弁護士 秋山亘のコラム

2017.03.27更新

借地権の相続の法律問題

 

<質問>

 父は、10年前から土地を借りて、借地上に店舗を建設し、洋品店を経営しておりました。しかし、昨年急逝したため、父の店は、相続人である私が引き継いで、経営を引き継ぐことになりました。そこで、地主に挨拶に行ったところ、借地契約の名義書換をしてくれなければ困ると言われ、名義書換料として地代の1年分を請求されました。

    地主が言うように名義書換料の支払いに応じなければならないのでしょうか?
 (1)の事例で、借地契約には「当該借地契約は借地人一代一限りで失効する」という特約が付されていました。

     この場合、借地契約は上記特約により終了するのでしょうか?

<回答>

(1) 賃借権の相続と名義書換料支払いの必要性

借地人が死亡した場合、相続が開始し、借地権はその時から当然に相続人に移転します(民法882条・896条)。

この場合、賃借権だけでなく、これに付随する一切の賃貸借上の権利義務関係ないし地位が相続人に移りますから、地主と借地人との契約関係も法律上当然に相続人に承継されます。

 そして、借地権の相続によって、その権利の持ち主の名義に変更が生じますが、この名義の変更は、賃借権の第三者への譲渡等とは異なり、地主の承諾を得る必要がなく、法律上当然に生ずるものです。

したがって、賃借権の名義変更による承諾料としての名義書換料を支払う必要はありません。

実際上、本問のように地主から賃貸借契約の名義書換や更新の申出を受けることもあります。

名義書換をしておいた方が権利関係を明確にするという意味では望ましいことですが、従前の借地契約が法律上当然に承継されますので、多額の名義書換料を支払ってまでして名義書換をする必要性は余りないのではないかと思われます。

(2) 契約期間を「一代限り」とする特約の効力

 「賃借人が死亡したときには契約が終了し土地を明け渡す」旨のいわゆる賃借人一代限りの特約を結ぶ例もまれに見受けられます。この特約の法的性質は、不確定期限を付した合意解除契約といえます。

しかし、借地借家法(旧借地法)では、法の定める借地権の存続期間(借地借家法では30年)に反する特約は、無効とされています(借地借家法3条、9条)。賃借人一代限りとする特約は、借地契約後30年未満に賃借人が亡くなった場合にはその時点で賃貸借契約の期間が満了するという特約ですので、借地権の存続期間を最低でも30年とする借地借家法の規定に反することになります。

この点、裁判例(東京高判昭48・11・28/判時726・44)においても、賃借人一代限りとする特約は、借地法の定める存続期間に反する結果となり、借地人に不利なものとして無効である判示しています。

したがって、本件でもこのような特約は原則として無効と理解してよいと考えられます。

そして、この場合の存続期間は、期限の定めのない借地契約ということになるため、借地借家法3条の定める存続期間である30年と見なされることになります(最判昭44年11月26日/民集23・11・2221)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.03.13更新

マンションの申込証拠金は返ってこないのでしょうか

 

(質問)

 私は、あるマンションの展示販売会に行きました。気に入った部屋が見つかったのですが、販売業者から「このマンションは人気があるから、いまのうちに申し込みをしないと他の人に取られてしまいますよ。取りあえず10万円を申込証拠金としてお預け頂ければ、あなたの為に確保しておくことも可能ですが。」と言われたため、販売業者に即金で10万円を預けました。しかし、この時、申込証拠金とはどういう性格のものか、後になって返ってくるものか、何も説明を受けませんでした。

 後日になって、マンションを購入するには、いろいろと資金面で大変だということが分かり、マンションの購入は見送ることにしました。

 先の販売業者にそのことを告げて、申込証拠の返還を求めたところ、販売業者は、申込証拠金は手付け金と同じなので、マンションを購入しない以上返すことはできないと言われました。

 その半月後にも同じように問い合わせをしたのですが、答えは同じでした。なお、私が購入しようとした部屋は、この時には他の方と無事に契約成立ができていたようでした。

 申込証拠金は返ってこないのでしょうか。

(回答)

1 マンション、建売住宅、造成宅地の分譲等、購入申込の受付に際して、分譲業者が購入希望者から「申込証拠拠金」として、一定の金額を受領することが行われています。

売買契約が成立すれば、手付けの一部として又は売買代金の一部として充当されるため特に問題は生じないのですが、買い主がその後当該物件を購入しなかった場合には、この申込証拠金を返還するべきか問題となります。

