弁護士 秋山亘のコラム

2018.12.17更新

借家契約において無効となる条項

 

<質問>

 借家契約では契約書で家主に有利な規定を設けても無効になる場合があると聞きます。どのような条項が無効になるのでしょうか。

<回答>

1 借地借家法では、一定の事項については仮に契約書等で賃貸人に有利な条項を定めても無効になる旨を定めております。これを強行規定といいます。

 借地契約については借地借家法9条が、借家契約については借地借家法30条がこれに当たります。

 具体的には借家契約の場合で、借地借家法28条(賃貸人は正当な事由がなければ更新を拒絶しまたは解約の申し入れをすることができない)、同法26条1項(期間満了前1年~6カ月の間に更新拒絶の通知をしないと契約は自動的に更新されたものと見なされる)、同法26条2項(期間満了前の26条1項の通知をした場合であっても、賃借人が期間満了後も建物の使用を継続している場合には賃貸人が遅滞なく異議を述べないと自動的に更新されたものと見なされる)、同法29条(1年未満の契約をした場合には期間の定めがない契約と見なされる)などの規定が強行規定にあたります。

 したがって、これらの規定に反する条項で賃貸人に有利な条項は無効とされています(借地借家法30条)。

2 具体的に問題となった例としては以下のような条項があります。

・家主の要求があれば直ちに明け渡す旨の特約

このような条項は、借地借家法28条の正当事由(地主の自己使用の必要性に関わる正当事由)がなければ解約できないとの条項に違反します。

また、建物の立ち退きに当たっては一切立ち退き料を請求しない旨の条項 も、立ち退き料の提供は正当事由を補完するための重要な要素ですので、このような条項も実質的には借地借家法28条に反するものとして無効になります。

また、家主の療養中に限り賃貸する旨の条項なども実質的に借地借家法28条に反するとして無効とされております(ただし、ここで述べているのは、療養が終わっても当然に借家契約が終了しないという意味ですので、療養が終わり家主が当該借家を自己使用する必要性が高いという事情は、借家契約の更新拒否の正当事由の一つとして考慮されます)。

なお、一定の期間に限り賃貸に出したいという場合には、借地借家法38条の各要件を備えることにより成立する定期借家契約という方法がありますので、この方法を検討するべきでしょう。

 ・賃借人が差し押さえを受け又は破産宣告の申し立てを受けた時には、家主は直ちに契約を解除することができる旨の条項

 差し押さえを受けたり、破産宣告の申し立てを受けただけで、家賃はきちんと支払い続けているという場合には、賃借人は何ら債務不履行(家賃の滞納)をしたことになりませんので、このような事項は借地借家法28条の正当事由にはなりません。

したがって、このような条項も無効になります(最高裁昭和43年11月21日民集22・12・2726)。

なお、賃借人の破産は、かつては民法上の賃貸借契約の解除事由とされていましたが、前記のような理由から合理性がない規定だとして民法の規定からも削除されています。

3 このように、賃貸借契約の終了事由に関わる条項の多くは、借地借家法28条の定めと実質的に反するという理由で無効とされておりますので、契約書の検討の際には特に注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.12.10更新

滞納管理費の一部弁済と時効中断の範囲 

 

<質問> 

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしておりますが、ある区分所有者の方で管理費を4年11ヶ月間滞納している方がいます。管理費の時効期間である5年の経過を間近にして、強く督促したところ、その方は1ヶ月分だけ支払って来ました。

債務の一部弁済も時効の中断事由にあたると聞いておりますので、もうしばらく訴訟の提起を見合わせたいと思っております。

時効の点は大丈夫でしょうか。

<回答>

 本件で問題となっているマンションの管理費は、民法169条所定の定期給付債権に該当することから5年の時効期間に服します(最高裁判所平成16年4月23日判決)。

 ところで、マンションの管理費のように毎月定期的に発生する債務に関して、その1ヶ月分のみが支払われた場合において、債務の一部弁済として滞納期間全体(本件では4年11ヶ月分)の債務について時効中断の効力が及ぶのか、それとも個々の債務は別個独立の債務であることから残りの滞納期間の債務には時効中断の効力は及ばないと考えるのかが問題となります。

 この点、医師会に入会後規約に基づき毎月定期的に発生する医師会会費の時効が問題となったというマンション管理費の滞納と類似する事案において、判例(大審院昭和16年2月28日判決)は、一年のうち4月分・5月分の会費を支払ったとしてもそのために同年度の他の未払会費の支払義務があることをも承認したものとは認定出来ない、として残りの滞納期間の債務には時効中断の効力が及ばない立場を明らかにしております。

