弁護士 秋山亘のコラム

2018.09.03更新

立退交渉の代理と弁護士法第72条違反の問題

 

<質問>

宅建業者が建物の所有者の依頼を受けて、賃貸借契約の期間満了に伴い更新契約の締結を拒絶するとして、当該建物に住み続けたいと希望する建物賃貸借契約上の賃借人に対し、立退交渉を行うことは弁護士法違反になるのでしょうか。

また、立退交渉の依頼を行政書士或いは司法書士に対し依頼することは可能でしょうか。 

<回答>

1 宅建業者に依頼することの可否

弁護士法第72条は、弁護士資格のないものが報酬を得る目的で法律事件を取り扱う業務を行うことを禁止しております。これに違反した場合には「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に処されます。

ところで、建物の立退交渉は、賃貸借契約に関する借地借家法第28条の更新拒絶の正当事由の有無や立退料の要否やその額をめぐる高度な法律的判断を要する事柄ですので、法律事件に該当します。また、上記のような立退交渉は、更新拒絶の正当事由があるとする賃貸人側の主張と正当事由がないとする借家人側の主張の対立を当然の前提にしたものですので、法律事件としての事件性の要件も満たすと考えられます。

しがたって、弁護士以外のものが報酬を得る目的で立ち退き交渉を行うことは、弁護士法第72条違反に該当しますので、宅建業者であっても報酬を得る約束の下で、建物所有者の依頼を受けて立退交渉を代理することは出来ません。

最近でも「スルガコーポレーション事件」として報道されましたように、弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で建物の立退交渉を行ったとして弁護士法72条違反の罪により逮捕され、有罪判決を受けているなど、弁護士法違反での取り締まりは厳しくなっていると考えられます(もっとも、上記のスルガコーポレーション事件では、立退交渉を行ったのが暴力団関係の会社であり、立退交渉の過程においてビルの電気水道等の設備をストップしたり、ビルでお経を唱えたりするなど賃借人に対する悪質な嫌がらせが頻繁に行われていたこと、また、スルガコーポレーションから立退報酬としてその会社に数十億円もの規模で金銭が流れたとされており、この辺の事情が警察による逮捕・起訴という厳しい取り締まりにまで発展した原因になっていると考えられます)。

これに対して、報酬を得る目的なくして、立退交渉を行うことは弁護士法違反の問題は生じません。

ただし、事前に専任媒介契約を結ぶなどして、立ち退き・建て替え後のアパートの賃貸借に関する仲介業務を独占的に行うことを約して、立ち退き交渉を行うといった場合には、報酬を得る目的があると見なされる可能性があるため、弁護士法違反の問題が生じる可能性が高いと思われます。

2 行政書士への依頼の可否

次に、立退交渉を行政書士に依頼することの可否ですが、これについても、弁護士法第72条に違反することから出来ません。

行政書士は、文書の作成の代理をすることは可能ですが、依頼者の代理人となって相手方と直接交渉したり、あるいは、相手方の回答書を受け取ったりすることはできません。

仮に、行政書士が本人の代理人としてこれらの行為を行うと弁護士法第72条違反の罪に該当します。

近時は、あたかも弁護士と同様、依頼者から立退交渉や立退料の額などに関する専門的な法律の相談を受け、依頼者の代理人として行動できるかのような宣伝を行っている行政書士もおりますが、そのような行為は弁護士法第72条違反に該当する違法な行為になります。

各地の弁護士会においても、これら弁護士法違反の行為を行う行政書士を告発する事例が増えております。

3 司法書士への依頼の可否

次に、司法書士に法律事件を依頼することの可否ですが、これについては、訴額140万円までの事件であれば、簡裁代理権を有する認定司法書士に対し、そのような事件の依頼をすることは可能です。

 しかし、立退交渉の事件は、賃借人が主張する立退料の額が140万円以上になるケースが殆どではないかと思われますので、殆どのケースでは上記の要件を満たさないのではないかと考えられます。

したがって、やはり立退交渉事件に関しては、代理人として司法書士に依頼することは弁護士法第72条違反の問題が生じる可能性が高いと思われます。

加えて、立退交渉の事件は、借地借家法第28条の正当事由の具備の判断、立退料の提供の要否、妥当な立退料の額の算定など、専門の弁護士でも判断をすることが困難な高度に専門的な法律的判断を伴う事件です。

家主としては、借地借家法の法解釈や判例に精通していない専門家に依頼したために、本来、立退料の提供の必要がない或いはごく低額の立退料の提供で立退請求が可能な事案で高額の立退料を支払ってしまうという場合、賃借人としても本来より多くの立退料の提供を求められるのに低額の立退料で立ち退きに応じてしまうといった場合もあると思われます。

