弁護士 秋山亘のコラム

2017.04.24更新

死因贈与契約の活用


 Sさんは父親Fさんと長らく家業を続けてきましたが、Fさんも一線を退く年齢となりました。現在の家業はFさんが借家をして始めましたが、その後家業で利益を上げ、Fさんは土地・建物を買い取りました。商売による利益で購入したのですからSさんも土地・建物の取得に寄与しているのですが、名義はFさんのみになっていました。Sさんは長男で弟と妹がいます。Sさんは商売の後継ぎとして若い頃から同業者の見習いに行くなど大変苦労してきましたが、弟や妹はSさんの様な苦労をすることもなく育ちました。SさんはFさんが亡くなったら当然土地・建物を自分が相続するのだろうと考えていました。しかし、Sさんは友人Nさんが相続でもめているという話を聞きました。NさんはSさんと似たような境遇でしたので、Sさんは不安になって弁護士に相談に行きました。
 弁護士は①最近の傾向だが、親は自分が死んだら相続財産について兄弟で話し合い長男が主に相続するだろうと考えて遺言しない。他方子の方は相続は兄弟皆平等と考えている一方で親の面倒は長男がみるべきだと都合良く考える。親と子の意識の差により色々な問題が生じる②相続に伴う問題を回避するために遺言という制度があるが、なかなか有効利用されない。また、遺言はいつでも遺言者が撤回できるし、万一、Sさんと父親Fさんとの間で心の行き違いがあればSさんにとって不利に変更されることもあり得る③本件は死因贈与契約を作成することが宜しいと思うとアドバイスし、具体的には、①SさんはFさんの面倒を責任をもってみる。また一定額の月々の小遣いも渡し自由に使って貰う②①の代わりにFさんが亡くなったときは店舗兼自宅の土地建物をSさんに贈与する③FさんはSさんが①の約束を破らない限り死因贈与契約を取り消さないという契約条項を提案しました(死因贈与契約も原則として取り消しが可能です。しかし③の条項が入っていればFさんは勝手に取り消すことが出来ないので、SさんにとってもFさんにとっても安心です)。ただし、「全財産をSさんにあげる」という内容の遺言や死因贈与がされても、Sさんの兄弟には遺留分がありますので、兄弟が遺留分を主張しますと、その限度において遺言や死因贈与契約の効力が失われることになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.04.19更新

相続と保険金の受給の法律問題

          
(問)
(1) 私の夫は会社を経営していたのですが、莫大な借金をかかえて亡くなりました。相続財産より借金の方が多いのは明らかなので、相続放棄をしようと思うのですが、相続放棄をすると夫の保険金の受給権までは喪失してしまうのでしょうか。
(2) 父が亡くなったので父の財産(1200万円)を私と兄、弟の3人兄弟で相続することになりました。ところが、保険金の受取人が兄になっていた為、私の兄だけが父の保険金(3000万円)を受給することになりました。しかし、これでは相続人間で兄だけが取りすぎなような気がします。法律的にはどうなのでしょうか。
(答え)
(1)について
 上記のケースでは、保険金の受取人名義が誰になるのかで、結論が異なります。すなわち、保険金受給権それ自体は、相続により承継するものではないので、直ちに相続財産になるわけではありません。相続財産ではなく、受取人の固有の権利ということになれば、相続放棄とは関係なく受け取ることが出来るのです。
① 受取人名義が妻(私)の名義な っている場合
 この場合には、妻の固有の受給権となりますので、相続とは関係ありません。従って、受給できます。
② 受取人名義が「相続人」と書か れている場合                  この場合には、一見、保険金は相続財産として構成され、相続人に相続されるようにも思えます。
 しかし、判例はこの場合にも、保険金受給権者が「相続人」であることを注意的に記載したものにすぎず、保険金は、相続人それぞれが法定相続分に従って受給する固有の受給権であるとしています。
 従って、受給できます。
③ 受取人名義が被保険者名義(死 亡した夫)になっている場合
 この場合には、一旦は夫の財産となり、これを相続したことになります。
 従って、受給できません。
 なお、遺族年金や公務員の死亡給付金が支給される場合についても、これらは相続財産とは関係なく遺族の固有の権利と解されていますので、相続放棄と関係なく受給できます。
(2)について
 (1)で説明しましたように、保険金の受取人名義が特定されている場合はその人の固有の財産になります。従って、兄は相続とは関係なく保険金を受け取ることができます。
 しかし、これではご指摘のように兄にだけが多く取りすぎとなり相続人間で不公平のように思われます。
 そこで、法は「特別受益」の制度を設けました。これは、特定の相続人が生前に被相続人(父)から特別の利益を与えられた場合には、これをその人の法定相続分から差し引きくこと(特別受益分を相続財産に加えて法定相続分を算定し、特別受益者についてはその法定相続分から特別受益分を控除する)で相続人間の平等を図る制度です。
 本件では、保険金がこの特別受益に該当するかが問題になります。裁判例は、これを否定したものと肯定したものと分かれております。また肯定説にたったとしても受益の範囲をどこまでにするのか(死亡時までに父が支払っていた保険料の総額にする説、死亡時の解約返戻金額とする説等)についても見解が分かれています。
 ここでは、仮に、父の死亡時までに父が支払っていた保険料の総額が特別受益とする見解にたち、その金額が300万円だったとします。
 そうすると各相続人の相続分は以下の通りになります。
<通常の法定相続分の場合>
  私、兄、弟の相続分=400万円
  1200÷3=400 
<特別受益を考慮した場合>
  兄の相続分=200万円
 (1200+300)÷3=500
  500-300=200
 私、弟の相続分=500万円
  (1200+300)÷3=500

