弁護士 秋山亘のコラム

2018.05.28更新

管理監督者と残業代請求

 

 

<質問> 

当社では、2つの店舗で不動産仲介業を行っております。近時、あるファーストフードチェーン店の店長が労働基準法上の管理監督者ではないとして残業代を請求した事案で、裁判所は会社に対し残業代の支払いを命じたと聞きました。

当社の場合でも2つの店舗の各店長には残業代を支払わなければならないのでしょうか。

<回答>

1 労働基準法41条2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」に関しては、労基法の労働時間、休憩、休日の規定が適用されず、残業代の支払義務がないとされております。

この「管理監督者」とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者」を指すものと解されており、一般の大企業で言うならば、部長、課長クラス、工場長クラスがこれに当たりますが、形式的な役職の名称に関わらず、「管理監督者」に該当するか否かは労働実態に即して具体的に判断されます。

2 そして、その具体的な判断基準は、①職務内容や職務遂行上、使用者と一体的な地位にあるといえるほどの権限を有し、これに伴う責任を負担していること、②出退勤について裁量があり、時間拘束が弱いこと(例えば、タイムカードで出退勤を管理され、遅刻や欠勤に対し賃金控除されるような労働者はこれに該当しない)、③基本給、役付手当、ボーナスの額において、一般の労働者に比べ優遇され、その責任と権限にふさわしい待遇を受けていること、という各要件を満たしているかを総合考慮して判断されます。

 そして、店長、営業所長という肩書が付いている場合であっても、上記のような各要件を満たしている者は一部の者に限られるのが一般的でしょう。

 前記のファーストフード店の店長の事案で東京地判平成20年1月28日(判時1998-149)は、「ファーストフード店の店長の職務と権限は店舗限りのもので、経営者と一体となって本法の労働時間規制の枠を超えて事業活動することが必要なものではなく、また、管理監督者としての待遇がなされていたわけでもない」として、管理監督者該当性を否定しております。上記の事案は、全国に多数の店舗を持つファーストフードチェーン店の場合には、店長と言ってもその地位や権限は、当該店舗内に限られ、本社の正社員(平社員)よりも高いとは言えないという実情に照らし、上記②の要件は満たしていても、上記①③の要件について否定的に解した為、管理監督者の該当性を否定した事案と言えます。

3 本件については、前記のようなファーストフードチェーン店とは異なり、わずか2店舗しかない店舗の店長ですので、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体となって従業員を管理する必要性は必ずしも否定されるものではありません。

したがって、前記①~③の各要件を満たせば、管理監督者として認められる可能性は十分にあるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.05.21更新

返還されない借地には底地売買で対応するのも得策


 Aさんは土地を300坪所有してそこに住んでいました。そして、土地のうち80坪を銭湯を経営しているBさんに貸していました。AさんはBさんに土地を貸してから20年の期限が来るので、明け渡して欲しいと申し出ましたが断られました。これ以降Bさんは地代を供託するようになりました。困ったAさんは弁護士に相談に行きました。
 弁護士は、
①明け渡しが認められるためには、
「契約期間が満了したこと」「借地人が契約期間経過後も使用している場合には速やかに返還請求をすること」「返還を求める正当な事由があること」の三つの要件を全て満たす必要がある。これらの要件のうち「正当な事由がある」と裁判所に認めて貰うのは容易ではない。
②裁判所は、賃貸人が返して貰わなければならない必要性と借地人が継続して使用する必要性を比較して判断する。具体的には、「死活にかかわる場合」「切実な場合」「望ましい場合」「わがままな場合」の四段階にわけて、当事者双方がいずれの段階なのかを見極めて判断する
③AさんとBさんの「必要性」を考えると、Aさんの必要性はせいぜい「望ましい」という段階であり、Bさんの必要性は「死活にかかわる」という段階と考え得る。裁判所で、Aさんに「正当な事由」が認められる可能性は低い
と説明しました。
 しかし、それにもかかわらず弁護士は「土地明渡し」の裁判を起こすことを勧めました。Aさんは弁護士より
①裁判の真の目的は「土地明渡し」ではなく、「土地(底地)をBさんに買って貰う」ことにある
②賃貸人の底地割合(三割)、土地の価格、現在の地代、預金利息などを考慮するとAさんとしては底地を売る方が得である
と説明され、裁判を起こしました。裁判では、土地の値段で難航しましたが、最終的には相応の金額で底地を売買することで和解が成立しました。
 地主は、土地が値上がりしたとしても賃料を上げるのはなかなか難しいのが現状です。また、更新料も法律的な権利とまでは言えません。
 Aさんのように更新時に底地を売却するというのも一考に値するのではないでしょうか。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.05.14更新