この点からしても、司法書士への依頼は、立退請求事件などのように高度に法的な判断を要するような事件においては、事件処理能力や裁判例の十分な理解など法的な知識の観点からして、適切ではないように考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.08.27更新

マンションの管理費等を長期間滞納し続けている悪質な区分所有者を当該マンションから追い出す方法

 

 

(質問)

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしております。私のマンションには3年以上もの長期間に渡りマンションの管理費を滞納し続けている区分所有者がいます。

管理組合では、既に内容証明郵便で支払いを催告してきましたが一向に支払いがなく、その為、弁護士に依頼して管理費の支払いを求め提訴をし、勝訴判決まで得たのですが、その滞納者はそれでも全く支払いに応じません。

裁判を依頼した弁護士の話によると、その滞納者の所有するマンションには既にマンションの時価を大きく上回る抵当権が設定されているため当該マンションの競売をすることもできず、また、滞納者の勤務先も不明であるため、給与の差押えもできないとのことでした。

管理組合としては、このまま滞納が続くことを容認するわけにはいきません。何とかならないでしょうか。

(回答)

 確かに、管理費の支払いを求め判決を得たとしても、滞納者に資産がなければ、差押えをすることができません。

 前記のように、滞納者のマンションに時価相当額以上の抵当権が設定されている場合、管理組合が、通常の管理費の支払いを命ずる判決に基づき競売申立をしても、「競売代金は全て抵当権者に配当され管理組合には配当されないのだから、管理組合には、抵当権者が競売する意思がないのに、これを請求する権限がない」という理由で、管理組合の競売申立は裁判所によって却下されてしまいます(これを民事執行法63条の「無剰余却下」といいます)。また、滞納者が年金暮らしであり勤務していない場合や行方不明その他の理由で勤務先が不明である場合には、勤務先の給与を差し押さえることはできません。滞納者の預金の差押えについても、どこの銀行のどこの支店に預金があるかを管理組合の方で特定しなければ差押えができませんし、仮に、預金口座が分かったとしても、このような滞納者にはお金がなく殆ど預金が残っていないのが通常です。

 では、このような場合、管理組合としては、管理費の滞納が日々膨らんでいくのを黙って待つしかないのでしょうか。

このような場合、区分所有法59条に基づく競売請求の裁判を提起することをお勧めします。

この59条の競売請求の裁判とは、ある区分所有者が当該マンションの共同の利益に著しく害する行為をした場合、管理組合は、その区分所有者に対してその者が所有する区分所有建物の競売を請求することができるという規定です。

本件のように長期間に亘り、管理費の滞納をしており、判決を得ても、支払いに応じないと言うケースでは、管理費等の長期滞納が共同の利益に著しく害する行為をした場合に当たりますので、59条に基づく競売請求が可能です。

そして、この59条に基づく競売請求裁判のメリットは、たとえ当該マンションの時価を超える抵当権が設定されている場合にも、前記の無剰余却下の適用がなく、競売を実施できると言う点です(東京高決平成16年5月20日)。

ただし、この59条の裁判をするには、管理組合は総会を開き、全区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成を得なければなりません。

59条により競売が実施された場合、その競売代金は、第1に、手続き費用としての管理組合が収めた予納金の返還に、第2に、抵当権者に配当され、当該競売代金からは管理費等の支払いは受けられません。

しかし、新所有者に代われば、その新所有者が旧所有者の管理費等の支払い義務を承継します。新所有者は、通常は、新たにマンションを購入するなど資力に問題がない正常な入居者がなりますので、請求をすればこれを支払ってくるのが通常です。

このようにして、59条の競売請求を利用すれば、不良入居者を追い出すことができ、新所有者のもと以後の管理費滞納で頭を悩ますことがなくなり、これと共に、以前の旧所有者の滞納管理費についても回収できることになります。

もっとも、前記のように管理組合から競売を請求するというのではなく、抵当権者が滞納者のマンションを競売に出すのを待つという方法もあります。確かに、これにより新所有者に代われば、費用をかけることなく、新所有者から区分所有法8条により滞納管理費の回収を図ることができるでしょう。しかし、抵当権者は、いつ競売を申立てくれるか分かりません。また、抵当権者は、通常、滞納者に対し競売を盾にしてローンの支払いを求めていますので、滞納者が抵当権者に対しローンの支払いを続けている限りにおいては、抵当権者は競売申立をしないでしょう。この間、抵当権者が競売を申し立てるか否か、申し立てるとして何年かかるか分からないのに、そのような不真面目な滞納者を居住させ続けていたのでは、真面目に毎月管理費を納めている他の区分所有者は納得しないでしょうから、その意味でも、前記59条の競売請求の裁判は意義があると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.08.20更新

マンションにおける店舗としての利用

 