2 申込証拠金の法的性質

 申込証拠金は、基本的には、その内容を決めるのは、当事者間の合意内容と言うことになります。

しかしながら、実際の授受の際には、いかなる内容のものとして申込証拠金が受領されるのか、返還義務があるのか等は曖昧なまま受領されております。

今回の販売業者は、「手付金」ということを主張しておりますが、手付金とは、売買契約の成立時に交付する金銭ですので、本件のように売買契約の成立以前に交付される金銭は、当事者間に特段の明確な合意がない限り、手付金とはいいません。

3 返還義務

では、申込証拠金の法的性格は手付金ではないとしても、申込証拠金を渡した後に、契約の申込意思を撤回した場合、申込証拠金の返還を求めることはできないのでしょうか。この点、学説上は、肯定説と否定説に別れております。

肯定説は、申込証拠金の授受の目的は、取引の順位確保、購入意思の真摯性の確保を目的にしているに過ぎず、契約交渉に入る前の金銭の交付であることから手付金とも性格が異なるとして、申込証拠金の返還義務に関して当事者間で「明確な取り決め」が為されていない限り、販売業者の返還義務を肯定すべきだとしています。

これに対し、否定説は、申込証拠金は、申込意思撤回の場合には違約金として販売業者がこれを受領する権限があるとして販売業者の返還義務は否定されるとする説などがあります。

この点、取引実務においては、上記の返還肯定説の見解に従い購入希望者が申込意思を喪失した場合は、申込証拠金を全額返還するという処理が多く為されているようです。

また、各都道府県の不動産指導部でも、契約不成立の場合には全額返還するよう指導しているようです(昭和48年2月26日付建設省不動産室長通達も同旨)。

4 本件ではどうか。

  本件では、申込証拠金について、少なくとも、販売業者は、契約不成立の場合には返還しないことを明確に説明しておりません。

  従って、本件では、手付金や違約金と同様に捉えて、申込証拠金の販売業者の返還義務を否定することは困難だと思いますので、肯定説に従って、返還義務が認められる可能性が高いと思われます。

また、本件では、購入意思撤回の告知後、約半月後には他の方と無事契約の成立に至っております。

従って、販売業者としては、あなたからの購入意思の撤回によっても、特段の損害は生じていないと考えられます。

そうすると、仮に、本件の申込証拠金の性質を前記の違約金として考え返還義務を否定する見解にたっても、消費者契約書第9条1項(事業者に生ずる平均的損害を越える侵害を違約金として定める契約条項の無効)若しくは消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)によって、販売業者は、申込証拠金の返還義務を免れないものと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.03.06更新

寄与分について教えてください

(質問)

 私は、20年間、夫の農業経営を手伝いながら長年連れ添ってきました。夫が5年前に脳梗塞で倒れたあとは、農業経営は私が主に行ってきました。また、夫が脳梗塞で倒れた後は、私が右半身不随の夫を家で介護して参りました。

 先月、その夫も亡くなったのですが、夫には、私と結婚する前に前妻との間で設けた子が2人おり、その子が法定相続分として、夫の資産(夫名義の預金・株券等の合計額金3000万円)の4分の1ずつをそれぞれ主張してきました。

 前妻の子にも法定相続分があるというのはわかるのですが、私はこれまでに農業経営を手伝ってきたり、夫を一生懸命介護してきたのに、前妻の子は、夫が倒れた後も何もしてくれませんでした。

 このような場合でも、法定相続分は、そのまま支払わなければならないのでしょうか。

(回答)

1 遺産の範囲の確定

 本件は、まず、夫の遺産の範囲を確定する必要があります。

 夫婦で預金をためてきたと言う場兄は、夫名義の預金と言っても、婚姻期間中に蓄えられた預金については、妻と夫の事実上共有財産となっている預金もあると思われます。

 従って、本件では、夫名義の資産でも、婚姻期間中に形成されたものとして、夫婦の共有財産となったものはないかを検討する必要があります。共有財産であれば、妻の持ち分については、相続の対象になりませんので、これを控除したものが夫の遺産として相続の対象になります。

2 寄与分の主張

 次に、あなたが夫の資産形成やその維持に寄与した場合、寄与分の主張が認められます。

 寄与分とは、被相続人の資産に関してその増額及び維持に寄与した相続人に、法定相続分とは別に特別の取り分を与えるという制度です。

 本件では、①夫の農業経営を20年間手伝ってきたこと、②脳梗塞で夫が右半身不随になった後も介護してきたことなどの事情が認められますので、裁判所での審判でも夫の遺産の30%程度(900万円=3000万円×0.3)が寄与分として認められる可能性が高いと思います。

 そうすると、本件では、下記の計算によって、今回のあなたの具体的な相続分が決まると思われます。

(具体的相続分)

=(3000万円-900万円)×1/2+900万円

=1950万円

投稿者: 弁護士 秋山亘

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