弁護士 秋山亘のコラム

2016.11.30更新

 

賃貸住宅におけるペット飼育の法律相談


(質問)
1 賃借人が賃貸人に無断で犬を3匹も飼っています。しつけも悪く、アパートの内外で糞尿の汚れもひどく、夜鳴きもうるさいなど同じアパートの人たちからも苦情が来ています。
賃貸借契約書には「賃借人は、猛獣、爬虫類、犬、猫等の動物を飼育してはならない」との条項があります。
このような場合賃貸借契約を解除することができるでしょうか。
2 また、上記のような条項がない場合にも賃貸借契約を解除することができるでしょうか。


(回答)
1 質問1について
(1) ペット飼育禁止特約の有効性
裁判例はこのようなペット飼育禁止特約の有効性を認めております。 
確かに、個人の空間で他人に迷惑をかけずにぺットの飼育をするならば問題はないようにも思えますが、たとえその飼育マナーが良い場合でも、共同住宅においてはペットの飼育そのものに嫌悪感を抱く方もいること、ペットの飼育それ自体により建物の傷み具合が進行すること、飼主にとっては気にならない鳴き声・抜け毛など有形無形の迷惑が生じている場合も往々にして認められることなどから、一律に犬・猫等のペット飼育の禁止をうたう特約も有効とされています。
(2) 契約解除の可否
次に、ペット飼育特約が有効であり、それに違反してペットの飼育が為された場合に直ちに契約解除までできるかというと、必ずしもそうではありません。
裁判例は、賃貸借契約を解除するには、客観的に見て、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたと言えるような場合でなければならないとしております。
たとえば、ペットの飼育により本件のような著しい迷惑行為が現に行われている場合、賃貸人がペットの飼育をやめるよう再々に渡り催告したにもかかわらずこれをやめない場合には、信頼関係が客観的に見て破壊されたと言えるでしょう。
逆に、ペットを飼育していることが判明したが、近隣への目立った迷惑行為もみられず、建物のペットによる損耗も預け入れ敷金による補修費の控除で十分に賄える程度の軽度の損耗しか認められない場合においては、賃貸人の催告によって賃借人が速やかにペットの飼育をやめれば、契約解除まで認めるのは難しいでしょう。
2 質問2
 (1) ペット飼育の可否
ペット飼育禁止特約がない場合には、猛獣や毒蛇等の危険動物の飼育は別として、犬猫等の動物の飼育それ自体は原則として禁止されるものではありません。
契約後に賃貸人が一方的に犬猫の飼育を禁止することはできません。
(2) 用法遵守義務
しかしながら、賃借人は、特約がなくとも、「契約又はその目的物の性質に因りて定まりたる用法に従いその物の使用及び収益を為す」という義務(民法594条、616条)、すなわち「用法遵守義務」があります。
したがって、この用法遵守義務から、賃借人であるペット飼育者にも、ペットの飼育をするにしても守らなければならない一般的な社会的ルールの履行が求められます。
具体的には、飼主には、糞尿の始末をきちんとする、ペットが夜鳴きなどをしないようしつけをきちんと施す、場合によっては動物病院で治療やその他の夜鳴き防止の処置をするなど、ペットの飼育により近隣に迷惑を及ぼさない義務、建物に通常の使用を超えるような損耗をさせない義務があります。
 そして、この義務に違反し、その義務違反の程度も、本設例のように著しい場合には、賃借人の用法遵守義務違反が認められるでしょうし、また、その義務違反により賃貸人との信頼関係も破壊されたとして、契約解除が認められるでしょう。

(以上)          

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.11.21更新

預金債権と相続

(質問)
1 夫Aが亡くなり遺産相続をしなければなりません。私達には子がおらず、夫の両親も亡くなっています。このような場合、遺産分割協議は、誰と行ったらよいのでしょうか。
 また、私の法定相続分はどのようになるのでしょうか。
2 1の事例で、夫の遺産として残っているものは、銀行の普通預金だけなのですが、相続人が多いため遺産分割協議をするにも長引きそうです。銀行に対し、直接、法定相続人に従った預金の払い戻し請求はできないでしょうか。