<質問>

(1)私のマンションでは、管理規約において「専有部分を営業のために使用できない」との規定があります。

しかし、ある区分所有者がマンションの一室を利用して宅配料理の営業を始めました。

宅配業であっても、マンションの一室で料理店を開くとなると、衛生上問題でありますし、夏場などはゴキブリなどの害虫も増えるとして、住民間では問題になっております。

このような場合、管理組合としてはどのような対処ができるのでしょうか。

(2) 私のマンションでは、管理規約において、「専有部分を事務所として使用することを禁止する」との規約が存在します。

 しかし、この管理規約は、現在では有名無実化しており、半数近くの区分所有者が専有部分を事務所として使用しており、私もここ5年以上の間、会社の事務所として使用しています。

 ところが、ある理事会の席で、私とある区分所有者が不仲になり、それを切欠に、その区分所有者から、私が専有部分を事務所として使用している点を捉えて「管理規約に違反することから、専有部分を事務所として利用するな」と執拗に迫られるようになりました。また、近く管理組合の総会で、専有部分を事務所として使用するのを差し止める裁判を提起することが決議される状況です。

 このような場合でも、事務所としての使用差し止めは認められるのでしょうか。

 

<回答>

1 質問(1)について

(1)マンションの管理規約に、「専有部分を営業のために使用できない」「専有部分は住居としての利用に限定する」「専有部分を事務所に使用することはできない」と定めがある場合には、そのような管理規約も有効です。

 そして、上記のような規約違反の行為によって、他の区分所有者に悪影響を及ぼし、区分所有者の共同の利益にも反すると言える場合には、管理組合(原告となるのは区分所有法上の「管理者」である管理組合の理事長個人)は、総会の決議を経た上で、区分所有法57条1項に基づき、共同の利益に反する行為の差止めを請求することができます。

(2)本件でも、マンションの一室で宅配料理業を開業する行為は、「専有部分を営業のために使用できない」という管理規約に違反する行為であり、また、マンションの一室で料理店を開くとなると、衛生上問題が生じるほか、夏場などはゴキブリなどの害虫も増える恐れがあることから、共同の利益に反する行為と言えます。

 したがって、裁判を提起すれば、専有部分を宅配業として使用するのを差し止める請求は認められるでしょう。

なお、勝訴判決を経たにもかかわらず、相手方が判決に従わず営業を継続した場合には、「相手方が営業を辞めるまで一日当たり○○円の損害金を管理組合に支払う」ことを命ずる間接強制の申立が可能です。

(3)このように裁判によって最終的に解決することも可能ですが、できれば、訴訟に至る前に相手方において自ら営業を辞めるようにして欲しいものです。

このように、紛争解決のために裁判の提起まで要するのを事前に予防するためには、管理規約において「管理組合の警告にもかかわらず、違反行為を辞めない場合には一日当たり○○円の違約金を支払う」という条項を入れておくことをお勧めします。

金銭という明確な形で違約金が発生することを明記しておけば、相手方も営業を辞めるのに時間をかければかけただけ違約金の金額が増える訳ですから、任意に営業を辞める可能性が高くなります。

2 質問(2)について

  管理規約における事務所禁止条項が事実上有名無実化しながら、管理組合がこれに対し、警告等の措置を講じず、長年放置していたという場合で、事務所としての利用によって著しい支障が生じていない場合には、管理組合の使用差し止めの訴えは、権利の濫用にあたるとして棄却される場合もあります。

裁判例としても、東京地判平成17年6月27日判例タイムズ1205-207)は、管理規約に違反してエステティックサロンとして専有部分を使用していた事例において、「原告が、住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し、かつ、現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら、他方で、事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ、特に合理的な理由もなく、しかも、多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により、被告に対して、治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は、クリーン・ハンズの原則に反し,権利の濫用といわざるを得ない。」と判示しております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.08.13更新

品確法と瑕疵担保責任

 

<質問>

ある不動産業者から新築の建売住宅を購入しました。購入して4年が経過しましたが、屋根裏から雨漏りがし出して、補修をしなければならなくなりました。そこで、補修費用を売主の不動産業者に請求したのですが、売買契約書では、瑕疵担保責任の期間を2年間に限定しているとして取り合ってもらえません。何とかならないでしょうか。

 

<回答>

1 民法の一般原則になりますと、契約書に特に記載のない場合には瑕疵担保責任の期間は、買主が瑕疵の存在を知らなかった時は瑕疵を知った時から1年以内、買主が知っていたときは契約の時から1年以内に行使しなければなりません(民法564条)。 

また、売主が瑕疵の存在を知っていながら告げなかった場合を除いて、売買契約書等において売主の瑕疵担保責任の期間を例えば2年間などに限定する或いは免除することも可能です(民法572条)。

