弁護士 秋山亘のコラム

2019.12.09更新

農地転用許可申請協力請求権の消滅時効

 

 

<事例>

(1)A氏は、知人B氏から畑地を買い、代金全額を支払い、土地の引き渡しも受けました。購入後は、畑地に家を建てる予定で、必要書類が整い次第、転用許可申請を行う予定でしたが、知人B氏が許可申請に協力してくれないため、申請を行えないまま、9年が経とうとしています。

 このまま、知人B氏が申請に協力してくれない場合は、どのようになってしまうのでしょうか。

 (2) 知人B氏が申請に協力してくれないまま、10年が経過してしまった場合には、どうなるのでしょうか。

<回答>

1 (1)について

 農地を売買して宅地に転用するには、農地法第5条により、売主・買主の双方が農業委員会に対し申請をし、転用目的で売買することの許可を得なければならない。

 転用の許可を得ずになされた売買は、たとえ代金の授受が為されていても法的には所有権移転の効果は生じないとされている。また、刑事罰の対象にもなるので注意が必要である。

 もっとも、売買契約が締結され、代金の完済が為されている以上、売主は、法的にも許可申請に協力する義務を負っている。

 この許可申請協力義務が消滅時効にかかるかどうかについて、かつては、争いがあったが、最高裁昭和50年4月11日(判時778号61頁)は、肯定説に立つことを明らかにしている。

 従って、このままB氏との連絡が付かないまま、10年が経過すると、将来、B氏から許可申請協力請求権は10年の民事消滅時効にかかっているとの主張をされる可能性がある(なお、当事者の一方が会社である場合には商事時効として時効期間は5年となる)。

 従って、A氏としては、10年が経過する前に、B氏に対し、許可申請への協力を求めて訴訟を提起する必要がある。この訴訟で請求認容の勝訴判決が確定すれば、単独でも許可申請を行うことができる。

2 (2)について

 (2)の場合には、10年が経過しているため、許可申請協力請求を求めて、B氏に対する訴訟を提起しても、B氏からは消滅時効の主張をされる可能性が出てくる。

 もっとも、下級審の裁判例の中には、このような売主側の主張を認めるのは不合理だとして、信義則違反や権利の濫用を理由に売主側の時効の主張を排斥するものもある(東京高判昭和60年3月19日・判タ556号139頁、東京高判平成3年7月11日判時1401号61頁等)。

 裁判例は、その理由として、代金が全額支払われていること、買主側に特に権利の行使を怠ったような事情がないことなどを挙げているが、裁判所が権利濫用や信義則違反の主張を認めるのは、結論が著しく不当な場合などに例外的に認める救済措置に過ぎないことから、時効期間が経過する前に是非とも訴訟を提起しておくべきであろう。

 なお、売主側の時効主張が認められた場合には、その時点で、法定条件の不成就が確定する為、売買契約は無効となる。したがって、買主は、売主に対し、売買代金の返還請求をすることになる(なお、この売買代金の返還請求権は、売主が許可申請協力請求に対し消滅時効の援用をしたときから10年で時効消滅する)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.02更新

任意売却のメリット・被相続人が死亡した場合の任意売却の方法

 

 

(質問)

 ある不動産を所有している債務者が死亡したのですが、その相続人は全員相続放棄をしたため、相続人が誰もいなくなってしまいました。

 その不動産には多額の抵当権が設定されていて、亡くなられた債務者の方とは任意売却の交渉をしていたところでした。

 1 このような場合、死亡された債務者の不動産については、どのように処  分したらよいのでしょうか。

 2 また、任意売却は競売とどのように違うのでしょうか。任意売却のメリ  ットを教えてください。

(回答)

1 質問1に対して

  近年多額の債務を負ったまま亡くなられる方のケースが増えています。  そして、このようなケースでは、相続財産よりも負債の方が大きい為、相続人も相続放棄をしてしまうケースが多くなっております。

(1) このようなケースでは、まず確認のため相続人から家庭裁判所の相続放棄申述の受理証明書の交付を求めて下さい。相続人が相続放棄をしたといっても、被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしないと、相続人は被相続人の財産を相続したものとみなされます。

  相続人が上記期間内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をしていなかった場合は、相続財産や負債は上記申述をしていない相続人が相続しものとみなされますので、この相続人と任意売却の交渉をすることになります。

(2) 相続人全員が相続放棄の申述をしていた場合、任意売却を進める手だてとしては、被相続人の住所地の家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申立し、家庭裁判所から選任された相続財産管理人と任意売却の交渉をすることになります。

 なお、相続財産管理人の選任を申立てることができるのは、「利害関係人」に限られますが、被相続人の債権者(抵当権者)はこれに該当します。

(3) 以上が任意売却をする場合ですが、債務者(被相続人)が死亡した後に当該不動産を競売する場合も同様です。相続財産管理人を相手に競売を申し立てます。

  

2 質問2に対して

(1)抵当権者が不動産を売却して債権を回収する手段としては、競売と任意売却の2種類があります。

任意売却は、債務者(不動産の所有者)、抵当権者(後順位抵当権者を含む)の同意を得て不動産を売却し、売却代金を債権の弁済にあてるというものです。

  後順位抵当権者には、通常判子代といって登記抹消同意料を支払って抵当権設定登記を抹消してもらいます。判子代は通常10万から100万で、この判子代をめぐって後順位担保権者と交渉をします。 

 この他に、債務者が税金の滞納をしており差押え登記がされている場合は、税務署や市役所の納税課等との間で差押えを取り下げてもらう代わりにいくら弁済するのかをめぐって交渉が必要になります。

(2)任意売却のメリット

(ア)任意売却は、債権者(抵当権者)にとっては以下のメリットがあります。

① 競売より高く売れること

競売の場合、時価の7割程度の金額が最低売却価格となります。

そして、競売の場合、競落人(買主)は建物の中を見れないので、一般に時価よりも低い価格(最低売却価格+α)でしか競落されません。

② 短期間で売却し債権回収ができること

任意売却の場合、関係者の合意が得られれば、その時点で売却で債権の回収ができます。

しかし、競売の場合には、手続き終了まで早くて1年から2年もかかってしまいます。

(イ)他方、不動産購入者にとっても以下のメリットがあります。

① 希望物件を確実に取得できること

競売の場合、第三者に落札される危険もあります。また、建物の中を見れないので、建物の傷み具合などは分からないまま落札しなければなりません。

② ローンが組みやすいこと

競売の場合、金融機関によってはローンが組めない場合があります。

任意売却の場合は、この点でも安心です。

③ 建物から債務者が任意に退去することを期待できること

競売の場合、債務者が建物から任意に退去しない場合があります。

このような場合、手続きが長期化することはもちろん、競落後、購入者は、決して安くない費用をかけて債務者を強制的に退去させる手続きをしなくてはなりません。

任意売却の場合、債務者(所有者)も不動産の売却に納得済みですから、任意に退去することが期待できます。また。これを条件に売買契約を結ぶことも可能です。

(3)任意売却のデメリット

以上のようにメリットは大きい任意売却ですが、債務者や後順位抵当権者、差押えをした租税機関等の同意が得られることが必要条件ですので、後順位抵当権者や国税等が頑強に任意売却に同意しない場合には、競売に移らざるを得ません。競売になれば一銭も得られないはずの後順位抵当権者や国税等ですが、この点を強調しても、任意売却にそう簡単には応じてくれません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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