(回答)
1 質問1について
 夫婦に子がおらず、亡くなられた夫Aにご両親がいる場合には、妻とご両親が相続人になり、この場合の法定相続分は、3分の2が妻、3分の1がご両親(これをご両親が二人で等分に分けます)となります(民法900条1項2号)。
夫Aのご両親も亡くなられている場合には、夫Aの兄弟姉妹全員が相続人になり、この場合の法定相続分は、4分の3が妻、4分の1が兄弟姉妹(これを兄弟姉妹が等分に分けます)となります(民法900条1項3号)。
なお、兄弟姉妹の中に亡くなられている方がいる場合には、その子全員も相続人になります(ただし、その子が亡くなっている場合にはその孫の相続権まではありません)。
例えば、3人の兄弟の中に亡くなられている方が一人おり、亡くなられた方の子が二人の場合には、その子の法定相続分は1/24=1/4×1/3×1/2となります。
2 質問2について
 最判昭和29年4月8日は、銀行の預金債権について、「金銭債権は分割債権であり、相続開始と共に法律上当然に分割され、各相続人はその相続分に応じる権利を承継する」という立場をとっております。
したがって、上記最高裁判例の立場からすれば、各相続人は、遺産分割協議をせずに、つまり他の相続人の同意がなくても、銀行に対し、自己の法定相続分に関する預金の払い戻し請求が可能です(東京地裁平成18年7月14日金融法務事情1787号54頁)。
しかし、銀行によっては、他の相続人からのクレームを避けたい、紛争に巻き込まれたくないとの考えから、他の相続人全員の同意がないと、法定相続分に関する払い戻しでも応じないという運用をしているところが多くあります。
このような場合には、銀行に対し、法定相続分の払い戻しに関する訴訟を提起し、判決を得た上で、払い戻しを受けることになります。
この訴訟については、前記のように判例もあるところですので、銀行側もほとんど争わずに、早期に勝訴判決を得ることができる場合が多いようです。銀行側としても、訴訟で判決を受けて払い戻しを実施したとすれば、他の相続人からのクレームに対し対処がし易いという考えがあるのでしょう。
そのため、あまりにも相続人が多くいたり、音信不通者がいる、或いは、感情的になってどうしても判子を押したくないという相続人がいるなどの理由で、遺産分割協議が進みそうもないという場合には、弁護士に依頼して銀行に対する訴訟を提起し、判決を得た上で、払い戻しを受けた方が解決が早いと思われます。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.11.14更新

バブル崩壊後も高すぎる賃料を減額してもらう方法はありますか

 

(質問)

私は、平成5年に、現在の店舗を月額33万円で借りるという賃貸借契約を結びました。

しかし、その後この辺の地価もだいぶ下落しましたし、近隣の同じような店舗の賃料が20万円程度であるのに比べて、だいぶ高すぎると思います。

そこで、私は、大家さんに近隣の賃料と同程度にして欲しいと頼みましたが、大家さんから「契約書で決めたことだから減額交渉には一切応じられない」と言われてしまいました。

契約書で決めた以上家賃の減額交渉は認められないのでしょうか。

また、大家さんが賃料の減額に応じない場合、私は現在の賃料を払い続けなければ賃貸借契約を解除されてしまうのでしょうか。

(回答)

 借地借家法32条1項では、土地・建物に対して課される税金の増減、土地・建物の価格の増減、当該建物の家賃が近隣の類似家賃に比較して不相当となった場合など、経済事情の変動があった場合には、契約の条件に関わらず、当事者は将来に向かって家賃の増減額の請求をすることができると規定されております。

 したがって、契約書で家賃の金額を決めた場合でも、景気の大きな変動などにより、近隣の家賃相場が低くなっている場合には、借地借家法により家賃の減額が認められる可能性が十分あります。