 しかし、通常、建物における瑕疵の存在が明らかになるのは、契約して実際に住んでみた時から数年経ってからです。例えば、建物の引き渡し時から4年が経過して雨漏りが発生したという場合でも、建物は通常20年以上の長期に渡り、住居として使用可能な耐久性を持つことを前提に建てられるものですので、4年で雨漏りがしたということ自体からして、建物の建築時から何らかの瑕疵があったものと考えられます。そのため、契約書において瑕疵担保責任の期間を2年間と限定すること自体が不当と言えます。

2 そこで、平成12年4月1に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)では、新築住宅における以下の部位の瑕疵担保責任の期間を引き渡し時から10年間と法定しました(品確法94、95条)。

①構造耐力上主要な部分(柱、梁、耐力壁、基礎、地盤、土台等の構造躯体)

②雨水の浸入を防止する部分(外壁や屋根の仕上、下地、開口部等) 

これにより、たとえ売買契約書(新築建売住宅の場合)や請負契約書(新築住宅の発注の場合)において、瑕疵担保責任の期間を契約時から2年間と定めても無効であり、最低10年間は瑕疵担保責任を負うことになります。

なお、上記の「新築住宅」とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもので、かつ、新築されてから1年以内のものをいいます。

したがって、一旦人が住んだことのある中古住宅、また、不動産業者からの新築建売住宅の購入の場合でも建物の完成時から1年以上の間売れ残っていた物件は、品確法による保護を受けられないため注意が必要です。

3 本件は、品確法による保護が受けられる筈ですので、品確法95条に基づき、瑕疵担保責任として建物の補修費用の請求が出来ると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.08.06更新

借家人が死亡した場合の法律関係

 

 

<質問>

1 私は、マンションの一室をAさんに賃貸しておりましたが、Aさんが亡くなり、5ヶ月が経過しますが、Aさんが亡くなってからずっと賃料の滞納が続いております。賃料滞納を理由とする契約解除の通知を出そうと思っておりますが、解除通知は、Aさんと同居していた息子さんで、Aさんが亡くなった後にも本件建物に住んでいるBさんに通知すればよいでしょうか。Aさんには、Bさん以外にも息子が2人いると聞いており、まだ、Aさんの遺産分割協議も行われていないと聞いております。

2(1) 私は、マンションの一室に内縁の夫と共に10年近く住んでおりますが、内縁の夫がこの度なくなりました。賃貸人からは私には借家権はないとして立ち退きを求められているのですが、立ち退きに応じなければならないのでしょうか。なお、内縁の夫には他に相続人がいません。

(2) (1)の事例で、夫には養子がいて、その養子Bから夫の借家権に基く立ち退きを求められている場合は、どうでしょうか。

夫と養子Bは、もう10年くらい不仲で、交流がなく、養子Bとの離縁調停の最中に夫がなくなりました。養子Bは私には経済力がなく、単身で新たに住むところを探すとなると大変な出費になります。

<回答>

1 質問1の回答

 借家権も相続財産の一つと考えられておりますが、相続が始まると遺産分割協議によって相続財産の帰属者が決まるまでは、相続人全員で相続財産を共有しているものとみなされます(民法898条)。

 したがって、このような場合、賃貸借契約の解除の前提となる賃料支払の催告通知・解除通知は、相続人全員に対して行わなければならず、一部の相続人に対して催告通知・解除通知を出しても解除は認められません(民法544条、東京高判昭和36年6月26日・東京高判決時12-6-135)。

 したがって、本件ではAさんの戸籍謄本を取り寄せるなどしてAさんの相続人を調査した上で、その相続人全員に催告通知・解除通知を出さなければなりません。

 なお、Aさんの遺産分割協議によって、本件の借家権の相続人が確定した場合には、その者に対してのみ通知を出せば足りますが、その場合には遺産分割協議の提出を求めるなどして本件の借家権の相続人が確定していることを確認する必要があります。

2 質問2(1)の回答

 内縁の妻には、相続権がないのが原則です。したがって、内縁の妻というだけでは、内縁の夫が所有する不動産や預貯金の相続権はありません。

 しかし、借地借家法36条は、借家に従前から同居している内縁の妻又は養子について、死亡した元賃借人に他の相続人がいない場合には、借家権を相続する旨が定められております。

 したがって、本問の事例では借地借家法36条に基き、借家権の相続を主張できます。

3 質問2(2)の回答

 本問の場合には、他に相続人となる養子Bがおりますので、借地借家法36条では保護されず、借家権を相続した養子Bからの請求に対抗できないように思えます。

 しかし、最判昭和39年10月13日(判時393-20)は、設問と類似の事例で、養子Bからの請求は、権利の濫用に当たり許されないと判断しました。

 裁判所は、①相続人Bと被相続人の生前の関係、②相続人Bの借家の使用を必要とする事情、③借家から追い出される内縁の妻の生活状況などを考慮して、養子Bからの明け渡し請求を権利の濫用(民法1条3項)として許さなかったものです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.07.30更新

