弁護士 秋山亘のコラム

2019.08.20更新

建設共同企業体(JV)の法律関係

 

第1 問題の所在

 建設共同企業体(「JV」)は、複数の企業が共同して大型の土木・建築工事を行う事業方式として広く利用されています。JVの協定では、代表者(「親企業」)を定めた上、親企業(代表者)に自己の名で請負代金の請求・受領及びJVに属する財産の管理を行う等の権限を与え、取引口座について親企業(代表者)名義で開設された別口の預金口座を使用する旨を定める例も多いと思われます。

 親企業(代表者)名義の別口預金口座にJVとしての請負代金が振り込まれて預金債権となっている状態で、親企業(代表者)につき破産などの手続が開始された場合、他のJV構成員は右預金債権について、「自分の取得分が含まれている」として優先的な権利(取戻権など)を主張できるのでしょうか、それとも、他の一般債権者と同様の権利(破産債権など)しか主張できないのでしょうか。親企業(代表者)名義の別口預金口座に振り込まれた請負代金(預金債権)は、JVと親企業(代表者)のいずれに帰属するのでしょうか。

 これは、JVの代表者が、その業務執行権限に基づき遂行した法律行為の効果の帰属の問題であり、前提としてJVの法的性質やその業務執行・財産管理に関する法律関係が問題となります。

第2 考え方

1 JVの法的性質については、一般に民法上の「組合」と解されています。民法上の「組合」では、各組合員が業務執行権を有することを基本的な建前としつつ、組合契約または組合員の過半数による決定で、一部の組合員または第三者に業務執行を委任することが出来ます(民法670条)。この、業務執行権を委任された組合員を「業務執行組合員」といいます。そして、業務執行組合が組合業務の執行として財産取得を目的とする法律行為を行った場合、その効果が総組合員に直接帰属するものであれば、当該財産は、組合財産として総組合員の「共有」(民法668条)となり、そうでなければ当該業務執行組合員の個人財産ということになります。

2 業務執行組合員が「自己の名による方式」で法律行為を行った場合には、直ちに当該法律行為の効果が総組合員に直接帰属するとは考えられていません。学説や裁判所は、代表者の権限や財産管理等に関する組合員間の合意の内容や、これまでの運用などの具体的な事情を総合的に考慮した上で、当該業務執行組合員の法律行為の効果が直接総組合員(組合財産)に帰属すると考えるのが宜しいのか、或いは、一旦は当該業務執行組合員に帰属した後に、組合への移転行為を経ることにより組合財産となると考えるのが宜しいのかを判断しているようです。

 これに対し、業務執行組合員の対外的な法律行為が「代理による方式」でなされた場合は、当該法律行為の効果が総組合員に直接帰属すると評価されることが多いと思われます。

3 そこで、JV構成員の、JVの親企業名義の別口預金(請負代金)に対する権利につきましても、JVの共同企業体の協定の内容やこれに基づく財産管理状況がどのようなものであるのかにより異なるものと思われます。

 最高裁判所は、

① XとAがJVを結成し、代表者をAとした

② 協定で、「代表者Aに自己の名義で請負代金を請求・受領し、企業体に属する財産を管理する権限を与える」、「請負代金を受領したときは、代表者Aの経理機構による精算及び運営委員会の承認を得て、すみやかにXに分配する」、「取引口座としてA名義で開設した別口預金口座を使用する」と定めた

③ 実際の財産管理も②の協定のとおり行われていた

という事例で、A名義の別口預金口座の預金債権はAのものであると判断しました(最高裁平成11年4月16日判決)

 いわゆるゼネコン企業の倒産が十分に予想されるのが現在の状況です。親企業以外のJV構成員の権利を保全するという観点から、今後、JVを進める場合には、少なくとも、協定で

① 親企業の対外的な法律行為は全て、「共同企業体名」や「共同企業体代表者(の肩書)」を示すなどの「代理方式」で行うこと

② 預金口座も、「共同企業体名」や「共同企業体代表者(の肩書)」で開設すること

を定め、、実際の運用もこれに基づいて行うのが望ましいと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.13更新

賃借人の債務不履行による賃貸借解除と転貸借との関係

 

1 問題の所在

     賃貸借関係(以下「基本賃貸借」といいます)の他に、「賃貸人の承諾のある転貸借関係」(以下「適法な転貸借」といいます)があるという状況を想定します。この様な状況で、賃借人の債務不履行による解除により基本賃貸借が終了した場合、転貸借関係は当然に終了するのでしょうか、当然に転借料債務も消滅するのでしょうか。

