を合意によって更新するときの存続期間は、第一回目の更新の場合には更新日から20年、第2回目以降の更新の場合には更新日からそれぞれ10年となります。当事者がこれより長い期間を定めたときもその期間によります(新法4条)。

 (イ) 法定更新の場合

また、期間経過後も借地上に建物が存在し、借地人が借地の使用を継続しており、地主が「正当事由」を具備して遅滞なく異議を申し出ないと、借地契約は更新したものを見なされますが(法定更新)、この法定更新の場合も、上記と同様、第一回目の更新の場合には更新日から20年、第2回目以降の更新の場合には更新日からそれぞれ10年となります(新法5条)。

5 借地法と借地借家法の違い

以上をまとめると、借地借家法は、借地法に対し、
建物の種類・構造による存続期間の相違がなく存続期間は30年、
建物の朽廃による借地権の消滅がない、
更新後の存続期間は、第1回目は20年であるが、2回目以降は10年(借地法は2回目以降も堅固・非堅固の相違により30年若しくは20年と続く)、

などの点で異なっております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.10.09更新

品確法に基づく瑕疵担保責任 

 

<質問>

ある不動産業者から新築の建売住宅を購入しました。購入して4年が経過しましたが、屋根裏から雨漏りがし出して、補修をしなければならなくなりました。そこで、補修費用を売主の不動産業者に請求したのですが、売買契約書では、瑕疵担保責任の期間を2年間に限定しているとして取り合ってもらえません。何とかならないでしょうか。

 

<回答>

1 民法の一般原則になりますと、契約書に特に記載のない場合には瑕疵担保責任の期間は、買主が瑕疵の存在を知らなかった時は瑕疵を知った時から1年以内、買主が知っていたときは契約の時から1年以内に行使しなければなりません(民法564条)。 

また、売主が瑕疵の存在を知っていながら告げなかった場合を除いて、売買契約書等において売主の瑕疵担保責任の期間を例えば2年間などに限定する或いは免除することも可能です(民法572条)。

 しかし、通常、建物における瑕疵の存在が明らかになるのは、契約して実際に住んでみた時から数年経ってからです。例えば、建物の引き渡し時から4年が経過して雨漏りが発生したという場合でも、建物は通常20年以上の長期に渡り、住居として使用可能な耐久性を持つことを前提に建てられるものですので、4年で雨漏りがしたということ自体からして、建物の建築時から何らかの瑕疵があったものと考えられます。そのため、契約書において瑕疵担保責任の期間を2年間と限定すること自体が不当と言えます。

2 そこで、平成12年4月1に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)では、新築住宅における以下の部位の瑕疵担保責任の期間を引き渡し時から10年間と法定しました(品確法94、95条)。

①構造耐力上主要な部分(柱、梁、耐力壁、基礎、地盤、土台等の構造躯体)

②雨水の浸入を防止する部分(外壁や屋根の仕上、下地、開口部等) 

これにより、たとえ売買契約書(新築建売住宅の場合)や請負契約書(新築住宅の発注の場合)において、瑕疵担保責任の期間を契約時から2年間と定めても無効であり、最低10年間は瑕疵担保責任を負うことになります。

なお、上記の「新築住宅」とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもので、かつ、新築されてから1年以内のものをいいます。

したがって、一旦人が住んだことのある中古住宅、また、不動産業者からの新築建売住宅の購入の場合でも建物の完成時から1年以上の間売れ残っていた物件は、品確法による保護を受けられないため注意が必要です。

3 本件は、品確法による保護が受けられる筈ですので、品確法95条に基づき、瑕疵担保責任として建物の補修費用の請求が出来ると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.10.01更新

普通借家から定期借家への切り替えの可否

 

<質問> 

 私は、賃貸用マンションのオーナーをしておりますが、この度、将来の立ち退き請求がスムーズに進むように、現在借家人と結んでいる普通借家契約を「定期借家契約」に切り替えることを検討しております。このような事は可能なのでしょうか。

 

<回答>

 (1) 平成12年3月1日以前に締結された居住用建物の普通借家を定期借家へ切り替えることは現在のところ不可

 居住用の建物について、平成12年3月1日以前から賃貸借契約を締結している場合、「当分の間」は定期借家契約に切り替えることはできません(改正法附則3条)。

 この「当分の間」の解除時期については、附則では明記されておりませんが、居住用建物の定期借家への切り替えの可否については改正法施行後4年の平成18年を目処に見直すことにされておりました。しかし、現在のところ見直しはされておりません。

 この点に関しては、全国宅地建物取引業協議会は、定期借家法の見直しの年として予定されていた平成18年6月に居住用建物の定期借家への切り替えの解除に向けた要望書を国に提出しておりますが未だ実現に至っておりません。