不法投棄と土地の明け渡しの法律相談

 

<事例>

  当社は、ある解体業者A社に資材置場として土地を賃貸していたのですが、 地代を長期間滞納されていたため、契約を解除しました。

ところが、その解体業者は、その土地一杯に、わけのわからない家電製品や建築廃材・土砂などを3メートル以上堆く積み上げており、土地の明け渡しには一向に応じてくれません。

当社は、やむを得ず、土地の明け渡しの裁判を起こすことになり、弁護士にゴミの撤去を含めた明け渡し費用について相談しましたが、土地が広いだけにまともに明け渡しの強制執行をやるとなると土地明け渡しの執行費用だけで600万円以上かかると言われました。

解体業者による地代の滞納は、契約解除後の遅延損害金も含めると300万円以上になります。しかし、解体業者は、他に借金も抱えているようで回収可能な資産は何もなさそうです。

明け渡しの強制執行には、ある程度の費用がかかるのは分かるのですが、できるだけ早く、費用を押さえて、明け渡してもらえる方法は何かないのでしょうか。

<回答>

 土地や建物の明け渡しの強制執行は執行費用がかかります。建物の明け渡しの場合でも、荷物が多い一軒家の明け渡しなどの場合には、執行官が一日のうちに荷物を全て持ち出して明け渡しを完了させるため、人夫の手配や差押え禁止動産類の保管料などで50万円以上の執行費用がかかる場合もあります。

 本件のようなゴミが堆積されている土地の明け渡しの場合には、まともに強制執行をすると、数百万円レベルの費用を覚悟しなければなりません。

 しかし、強制執行以外の方法が取れれば、その費用がだいぶ押さえられる場合もあります。

1 廃棄物処理法違反による刑事告発の警告による任意撤去・任意明け渡しの 申し入れ

 廃棄物処理法第16条では、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定されており、同法第25条8号では、第16条違反の罪に対し「5年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処する」と定めるなど厳しい罰則が設けられております。

 近時は、同法違反の罪によって逮捕され厳しく処罰されていることは広く報道されているところです。

 そこで、このような悪質な業者には、土地への前記のような不法投棄(長期間の放置行為)が廃棄物処理法違反の犯罪行為にあたることと刑事告発の用意があることを告げて、任意の撤去・明け渡しを促すのが効果的と言えます。

 差し押さえるものが何もない債務者にとって、単にお金の問題だけであれば、強制執行をすると警告してもあまり効果がない場合も多く、明け渡しの強制執行を実施されるまでは解体業を続けようと居直る者もいるでしょうが、懲役刑も含む刑事問題となれば話はまた別だと考えるでしょう。

 なお、廃棄物処理法第16条は、たとえ、ゴミを捨てたのが自分の土地であっても、廃棄物の放置期間、廃棄物の質・量、廃棄の態様、周辺への居住環境への悪影響などを総合考慮して「廃棄物」を「みだりに捨てた」と言える場合には適用されます。

 本件でも、ゴミとしか言えない建築廃材や土砂を長期間他人の借地上に堆く放置しており、A社においては、これを適法に処理する意思も能力もないと思われますので、廃棄物処理法第16条違反に該当する可能性は極めて高いと言えます。

2 破産申立をし破産管財人の協力による任意撤去・任意処分

次に、このような警告にも関わらず、相手方が、任意の撤去・任意の明け渡しに応じない場合には、債権者として破産申立をする方法が考えられます。

破産申立は、債務の支払能力又は意思がない債務者に対しその制裁として、債権者側からも申立ができます。

破産開始決定がおりると破産管財人が選任されA社の資産の管理・処分権限は全て破産管財人に移ります。

破産管財人は、A社の預貯金など資産価値のあるものを集めて破産財団を形成します。破産管財人は、この破産財団から費用を出してでも可能な限り会社の所有物を全て廃棄処分しなかればなりません。したがって、ゴミの任意の撤去・土地の明け渡しにも応じてくれます。

債権者側から破産申立をするには、債権額にもよりますが、数十万円から百数十万円の破産予納金を納める必要があります。しかし、この破産予納金を考慮しても、土地の明け渡しの強制執行によって、短期間のうちに大がかりな撤去作業をしなければならないよりは、だいぶ費用面では抑えられるはずです。

なお、破産管財人による調査の結果、A社には預金がほとんどなく破産財団としては何もお金がない場合もよくあるところです。

この場合、破産管財人としては、任意の土地明け渡しはできても、ゴミの撤去費用までは破産財団から拠出することはできません。

しかし、それでも任意に土地を明け渡してもらえる分、強制執行によって撤去するよりは安くすむものと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.07.24更新

