弁護士 秋山亘のコラム

2018.03.12更新

不動産広告に関する法的規制

 

<質問>

 当社は、自社ホームページ上で不動産の広告も行っておりますが、不動産広告に関しては、景品表示法に基づき、「公正競争規約」によって様々な規制がなされていると聞いております。

公正競争規約ではどのような規制があるのでしょうか?

<回答>

1 景品表示法の規制

 不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)第4条第1項は、次の三つの表示を不当表示として禁止しております。

(1) 商品の内容に関する不当表示

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

(2) 取引条件に関する不当表示

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

(3) 「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務に関する事項について、一般消費者に誤認されるおそれのある表示であって、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの」

(第3号)

2 公正競争規約による規制

前記の景品表示法による不当表示の規制に関しては、景品表示法に基づき、公正取引委員会の認定を受けて、不当な顧客の誘引を防止し、公正な競争を確保するために、事業者団体間において自主的に締結される「公正競争規約」(表示規約)が設けられております。

この表示規約において不動産広告に関する詳細な規制内容が定められております。

この表示規約に関しては、「不動産公正取引協議連合会」(03-3261-3811)が規約の制定・改定や規約の全国統一的な解釈を示す役割を担っており、表示規約・景品規約違反に対する調査・是正措置・違約金の賦課徴収に関しては、各地域の不動産公正取引協議会(首都圏については「社団法人首都圏不動産公正取引協議会」(03-3261-3811、http://www.sfkoutori.or.jp/)がその役割を担っています。

不動産公正取引協議会の加盟事業者が表示規約・景品規約に違反する場合、原則として景品表示法にも違反することとなりますが、業界の自主的努力を尊重ないし活用するという表示規約の制度趣旨が考慮され、特に悪質な違反行為を除き、原則として、直ちに景品表示法上の排除命令等の措置が講じられることはなく、一義的には公正競争規約・景品規約による改善・是正措置・違約金の賦課徴収に委ねられることになっています。

表示規約は、規約の加盟事業者に対してのみ規約の効力が及ぶことになっておりますが、宅建業者の場合、それぞれが所属する宅建業協会が規約に参加している場合、当該宅建業協会に加盟している宅建業者であれば規約の効力が及ぶ加盟事業者となるため、事実上、ほとんどの宅建業者に規約の効力が及ぶことになります。なお、宅建業協会などの業界団体に加盟していない不動産業者については、景品表示法が直接適用されますが、この解釈・運用に際しては表示規約が斟酌されますので、これらの業者に対しても、事実上、表示規約の適用があると言うことができます。

3 表示規約違反の具体例

  以下では、よくある表示規約違反のケースを3つほど紹介します。ただし、表示規約での規制内容はこれに限られませんので、詳しくは、上記の不動産公正取引協議連合会が発行している「不動産広告ハンドブック」などを参考にして頂きたいと思います。

<ケース1>

Q 当社は、宅地建物取引業と建設業を営んでいます。この度、土地(更地:価格4,000万円)の売却の媒介の依頼を受けました。できれば、購入者から住宅の建築の注文も受けたいと考えていますので、当社の標準仕様で建築した場合を前提として、次のような新築住宅の広告をしたいと思っています。表示規約上何か問題はあるでしょうか。なお、建物の建築確認は受けていません。

新築6,000万円(税込)

●交通/○○線○○駅歩10分

●敷地/○○㎡(正味)

●建物/110㎡・4LDK

●所在/○○市○○○丁目

A 規約違反になる。

この広告は、建物の建築工事完了前の建物(土地付き)について、当該建物の建築に際し必要とされる建築確認を受ける前に、その売買に関して広告表示をしたものと認められます。したがって、表示規約第5条(広告表示の開始時期の制限)に違反するものです。純粋な土地だけに関する表示事項(「売地○○円」など)を明示した上で、建設予定の建物価格の目安(「1㎡あたり○○円で建築請け負います」など)を示すことは可能です。

<ケース2>

Q ①建売住宅を、平成20年6月1日に、6000万円で売り出しましたが、買い手がつかず平成20年8月1日に5,500万円に値下げしました。

 この場合、広告に際し、次のように表示してもよいでしょうか。

「価格6,000万円(旧価格公表時期/平成20年6月1日)→5,500万円(平成20年8月1日値下げ)」

②建売住宅を、平成20年6月1日に、6000万円で売り出しましたが、買い手がつかず平成21年1月1日に5,500万円に値下げしました。

 この場合、広告に際し、次のように表示してもよいでしょうか。

「価格6,000万円(旧価格公表時期/平成20年6月1日)→5,500万円(平成21年1月1日値下げ)」

A ①規約違反になる

 二重価格表示は規約第20条により原則禁止されていますが、規則第14条の要件を満たす場合に限り許されています。

規則第14条は、値下げの場合に二重価格をしてもよい「旧価格」について「値下げの3ヶ月以上前に公表された価格であって、かつ、値下げ前3ヶ月以上にわたり実際に販売していた価格」(規則第14条本文)であることを要件としています。

A ②規約違反になる

 規則第14条は「(2)値下げの時期から6ヶ月以内に表示するものであること」を要件としています。

<ケース3>

Q  取引しようとする土地に法的規制(例えば、市街化調整区域に該当する)がかかっている場合には、どのように記載しなければならないのでしょうか?