 したがって、現在のところ、平成12年3月1日以前に締結された居住用建物の普通借家を定期借家へ切り替えることは出来ません。

 なお、平成12年3月1日以降に締結された普通借家を定期借家に切り替えることは可能です。

(2) 居住用を除く事業用建物の定期借家に関しては普通借家から定期借家への 切り替えは可能

 居住用以外の建物(事業用)に関しては、従来の借家契約を一旦合意解除して、新たに定期借家契約を締結することは可能です。

なお、この再度の契約もやはり定期借家契約ですので、新規の定期借家契約を締結する際の手続きと同じ手続きが必要となります。具体的には、公正証書等の書面による契約の締結と更新がなく期間満了により契約が終了する旨の口頭及び書面による説明が必要となります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.09.25更新

不動産広告に関する法的規制

 

<質問>

 当社は、自社ホームページ上で不動産の広告も行っておりますが、不動産広告に関しては、景品表示法に基づき、「公正競争規約」によって様々な規制がなされていると聞いております。

公正競争規約ではどのような規制があるのでしょうか?

<回答>

1 景品表示法の規制

 不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)第4条第1項は、次の三つの表示を不当表示として禁止しております。

(1) 商品の内容に関する不当表示

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

(2) 取引条件に関する不当表示

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

(3) 「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務に関する事項について、一般消費者に誤認されるおそれのある表示であって、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの」

(第3号)

2 公正競争規約による規制

前記の景品表示法による不当表示の規制に関しては、景品表示法に基づき、公正取引委員会の認定を受けて、不当な顧客の誘引を防止し、公正な競争を確保するために、事業者団体間において自主的に締結される「公正競争規約」(表示規約)が設けられております。

この表示規約において不動産広告に関する詳細な規制内容が定められております。

この表示規約に関しては、「不動産公正取引協議連合会」(03-3261-3811)が規約の制定・改定や規約の全国統一的な解釈を示す役割を担っており、表示規約・景品規約違反に対する調査・是正措置・違約金の賦課徴収に関しては、各地域の不動産公正取引協議会(首都圏については「社団法人首都圏不動産公正取引協議会」(03-3261-3811、http://www.sfkoutori.or.jp/)がその役割を担っています。

不動産公正取引協議会の加盟事業者が表示規約・景品規約に違反する場合、原則として景品表示法にも違反することとなりますが、業界の自主的努力を尊重ないし活用するという表示規約の制度趣旨が考慮され、特に悪質な違反行為を除き、原則として、直ちに景品表示法上の排除命令等の措置が講じられることはなく、一義的には公正競争規約・景品規約による改善・是正措置・違約金の賦課徴収に委ねられることになっています。

表示規約は、規約の加盟事業者に対してのみ規約の効力が及ぶことになっておりますが、宅建業者の場合、それぞれが所属する宅建業協会が規約に参加している場合、当該宅建業協会に加盟している宅建業者であれば規約の効力が及ぶ加盟事業者となるため、事実上、ほとんどの宅建業者に規約の効力が及ぶことになります。なお、宅建業協会などの業界団体に加盟していない不動産業者については、景品表示法が直接適用されますが、この解釈・運用に際しては表示規約が斟酌されますので、これらの業者に対しても、事実上、表示規約の適用があると言うことができます。

3 表示規約違反の具体例

  以下では、よくある表示規約違反のケースを3つほど紹介します。ただし、表示規約での規制内容はこれに限られませんので、詳しくは、上記の不動産公正取引協議連合会が発行している「不動産広告ハンドブック」などを参考にして頂きたいと思います。

<ケース1>

Q 当社は、宅地建物取引業と建設業を営んでいます。この度、土地(更地:価格4,000万円)の売却の媒介の依頼を受けました。できれば、購入者から住宅の建築の注文も受けたいと考えていますので、当社の標準仕様で建築した場合を前提として、次のような新築住宅の広告をしたいと思っています。表示規約上何か問題はあるでしょうか。なお、建物の建築確認は受けていません。

新築6,000万円(税込)

●交通/○○線○○駅歩10分

●敷地/○○㎡(正味)

●建物/110㎡・4LDK

●所在/○○市○○○丁目

A 規約違反になる。

この広告は、建物の建築工事完了前の建物(土地付き)について、当該建物の建築に際し必要とされる建築確認を受ける前に、その売買に関して広告表示をしたものと認められます。したがって、表示規約第5条(広告表示の開始時期の制限)に違反するものです。純粋な土地だけに関する表示事項(「売地○○円」など)を明示した上で、建設予定の建物価格の目安(「1㎡あたり○○円で建築請け負います」など)を示すことは可能です。