老朽化した建物の建て替えを理由とした明け渡し請求

-その2 立退料の提供なく正当事由を認めた裁判例

  

<質問>

 建物の老朽化による立退請求の事案では、どのような事案であっても立退料の提供は必要なのでしょうか。

 

<回答>

裁判例としては、建物の老朽化による立退請求の事案では、ある程度の額の立退料の提供を必要とする事案が多いといえます。

しかし、家主側の正当事由が強く、賃借人側の要保護性がかなり低いと認められる事案については、立退料の提供を不要とした裁判例もあります。

東京地判昭61・2・28(判時1215・69)は、賃貸人Xが建物をXの弟である賃借人Y及びその子に賃貸しており、Yらは同建物で不動産業を営んでいたという事例で、当該建物の老朽化が進んでいること、Xの老後の生活安定のため本件建物を取り壊して建て替える必要があることから、立退料の提供なしに申し入れた解約について、正当事由を認めています。

この事例では、賃貸人と賃借人が兄弟であり、賃借人が建替計画を知って入居していること、賃借人が不動産業を営んでおり、移転先を見つけるのが容易であることが特に考慮されて、立退料の提供を不要とされております。

 また、東京地判平3・11・26(判時1443・128)は、当該建物は築後60年以上経過し老朽化が著しく地盤崩壊等の危険性があること、賃貸人は高齢であり当該建物を取り壊して今後の生活の基盤となるビルを建築する必要があること、当該建物の近隣には賃借人が現住し所有するビルが存在するなど賃借人の営業場所の移転が比較的容易であることなどから、賃借人が薬局として使用している建物の賃貸借の解約の申し入れに、立退料の提供なく、正当事由を認めております。

この事例では、老朽化が激しく、地盤崩壊等の危険性など建物の安全性に鑑みて、公共の安全の見地からも建て替えの必要性が極めて高いことを重視して、立退料の提供なくして正当事由を認めたものと考えられます。

以上二つの裁判例のように立退料の提供を不要とする裁判例は、まだまだ裁判例の傾向として主流であるとは言い難い状況であると思われます。

しかし、建物の地震に倒壊は、建物に面した道路を歩行する人の生命にも影響を及ぼします。その意味で建物は公共的な存在であると言えます。

このような観点からすると、老朽化が激しく地震等による倒壊の恐れが現実的な事案については、立退料の提供なくして、立ち退き請求が認められるとする事案も今後は、少しずつ増えてくるのではないかと思われます。

 以上のように、建物の立退請求の事件は、事案によって高額の立退料の提供を要するものから、立退料の提供なくして立退が認められるもの或いはかなり低額の立退料で立退が認められるものまで様々ですので、立退請求の事案では一度専門家の弁護士に相談されることをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.07.17更新

老朽化した建物の建て替えを理由とした明け渡し請求

-その1 賃貸人の修繕義務との関係

 

<質問>

 建物の老朽が進み、建物の安全性が懸念される為、建て替えの必要性が大きいことを借地借家法28条の正当事由として、賃借人に建物の明け渡しを求めました。

 しかし、賃借人は、建物の貸主には民法606条により修繕義務があるのだから、建物の修繕が可能である以上建物に修繕を施すべきであり、建物の老朽化を理由とした正当事由は認められないと言って、明け渡しに応じてもらえません。

 賃貸人に修繕義務がある以上、修繕が物理的に不能なほど老朽化しないと明け渡しを求めることは出来ないのでしょうか。

 

<回答>

1 民法606条は、賃貸人の修繕義務を規定しておりますので、基本的には、建物が老朽化しても修繕を施すことで建物の使用を継続することが可能な限り、賃貸人としては修繕義務を尽くすべきでありますので、そのような事由のみをもって正当事由があると認めるのは困難です。

 もっとも、老朽化の程度と大修繕に要する費用如何によっては、修繕による建物としての効用期間の延長とその間の賃料収入による投下資本の回収可能性の見地からして、採算に見合わない場合にまで賃貸人に修繕義務を認め、建物への大修繕を実施させることは、賃貸人に酷であり、社会経済的な観点における建物の有効利用の見地からも妥当ではありません。

 そこで、修繕による建物の効用期間の延長という修繕効果に照らし、修繕に過大な費用を要する場合には、経済的には修繕不能な状態にあるとして、賃貸人が修繕義務を果たさない場合においても、建て替えを理由とする明け渡しに正当事由を認めることも可能と考えられます。

 もっとも、このような場合においても、立ち退きという重大な不利益を被る賃借人においては、相当の補償がなされるべきですので、賃借人の被る不利益を考慮した相当額の立退料の提供が必要になります。

