弁護士 秋山亘のコラム

2017.09.25更新

借地権の存続期間

 

<質問>

 旧「借地法」と現「借地借家法」では借地権の存続期間に関してどのような違いがあるのでしょうか。

<回答>

1 旧借地法、現借地借家法は、借地人の保護と建物の保護のために、建物所有を目的で借りた土地賃借権の存続期間に関して、特別の定めをおいております。

  この存続期間に関する定めは、借地人の保護のための規定ですので、契約で法の定めより長い存続期間を設けることは可能ですが、契約でこれよりも短い存続期間を設けることはできません。

2 借地借家法は、平成4年8月1日に施行された法律で、同日以降に締結された借地契約に適用があります。

それより前に借地法下で設定された借地権(いわゆる既存借地権)の効力は、借地借家法の施行によって妨げられないとされています(附則4条)ので、存続期間に関する借地借家法3条は、既存の借地権には適用されません。

また、借地法の下で借地契約が成立した後、更新を重ねた借地契約も、存続期間との関係では借地法が適用となり、借地借家法の適用はありません(附則6条)。

したがって、原借地契約の成立時が平成4年8月1日以前か以後かで借地法と借地借家法のどちらの適用になるかが決まります。

3 借地法の存続期間

(1) 原借地契約の存続期間

借地法では、借地権の存続期間について、借地契約で期限の定めのない場合には、石造・土造・煉瓦造などの堅固の建物の所有を目的とするときは60年、その他の建物(いわゆる非堅固の建物)の所有を目的とするときには30年とされています(2条1項本文)。

これは建物の効用を全うするために設けられた規定ですので、その期間中に建物が「朽廃」すれば、借地権は目的を達成して消滅します(同項但書)。

なお、借地権設定契約で建物の種類・構造を定めなかったときは、非堅固の建物の所有を目的とするものとみなされます(3条)。

これに対し、借地契約で堅固の建物に関して30年以上、非堅固の建物について20年以上の存続期間を定めたときは、この合意が優先され、借地権はその期間の満了によって消滅します(2条2項)。この存続期間は合意の効果ですから、期間中に建物が朽廃しても借地権は消滅しません。

なお、借地契約で上記の期間よりも短い存続期間を定めた場合、そのような存続期間に関する合意は無効となりますので、結局、「期限の定めがない借地契約」になり、存続期間は堅固・非堅固の別により60年ないしは30年となります(最大判昭44・11・26民集23・11・2221)。

契約更新の場合の存続期間

(ア) 合意更新の場合

借地法では、借地契約の存続期間満了に際し、借地契約を合意によって更新する場合(但し、更新の合意だけで更新後の期間の定めの取り決めは特に行われない場合)の存続期間は、堅固の建物は更新時から30年、非堅固の建物は20年となります(5条1項)。

ただし、この期間中に建物が朽廃した時は借地権は消滅します(5条1項、2条1項但し書き)

当事者が上記より長い期間を定めて合意更新をしたときは、その合意に従います(5条2項)。この場合には朽廃の規定の適用はありません。

(イ) 法定更新の場合

期間経過後も借地上に建物が存在し、借地人が借地の使用を継続しており、地主が「正当事由」を具備して遅滞なく異議を申し出ないと、借地契約は更新したものを見なされます(6条、法定更新)。いわゆる法定更新の場合には、上記と同様、堅固の建物は更新時から30年、非堅固の建物は20年となります。

第2回目以降の法定更新の場合も、前記と同様です。

4 借地借家法の存続期間

(1) 原借地契約の存続期間

借地借家法では、借地契約で存続期間の定めをしていない場合、借地権の存続期間を30年と定めております。契約でそれより長い期間を合意したときはその期間となります(新法3条)。

借地借家法では、堅固建物・非堅建物の区別による存続期間の定めが廃止され、存続期間は上記のとおり30年に一本化されました。

また、借地借家法では、旧借地法下での建物朽廃による借地権の消滅の制度も廃止されました。

なお、契約で法の定める30年より短い存続期間を定めた場合には、そのような存続期間に関する合意は無効となりますので、結局、期限の定めがない借地契約ということになり、存続期間は30年になります。

