弁護士 秋山亘のコラム

2018.01.29更新

更新料の有効・無効を巡る裁判例の動向

 

<質問>

 大阪では、更新料を有効とする高裁判決と無効とする高裁判決とで裁判例が別れていると聞いています。

 この二つの判決はどのような理由で判断が分かれたのでしょうか。

<回答>

(1) 平成21年8月27日大阪高裁判決は、更新料の定めは消費者契約法に違反し無効との判決を下しました。

これに対し、平成21年10月29日大阪高等裁判所判決は、更新料の定めは消費者契約法に違反せず有効との判決を下しました。

なお、この二つの判決は大阪高裁の異なる民事部で審理されましたが、重要な論点ですので、裁判所内部では事実上協議がなされているものと思われます。

この二つの判決の事案の概要は以下の通りです。

①平成21年8月27日大阪高裁判決

家賃:月額4万5000円

礼金:6万円

   更新料:10万円

契約期間:1年間

   過去5回支払った更新料の返還請求

②平成21年10月29日大阪高裁判決

家賃:月額5万2000円

礼金:20万円

更新料:家賃2ヶ月分

契約期間:2年

過去に支払った5ヶ月分の更新料の返還請求

 更新料の定めを無効とした平成21年8月27日大阪高裁判決は、更新料の法的性格として①賃貸人による更新拒絶権放棄の対価、②賃借権強化の対価、③賃料の補充という複合的性質を持つという賃貸人側の主張を否定し、1年という契約期間満了の度に10万円という高額の更新料の支払い義務を定める契約条項に合理性はないとして、消費者契約法違反を認めました。
 これに対し、更新料の定めを有効とした平成21年10月29日大阪高裁判決は、更新料の法的性格について、更新料は更新によって当初の契約期間よりも長期の賃借権となったことに基づく、賃借権設定の対価の追加分乃至補強分であると判示し、本件においては、契約期間を2年間、更新料を賃料の2ヶ月分(10万4000円)とされており、契約時の礼金(20万円)よりも金額的に抑えられているなど適正な額に止まっていることから、信義則に反する程度まで消費者に一方的な不利益を課すものではないと判示して、消費者契約法に違反せず有効と判断しました。

(4)  二つの大阪高裁の事案を比較すると分かると思うのですが、大阪高裁は、更新料を一律に有効・無効とするのではなく、事案に応じて判断を分けているのが分かると思います。

   すなわち、無効とした平成21年8月27日の事案では契約期間が1年と短く更新料を支払う頻度が多いのに、更新料の金額は10万円と契約時に賃借権設定の対価として支払う礼金の6万円に比べて高い金額を要求しております。このような定めでは、更新契約を結ぶことによって追加の契約期間を確保するという更新料の法的性格(賃借権の設定の対価)を合理的に説明することは困難かもしれません。

   これに対して、有効とした平成21年10月29日の事案では契約期間は2年であり、更新料の金額(10万4000円)も契約時の礼金(20万円)の範囲内に収まっておりますので、賃借権設定の対価(契約期間延長の対価)としての法的性格を合理的に説明できるように思えます。また、2年毎の更新料ですので、賃借人にとっても負担が少なく、信義則に反して消費者に一方的な不利益を課すものではないと言えます。

(5)  いずれの事案も最高裁に対し上告されているようですので、最高裁の判断が待たれるところですが、少なくとも、大阪高裁の判決は更新料を一律に無効にしたものではなく、更新料の負担が合理的範囲内に抑えられている場合には有効との判断を示しているというのが現時点における大阪高裁判決に関する正しい理解であるように思えます。

   そして、東京における賃貸の事案は、多くの賃貸借の事例で契約期間が2年間であり、更新料の金額も家賃の1ヶ月分程度であり、礼金と同等か若しくはこれよりも低い金額であることに鑑みれば、平成21年10月29日大阪高裁判決の事案と同様、消費者契約法に違反するものではなく有効と判断されるものと考えられます。

(6)  なお、消費者契約法は、事業者と非事業者との契約に適用がある法律ですので、事業者が賃借人の事案では、そもそも消費者契約法が適用されるものではなく、更新料の定めは有効となります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.01.22更新

借地・借家権譲渡の方法

 