A 取引物件に関する不利益条件に関しては、表示規約第13条において「見やすい場所に、見やすい大きさ、見やすい色彩の文字により、分かりやすい表現で明りょうに表示」するよう義務付けられております。

市街化調整区域に所在する土地については、都市計画法第29条、第43条によって開発行為や建物の建築が原則として禁止されておりますので、このような土地については「市街化調整区域。宅地の造成及び建物の建築はできません。」と16ポイント(5.6mm四方の大きさ)以上の文字で明示しなければなりません。「市街化調整区域」との表示だけでは、宅地建物取引の知識がない消費者が具体的にどのような不利益を受けるのかが明示したことにはならないため、「宅地の造成及び建物の建築はできません。」まで明示する必要があります。

4 そして、表示規約違反の広告について、不動産業者が不動産公正取引協議会の是正勧告を無視し是正しないでいると、最高で500万円の違約金が課される可能性がありますので、注意が必要です。

  具体的には、以下の順に不利益処分を受けることになります。

事業者が規約違反のための不動産公正取引協議会の調査に協力しない場合にはおいて、警告を発しても調査に協力しない場合→50万円以下の違約金
表示規約第5条、第8条~第23条に規定に違反した場合→違反行為を排除するために必要な措置(EX:看板・チラシの撤去・回収、訂正広告など)、再び行ってはならないことの警告又は50万円以下の違約金
事業者が不動産公正取引協議会による上記②排除措置を履行しない場合(看板の撤去等に応じない、再度表示規約違反に該当する表示行為をした場合)→500万円以下の違約金

また、不動産公正取引協議会による上記のような是正措置を無視して、違法な広告を続けていると、今度は、公正取引委員会による「排除命令」などの摘発の対象にもなります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.05更新

高齢者の財産管理をする方法~成年後見制度

<質問>
私は父と長年同居をして介護をしてきたのですが、最近父の痴呆が激しくなってきまして、同居して介護するのにも限界を感じてきました。そこで、父が持っている不動産を売却し、その代金で介護設備や療養設備が充実した老人ホームに入居してもらおうと考えておりますが、父は身のまわりの状況が全く判断できない状態です。なお、兄は、父の不動産の売却と数百万かかるという老人ホームへの入居に反対しております。
 私だけで父の不動産を処分したり、そのお金で老人ホームの入居契約を締結することは問題ないのでしょうか。


<回答>
1 民法上、法律行為(不動産の売買契約を締結したり、介護契約を締結すること)をするには「意思能力」が必要とされています。「意思能力」とは、自己の意思に基づいて判断し、行動する能力のことです。そして、「意思能力」が欠ける法律行為は、無効になります。
 本件では、お父様ご自身には意思能力がない状況と思われますので、お父様ご自身では法律上も不動産の売買契約はできないものと思われます。また、意思能力がない場合には、委任契約もできませんので、他人が本人から依頼されて法律行為を代理することもできません。
そうすると、後日、将来相続が生じた際に反対されていたお兄様との関係で、上記不動産の売買契約等の有効性について紛争になるおそれがあります。
2 後見制度とは
従いまして、本件では、家庭裁判所にお父様の後見人開始の審判の申立をし、後見人が選任された後、後見人を通じて、上記のような不動産売買契約等を行うべきだと思われます。
「後見開始」の審判は、「精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者」に対してできます。また、本人の判断能力の低下の程度に応じて、後見に至らなくても、「事理を弁識する能力が著しく低下している者」に対しては「保佐」の制度、「事理を弁識する能力が不十分な者」に対しては「補助」の制度が適用されます。
なお、後見開始の審判をするには、本人の判断能力の低下を調査する為に医師の鑑定を経なければなりませんが、その鑑定料も、従来は30万円程度かかりましたが、近時は書式を定型化するなど工夫をすることで10万円程度に抑えられております。
また、申立をしてから後見人選任までの期間ですが、事案によって異なるものの、約3ヶ月程度かかるケースが多いです。
このようにして、後見開始がなされ後見人が選任されると、後見人は、裁判所及び後見監督人の監督の下、本人の利益の為に財産管理行為と身上看護行為をします。 
財産管理行為とは、例えば、高額の預金を引き出して本人の生活費に使う、不動産を売却して本人の生活費に充てる、不動産を賃貸に出して利益を挙げるなどして、本人所有の財産を管理することです。
身上看護行為とは、後見人自らは実際に本人を介護する義務を負うものではないので(後見人が実際に介護をしてもかまわないのですが)、通常は、介護サービス契約の締結や病院・老人ホームへの入院契約の締結をして、介護士や医師といったその道の専門家を通じて本人の身上看護をすることです。
後見人には、通常は信頼のできる親族や弁護士、司法書士、税理士などが選任されます。今回の法改正で複数の後見人の選任も認められるようになりましたので、不動産取引等の財産管理は弁護士等に、身上看護はご子息等に、それぞれ後見人の任務を振り分けて後見人を選任してもらうことも可能になりました。
また、申立人の方で後見人に適した人物を見つけることができない場合には、家庭裁判所の方で信頼のできる弁護士等の専門家を紹介してもらえる場合もあります。
なお、後見が開始されると、本人が一人で行った法律行為は、原則として当然に取り消せますので、万一、本人が、判断能力の低下から騙されて本人に不利な契約をしてしまっても、後見人によってその契約を取り消すことができます。
3 新しい成年後見制度について
 なお、近時新設された成年後見制度は、従来の禁治産制度を下記の点で改正し、より利用しやすい制度に改善されております。
① 名称が「禁治産」から「成年後見」へ変更した。
② 成年後見の開始の審判は、戸籍には表示されず、成年後見登記簿へ表示されるようになった。
③ 成年後見人は1人ではなく、複数人を選任できるようになった。また、配偶者でなくても後見人に選任できるようになった。
④ 本人が行う日常品の購入などについては、本人の自己決定権の尊重の見地から、当然の取り消し権の対象にはしないことにした。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.02.26更新