(2) 契約更新の場合の存続期間

 (ア) 合意更新の場合

次に、借地契約を合意によって更新するときの存続期間は、第一回目の更新の場合には更新日から20年、第2回目以降の更新の場合には更新日からそれぞれ10年となります。当事者がこれより長い期間を定めたときもその期間によります(新法4条)。

 (イ) 法定更新の場合

また、期間経過後も借地上に建物が存在し、借地人が借地の使用を継続しており、地主が「正当事由」を具備して遅滞なく異議を申し出ないと、借地契約は更新したものを見なされますが(法定更新)、この法定更新の場合も、上記と同様、第一回目の更新の場合には更新日から20年、第2回目以降の更新の場合には更新日からそれぞれ10年となります(新法5条)。

5 借地法と借地借家法の違い

以上をまとめると、借地借家法は、借地法に対し、
建物の種類・構造による存続期間の相違がなく存続期間は30年、
建物の朽廃による借地権の消滅がない、
更新後の存続期間は、第1回目は20年であるが、2回目以降は10年(借地法は2回目以降も堅固・非堅固の相違により30年若しくは20年と続く)、

などの点で異なっております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.09.19更新

忘恩行為による贈与取消権

 

<質問>

 私の父Xは、ある商店を経営しておりましたが、兄Yにその商店を引き継がせるため、その商店の土地建物を全て兄Yに贈与してしました。

 しかし、その後、兄Yは、もう父Xの面倒を見たくないと言って、父Xを私の家に預けてしまい、現在は、商店を勝手に閉めた上、土地建物を売りに出している状態です。

父Xとしては、こんなことなら生前贈与などしなければよかったと後悔しておりますが、既に兄Yへの所有権移転登記も済んでしまっています。

何とか贈与を取り消すことは出来ないでしょうか。

また、上記のような紛争が生じないように、贈与をするにあたって注意すべき点はどのような点でしょうか。

<回答>

1 書面によらない贈与は、「贈与の履行が終わるまでの間」は、当事者は何時でも取り消すことができますが(民法550条)、本件のように所有権移転登記も済んでいる場合には、贈与の履行が終わったと解釈されますので、通常であれば贈与の取り消しは出来ません。

 しかし、受贈者が贈与者から受けた恩に背くような著しい背信行為を行い、かつ、贈与の効力を維持することが贈与者にとって著しく酷と言える場合には、判例上(東京地裁昭和50年12月25日、大阪地裁平成元年4月20日など)、例外的に、贈与の取り消しが認められる場合があります。これを「忘恩行為」による贈与の取り消しといいます。

 本件の場合も、兄Yが商店を引き継ぐことを前提に贈与が行われたこと、贈与の恩に報いるため兄Yが父Xの面倒を見ることは当然兄Yに期待されるべき行為であること、贈与の効力を維持すると他に資産がない父Xとしては著しく酷な状況に陥ることなどの事情に鑑みれば、忘恩行為による贈与の取り消しが認められる可能性が高いと思われます。

 そこで、本件では、贈与された土地建物が第三者に売られてしまうのを避ける為、父Xが兄Yに対し、処分禁止の仮処分の申立をした後、当該土地建物の贈与の取り消しに基づく所有権移転登記請求の訴訟を提起することになるでしょう。

2 忘恩行為による贈与の取り消しは、民法の明文の規定にはなく、あくまでも判例において例外的に認められる法理ですので、そう簡単には裁判所も贈与の取り消しは認めてくれません。

 そこで、贈与をするに際しては、単純に無条件で贈与をするのではなく、弁護士等と相談した上で、①贈与を受ける代わりに相手方が履行すべき義務(具体的な扶養義務や家業継承の義務など)を明示し、②当該義務を贈与者の死亡時までに履行して初めて贈与が行われ、③万一、不履行があった場合には催告の上贈与契約を解除できるという内容の「負担付死因贈与契約」にしておく方が望ましいでしょう。