<ケース2>

Q ①建売住宅を、平成20年6月1日に、6000万円で売り出しましたが、買い手がつかず平成20年8月1日に5,500万円に値下げしました。

 この場合、広告に際し、次のように表示してもよいでしょうか。

「価格6,000万円(旧価格公表時期/平成20年6月1日)→5,500万円(平成20年8月1日値下げ)」

②建売住宅を、平成20年6月1日に、6000万円で売り出しましたが、買い手がつかず平成21年1月1日に5,500万円に値下げしました。

 この場合、広告に際し、次のように表示してもよいでしょうか。

「価格6,000万円(旧価格公表時期/平成20年6月1日)→5,500万円(平成21年1月1日値下げ)」

A ①規約違反になる

 二重価格表示は規約第20条により原則禁止されていますが、規則第14条の要件を満たす場合に限り許されています。

規則第14条は、値下げの場合に二重価格をしてもよい「旧価格」について「値下げの3ヶ月以上前に公表された価格であって、かつ、値下げ前3ヶ月以上にわたり実際に販売していた価格」(規則第14条本文)であることを要件としています。

A ②規約違反になる

 規則第14条は「(2)値下げの時期から6ヶ月以内に表示するものであること」を要件としています。

<ケース3>

Q  取引しようとする土地に法的規制(例えば、市街化調整区域に該当する)がかかっている場合には、どのように記載しなければならないのでしょうか?

A 取引物件に関する不利益条件に関しては、表示規約第13条において「見やすい場所に、見やすい大きさ、見やすい色彩の文字により、分かりやすい表現で明りょうに表示」するよう義務付けられております。

市街化調整区域に所在する土地については、都市計画法第29条、第43条によって開発行為や建物の建築が原則として禁止されておりますので、このような土地については「市街化調整区域。宅地の造成及び建物の建築はできません。」と16ポイント(5.6mm四方の大きさ)以上の文字で明示しなければなりません。「市街化調整区域」との表示だけでは、宅地建物取引の知識がない消費者が具体的にどのような不利益を受けるのかが明示したことにはならないため、「宅地の造成及び建物の建築はできません。」まで明示する必要があります。

4 そして、表示規約違反の広告について、不動産業者が不動産公正取引協議会の是正勧告を無視し是正しないでいると、最高で500万円の違約金が課される可能性がありますので、注意が必要です。

  具体的には、以下の順に不利益処分を受けることになります。

事業者が規約違反のための不動産公正取引協議会の調査に協力しない場合にはおいて、警告を発しても調査に協力しない場合→50万円以下の違約金
表示規約第5条、第8条~第23条に規定に違反した場合→違反行為を排除するために必要な措置(EX:看板・チラシの撤去・回収、訂正広告など)、再び行ってはならないことの警告又は50万円以下の違約金
事業者が不動産公正取引協議会による上記②排除措置を履行しない場合(看板の撤去等に応じない、再度表示規約違反に該当する表示行為をした場合)→500万円以下の違約金

また、不動産公正取引協議会による上記のような是正措置を無視して、違法な広告を続けていると、今度は、公正取引委員会による「排除命令」などの摘発の対象にもなります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.09.18更新

法定地上権の法律問題 

 

<質問>

(1) 当社は、ある競売物件で土地の購入を検討しております。しかし、この土地上には建物が立てられており、建物には抵当権がついていなかったため、土地のみが競売に出されています。

 このような場合、建物には法定地上権が成立してしまうのでしょうか。 

(2) 当社は、X社に対しお金を貸しましたが、その際、X社が所有する更地Aに抵当権を設定しました。その後、X社はA土地に建物を建ててしまいました。

 このような場合、法定地上権は成立するのでしょうか。法定地上権が成立しないとしても、土地だけの競売であると他人所有の建物が建っているというだけで、競売価格が下がってしまうのではないかと心配です。どうにかならないでしょうか。

<回答>

1 (1)について

法定地上権とは、競売の結果、建物所有者と土地の所有者が異なってしまった場合に、一定の要件のもとで建物所有者に地上権(土地の使用権)の設定を民法が認めることで、建物の存続を保護し、建物の撤去・取り壊しによる社会的損失を避けるという制度です。

民法388条では、法定地上権が成立するための要件として、①抵当権設定当時、土地の上に建物が存在していたこと、②抵当権設定当時、同一人がその土地及び建物を所有していたこと、③土地と建物の一方又は双方に抵当権が設定されて競売の結果別々の所有者に所有されるようになったこと、という3つの要件を設けております。