遺留分の放棄に関する法律相談

 

<質問>

 私は、ある不動産賃貸業の会社を経営しており、いくつかの不動産を保有しております。

 妻は既に他界しておりますが、子どもが二人おります。長男は会社の経営を手伝い、次男は海外で悠々自適に暮らしている状況です。

 長男に会社を引き継がせるため、次男には一定額の預金を渡すことで、会社の株式とそのほかの不動産等の財産については、長男に相続させることを考えております。

 幸いにして次男もその考え方に了解してくれています。しかし、将来のことを考えると、次男にしても考えが変わるとも限りませんので、きちんとした法的な手続きを取っておきたいと思います。

 どのような手続きを取ればいいのでしょうか。今のうちに、次男から相続放棄の書面に署名・捺印をもらっておけばよいのでしょうか。

なお、これまでに長男・次男に生前贈与したことはありません。

<回答>

1 被相続人の生前に相続人が相続放棄の書面を作成していたとしても、生前の相続放棄は無効とされております。

 そのため、本件のように被相続人の生前において相続財産の分配方法を確定しておきたい場合には、あらかじめ遺言書を作成しておいて、相続財産の分配方法を具体的に定めた上で(例えば、預金Xは次男に、その他の遺産は全て長男に相続させる)、次男においては遺留分放棄の許可の申立(民法1043条)を家庭裁判所にして、家庭裁判所から許可の審判を得ておく必要があります。

家庭裁判所は、次男において遺留分の放棄の意思表示が真意に基づくものか、その他遺留分放棄に至った事情を考慮して、許可の審判をします。

2 もっとも、生前における遺留分の放棄が意味をなすのは、遺言による相続財産の分配方法が遺留分を侵害する場合です。本件における次男の遺留分は、これまでに生前贈与をしたことはないとのことですので、相続財産から相続時の負債額を差し引いた金額の4分の1(=1/2×1/2)です。

したがって、遺言によって次男に渡す予定の預金額がこの遺留分額を下回らなければ、遺留分を侵害することはないので、遺言書を書くだけで足ります。

本件のように不動産を多数お持ちの場合には、不動産の価値がかなり高額となる場合が多いでしょうから、一定額の預金を渡してもなお遺留分を侵害するとされるケースが多いでしょう。生前における遺留分の放棄の許可の手続きを取るべきか否かは、この点を考慮して決めることになります。

3 このほかに「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」では、会社の事業承継にあたって、後継者が議決権の過半数を確保することできるよう、株式等の生前贈与が行われた場合の遺留分に関する民法の特例が設けられております。

これは、一定の要件を満たす中小企業においては、旧代表者の推定相続人全員の合意により、旧代表者から後継者に生前贈与された株式等を①推定相続人の遺留分算定の基礎財産から除外する、または、②後継者が贈与を受けた株式等の評価額を一定額に固定する合意がなされ、その合意内容について家庭裁判所の許可を受けることにより、当該生前贈与を受けた株式等に対する遺留分の行使を制限できるというものです。

②は、株式等の生前贈与が為された後、後継者の経営努力によって株式の価値が上昇したという場合に、遺留分算定の際の株式の評価額は相続開始時を基準とされていることの不公平さをなくすための制度でもあります。

民法の制度は、遺留分の放棄という制度であり、遺留分権者にとってはオールオアナッシングの制度のため、かえって使いにくいという難点がありましたが、上記制度は、事業承継に必要な株式に関してのみ適用される制度ですので、遺留分を全部放棄してしまう民法の制度に比べて中間的な方法として利用が期待できます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.02.19更新

通常損耗の原状回復費用と敷引特約の有効性

 