 したがって、本件においても、1ヶ月分の管理費が支払われたからと言って、他の滞納期間の債務を承認したことにはならないと考えられます。

 そのため、本件において時効の成立を防ぐためには、①残りの滞納期間の債務について5年の時効期間が経過する前に訴訟を提起する(5年が経過する前に取りあえず内容証明郵便を送付して6ヶ月以内に提訴する場合も含む)、②残りの滞納期間の債務について滞納債務の総額と滞納期間を明示の上債務者がこれを承認する旨の債務承認書を債務者から取得する、或いは、③残りの滞納期間と滞納債務の総額を明示の上これを分割弁済する旨の分割弁済書を債務者から取得する、という方法によって時効中断の措置を取っておく必要があります。

 なお、②③について、しばしば口頭での遣り取りだけで済まされがちですが、口頭の遣り取りだけでは後に立証することが困難となりますので、書面の取り交わしは必須と言えます。

また、③の場合には、「期限の利益喪失約款」を付する場合がありますが、この場合には、「相手方の○回分の滞納により当然に期限の利益を喪失する」と記載されている場合には、相手方の○回分の滞納により期限の利益を喪失した時から5年間で、債務承認をした全体の残債務について時効になります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.12.03更新

遺留分の放棄に関する法律相談

 

 

<質問>

 私は、ある不動産賃貸業の会社を経営しており、いくつかの不動産を保有しております。

 妻は既に他界しておりますが、子どもが二人おります。長男は会社の経営を手伝い、次男は海外で悠々自適に暮らしている状況です。

 長男に会社を引き継がせるため、次男には一定額の預金を渡すことで、会社の株式とそのほかの不動産等の財産については、長男に相続させることを考えております。

 幸いにして次男もその考え方に了解してくれています。しかし、将来のことを考えると、次男にしても考えが変わるとも限りませんので、きちんとした法的な手続きを取っておきたいと思います。

 どのような手続きを取ればいいのでしょうか。今のうちに、次男から相続放棄の書面に署名・捺印をもらっておけばよいのでしょうか。

なお、これまでに長男・次男に生前贈与したことはありません。

<回答>

1 被相続人の生前に相続人が相続放棄の書面を作成していたとしても、生前の相続放棄は無効とされております。

 そのため、本件のように被相続人の生前において相続財産の分配方法を確定しておきたい場合には、あらかじめ遺言書を作成しておいて、相続財産の分配方法を具体的に定めた上で(例えば、預金Xは次男に、その他の遺産は全て長男に相続させる)、次男においては遺留分放棄の許可の申立(民法1043条)を家庭裁判所にして、家庭裁判所から許可の審判を得ておく必要があります。

家庭裁判所は、次男において遺留分の放棄の意思表示が真意に基づくものか、その他遺留分放棄に至った事情を考慮して、許可の審判をします。

2 もっとも、生前における遺留分の放棄が意味をなすのは、遺言による相続財産の分配方法が遺留分を侵害する場合です。本件における次男の遺留分は、これまでに生前贈与をしたことはないとのことですので、相続財産から相続時の負債額を差し引いた金額の4分の1(=1/2×1/2)です。

したがって、遺言によって次男に渡す予定の預金額がこの遺留分額を下回らなければ、遺留分を侵害することはないので、遺言書を書くだけで足ります。

本件のように不動産を多数お持ちの場合には、不動産の価値がかなり高額となる場合が多いでしょうから、一定額の預金を渡してもなお遺留分を侵害するとされるケースが多いでしょう。生前における遺留分の放棄の許可の手続きを取るべきか否かは、この点を考慮して決めることになります。

3 このほかに「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」では、会社の事業承継にあたって、後継者が議決権の過半数を確保することできるよう、株式等の生前贈与が行われた場合の遺留分に関する民法の特例が設けられております。

これは、一定の要件を満たす中小企業においては、旧代表者の推定相続人全員の合意により、旧代表者から後継者に生前贈与された株式等を①推定相続人の遺留分算定の基礎財産から除外する、または、②後継者が贈与を受けた株式等の評価額を一定額に固定する合意がなされ、その合意内容について家庭裁判所の許可を受けることにより、当該生前贈与を受けた株式等に対する遺留分の行使を制限できるというものです。

②は、株式等の生前贈与が為された後、後継者の経営努力によって株式の価値が上昇したという場合に、遺留分算定の際の株式の評価額は相続開始時を基準とされていることの不公平さをなくすための制度でもあります。

民法の制度は、遺留分の放棄という制度であり、遺留分権者にとってはオールオアナッシングの制度のため、かえって使いにくいという難点がありましたが、上記制度は、事業承継に必要な株式に関してのみ適用される制度ですので、遺留分を全部放棄してしまう民法の制度に比べて中間的な方法として利用が期待できます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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