2 この点、①東京高判平3・7・16(判タ779・272)は、明治37、38年ごろに建築された建物で老朽化が著しく、修繕をするには新築以上の費用を要することを理由に家主側の正当事由として認め、電器店を経営し、かつ、居住する賃借人に対し、賃借人の4年間分の営業所得に相当する1500万円(現行家賃の34.9年分)の立退料を支払うことによって正当事由が具備すると判示しております。

また、②大阪地判昭59・7・20(判タ537・169)は、4戸建ての長屋のうち中央の2戸はすでに空き家となっており、建物全体としては相当老朽化が進んでいる事案において、修理には多額の費用を要するうえ、修理後の耐用年数も7、8年程度であるので、本件長屋を取り壊して建て替える方が経済的であるとして、立退料150万円(現行家賃の約24.0年分)を提供することにより正当事由が具備すると判示しております。

前記の2つの事案では、立ち退料の金額に大きな違いが見られますが、その理由としては、①の事案と②の事案の基本賃料や土地価格の相違のほか、①の事案は、賃借人が電気店を営んでいたことからその営業補償を考慮しなければならないのに対し、②の事案は、単に個人としての住居であるため、移転費用(引越費用、新規借入費用と一定期間の差額家賃)を賄えれば十分と判断された為と考えられます。

 以上の裁判例では、立退料の提供を条件として正当事由を具備するとされております。しかし、中には、立退料の提供なくして正当事由を具備するとされた裁判例もあります。そこで、次回では立退料の提供なく正当事由を具備するとされた裁判例を紹介したいと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.07.09更新

建物賃貸借と敷地利用権の範囲

 

<質問>

1 私は一軒家を自宅として借りて住んでおります。家の前には、車2台分のスペースの空き地があったため、その空き地を庭にして小さな家庭菜園に利用しておりました。

そうしたところ、貸主から、敷地は契約書上賃貸借の目的物にはなっていから、今後は駐車場にして第三者に貸したいので、庭部分の敷地を返して欲しいと言ってきました。

貸主の主張は正しいものなのでしょうか。

2 私は、ある貸ビルの1室を飲食店利用の目的で借り、レストランを開いております。営業時間中は店の前のビル敷地部分に可動式の看板を置きたいと思いますが、貸主は認めてくれません。どうしても看板を出したいならば看板料を支払うよう言われております。

 なお、賃貸借契約書では、店の前に看板を出すことは禁止されておらず、また、看板もよくある飲食店用の小さな立て看板で特に通行の障害になるようなものでもありません。

 貸主の言うとおり看板を出すことはできないのでしょうか。

<回答>

1 質問1について

借家人は、敷地を利用せずに建物に居住することは不可能ですので、一般には、「住宅に使用するための家屋の賃貸借において、その家屋に居住し、これを利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用が随伴することは当然である」(東京高判昭三四・四・二三下民一〇・四・八〇四)と考えられています。

したがって、建物の賃貸借契約書に賃借物の範囲が明記されていなくても、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」は、建物の賃借権に含まれていると解されます。

もっとも、どの程度の敷地利用が「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」といえるかは、いちがいには言えません。契約の目的、趣旨、賃料の決め方、貸した当時の建物や敷地の形状、賃貸人が黙認していた賃借人の利用方法などの事情を総合考慮して決められることになると思われます。

質問1のように、住宅用の一軒家の賃貸においては、駐車場2台分程度のスペースを、庭として或いは駐車場として、借家人が使用することは、当然、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」といえます。

したがって、前記の敷地部分も建物の賃借権の範囲に含まれていると解せますので、貸主の主張は誤っていると言えます。

 これに対し、仮に、建物の前の空き地スペースが建物と同じくらいの広さで、駐車場10台分もある場合には、当該部分の敷地面積を考慮して建物賃料を決めたなどの特段の事情がない限り、その全部が「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」とは言えないと思われます。「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」と言えるのは、庭としてのスペース部分(駐車場1台分程度)及び家庭用自動車の駐車場1、2台部分に限られるでしょう。

2 質問2について

質問2の問題についても、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」と言えるかがポイントになります。

基本的には、飲食店を開いて営業している以上、客を呼び寄せるために店の前の入口に看板を出すことは必要不可欠のこととも考えられます。

したがって、営業時間内に可動式の看板を出すことは「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の利用」にあたり、看板を出すことは建物の賃借権の範囲内と言える可能性が高いでしょう。まずはこの点を貸主に十分説明して話し合うことが肝心です。

 但し、賃貸借契約書で看板を出すことを明確に禁止している場合、看板を置く場所が避難通路に指定されているなどして消防法上看板を置くことが違法になる場合には、看板を出すことは出来ませんので、注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.07.02更新

消費者契約法と宅地建物取引

 