賃料の自動増額条項の有効性

 

(質問)

 私がバブル時代に締結した土地の賃貸借契約書には、「賃料は3年毎に改定され、改定毎に賃料は20%ずつ増額する」という条項があります。

 このような賃料の自動増額条項で賃料を改定していくと、近隣の時代相場に比べてもの凄い高額の賃料となってしまい、とても賃料を払い続けることはできません。

 私としては、現在の賃料は、このような自動増額条項によって、近隣相場と比較して高すぎると思うので、むしろ賃料の減額をお願いしたいくらいです。

何とかならないでしょうか。

(回答)

1 賃料自動改定特約

 賃貸借契約には、賃料が自動的に改定されるという趣旨の特約が定められていることがあります。    

特約のタイプとしては

①物価変動自動改定特約

②定額自動改定特約

③定率自動改定特約

④路線価変動自動改定特約

⑤固定資産税変動自動改定特約

などが挙げられます。

 この点、借地借家法第11条1項(旧借地法第12条)は、土地に対する租税その他の公課の増減、土地の価格の増減、当該地代が近隣類似の土地の地代に比較して不相当となった時など、経済事情の変動があった場合を「要件」に、当事者は将来に向かって地代等の額の増額を請求できると規定し、地代の増額請求権の要件を定めております。

ところで、一方、借地借家法第9条では、借地借家法は強行規定であり、借地権者に不利な内容の特約は無効であると規定しております。

 そこで、本件の自動増額条項のように、借地借家法第11条に定める要件を確認せずに当然に地代が増額するという内容の特約は、地代の増額請求ができる場合の要件を定めている借地借家法第11条1項に反し無効ではないかという問題が生じてきます。

 なお、上記の問題は、借家の場合にも、家賃の増額請求の要件を定めた借地借家法第32条(旧借家法7条)がありますので、同様に生じます。

2 裁判所の考え方

 賃料自動改定特約についての裁判所の考え方はどの様なものでしょうか。

 裁判所は、自動改定特約だからといって当然に無効とはせずに、当該特約を個々の事例にあてはめた結果、賃借人に著しく不利益であるという特段の事情がない限り特約は有効と考えている様です。

 この様に特約の効力は「当該賃借人に著しく不利益かどうか」という個々の事情により判断されます。

最高裁判所昭和44年9月25日は「固定資産税変動自動改定特約」について、特約条項としては有効であると認めつつ、「当事者の意思は、契約当時存在した事情と著しく異なる場合にも、その基準によるという意思ではない」として、特約の適用を制限しました。右の裁判例は、「賃料」の相当性を判断する際に、個々の事案において「具体的に考える」という裁判所の基本的姿勢を示したものと思われます。

 よって、裁判所は、バブルの時期に定めた基準を機械的に当てはめることはせず、契約で定めた基準を適用して妥当なものについて、自動改訂条項を認めているものと言えるでしょう。