(質問)①私は借地上に建物を建てて住んでいるのですが、このたび借地上の建物を処分したいと思うのですが、地主が承諾しそうにもありません。何とかなりませんか。
②建物を借りて飲食店を経営しているものですが、経営が思わしくないので、店舗を借家権付で売ろうと考えています。大家が承諾しそうにないとき、どうしたよいでしょう。
(答え)借地権を譲渡したり、転貸するには、事前に地主の承諾を得なければなりません。なぜなら、借地権を無断で譲渡・転貸することによって、地主との信頼関係を破壊したと判断された場合には、賃貸借契約を解除されてしまうからです。なお、借地上の建物を譲渡すると借地権も譲渡したものとみなされますので、この場合も地主の承諾が必要です。
 このように、借地権の譲渡を考えている場合には事前に地主の承諾を得なくてはならないのですが、①借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合で、②第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず地主が承諾しないときは、借地権者は裁判所に承諾に代わる許可の裁判を求めることができます(借地借家法19条)。
 譲り受ける人が資力に問題があって地代を支払えない人や暴力団員などであれば、地主に不利となるおそれがある場合と言えるでしょうが、そのような事情のない場合、裁判所の借地非訟事件手続によって許可を得ることが可能です。借地非訟事件の手続は、借地の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(合意のある場合)に書面をもって申し立てます。裁判所は、鑑定委員に鑑定意見を提出させるなどの審理をし、許可を与えるかどうかを判断します。その際、譲渡する借地人に財産上の給付(いわゆる名義書換料の支払)を命じることがあります。この名義書換料の相場ですが、借地権価格(場所により異なるが土地の時価の7割前後が目安)の10パーセント前後となっています。
 この他に、地主から当該借地(これを「底地」と言います。)を買い取ってしまうという手段も考えられます(底地買取価格=土地時価-借地権価格)。これには、地主と土地の売買契約を結ばなければならないので、地主が合意しなければできません。しかし、前記の借地非訟手続きでは少なからず地主と対立してしまいますので、今後の地主との煩わしい関係(地代の値上げ問題や更新時の更新拒絶の問題)を清算したいと言う場合には、借地非訟手続きよりむしろこの手段がお勧めです。また、借地非訟手続きでは、地主から借地権及び建物を買い取ることを請求されるリスクがあります(買取価格=借地権価格+建物価格-前記名義書換料)。これは「介入権」といい、この介入権を行使されると、借地人はこれを拒むことができないのです。  
 以上が借地の場合ですが、借家の場合には、承諾に代わる許可の裁判という制度はありません。従って、飲食店店舗を居抜きして売ろうという場合は原則として貸主の承諾を得なければなりません。但し、借家権を無断で譲渡しても、貸主との信頼関係を破壊していないと判断される場合には貸主の契約解除は無効となります。しかし、借家の場合、建物の使い方が人によって異なるなど借主の個性が大切ですから、無断で譲渡した以上は信頼関係を破壊していると判断されてしまう恐れが高いでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.01.15更新

私道の通行妨害に関する法律相談

       

<質問> 

 ある土地を購入して、駐車場経営をしようと考えております。しかし、その土地は、公道には面しておらず、第三者が所有する建築基準法42条2項のみなし道路に指定されている私道にしか通じていません。そこで、この私道の所有者に「上記の土地を購入して駐車場を作りたい」旨の挨拶に行ったところ、「私道なので車の通行は許さない」と言われてしまいました。

私としては、私道であっても道路である以上、車の通行を許さないなどという理屈は通用しないと思います。現にその私道には近隣住宅の所有者の自動車が通行しております。

 上記の土地を購入して駐車場を作っても問題はないでしょうか。

<回答>

 結論から申し上げますと本件のような場合には、私道の所有者から通行権(通行地役権等)を設定してもらい、当該私道部分における駐車場の車の通行を認めてもらった上でなければ、購入は中止した方がよいと考えられます。

 といいますのは、私道の所有者等による私道の通行妨害があった場合に、そのような通行妨害を禁止するよう請求するための要件として、最判平成5年11月26日(判時1502号89頁)、最判平成9年12月18日(民集51巻10号4241頁)、最判平成12年1月27日(判時1703号131頁)は、①当該私道が建築基準法上の私道であること、②通路が現実に開設されていること、③通行が日常生活上不可欠であること、④私道所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情がないこと、という4つの要件を全て満たす必要があるとしています。

 上記要件の中で特に注意が必要なのが、③の「通行が日常生活上不可欠であること」という要件です。

本件のような場合には、駐車場を建設して、駐車場収入を得るといういわば「営利的な目的」による私道の通行ですので、このような場合には私道の通行が「日常生活上不可欠」とは言えないと判断されます。