負担付死因贈与契約とは、受贈者が契約で明示されている義務をきちんと履行すること及び贈与者が死亡することを条件に贈与が行われるという契約です。

 このような契約にしておけば、万一、相手方が契約で定めた義務を履行しない場合にも、贈与者は義務の履行を催告した上で、それでも受贈者が贈与者に対する背信行為を改めない場合には贈与契約を解除できるからです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.09.11更新

賃貸借契約における公正証書・即決和解制度の利用法

 

(質問)

1 私はアパートを経営しているものです。

建物賃貸借契約を公正証書で行う場合のメリットを教えてください。

 

2 ある物件の建物賃貸借契約における賃料不払いによる契約解除に関し、賃貸人・賃借人の間でもめていたのですが、この度、両者の協議によって、滞納賃料の分割払いを条件に建物の明渡し時期を1年間猶予することで話し合いが纏まりました。

賃借人が明渡し期限に建物を明渡さない場合や滞納賃料の分割払いを履行しない場合に備えて、法的にはどのような手続きをとっておいた方がいいのでしょうか。

 

(回答) 

1 賃貸借契約を公正証書で行うメリット(質問1のご回答)

 公正証書(こうせいしょうしょ)とは、契約当事者双方が公証人役場に出向いた上(代理人でも可)、契約内容を公証人の面前で確認し、公証人がその確認された契約内容を書面化したものです。

 公正証書による場合、一定額の公証人手数料の支払いを要しますが、公証人手数料は、月額10万円で2年間の賃貸借契約の場合で1万1千円ですので、それ程費用がかかるものではありません。

 公正証書によって契約をすることで、一般的には、①偽造、変造がない、②万一公正証書をなくしても公証人役場に原本が保管されている、③公証人のチェックにより確実な契約が出来る、④裁判の場合、公正証書が証拠として提出されると、裁判所は原則として当事者間では書かれた内容の合意はなされたものとして取り扱う(「そんな文書に印鑑を押したことがない」「そんな条項が入っていたとは知らなかった」と主張しても、まず通らない)、⑤金銭債務の支払義務に関し裁判を経ることなく債務名義(さいむめいぎ)となる、などの利点があります。

 この中で、賃貸借契約上の賃料が万一滞納された場合における滞納賃料の簡易・迅速な回収と言う観点では、⑤債務名義となる点が最も大きなメリットでしょう。

 債務名義とは強制執行をするために必要な公的な文書のことです。この債務名義が存在して初めて、給与、銀行預金、不動産等の財産を差し押さたり、建物の明渡しの強制執行をすることができます。

 債務名義の典型例としては、判決、支払命令、裁判上の和解調書、調停調書などのことです。

 一般に債務名義というと、裁判手続きの中で裁判所の関与によって得ることができるというイメージをもたれるかもしれませんが、賃料の支払義務や売買代金など金銭の支払義務の場合には、「強制執行認諾文言付公正証書」であれば、裁判を経ることなく公正証書が直ちに債務名義となります(強制執行認諾文言付公正証書とは、「公正証書上の債務を履行しない場合には、直ちに強制執行をされることにも同意します」という債務者の同意が付された公正証書のことです)。

 従いまして、万一、賃料が滞納されたという場合に賃借人や連帯保証人の給与や預貯金債権を差し押さえることによって、賃料を簡易・迅速に回収したいという場合には、賃貸借契約書を公正証書にすることのメリットは大きいものと思われます。

 

2 明渡しの強制執行に備えて(質問2のご回答)

本件のようなケースでは、万一、賃借人が明渡しに任意に応じない場合にも、裁判を経ることなく、直ちに、執行官による明渡しの強制執行をすることができるよう、手続きをきちんととっておくことが有効だと思われます。

このような手続きとっておくことで、執行官による建物明け渡しの強制執行をより迅速に実行できるだけでなく、賃借人にもその旨の認識を得させることによって、居直りの防止や任意の退去をより確実なものにすることができるからです。