したがって、賃料の自動改訂条項があっても、新賃料が著しく高額となり妥当とは思われないような場合は、貸主と交渉をしてみる必要があるでしょう。

 本件でも、バブル期に締結された賃料を更に3年ごとに20%も増額するという特約ですので、元々の賃料を特に安く定めていたというような事情がない限り、自動増額条項に従った賃料増額は認められない可能性が高いでしょう。

3 賃料減額請求の可否

では、賃料の自動増額条項がある場合には、賃借人が賃料を逆にに下げて欲しいと請求することは一切出来ないのでしょうか。

 この点も、自動増額条項が存在しても、借地借家法11条、32条による賃料減額請求権を一切排除することはできません。仮に、賃借人の借地借家法11条、32条に基づく賃料減額請求を一切認めないという条項があれば、それは無効です。

 実際の裁判例でも、賃貸人が自動増額条項に基づいて賃料増額請求をしたのに対し、賃借人が賃料減額請求の反訴をした事例で、賃借人の方の賃料減額請求が一部認容されているものがあります。

 本件でも、裁判で減額される見込みまであるかは別として、賃貸人と減額の交渉をしてみる価値は十分にあるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.05.07更新

土地・建物の共有状態を解消する方法はどのような方法がありますか。

 

(質問)

 私が住んでいる自宅の土地建物は、私、兄、姉の共有名義になっているのですが、私の相続の時に所有関係が複雑にならないように、できるだけ早く共有状態を解消しておきたいと思っております。私としては、自宅の土地建物は私の単独所有として、他の共有者には、持ち分に応じて代償金を支払おうと思っております。

法的にはどのような方法があるのでしょうか。

(回答)

1 共有物分割協議

共有物分割の協議(共有者全員の合意)が成立すれば、共有物不分割特約がある場合を除き、共有関係をいつでも解消できます。 

この場合に共有関係を解消する方法としては、以下の3つの方法が考えられます。

①現物分割

 例えば土地を3筆の土地に分割するように、共有物そのものを分割するやり方です。

 しかし、建物の現物分割は事実上不可能ですし、土地上に建物が目一杯建っているという場合にも土地の現物分割は困難でしょう。

②代金分割(換価分割)

 これは、土地やマンションを売却し、その売却代金を持分に従って分割するものです。現物分割が困難な場合にはこれによることが多いです。

③価格賠償

 価格賠償とは、例えば、共有物を一人の共有者の単独所有にする代わりに、他の共有者には共有持分相当分の金銭を支払って、共有物を分割する方法です(これを「全面的価格賠償」といいます)。

 また、この方法によれば、ABCと共有者がいる場合に、共有者Aのみを廃除したい場合には、Aのみに価格賠償をして、BCは共有状態のままにしておくこともできます。

 また、現物分割をした場合には、土地の現物分割ですと、土地面積を3等分したとしても土地をどのように分割するかで必ずしも平等な分割ができない場合があります(例えば、ある土地をA地B地C地に三等分した場合にも、A地のみが角地で道路に面しており好立地の場合は、B地C地を配分されるものは面積が同じでも納得できない場合もあるでしょう)。

 このような場合、各土地の実際上の価値を調整する為に、前記のA地を配分されたものが、B地C地を配分されたものに調整金を支払うという方法が取られます(これを「部分的価格賠償」といいます)。

3 共有物分割の裁判

では、共有者間に合意が成立しない場合にはどうすればよいのでしょうか。

この場合、共有物分割の裁判を請求できます(民法258条1項)。

共有物分割協議の場合、前記①から③の方法のいずれを採用するのも自由ですが、共有物分割請求の裁判の場合には、現物分割が原則です。

代金分割は、現物分割だと目的物が毀損したり、その価値が著しく減少したりする場合にのみ認められます(例;マンション1室の共有)。この場合は、裁判所の競売手続によって目的物を現金に換価した上、代金分割をします(民法258条2項)。