<質問> 
建物の賃貸借契約において,建物退去時の居室の通常損耗に関する原状回復費用を,敷金から定額で控除する方法で,賃借人に負担させる特約は有効でしょうか。

 
<回答>
1 質問のような特約が消費者契約法10条に違反しないかが争われた事案として,最高裁平成23年3月24日判決があります。
 上記最高裁判決は,結論としては,消費者契約法に違反しないとして質問のような特約を有効としましたが,同時に,控除される敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,無効になる場合もあることを示しております。
 そこで,今回は,上記最高裁の判示に即して,消費者契約法10条の問題を解説したいと思います。
2 まず,消費者契約法10条は,消費者契約の条項が「民法等の法律の公の秩序に関しない規定,すなわち任意規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであること」を要件としています。
この点,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものですので,賃借人は,特約のない限り,通常損耗等についての原状回復義務を負わず,その補修費用を負担する義務も負いません(前掲最高裁判決)。
したがって,賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む本件のような特約は,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するものに該当します。
3 次に,消費者契約法10条は,「消費者契約の条項が民法1条2項に規定する基本原則,すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであること」を要件としています。消費者契約法10条違反が問題となる事案では,主にこの要件を満たすかが争点となっております。
 この点に関して,前掲最高裁判決は,「通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。また,上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。」として,基本的には,本件のような敷引特約の合理性を認めています。
 しかし,前掲最高裁判例は,以下のように述べて,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,本件のような敷引特約も無効になる場合もあることを示しています。
「もっとも,消費者契約である賃貸借契約においては,賃借人は,通常,自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。そうすると,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」
4 そして,前掲最高裁判例は,以下のような具体的な事情に鑑みて,当該敷引金の金額が不当に高額ではないとして、当該敷引特約を有効とする結論を導いています。
「これを本件についてみると,本件特約は,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また,本件契約における賃料は月額9万6000円であって,本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,上告人は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
 そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない」
5 このように,本件のような敷金引き特約は,通常損耗に関する原状回復費用として不当に高額に過ぎるものでなければ,消費者契約10条に違反するものではありません。
しかし,前掲最高裁判決が考慮した前記のような事情,すなわち,①通常損耗の補修費用として通常想定される金額との比較,②月額賃料と敷引金の比較,③更新料,礼金の支払額との比較などの諸事情に照らして,敷引金の金額が不当に高額に過ぎると判断されれば,消費者契約法10条に違反するとして,無効になる場合もありますので,注意が必要です。                            (以上)<質問> 
建物の賃貸借契約において,建物退去時の居室の通常損耗に関する原状回復費用を,敷金から定額で控除する方法で,賃借人に負担させる特約は有効でしょうか。 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.02.13更新

期間の定めのない使用貸借の終了時期

 

<質問>

 私の父は、ある親戚の人に特に返還時期を定めることなく、無償で土地を貸して、建物を建てることを承諾しておりました。

 その後、その土地を私が相続して私の所有になったのですが、いつになったら土地を返してくれと言えるのでしょうか。

<回答>

第1 問題の所在

 期間を特に定めることなく、無償で、土地などが貸借されている、いわゆる「期間の定めのない使用貸借」は、

① 使用貸借契約に定めた目的にしたがった使用収益が終わったとき

(民法597条2項本文)、

または、

② それ以前でも、使用収益をするのに足りる期間が経過し、かつ、貸

主が返還を請求したとき(同項但書)

のいずれかの時点で終了します。このように、法文上の終了時期は明らかなのですが、実際に終了時期を判断するのはなかなか難しいのが裁判実務のようです。使用貸借は、親子間、兄弟間のような特別な人間関係にある者の間に、「暗黙のうち」に成立したと見るべき場合が多く、経緯、原因等貸借の実態を把握するのが困難という事例が少なくないからです。

第2 学説・判例の傾向

1 民法597条2項の「契約にさだめた目的」というものを、土地使用貸

借における「建物所有の目的」、または、建物使用貸借における「居住の目的」というような一般的抽象的なもので足りるとすると、返還時期の定めがない場合、借り主がその目的にしたがい使用収益を継続している限り、貸主はいつまでも返還請求できないことになります。しかし、これでは、無償の契約である使用貸借の借主が、有償の契約である賃貸借の借主よりも手厚く保護されることになり、非常に不公平な結果となります。

  そこで、学説には、「建物所有の目的」や「居住の目的」という様な一

般的抽象的なものではなく、「使用貸借契約成立当時における当事者の意思」から推測される個別具体的な目的として制限的に解釈しようとするものもあるようです。

2 この点に関する、最高裁判所の幾つかの判例を見てみましょう。

最高裁昭和34年8月18日判決

(Yが所有家屋の焼失により住居に窮し、Xから建物を「他に適当な家屋に移るまでの暫くの間」住居として使用するため、無償で借り受けた事案で)

「本件使用貸借については、返還の時期の定めはないけれども、使用、収益の目的が定められていると解すべきである。そして、その目的は、当事者の意思解釈上、適当な家屋を見つけるまでの一時的住居として使用収益するということであると認められる」