前掲最判平成12年1月27日も上記のような理由で、私道に対する通行妨害の排除の請求を棄却しております。最高裁判決のいう「日常生活上の不可欠の利益」とは、私道だけに通じる土地に自宅を所有する者が生活のためにやむを得ず通行する利益のことですので、商業上の利益は含まれないことになります。

なお、自宅の駐車場に止めてある車を通行させることに関してはどうかという点ですが、例えば、高齢や障害のため車での外出が不可欠などの事情があれば、「日常生活上の不可欠の利益」と言えると思います。しかし、単に自宅に車の駐車場があると便利であるという理由だけで「日常生活上の不可欠の利益」があると言えるかについてはかなり微妙な問題があります。

 最高裁が上記③の要件を設けたことに関しては、私道上には構築物を設置することを禁止する行政上の規制違反を結果的に容認することになるなどの学説上の批判があるところですが、平成12年の最高裁判決ですので、上記③の要件は今後も当分の間は維持されると考えられます。

 したがって、私道の所有者の意向を無視して駐車場を建設しても、私道の所有者が私道上にポールを設置するなどして通行を妨害した場合には、そのような通行妨害の禁止を求めることはできないと考えられますので、私道所有者との間で通行権の設定に関する合意が成立しない場合には、土地の購入は中止しておいた方がよいと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.01.09更新

定期借家権をご存知ですか?


               
(質問)
(1)私は、都内にマンションを一室所有しているのですが、そのマンションを貸し出したいと考えています。しかし、建物を一旦貸すと借家人の権利が強くて、なかなか返してもらえないと聞いています。3年後には、息子も大学を卒業し、卒業後は独立してコンピューター関連の商売を始めたいと希望しておりますので、3年後にはこのマンションを息子の事務所として使わせようかと考えております。その為、貸し出して良いものか迷っています。何かよい方法はないでしょうか?
(2)私は、定期借家契約で事業用店舗を借りる予定なのですが、注意するべき点は、何かありますか?
(回答)
1 (1)の回答
 平成11年12月、借地借家法が一部改正され(平成12年3月1日施行)、新たに「定期借家権」という制度が創設されました。
 従来は、建物を期限を定めて賃貸しても、家主は、借地借家法上の「正当事由」(建物の自己利用の必要性等)がないと更新拒絶ができないとされ、また、その「正当事由」も裁判上は簡単には認められず、仮に認められても多くのケースでは立退料の支払が必要であるなど、賃借人が使用継続を希望する場合に家主が建物の返還を求めるには、大変な苦労を要する場合が多くありました。
 今回の改正法では、約定の期間の経過とともに、無条件で建物の返還を求めることができる「定期借家権」という制度が創設されました。 本件でも、賃貸期間3年の定期借家契約によって、建物を賃貸すればよいでしょう。
 但し、法は、借家人保護の為、家主に対し、下記の手続きをきちんと踏むことを要請しています(これを一部でも怠ると更新可能な通常の借家契約になりますので注意が必要です)。
 <法定手続き>
  ① 書面によって契約をかわすこと。この契約書には、「期間の満了とともに契約が終了し、更新をしないこと」を明記する必要があります。
  ② 定期借家権の内容について書面を交付して説明すること
  ③ 定期借家契約の終了時に通知をすること。貸主は、期間満了の6ヶ月前から1年前の間に、改めて「契約終了の通知」を借家人に対して出しておかなければなりません。万一、この通知を忘れた場合は、通知を出したときから6ヶ月経過後が契約終了時になります。
2 (2)の回答
  借家人は、期間の経過によって、無条件で建物を出なればなりません。
 この他に、定期借家契約では、途中解約権の制限にも注意しなければなりません。
 すなわち、定期借家契約では、家主からも借主からも中途解約権を原則として認めていません。従って、中途解約ができない以上、残存期間の賃料については、建物を使用しても使用しなくても支払わなければなりません。
 もっとも、法は借主保護の観点から、「床面積が200平方メートル未満の居住用建物の借家契約」において、「転勤・療養・親族の介護そのたやむを得ない理由があって、借主が生活の本拠として使用することが困難となった場合」には、借主からの中途解約権を認めています。
 ただ、本件のような事業用の借家契約の場合にはこのような例外規定もありません。中途解約権を留保しておきたい場合には、契約書にその旨明記しておかなければなりません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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