 もっとも、上記に説明しました公正証書が債務名義となるという点は、「金銭の支払義務」の場合に限られますので、公正証書では建物明渡しの強制執行の債務名義にはなりません。

 このようなケースでは、簡易裁判所で行う「即決和解」(訴え提起前の和解)が有効です。

 即決和解とは、当事者間で話し合った合意内容(和解内容)を予め簡易裁判所に申立てた上、裁判所から指定された期日に当事者双方が出席し、裁判官の面前でその合意内容を確認することで、合意内容が裁判上の和解調書として文書化される手続きです。合意内容が和解調書となるわけですから、当然、債務名義になりますし、公正証書のように金銭債務に限定されません。

 本件での合意内容(和解内容)としては、①賃貸借契約の解除の有効性に関する確認条項、②明渡期限における建物明渡しの履行に関する条項、③明渡し期限までの賃料相当損害金の支払い及び滞納賃料の分割金の支払いに関する条項、④万一③の不履行があった場合には直ちに建物を明渡すことに関する条項等を要点にした和解をするが考えられます。

 ただし、個々の和解条項の書きかたには、権利の確認条項(「毎月末日金○○円の支払い義務を認める。」「○月○日までに本件建物の明渡し義務がある。」)では強制執行ができず、必ず給付条項(「毎月末日までに金○○円を支払う。」「○月○日までに本件建物を明渡す。」)にしなければならないなど細かい決まりもありますので、和解条項の書きかたについては、事前に専門家にご相談されることをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.09.04更新

任意売却のメリット

 

(質問)

いわゆる任意売却は、競売と比べ、債権者・債務者・不動産購入者にとって、それぞれどのようなメリットがあるのでしょうか。

(回答)

  任意売却とは、抵当権が設定されている不動産の所有者(=債務者)が、当該債務を弁済するために、競売ではなく、任意に当該不動産を売却することです。

1 債権者(抵当権者)にとってのメリット

① 競売より高く売れることが多いため債権回収額が多くなること

競売の場合、時価の7割程度の金額が最低売却価格となりますが、通常は、最低売却価格+αという時価よりも低い水準でしか落札されません。

これに対し、任意競売の場合は、建物の居住者である所有者が不動産の売買成立後は当該物件の引き渡しにも協力すること、不動産仲介業者が当該不動産の買主を広く広告・募集してくれるため、高い買受申出額の購入者を選定できること、などから競売になった場合よりも高く不動産を処分することができます。

② 短期間で売却し債権回収ができること

任意売却の場合、関係者の合意が得られれば、その時点で売却代金による債権の回収ができます。

しかし、競売の場合には、手続き終了まで1年程度かかることがあります。

 2 債務者(所有者)にとってのメリット

   上記のように、債権者にとっては、競売に比べて、回収額が多くなることから、債務者に対して、残債務のカットや場合によっては債務者に対し若干の引っ越し費用を支払っても、任意売却によって債権回収を図った方が合理的な場合があります。

   そのため、債務者としても、任意売却に同意することによって、債権者との交渉次第では、残債務のカットや引っ越し費用の支いに応じてもらえる場合があります。

3 不動産購入者にとってのメリット

① 希望物件を確実に取得できること

競売の場合、第三者に落札される危険もあります。また、不動産執行法の改正により、不動産の現況を調査する執行官は建物の中身を見ることも可能になりましたが、購入希望者側としては、落札が確定するまでは自由に建物の中を見ることはできないため、建物の傷み具合などは正確に分からないまま落札しなければなりません。

② ローンが組みやすいこと

競売の場合、金融機関によってはローンが組めない場合があります。

任意売却の場合は、この点でも安心です。

③ 建物から債務者が任意に退去することを期待できること

競売の場合、債務者が建物から任意に退去しない場合があります。

このような場合、手続きが長期化することはもちろん、競落後、購入

者は、決して安くない費用をかけて債務者を強制的に退去させる手続きをしなくてはなりません。

任意売却の場合、債務者(所有者)も不動産の売却に納得済みですか

ら、任意に退去することが期待できます。また。これを条件に売買契約を結ぶことも可能です。                                                     

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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