と判断しました。

最高裁昭和42年11月24日判決

「父母を貸主とし、子を借主として、成立した返還時期の定めのない土地の使用貸借であって、使用の目的は、建物を所有して経営をなし、併せて、右経営から生ずる利益により老父母を扶養する等の内容の物である場合において、借主は、さしたる理由もなく老父母に対する扶養をやめ、兄弟とも往来を断ち、使用貸借当事者間における信頼関係は地を払うに至った等の事実関係があるときは、民法第597条2項但書を類推適用して、貸主は借主に対し使用貸借を解約できる」

と判断しました。

最高裁昭和59年11月22日判決

(建物の使用貸借について返還の時期は定められていないが、目的について、借主及びその家族の長期間の居住としていたという事案で)

「借主が建物の使用を始めてから約32年4か月を経過したときは、特段の事情がない限り、右目的に従った使用収益をなすに足るべき期間は経過したものと認めるべきである」

と判断しました。

最高裁平成11年2月25日判決

最近の判例ですので、事案を少し詳しく説明しますと

① 昭和33年12月頃、X(法人)の代表取締役はAであり、A

の長男B及び次男Yは取締役であった

② 昭和33年12月頃、Aは本件土地上に本件建物を建築して、

Yに取得させ、本件土地を本件建物の敷地として無償で使用させ、XとYとの間で本件建物の所有を目的とする使用貸借契約が黙示に締結された。その後、A夫婦も本件建物でYと同居していた。しかし、Aは昭和47年に死亡した。

③ Aの死後、Xの経営をめぐり、BとYとの間で争いとなったが、

Xの営業実務はBが担当し、平成4年以降、Yは取締役の地位を失った

④ 本件建物は朽廃に至っていない

⑤ Bは、X所有地のうち本件土地に隣接する部分に自宅及びマン

ションを建築しているが、Yには本件建物以外に居住すべきところがない

⑥ Xには、本件土地の使用を必要とする特別の事情がない

という事例でした。

一審及び二審は、④から⑥の事情を理由に、「本件使用貸借は、いま

だ民法代597条2項但書の使用収益するのに足りるべき期間を経過したものとはいえない」と判断しました。

これに対し、最高裁は、

「土地の使用貸借において、民法第597条2項但し書の使用収益をするのに足りるべき期間が経過したかどうかは、経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的なつながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較考慮して判断すべきである」

として、これらの事情につき、二審の裁判所に、再度審理するように事件を差し戻しました。

 以上の一連の判例から言えるのは、裁判所は、使用貸借契約の成立の前後をとわず、使用貸借契約にかかわるあらゆる事情を考慮して判断するということです。契約成立後経過した期間の長短や、借主側に他に居住すべきところがないというような比較的はっきりとした事情だけではなく、諸々の事情が考慮されますので、使用貸借契約が保護されるのかどうか、判断するのは、非常に難しいと思われます。

契約書できちんと期限を定めておくことが必要でしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.02.05更新

借地借家の法律問題と少額訴訟制度

 

(質問)

 簡易迅速な裁判の方法として少額訴訟制度というものがあると聞いたのですが、少額訴訟制度とはどのような裁判手続きなのですか。

 賃貸人に預けた敷金が返ってこない場合や賃借人に滞納家賃の請求をしたい場合にも、少額訴訟は利用できるのでしょうか。

(回答)

1 少額訴訟制度の概要

 少額訴訟とは、原則として1回の期日で審理を終え、直ちに判決の言渡しがなされるという簡易・迅速な裁判手続きの一種です。

 従って、逆に、争点が多い事件、立証が難しい事件、複雑な事件を審理するのに少額訴訟は向いておりません。

 少額訴訟に適した事件は、契約書等の証拠書類が揃っている貸金返還請求訴訟、滞納家賃の支払請求訴訟、敷金返還請求訴訟等であるといえます(なお、上記敷金返還請求訴訟で原状回復費用の控除が問題となっている場合には退去時の部屋の写真等も基礎資料として必要となってくるでしょう)。

2 少額訴訟制度の手続・要件

(1)少額訴訟における請求金額は金60万円以下でなければなりません。なお、ここにいう請求額とは遅延損害金を含まない元本金額を言います。

(2) 当事者は、原則として、第1回の期日までにすべての主張や証拠を裁判所に提出しなければなりません。また、証拠調べは、期日にすぐに取り調べることのできる証拠に限ってすることができます。

従って、当事者は、裁判期日までにきちんと契約書や領収書などの証拠書類や証人などの準備を整えていなければなりません。

(3) 被告が少額訴訟での裁判に同意しない場合には、通常訴訟に移行します。また、被告が判決に異議を申立てたときも通常訴訟に移行します。また、裁判所は、被告の支払能力・資力等を考慮して、一括払いではなく分割払いの支払を命ずる判決を言い渡すことができますが、原告は、これに対する異議は申立てられません。

(4) 少額訴訟の訴訟費用についてですが、訴状に貼る若干の印紙代(例えば請求額30万円の訴訟でも3,000円)と若干の郵便金手代がかかるのみですので、訴訟の提起自体は、低額の費用ですることが可能です。