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.04.10更新

滞納管理費の一部弁済と時効中断の範囲

 

<質問> 

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしておりますが、ある区分所有者の方で管理費を4年11ヶ月間滞納している方がいます。管理費の時効期間である5年の経過を間近にして、強く督促したところ、その方は1ヶ月分だけ支払って来ました。

債務の一部弁済も時効の中断事由にあたると聞いておりますので、もうしばらく訴訟の提起を見合わせたいと思っております。

時効の点は大丈夫でしょうか。

<回答>

 本件で問題となっているマンションの管理費は、民法169条所定の定期給付債権に該当することから5年の時効期間に服します(最高裁判所平成16年4月23日判決)。

 ところで、マンションの管理費のように毎月定期的に発生する債務に関して、その1ヶ月分のみが支払われた場合において、債務の一部弁済として滞納期間全体(本件では4年11ヶ月分)の債務について時効中断の効力が及ぶのか、それとも個々の債務は別個独立の債務であることから残りの滞納期間の債務には時効中断の効力は及ばないと考えるのかが問題となります。

 この点、医師会に入会後規約に基づき毎月定期的に発生する医師会会費の時効が問題となったというマンション管理費の滞納と類似する事案において、判例(大判昭和16年2月28日)は、一年のうち4月分・5月分の会費を支払ったとしてもそのために同年度の他の未払会費の支払義務があることをも承認したものとは認定出来ない、として残りの滞納期間の債務には時効中断の効力が及ばない立場を明らかにしております。

 したがって、本件においても、1ヶ月分の管理費が支払われたからと言って、他の滞納期間の債務を承認したことにはならないと考えられます。

 そのため、本件において時効の成立を防ぐためには、①残りの滞納期間の債務について5年の時効期間が経過する前に訴訟を提起する(5年が経過する前に取りあえず内容証明郵便を送付して6ヶ月以内に提訴する場合も含む)、②残りの滞納期間の債務について滞納債務の総額と滞納期間を明示の上債務者がこれを承認する旨の債務承認書を債務者から取得する、或いは、③残りの滞納期間と滞納債務の総額を明示の上これを分割弁済する旨の分割弁済書を債務者から取得する、という方法によって時効中断の措置を取っておく必要があります。

 なお、②③について、しばしば口頭での遣り取りだけで済まされがちですが、口頭の遣り取りだけでは後に立証することが困難となりますので、書面の取り交わしは必須と言えます。

また、③の場合には、「期限の利益喪失約款」を付する場合がありますが、この場合には、「相手方の○回分の滞納により当然に期限の利益を喪失する」と記載されている場合には、相手方の○回分の滞納により期限の利益を喪失した時から5年間で、債務承認をした全体の残債務について時効になります。 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.04.03更新

相続が開始したら相続財産・負債の調査を


 Aさんは平成二年一二月、夫のBさんと別居した。長男の一郎さんはその後もBさんと暮らしたが、平成三年四月、Bさんから「家を売るから出て行け」と言われ、他に移り住んだ。Bさんは家を売り、家族との音信は途絶えた。平成八年二月、突然警察から一郎さんへ、Bさんが亡くなったとの連絡があった。Aさんらは、警察に駆けつけたところ、Bさんは既に火葬にされ、遺骨と所持金二万円だけ受け取った。Bさんにはその他財産は全くなかった。Bさんが亡くなって二年半たった頃、ある信用保証協会が、Bさんに一〇〇万円の求償権があるので、相続人のAさんに支払えとの裁判を起こした。驚いたAさんは弁護士に相談した。弁護士の話は次のようなものであった。
①相続が開始されると、相続人は「自分のために相続の開始があったことを知ったとき」から三か月以内に単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択しなくてはならない。しかし、裁判上「相続の開始があったことを知ったとき」とは「被相続人の死亡を知ったとき」ではなく「相続財産の一部か負債の存在を知ったとき」と制限的に解釈される。
②Bさんは長い間音信不通で、AさんらはBさんの財産や負債など全く知らなかった。信用保証協会の提訴により初めて負債を知ったのだから相続放棄もまだ間に合う
というものであった。説明を補足すると、単純承認は、被相続人の財産も負債も全て引き継ぐことで、限定承認や相続放棄の手続をしなければ単純承認したものと扱われる。限定承認は、財産が負債より大きいときは残った財産を引き継ぐが、負債が大きい場合は財産を支払に充てればそれ以上責任は負わない。相続人にとって最も有利であるが、相続人全員が一致して、財産目録を作成の上、相続開始後(前記のように制限的に解されている)三か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要がある。相続放棄は、財産も負債も引き継がない。これも三か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要がある。因みに、Aさんはすぐに相続放棄をし、幸いにも支払を免れた。被相続人の死亡後何もしないでいると裁判に巻き込まれる危険性は高い。相続が始まったら、相続財産と負債につき慎重に調査することが必要である。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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