 借地借家法により、借家人が家賃の減額請求をしても家主が家賃の減額に応じない場合、借家人は、大家に対し、家賃減額に関する調停を申し立てることができます(「調停」=「ちょうてい」と言い、裁判所や不動産の専門家が間に入り、話し合いによる解決を勧める手続きです)

なお、賃料減額の効力は「賃料減額の請求をした時」から生じます。 従って、当事者間で協議があわず裁判で新賃料を決めることになった場合などには、賃料減額の請求をした時期がいつだったかが後々問題となる場合がありますので、賃料減額請求をする場合は、きちんと内容証明郵便等で行うなどして証拠を残しておくべきです。

また、裁判所で新賃料額が決められるまでの間は、賃借人は、自分が相当と思う賃料を払うのではなく、これまでの契約書通りの賃料を支払い、裁判所の決定が出た時に、多く支払ってきた賃料分と将来の賃料と相殺することになります。そうでないと、裁判所が賃料の減額を認めなかった場合に、大家から賃料の支払を怠ったとして契約を解除される恐れがあるからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.11.07更新

定期借家制度をご存じですか?-立退料の請求を受けないために

 

(質問)

(1) 私は、都内にマンションを一室所有しているのですが、そのマンションを貸し出したいと考えています。しかし、建物を一旦貸すと借家人の権利が強くて、なかなか返してもらえないと聞いています。3年後には、息子も大学を卒業し、卒業後は独立してコンピューター関連の商売を始めたいと希望しておりますので、3年後にはこのマンションを息子の事務所として使わせようかと考えております。その為、貸し出して良いものか迷っています。何かよい方法はないでしょうか?

(2) 私は、定期借家契約で事業用店舗を借りる予定なのですが、注意するべき点は、何かありますか?

(回答)

1 (1)の回答

 平成11年12月、借地借家法が一部改正され(平成12年3月1日施行)、新たに「定期借家権」という制度が創設されました。

 従来は、建物を期限を定めて賃貸しても、家主は、借地借家法上の「正当事由」(建物の自己利用の必要性等)がないと更新拒絶ができないとされ、また、その「正当事由」も裁判上は簡単には認められず、仮に認められても多くのケースでは立退料の支払が必要であるなど、賃借人が使用継続を希望する場合に家主が建物の返還を求めるには、大変な苦労を要する場合が多くありました。

 今回の改正法では、約定の期間の経過とともに、無条件で建物の返還を求めることができる「定期借家権」という制度が創設されました。本件でも、賃貸期間3年の定期借家契約によって、建物を賃貸すればよいでしょう。

 但し、法は、借家人保護の為、家主に対し、下記の手続きをきちんと踏むことを要請しています(これを一部でも怠ると更新可能な通常の借家契約になりますので注意が必要です)。

 <法定手続き>

書面によって契約をかわすこと。

この契約書には、「期間の満了とともに契約が終了し、更新をしないこと」を明記する必要があります。

②定期借家権の内容について書面を交付して説明すること
定期借家契約の終了時に通知をすること

貸主は、期間満了の6ヶ月前から1年前の間に、改めて「契約終了の通知」を借家人に対して出しておかなければなりません。万一、この通知を忘れた場合は、通知を出したときから6ヶ月経過後が契約終了時になります。

2 (2)の回答

  借家人は、期間の経過によって、無条件で建物を出なればなりません。

 この他に、定期借家契約では、途中解約権の制限にも注意しなければなりません。

 すなわち、定期借家契約では、「家主からも」「借主からも」中途解約権を原則として認めていません。従って、中途解約ができない以上、残存期間の賃料については、建物を使用しても使用しなくても支払わなければなりません。

 もっとも、法は借主保護の観点から、「床面積が200平方メートル未満の居住用建物の借家契約」において、「転勤・療養・親族の介護そのたやむを得ない理由があって、借主が生活の本拠として使用することが困難となった場合」には、借主からの中途解約権を認めています。

 ただ、本件のような事業用の借家契約の場合にはこのような例外規定もありません。中途解約権を留保しておきたい場合には、契約書にその旨明記しておかなければなりません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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