3少額訴訟に必要な準備

(1)少額訴訟といっても、訴状の提出や証拠書類の収集・提出は、当事者本人の責任で行う必要があります。それも、原則1回の審理で終る裁判期日までに全ての証拠書類を整理して提出しなければなりませんので、周到な準備が必要なことは言うまでもありません。

(2)例えば、賃貸人が賃借人に対し滞納家賃30万円の支払を求めて訴訟を提起する場合には、①賃料が月額何円であったか、②賃料の支払日は毎月いつになっていたか、③賃借人は何月分から何月分までの家賃を滞納しているのかを特定して主張しなければなりません。

また、証拠書類としては、①②を立証するために賃貸借契約書が必要です。

(2) 敷金返還請求訴訟では、賃借人の原状回義務がどこまでかが争点になります。

しかし、判例は、原則として、賃借人の故意・過失による損耗に限り、賃借人の原状回復義務を認めています。

従って、上記のような賃借人の故意・過失による建物の損耗であることは、基本的には被告である賃貸人側が証拠を揃えて立証する必要があります。

具体的には、入居時の写真、退去時の写真、原状回復費用の明細が書かれた見積書などが証拠になるでしょう。 

(3) 訴状の書き方や提出が必要な証拠書類などについては、簡易裁判所の書記官が指導してくれますので、事前に簡易裁判所に赴き相談すると良いでしょう。

また、貸金返還請求訴訟や滞納家賃の支払請求訴訟、敷金の返還請求訴訟などいくつかの定型的な訴訟の場合には、訴状の定型書式が簡易裁判所に置いてありますのでこれを利用すると良いでしょう。

 もっとも、裁判所書記官は、公正な第三者的な立場での指導にとどまりますので、訴訟に勝つための実践的な方策の相談については、弁護士に相談されるのがいいでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.01.29更新

更新料の有効・無効を巡る裁判例の動向

 

<質問>

 大阪では、更新料を有効とする高裁判決と無効とする高裁判決とで裁判例が別れていると聞いています。

 この二つの判決はどのような理由で判断が分かれたのでしょうか。

<回答>

(1) 平成21年8月27日大阪高裁判決は、更新料の定めは消費者契約法に違反し無効との判決を下しました。

これに対し、平成21年10月29日大阪高等裁判所判決は、更新料の定めは消費者契約法に違反せず有効との判決を下しました。

なお、この二つの判決は大阪高裁の異なる民事部で審理されましたが、重要な論点ですので、裁判所内部では事実上協議がなされているものと思われます。

この二つの判決の事案の概要は以下の通りです。

①平成21年8月27日大阪高裁判決

家賃:月額4万5000円

礼金:6万円

   更新料:10万円

契約期間:1年間

   過去5回支払った更新料の返還請求

②平成21年10月29日大阪高裁判決

家賃:月額5万2000円

礼金:20万円

更新料:家賃2ヶ月分

契約期間:2年

過去に支払った5ヶ月分の更新料の返還請求

 更新料の定めを無効とした平成21年8月27日大阪高裁判決は、更新料の法的性格として①賃貸人による更新拒絶権放棄の対価、②賃借権強化の対価、③賃料の補充という複合的性質を持つという賃貸人側の主張を否定し、1年という契約期間満了の度に10万円という高額の更新料の支払い義務を定める契約条項に合理性はないとして、消費者契約法違反を認めました。
 これに対し、更新料の定めを有効とした平成21年10月29日大阪高裁判決は、更新料の法的性格について、更新料は更新によって当初の契約期間よりも長期の賃借権となったことに基づく、賃借権設定の対価の追加分乃至補強分であると判示し、本件においては、契約期間を2年間、更新料を賃料の2ヶ月分(10万4000円)とされており、契約時の礼金(20万円)よりも金額的に抑えられているなど適正な額に止まっていることから、信義則に反する程度まで消費者に一方的な不利益を課すものではないと判示して、消費者契約法に違反せず有効と判断しました。

(4)  二つの大阪高裁の事案を比較すると分かると思うのですが、大阪高裁は、更新料を一律に有効・無効とするのではなく、事案に応じて判断を分けているのが分かると思います。

   すなわち、無効とした平成21年8月27日の事案では契約期間が1年と短く更新料を支払う頻度が多いのに、更新料の金額は10万円と契約時に賃借権設定の対価として支払う礼金の6万円に比べて高い金額を要求しております。このような定めでは、更新契約を結ぶことによって追加の契約期間を確保するという更新料の法的性格(賃借権の設定の対価)を合理的に説明することは困難かもしれません。

   これに対して、有効とした平成21年10月29日の事案では契約期間は2年であり、更新料の金額(10万4000円)も契約時の礼金(20万円)の範囲内に収まっておりますので、賃借権設定の対価(契約期間延長の対価)としての法的性格を合理的に説明できるように思えます。また、2年毎の更新料ですので、賃借人にとっても負担が少なく、信義則に反して消費者に一方的な不利益を課すものではないと言えます。

