弁護士 秋山亘のコラム

2016.07.25更新

賃貸アパートにおけるペット飼育と賃貸借契約の解除

 

                                       

(質問)

1 賃借人が賃貸人に無断で犬を3匹も飼っています。しつけも悪く、アパートの内外で糞尿の汚れもひどく、夜鳴きもうるさいなど同じアパートの人たちからも苦情が来ています。

賃貸借契約書には「賃借人は、猛獣、爬虫類、犬、猫等の動物を飼育し

てはならない」との条項があります。

このような場合賃貸借契約を解除することができるでしょうか。

2 また、上記のような条項がない場合にも賃貸借契約を解除することができるでしょうか。

 

(回答)

1 質問1について

  (1) ペット飼育禁止特約の有効性

裁判例はこのようなペット飼育禁止特約の有効性を認めております。

 確かに、個人の空間で他人に迷惑をかけずにぺットの飼育をするならば問題はないようにも思えますが、たとえその飼育マナーが良い場合でも、共同住宅においてはペットの飼育そのものに嫌悪感を抱く方もいること、ペットの飼育それ自体により建物の傷み具合が進行すること、飼主にとっては気にならない鳴き声・抜け毛など有形無形の迷惑が生じている場合も往々にして認められることなどから、一律に犬・猫等のペット飼育の禁止をうたう特約も有効とされています。

(2) 契約解除の可否

 次に、ペット飼育特約が有効であり、それに違反してペットの飼育が

為された場合に直ちに契約解除までできるかというと、必ずしもそうではありません。

裁判例は、賃貸借契約を解除するには、客観的に見て、賃貸人と賃借

人との間の信頼関係が破壊されたと言えるような場合でなければならないとしております。

たとえば、ペットの飼育により本件のような迷惑行為が現に行われて

いる場合、賃貸人がペットの飼育をやめるよう再々に渡り催告したにもかかわらずこれをやめない場合には、信頼関係が客観的に見て破壊されたと言えるでしょう。

逆に、ペットを飼育していることが判明したが、近隣への目立った迷

惑行為もみられず、建物のペットによる損耗も預け入れ敷金による補修費の控除で十分に賄える程度の軽度の損耗しか認められない場合においては、賃貸人の催告によって賃借人が速やかにペットの飼育をやめれば、契約解除まで認めるのは難しいでしょう。

 

2  質問2

 (1) ペット飼育の可否

ペット飼育禁止特約がない場合には、猛獣や毒蛇等の危険動物の飼育

は別として、犬猫等の動物の飼育それ自体は原則として禁止されるものではありません。

契約後に賃貸人が一方的に犬猫の飼育を禁止することはできません。

(2) 用法遵守義務

しかしながら、賃借人は、特約がなくとも、「契約又はその目的物の

性質に因りて定まりたる用法に従いその物の使用及び収益を為す」という義務(民法594条、616条)、すなわち「用法遵守義務」があります。

したがって、この用法遵守義務がから、賃借人であるペット飼育者に

も、ペットの飼育をするにしても守らなければならない一般的な社会的ルールの履行が求められます。

具体的には、飼主には、糞尿の始末をきちんとする、ペットが夜鳴き

などをしないようしつけをきちんと施す、場合によっては動物病院で治療やその他の夜鳴き防止の処置をするなど、ペットの飼育により近隣に迷惑を及ぼさない義務、建物に通常の使用を超えるような損耗をさせない義務があります。

 そして、この義務に違反し、その義務違反の程度も、本設例のように著しい場合には、賃借人の用法遵守義務違反が認められるでしょうし、また、その義務違反により賃貸人との信頼関係も破壊されたとして、契約解除が認められるでしょう。

 なお、裁判例(東京地判昭和62年3月2日・判時1262号117頁)においても、ペット飼育により著しい迷惑行為があった事案では、ペット飼育禁止特約が設定されていない場合でも、上記の用法遵守義務違反と信頼関係の破壊を認定し、契約解除を認めたものがあります。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.07.19更新