2 判例の傾向

   大審院昭和10年11月18日は

        ① 基本賃貸借が終了しても、適法な転貸借は当然には失効しない

        ② 賃貸人から返還請求があれば、転借人はこれを拒否する理由がなく、このため転貸人としての義務を履行することが不能となる結果、転貸借は終了する

    としました。

     また、最高裁昭和36年12月21日も、

        基本賃貸借の賃借人がその債務の不履行により賃貸人から基本賃貸借契約を解除されたときは、基本賃貸借の終了と同時に転貸借も履行不能により当然に終了する

    としています。

     このように、判例は、

        ① 適法な転貸借は基本賃貸借の終了により当然には終了しない

        ② 適法な転貸借は転貸人の転借人に対する債務が履行不能となったときに終了する

    と考えています。

   では、「転貸借が履行不能となった」という時点とは何時なのでしょうか。「基本賃貸借契約が解除された」時なのでしょうか、「転借人が基本賃貸借の賃貸人から返還請求された」時なのでしょうか。

     この点につき、最高裁平成9年2月25日は、

        基本賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対し目的物の返還を請求したときに転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する

    としました。要するに「転借人が賃貸人から返還請求された」時点を転貸借の終了時としたのです。

   したがいまして、基本賃貸借の賃貸人から転借人が返還請求をされた時点以降は、転借人は転借料を支払う義務はなく、逆に、基本賃貸借が終了しても賃貸人から返還請求されない限り、転借料を支払う義務があることになります(なお、この場合の転借料の支払先ですが、転貸借関係が継続している以上、転貸人に支払うことになると思われます)。 

     なお、賃貸人としては、基本賃貸借終了後は、速やかに、転借人に対し返還請求をすることが大切です。基本賃貸借を解除したことに安心し、転借人に返還請求するのを失念していますと、転借料を取り損ねることになりますので注意が必要です。

3 その他

    基本賃貸借が債務不履行解除により終了し、賃貸人が転借人に対し返還請求した場合、「返還請求時」から「目的物の現実の返還時」までには、多少の時間の経過があるのが通常です。この場合の賃料相当損害金の支払関係について、前記の判決では、賃貸人が転借人に対し請求できるとしています。そこで、転借人としては転借料相当損害金を賃貸人に支払うことになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.05更新

借地の無断転貸に関する法律相談

 

<質問>

 私(以下「A」)は、ある借地に私名義の建物を建てて、以後十数年にわたり呉服店を営んで来ました。その後、数年前に、税金対策のため、個人で営業をしていた呉服店を株式会社(以下「B社」)に組織変更し、建物の名義も会社名義にしました。なお、会社の株式は80%を私が出資し、残りの20%の株式は妻と子の名義にしました。3名の会社役員については、私が代表取締役になり、妻と弟に名義だけを借りることにしました。

 そうしたところ、先日、地主から内容証明郵便が届き、建物の名義が個人から会社に代わっていることから、借地権の無断譲渡にあたるという理由で、借地契約の解除と土地の明け渡を求められました。

 このような場合、借地権の無断譲渡に当たってしまうのでしょうか。

<回答>

1 第三者に無断で借地権を譲渡することは借地契約の解除事由(民法612条2項)とされております。

 したがって、借地権を譲渡するには事前に地主の承諾を得なければなりません。地主の承諾を得ることが困難な場合には、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可の審判を申し立て、裁判所の許可を得てから譲渡することになります(借地借家法19条)。

2 本件のように、借地上の建物所有権の名義を個人から法人に変更(譲渡)した場合には、これに伴い借地権も当然に譲渡したと見なされると言う法理がありますので、これにより本件の借地権も法人に譲渡したものと見なされます。

 そうすると本件のような事案では、借地権の無断譲渡があったものとして、地主に借地契約の解除権が発生するようにも思えます。

3 しかし、最高裁昭和28年9月25日判決(民集7・9・979)は、建物の無断転貸の事例で、「賃借人が賃貸人の承諾なく、第三者をして建物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合には、賃貸人の解除権は発生しない」旨判示しております。 

そして、上記判例を受けて、最高裁昭和38年10月15日判決(民集17・9・1202)は、借地上にあった僧侶個人名義の建物所有権が宗教法人の名義へ地主に無断で変更されたという事案で、「借地の利用関係に実質的な変化はない」という理由で、背信行為なしとして地主の解除権を否定しております。

4 本件においては、①B社の代表取締役が元借地人のAであり、他の取締役もAの親族であること、②B社の株主も80%がAであり、残りの20%もAの家族であること、③B社の営業内容もAが長年行っていた呉服店であることからすれば、呉服店を法人化した後も当該借地の利用形態に実質的な変化はなかったものと考えられます。

したがって、本件のような事案では地主の解除権は否定されるものと考えられます。

最高裁昭和43年9月17日判決(判時536・50)も、本件と類似の事案において「借地人と地主との信頼関係を破壊するような背信行為とは言えない」という理由で、地主の解除権を否定しております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

COLUMN 弁護士 秋山亘のコラム
FAQ よくある質問
REVIEWS 依頼者様の声