(5)  いずれの事案も最高裁に対し上告されているようですので、最高裁の判断が待たれるところですが、少なくとも、大阪高裁の判決は更新料を一律に無効にしたものではなく、更新料の負担が合理的範囲内に抑えられている場合には有効との判断を示しているというのが現時点における大阪高裁判決に関する正しい理解であるように思えます。

   そして、東京における賃貸の事案は、多くの賃貸借の事例で契約期間が2年間であり、更新料の金額も家賃の1ヶ月分程度であり、礼金と同等か若しくはこれよりも低い金額であることに鑑みれば、平成21年10月29日大阪高裁判決の事案と同様、消費者契約法に違反するものではなく有効と判断されるものと考えられます。

(6)  なお、消費者契約法は、事業者と非事業者との契約に適用がある法律ですので、事業者が賃借人の事案では、そもそも消費者契約法が適用されるものではなく、更新料の定めは有効となります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.01.22更新

借地・借家権譲渡の方法

 

(質問)①私は借地上に建物を建てて住んでいるのですが、このたび借地上の建物を処分したいと思うのですが、地主が承諾しそうにもありません。何とかなりませんか。
②建物を借りて飲食店を経営しているものですが、経営が思わしくないので、店舗を借家権付で売ろうと考えています。大家が承諾しそうにないとき、どうしたよいでしょう。
(答え)借地権を譲渡したり、転貸するには、事前に地主の承諾を得なければなりません。なぜなら、借地権を無断で譲渡・転貸することによって、地主との信頼関係を破壊したと判断された場合には、賃貸借契約を解除されてしまうからです。なお、借地上の建物を譲渡すると借地権も譲渡したものとみなされますので、この場合も地主の承諾が必要です。
 このように、借地権の譲渡を考えている場合には事前に地主の承諾を得なくてはならないのですが、①借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合で、②第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず地主が承諾しないときは、借地権者は裁判所に承諾に代わる許可の裁判を求めることができます(借地借家法19条)。
 譲り受ける人が資力に問題があって地代を支払えない人や暴力団員などであれば、地主に不利となるおそれがある場合と言えるでしょうが、そのような事情のない場合、裁判所の借地非訟事件手続によって許可を得ることが可能です。借地非訟事件の手続は、借地の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(合意のある場合)に書面をもって申し立てます。裁判所は、鑑定委員に鑑定意見を提出させるなどの審理をし、許可を与えるかどうかを判断します。その際、譲渡する借地人に財産上の給付(いわゆる名義書換料の支払)を命じることがあります。この名義書換料の相場ですが、借地権価格(場所により異なるが土地の時価の7割前後が目安)の10パーセント前後となっています。
 この他に、地主から当該借地(これを「底地」と言います。)を買い取ってしまうという手段も考えられます(底地買取価格=土地時価-借地権価格)。これには、地主と土地の売買契約を結ばなければならないので、地主が合意しなければできません。しかし、前記の借地非訟手続きでは少なからず地主と対立してしまいますので、今後の地主との煩わしい関係(地代の値上げ問題や更新時の更新拒絶の問題)を清算したいと言う場合には、借地非訟手続きよりむしろこの手段がお勧めです。また、借地非訟手続きでは、地主から借地権及び建物を買い取ることを請求されるリスクがあります(買取価格=借地権価格+建物価格-前記名義書換料)。これは「介入権」といい、この介入権を行使されると、借地人はこれを拒むことができないのです。  
 以上が借地の場合ですが、借家の場合には、承諾に代わる許可の裁判という制度はありません。従って、飲食店店舗を居抜きして売ろうという場合は原則として貸主の承諾を得なければなりません。但し、借家権を無断で譲渡しても、貸主との信頼関係を破壊していないと判断される場合には貸主の契約解除は無効となります。しかし、借家の場合、建物の使い方が人によって異なるなど借主の個性が大切ですから、無断で譲渡した以上は信頼関係を破壊していると判断されてしまう恐れが高いでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.01.15更新

私道の通行妨害に関する法律相談

       

<質問> 

 ある土地を購入して、駐車場経営をしようと考えております。しかし、その土地は、公道には面しておらず、第三者が所有する建築基準法42条2項のみなし道路に指定されている私道にしか通じていません。そこで、この私道の所有者に「上記の土地を購入して駐車場を作りたい」旨の挨拶に行ったところ、「私道なので車の通行は許さない」と言われてしまいました。

私としては、私道であっても道路である以上、車の通行を許さないなどという理屈は通用しないと思います。現にその私道には近隣住宅の所有者の自動車が通行しております。

 上記の土地を購入して駐車場を作っても問題はないでしょうか。

<回答>

 結論から申し上げますと本件のような場合には、私道の所有者から通行権(通行地役権等)を設定してもらい、当該私道部分における駐車場の車の通行を認めてもらった上でなければ、購入は中止した方がよいと考えられます。