債権回収は時効になる前に


 最近、法律相談で「家賃の滞納が続いているのだけど支払ってもらえないのでそのままにしている」、「不況なので取立てを待ってあげている」ということをしばしばお聞きします。しかし、どうしても弁済を猶予してあげたいという場合でも、時効には注意しなければなりません。時効が完成してしまうと、法律上は債権(お金を回収する権利)が消滅してしまうからです。そこで、今回はこの時効という制度についてご説明したいと思います。
1なぜ時効という制度があるのか
 時効とは、①一定期間の時の経過と②時効の援用(時効の利益を利用するという債務者の意思表示)によって債権が消滅する制度です(民法166条以下)。 
 なぜこのような一見不合理な制度があるのかと言いますと、①法律上の権利関係が長年決着つかない状態であると社会生活が安定しないこと、②昔の出来事なので証拠がなくなってしまっているのが通常であること、③権利の行使を長年怠っていた債権者は保護されなくても仕方ないことが理由となっています。
2時効の要件;一定期間の時の経過
 では、一定期間の時の経過とはどのくらいの期間のことを言うのでしょうか。これはその取引の種類によって異なります。
 まず、民法上の一般原則は、10年です。個人間の金の貸し借り上の債権は、これに該当します。
 次に、商取引上の債権の時効は、5年です。企業がする取引上の債権は一般にこれに該当します。また、一方が個人でも、会社を相手とするお金の貸し借りもこれに該当します。
 以上2つが基本ですが、この他に短期消滅時効と言って特別に短い期間で時効が成立するものがあります。
①時効期間5年のもの…個人がする賃貸借契約上の賃料債権
②時効期間3年のもの…請負工事の代金、医療行為の治療代、不法行為による損害賠償請求権(加害者を具体的に知ったときから数えて3年)
③時効期間2年のもの…生産者・卸売商人・小売商人が売る物品の代金、学習塾の月謝、弁護士の弁護料、労働者の賃金(但し退職金は5年)等
④時効期間1年のもの…飲み屋のツケ、運送代金等
3時効完成を妨げるには
 このように、①時の経過と②時効の利益の援用で時効は完成しまが、時効の完成は「中断」によって妨げることができます。「中断」に該当すると、時効期間の経過は振出に戻り、一から再び始まるのです。
 中断事由としては、①請求、②債務の承認、③仮差押、仮処分、差押があります。
 ①請求とは、訴え提起するほか請求書や催告状を出すことも該当しますが、請求書等を出した場合はその後6ヶ月以内に訴え(裁判)を提起しないと、時効中断の効果はなくなってしまいますので注意が必要です。
 ②債務の承認とは、債務者が債務の存在を認めることですが、債務の一部を弁済をする、利息を支払う、債務者が支払の猶予を申し出るなども債務の承認に該当します。
 以上が中断事由ですが、これらを行う場合は、後に証拠となるように文書で残る形にするよう注意しなくてはなりません。例えば、請求書なら配達証明付内容証明郵便で出す、一部弁済なら銀行振込み形式にしてもらう、支払の猶予ならその旨の文書を債務者に一筆書いて頂く等です。

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.07.11更新

迷惑行為による借家契約の解除

    

<質問>

 私は、現在アパートを借りて住んでいるのですが、私の部屋の隣人が、たびたび夜中まで大人数で酒を飲んでは大騒ぎすることを繰り返しており、困っております。私からいくら注意しても何ともなりません。

どうにかならないでしょうか。

<回答>

1 このような迷惑行為に対しては、家主からその相手に対する賃貸借契約の解除が認められる可能性がありますので、まずは、家主に相談してみるべきでしょう。

 すなわち、賃借人は、契約または目的物の性質によって定める用法に従い使用収益をなすべき義務(民法616条、同594条1、用法遵守義務)があります。

 アパートのような共同住宅では、当該建物において隣人との共同生活を行うことが予定されている以上、隣人の日常生活に著しい迷惑を及ぼさないことは、当然に前記の用法遵守義務から導かれる賃借人の義務と言えます。