なお、共有物分割請求の裁判の場合に、代金分割ではなく価格賠償と言う方法が認められるかについては、民法には明確な規定がないのですが、判例上一定の要件のもと認められています(最判H8,10,31は、全面的価格賠償については、①共有物の性質等の事情を総合考慮し全面的価格賠償の方法が不公平とならないこと、②持分価格が適正に評価されていること、③取得者(賠償者)に支払い能力があることを条件に認めています)。

4 本件では、まず、当事者同士で、話し合うべきでしょう。

  その上で、代償金の金額にどうしても折り合いが付かない場合や他の共有者が共有物の分割に応じない場合には、裁判による解決になります。

  裁判による解決の場合、あなたは、その土地建物で長年住んでいたと言うことですので、代償金の額が適正であり、かつ、あなたに代償金の支払い能力(現金)がある場合には、他の共有者に代償金を支払う代わりに、土地建物をあなたの単独所有とする共有物分割の裁判も認められるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.05.01更新

法定地上権の法律問題

 

<質問>

(1) 当社は、ある競売物件で土地の購入を検討しております。しかし、この土地上には建物が立てられており、建物には抵当権がついていなかったため、土地のみが競売に出されています。

 このような場合、建物には法定地上権が成立してしまうのでしょうか。 

(2) 当社は、X社に対しお金を貸しましたが、その際、X社が所有する更地Aに抵当権を設定しました。その後、X社はA土地に建物を建ててしまいました。

 このような場合、法定地上権は成立するのでしょうか。法定地上権が成立しないとしても、土地だけの競売であると他人所有の建物が建っているというだけで、競売価格が下がってしまうのではないかと心配です。どうにかならないでしょうか。

<回答>

1 (1)について

 法定地上権(ほうていちじょうけん)とは、競売の結果、建物所有者と土地の所有者が異なってしまった場合に、一定の要件のもとで建物所有者に地上権(土地の使用権)の設定を民法が認めることで、建物の存続を保護し、建物の撤去・取り壊しによる社会的損失を避けるという制度です。

民法388条では、法定地上権が成立するための要件として、①抵当権設定当時、土地の上に建物が存在していたこと、②抵当権設定当時、同一人がその土地及び建物を所有していたこと、③土地と建物の一方又は双方に抵当権が設定されて競売の結果別々の所有者に所有されるようになったこと、という3つの要件を設けております。

 したがって、本件では抵当権の設定登記が行われた時に、当該土地上に建物が存在したか否かによって、当該土地に法定地上権が成立するか否かが決まります。

 抵当権設定当時にはいまだ建物が存在しなかったという場合には法定地上権は成立しませんので、土地の競売の結果、建物所有者は無権限で他人(競落者)の土地の上に建物を建てていることになりますので、競落人は、建物所有者に対し、建物の収去・明け渡しを求めることになります。

したがって、競落人としては、建物の収去・明け渡しの裁判費用や建物の取り壊し・撤去費用は自己負担になる可能性が高いことを覚悟した上で競売に参加する必要があります(建物の取り壊し・撤去費用については、建物所有者に請求することが出来ますが、競売にかけられている債務者なので支払能力がないことが殆どかと思われます)。

2 (2)について

 このようなケースでは、前記1で述べたとおり法定地上権は成立しません。

 しかし、前記1でご説明しましたように、土地だけを競売で競落した人は、建物の収去・明け渡しを求めて、建物所有者に対し裁判をしなければならなくなり、また、建物の取り壊し費用等もかかることから、競売の落札価格は安くなる傾向にあります。

 このような場合に備えて、民法389条は、法定地上権が成立しない建物と土地を一括して競売に付すことを認めております。

 この一括競売の結果、土地と建物が落札されると落札代金のうち、土地の代金部分だけが抵当権の実行として抵当権者の債務に優先的に充当されます。

これに対し、建物の代金については、他に残債務が残っていれば通常の配当手続きの中で配当要求をすることにより、一般債権者と同等の立場で配当されます。配当要求をする債権者がいなければ建物の所有者に還付されます。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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