 といいますのは、私道の所有者等による私道の通行妨害があった場合に、そのような通行妨害を禁止するよう請求するための要件として、最判平成5年11月26日(判時1502号89頁)、最判平成9年12月18日(民集51巻10号4241頁)、最判平成12年1月27日(判時1703号131頁)は、①当該私道が建築基準法上の私道であること、②通路が現実に開設されていること、③通行が日常生活上不可欠であること、④私道所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情がないこと、という4つの要件を全て満たす必要があるとしています。

 上記要件の中で特に注意が必要なのが、③の「通行が日常生活上不可欠であること」という要件です。

本件のような場合には、駐車場を建設して、駐車場収入を得るといういわば「営利的な目的」による私道の通行ですので、このような場合には私道の通行が「日常生活上不可欠」とは言えないと判断されます。

前掲最判平成12年1月27日も上記のような理由で、私道に対する通行妨害の排除の請求を棄却しております。最高裁判決のいう「日常生活上の不可欠の利益」とは、私道だけに通じる土地に自宅を所有する者が生活のためにやむを得ず通行する利益のことですので、商業上の利益は含まれないことになります。

なお、自宅の駐車場に止めてある車を通行させることに関してはどうかという点ですが、例えば、高齢や障害のため車での外出が不可欠などの事情があれば、「日常生活上の不可欠の利益」と言えると思います。しかし、単に自宅に車の駐車場があると便利であるという理由だけで「日常生活上の不可欠の利益」があると言えるかについてはかなり微妙な問題があります。

 最高裁が上記③の要件を設けたことに関しては、私道上には構築物を設置することを禁止する行政上の規制違反を結果的に容認することになるなどの学説上の批判があるところですが、平成12年の最高裁判決ですので、上記③の要件は今後も当分の間は維持されると考えられます。

 したがって、私道の所有者の意向を無視して駐車場を建設しても、私道の所有者が私道上にポールを設置するなどして通行を妨害した場合には、そのような通行妨害の禁止を求めることはできないと考えられますので、私道所有者との間で通行権の設定に関する合意が成立しない場合には、土地の購入は中止しておいた方がよいと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.01.09更新

定期借家権をご存知ですか?


               
(質問)
(1)私は、都内にマンションを一室所有しているのですが、そのマンションを貸し出したいと考えています。しかし、建物を一旦貸すと借家人の権利が強くて、なかなか返してもらえないと聞いています。3年後には、息子も大学を卒業し、卒業後は独立してコンピューター関連の商売を始めたいと希望しておりますので、3年後にはこのマンションを息子の事務所として使わせようかと考えております。その為、貸し出して良いものか迷っています。何かよい方法はないでしょうか?
(2)私は、定期借家契約で事業用店舗を借りる予定なのですが、注意するべき点は、何かありますか?
(回答)
1 (1)の回答
 平成11年12月、借地借家法が一部改正され(平成12年3月1日施行)、新たに「定期借家権」という制度が創設されました。
 従来は、建物を期限を定めて賃貸しても、家主は、借地借家法上の「正当事由」(建物の自己利用の必要性等)がないと更新拒絶ができないとされ、また、その「正当事由」も裁判上は簡単には認められず、仮に認められても多くのケースでは立退料の支払が必要であるなど、賃借人が使用継続を希望する場合に家主が建物の返還を求めるには、大変な苦労を要する場合が多くありました。
 今回の改正法では、約定の期間の経過とともに、無条件で建物の返還を求めることができる「定期借家権」という制度が創設されました。 本件でも、賃貸期間3年の定期借家契約によって、建物を賃貸すればよいでしょう。
 但し、法は、借家人保護の為、家主に対し、下記の手続きをきちんと踏むことを要請しています(これを一部でも怠ると更新可能な通常の借家契約になりますので注意が必要です)。
 <法定手続き>
  ① 書面によって契約をかわすこと。この契約書には、「期間の満了とともに契約が終了し、更新をしないこと」を明記する必要があります。
  ② 定期借家権の内容について書面を交付して説明すること
  ③ 定期借家契約の終了時に通知をすること。貸主は、期間満了の6ヶ月前から1年前の間に、改めて「契約終了の通知」を借家人に対して出しておかなければなりません。万一、この通知を忘れた場合は、通知を出したときから6ヶ月経過後が契約終了時になります。
2 (2)の回答
  借家人は、期間の経過によって、無条件で建物を出なればなりません。
 この他に、定期借家契約では、途中解約権の制限にも注意しなければなりません。
 すなわち、定期借家契約では、家主からも借主からも中途解約権を原則として認めていません。従って、中途解約ができない以上、残存期間の賃料については、建物を使用しても使用しなくても支払わなければなりません。
 もっとも、法は借主保護の観点から、「床面積が200平方メートル未満の居住用建物の借家契約」において、「転勤・療養・親族の介護そのたやむを得ない理由があって、借主が生活の本拠として使用することが困難となった場合」には、借主からの中途解約権を認めています。
 ただ、本件のような事業用の借家契約の場合にはこのような例外規定もありません。中途解約権を留保しておきたい場合には、契約書にその旨明記しておかなければなりません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

前へ 前へ
COLUMN 弁護士 秋山亘のコラム
FAQ よくある質問
REVIEWS 依頼者様の声