本件のように深夜に大人数で大騒ぎをすることを繰り返すことによって隣人の安眠を妨げることは、隣人の日常生活に著しい迷惑を及ぼす行為に該当しますので、仮に、これらの行為を繰り返し、家主の注意に対しても、迷惑行為を辞めない場合には、用法遵守義務違反を理由にして契約解除が認められる可能性は高いと言えます。

この点、アパートで深夜のマージャンを繰り返したことにより隣人の安眠を妨げたことを理由に契約解除が認めた裁判例として、東京北簡判昭和43年8月26日(判時538号72頁)があります。

もっとも、賃貸借契約を解除するには「家主と賃借人の信頼関係が破壊された」という事情が必要ですので、1回の迷惑行為によって契約解除が認められるものではなく、複数回の著しい迷惑行為が行われ、家主の注意によっても迷惑行為を辞めないという事情が必要でしょう。

2 賃貸借契約の解除は、基本的には家主しか認められませんので、アパートの賃借人であるあなたとしては、まずは、家主に対し、隣人に対する注意や場合によっては契約解除を求めることになるでしょう。

 では、仮に、家主が隣人に対する注意や解除などの対応も何もしなかったり、或いは、家主が注意をしても隣人が迷惑行為を辞めず、家主としてもそれ以上の契約解除まではしないといった場合は、どうなるでしょうか。

このような場合には、家主としては、賃借人であるあなたに対して、建物の通常の用法に従って建物を利用させる賃貸借契約上の積極的な義務がありますので、隣人の迷惑行為によってあなたの安眠が妨げられるなどの被害を受けている場合には、家主の上記の義務違反を理由に、あなたとしては、家主に対し、賃料の減額請求をすることができると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.07.05更新

定額郵便貯金・現金と相続             

 

(質問)

1 遺産の中に定額郵便貯金があるのですが、遺産分割協議が成立するのに相当時間がかかりそうです。

そのため、私の法定相続分についてだけ、ゆうちょ銀行に対し定額郵便貯金の払い戻しを請求しようと思っているのですが、このような請求は認められるのでしょうか。

なお、この定額郵便貯金は平成15年に預け入れたもので、預け入れ日からまだ10年を経過していません。

2 相続財産の中に現金があり、それを一人の相続人が持っております。

この相続人に対し、遺産分割協議を経ることなく、直接、私の法定相続分に従った現金の支払いを請求できるでしょうか。

(回答)

1 質問1について

 前回の寄稿でのご相談事例では、最高裁昭和29年4月8日を引用して、「金銭債権は分割債権であり、相続開始と共に法律上当然に分割される」という理由から、預金債権については、各相続人は、遺産分割協議をせずに、つまり他の相続人の同意がなくても、銀行に対し、自己の法定相続分に関する預金の払い戻し請求が可能であることをお話ししました。

 しかし、ゆうちょ銀行の定額郵便貯金の場合には、上記のような判例はあてはまりません。すなわち、定額郵便貯金については、郵便貯金法7条1項3号において、「一定の据置期間を定め、分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するもの」と規定されております。

つまり、もともと一定期間は分割払戻が出来ない、という約束をした上で預け入れている以上、この据置期間内に相続が生じたからと言って、当然に分割払戻しが出来ることにはならないということになります。最高裁平成22年10月8日も上記と同様の立場をとっております。

したがって、定額郵便貯金については、普通預金債権と異なり、預け入れの日から起算して10年が経過するまでは、相続人は自己の法定相続分だけを払い戻しするよう、ゆうちょ銀行に対し請求することはできないということになります。

ただし、平成19年の郵政民営化により、現在は郵便貯金法は廃止になっております。したがって、上記最高裁判例の射程は、郵政民営化以前に預け入れられた定額郵便貯金に限られるという点に留意する必要があります。

2 質問2

預金債権が相続開始と同時に当然に分割されることから、現金も同様だと誤解されがちです。

しかし、最高裁平成4年4月10日(月報44-8-16)は、現金については動産と同様に扱うとしているため、相続人全員との遺産分割協議を経る必要があります。

したがって、遺産分割協議が成立しない間は、現金を持っている相続人に対し、現金の支払いの請求はできません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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