 したがって、本件では抵当権の設定登記が行われた時に、当該土地上に建物が存在したか否かによって、当該土地に法定地上権が成立するか否かが決まります。

 抵当権設定当時にはいまだ建物が存在しなかったという場合には法定地上権は成立しませんので、土地の競売の結果、建物所有者は無権限で他人(競落者)の土地の上に建物を建てていることになりますので、競落人は、建物所有者に対し、建物の収去・明け渡しを求めることになります。

したがって、競落人としては、建物の収去・明け渡しの裁判費用や建物の取り壊し・撤去費用は自己負担になる可能性が高いことを覚悟した上で競売に参加する必要があります(建物の取り壊し・撤去費用については、建物所有者に請求することが出来ますが、競売にかけられている債務者なので支払能力がないことが殆どかと思われます)。

2 (2)について

 このようなケースでは、前記1で述べたとおり法定地上権は成立しません。

 しかし、前記1でご説明しましたように、土地だけを競売で競落した人は、建物の収去・明け渡しを求めて、建物所有者に対し裁判をしなければならなくなり、また、建物の取り壊し費用等もかかることから、競売の落札価格は安くなる傾向にあります。

 このような場合に備えて、民法389条は、法定地上権が成立しない建物と土地を一括して競売に付すことを認めております。

 この一括競売の結果、土地と建物が落札されると落札代金のうち、土地の代金部分だけが抵当権の実行として抵当権者の債務に優先的に充当されます。

これに対し、建物の代金については、他に残債務が残っていれば通常の配当手続きの中で配当要求をすることにより、一般債権者と同等の立場で配当されます。配当要求をする債権者がいなければ建物の所有者に還付されます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.09.10更新

忘恩行為による贈与取消権

 

<質問>

 私の父Xは、ある商店を経営しておりましたが、兄Yにその商店を引き継がせるため、その商店の土地建物を全て兄Yに贈与してしまいました。

 しかし、その後、兄Yは、もう父Xの面倒を見たくないと言って、父Xを私の家に預けてしまい、現在は、商店を勝手に閉めた上、土地建物を売りに出している状態です。

父Xとしては、こんなことなら生前贈与などしなければよかったと後悔しておりますが、既に兄Yへの所有権移転登記も済んでしまっています。

何とか贈与を取り消すことは出来ないでしょうか。

また、上記のような紛争が生じないように、贈与をするにあたって注意すべき点はどのような点でしょうか。

 

<回答>

1 書面によらない贈与は、「贈与の履行が終わるまでの間」は、当事者は何時でも取り消すことができますが(民法550条)、本件のように所有権移転登記も済んでいる場合には、贈与の履行が終わったと解釈されますので、通常であれば贈与の取り消しは出来ません。

 しかし、受贈者が贈与者から受けた恩に背くような著しい背信行為を行い、かつ、贈与の効力を維持することが贈与者にとって著しく酷と言える場合には、判例上(東京地裁昭和50年12月25日、大阪地裁平成元年4月20日など)、例外的に、贈与の取り消しが認められる場合があります。これを「忘恩行為」による贈与の取り消しといいます。

 本件の場合も、兄Yが商店を引き継ぐことを前提に贈与が行われたこと、贈与の恩に報いるため兄Yが父Xの面倒を見ることは当然兄Yに期待されるべき行為であること、贈与の効力を維持すると他に資産がない父Xとしては著しく酷な状況に陥ることなどの事情に鑑みれば、忘恩行為による贈与の取り消しが認められる可能性が高いと思われます。

 そこで、本件では、贈与された土地建物が第三者に売られてしまうのを避ける為、父Xが兄Yに対し、処分禁止の仮処分の申立をした後、当該土地建物の贈与の取り消しに基づく所有権移転登記請求の訴訟を提起することになるでしょう。

2 忘恩行為による贈与の取り消しは、民法の明文の規定にはなく、あくまでも判例において例外的に認められる法理ですので、そう簡単には裁判所も贈与の取り消しは認めてくれません。

 そこで、贈与をするに際しては、単純に無条件で贈与をするのではなく、弁護士等と相談した上で、①贈与を受ける代わりに相手方が履行すべき義務(具体的な扶養義務や家業継承の義務など)を明示し、②当該義務を贈与者の死亡時までに履行して初めて贈与が行われ、③万一、不履行があった場合には催告の上贈与契約を解除できるという内容の「負担付死因贈与契約」にしておく方が望ましいでしょう。

負担付死因贈与契約とは、受贈者が契約で明示されている義務をきちんと履行すること及び贈与者が死亡することを条件に贈与が行われるという契約です。

 このような契約にしておけば、万一、相手方が契約で定めた義務を履行しない場合にも、贈与者は義務の履行を催告した上で、それでも受贈者が贈与者に対する背信行為を改めない場合には贈与契約を解除できるからです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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