1 はじめに 

 平成13年4月1日から消費者契約法が施行されました。これまで、事業者と消費者の間には交渉力と情報に大きな格差があるため、消費者が不当な契約を強いられるといった批判がありました。

消費者契約法は、この格差を是正し、消費者を不当な契約から守る目的で定められた法律です。消費者契約法は、適用範囲が広い上、民法の特則として消費者保護にとって強力な保護規定を設けております。

そこで、今回は宅地建物の取引においても注意して頂きたい消費者契約法についてご説明します。

2 消費者契約法の適用範囲 

 消費者契約法は、「事業者」と「消費者」との間の契約に広く適用されますので、宅建業者が「消費者」と契約する場合や「事業者」に該当する貸主と「消費者」に該当する借主間の契約を仲介をする場合等は、この消費者契約法が適用されるということを念頭に入れて契約を締結しなければなりません。

 「事業者」とは、何度も繰り返し同じ内容の業務をやっている者のことです。会社でなく個人でも、また営利団体でなく学校・宗教法人などの非営利団体でも適用があります。

 「消費者」とは、「事業者」以外の者で、原則として個人の非事業者に限られ、団体は含まれません。但し、実質は個人と同視できる個人企業の場合には、通常の業務と全く関連しない分野での契約でしたら、「消費者」とみなされる場合もあります。

 なお、消費者契約法は、平成13年4月1日以降に契約締結されたもののみが適用される為、これ以前に締結された契約には適用はありません。

3 消費者契約法の内容

(1)重要な情報の虚偽告知・不提供による契約の取消し

 事業者が品物・権利・サービスの質や価格等について、真実と異なることを告げたり、又は、ことさらに消費者にとって不利益な事実を告げなかった場合で、そのため、消費者が嘘の事実が存在すると信じたり、不利益な事実は存在しないものと信じてしまった場合に、消費者は当該契約を取消すことができます。建物売買においては、重要な事項については、メリットだけでなく、デメリットも告げないと取り消される可能性があるのです。

(2)困惑行為による契約取消し

 消費者が退去すべき旨を事業者に表明したのに、事業者が消費者の住所や勤務先に居座ったため、消費者が困惑し、契約締結してしまった契約も、消費者は取消可能になりました。

(3)事業者の損害賠償責任を免除する条項の無効

・瑕疵担保責任の免責条項は原則無効になります。

 従いまして、例えば、建物の賃貸・売買における建物の欠陥、宅地の賃貸・売買における土地利用権の制限(地役権の設定、建築基準法の制限規定)等において瑕疵担保責任の免責条項を入れても無効になります。

・「事業者側による債務不履行によって生じた損害はこれを全額免除する」との条項も無効になります。また、事業者の故意・重過失によって生じた損害については一部免除の条項も無効になります。

(4)消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項の無効

・契約書において、消費者の債務不履行があった場合の損害額を「損害賠償の予定」「違約金」「迷惑料」等の名目で、予め通常生ずる損害より高額に定めている場合があります。しかし、このような取り決めた金額が、「同種の取引において生ずる平均的な損害額」より高額な金額である場合は、その超過分の損害額の定めについては無効になります。

 例えば、解除に伴う建物明渡し履行期日以降に借家人が居座った場合、通常賃料相当損害分の他に執行費用、事務手数料、迷惑料といった損害も通常生ずるでしょうから、賃料相当額よりも若干高めに設定することは、「平均的損害」を上回るとはいえないでしょう。しかし、通常賃料の3倍、4倍とする旨の約定の場合は、平均的損害を上回ることになるでしょう。どこまでが賃貸借契約という取引類型の解除の際生ずる「平均的な損害」であるかは、今後の裁判例の集積を待つしかないでしょうが、高くとも賃料の2倍までが限界ではないでしょうか。

・また、金銭支払義務の遅延損害金は、年率14.6パーセントに限定されます。それ以上の取決めをしても14.6パーセントまで減額されます。

(5)その他消費者の利益を一方的に害する条項

 上記の他にも消費者にとって一方的に不利な不当条項は無効になる可能性があります。

 例えば、事業者のみが契約内容を一方的に変更・決定できる条項、賃借人に畳み張り替え、クロス張替え、ハウスクリーニング等通常使用による損耗の回復義務も課した条項ですが、消費者契約法によってより一層認め難くなりました)。

 この他にもいろいろな例が考えられますが、要は、契約書を結んだからといって、必ずしもこれに拘束力を持たせることはできなくなったということです。逆にいえば、今後は何でも事業者に有利な契約書を結べばそれでよいというのではなく、各条項が消費者にとってあまりに一方的で不当・不公平な条項にならないよう契約内容の妥当性も考慮して契約条項を定めないとないと、結局は裁判で無効にされる場合もあるということに留意すべきでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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