弁護士 秋山亘のコラム

2016.03.28更新

相続財産の調査方法

 

(質問)

 父は相当額の財産を残して亡くなったのですが、兄がその財産を一人占めしており、どのような財産を残してくれたのか私たち弟には何も開示してくれない為、相続財産がどれだけあるのか分かりません。

 どのように調べたらよいのでしょうか。

(回答)

 遺産分割をするには、被相続人にどのような相続財産や負債があったのかを調査し、被相続人に帰属する相続財産や負債の範囲を特定しなければなりません。

 法定相続人は、法的には被相続人の「包括承継人」という地位が認められますので、法定相続人であれば、本人と同じ立場で、関係連絡先に相続財産に関する記録の閲覧を請求できます。

 相続財産だけでなく、特別受益や遺留分減殺請求に影響する生前贈与の有無も下記の調査方法により同様に調査することが出来ます。

 相続財産の調査とその特定は、専門の弁護士等に相談し慎重に調査されることをお勧めいたしますが、以下では法定相続人でも調査可能な方法をご説明します。

1 不動産の調査方法

 不動産の固定資産税を取り扱っている市区町村の固定資産税課では「名寄帳」を作成しています。不動産所があると思われる市役所の固定資産税課に相談してみるとよいでしょう。

2 被相続人の負債状況を確認したいと き

 全国銀行協会の「信用情報閲覧サービス」を利用すると、負債の状況を調査することができます。

 ただし、連帯保証債務など同サービスではその存在を確認できない債務もあります。

3 公正証書遺言の有無

 公証役場には遺言書の謄写申請を行うことが出来ます。

 公正証書遺言をしたなどと被相続人から聞いている場合又はその可能性がある場合には被相続人の住所地近くの公証役場に問い合わせてみるとよいでしょう。

4 税務申告書類の調査

  税務申告書類から被相続人の財産状況が判明することはよくあることです。

 税務署では、過去3年間の納税証明書を発行してもらうことができます。

 また、相続税の申告書などの記録は、運転免許証など本人確認書類と相続人であることを証明する戸籍謄本があれば、閲覧することができます。

 なお、税務申告書類の記録の保管期間は5~7年となっています。

5 預金の取引履歴の開示  

 銀行では、預金通帳の記録に相当する取引履歴を開示してもらうことが出来ます。

 この取引履歴の開示によって相続財産である預金を相続人の1人が無断で抜き出ししていたことや生前贈与があったことなどが発覚することもあります。

 なお、一部の相続人に勝手に引き出されてしまう恐れがある場合は、銀行に対して、①被相続人が死亡して相続が発生していること、②一部の相続人のみから解約の請求があっても応じてもらいたくないことを内容証明通知書で通知しておくとよいでしょう。銀行は、口座名義人が死亡し相続が発生したことを知った場合、原則として、法定相続人全員の印鑑証明書付きの払い渡し請求書でないと応じない扱いをしております。

6 保険会社・証券会社への問い合わせ

 被相続人が生命保険をかけていた、証券取引をしていたという場合には、その保険会社・証券会社をご存知であれば、保険会社や証券会社に取引履歴の開示を請求すると良いでしょう。

 保険会社や証券会社の連絡先などは、被相続人の住所地へ送付された各種郵便物、本人が生活上使用していた銀行口座の取引履歴・通帳履歴などから分かることがあります。

7  勤務先への問い合わせ

 被相続人が勤務していた会社に問い合わせることで、退職金支給明細や給与の源泉徴収票の写し、これららの支払先口座を開示してもらえる場合があります。

8 年金支払先口座の調査

  被相続人が年金暮らしをしていた場合には、国民年金課やその他各種年金の取扱機関に問い合わせることで、年金の送金先口座など被相続人が生活資金として使用していた銀行口座がわかることもあります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.03.23更新

交通事故の示談交渉

 

(質問)先週主人が歩行中自動車にはねられるという交通事故にあいました。加害者側の保険会社から示談をしたいという連絡がありましたが、示談交渉の際どのような点に注意したらよいでしょうか。

 なお、主人は、今回の事故で左足を複雑骨折をしたのですが、担当の医者からは、治療をしても左足は思うように動かなくなる可能性があると言われています。

(回答)示談交渉の際に留意すべき点は以下の事項です。

①正当な示談金額

 これは、裁判をした場合に判決で認められる賠償金額にできる限り近い金額で示談ができるかと言う問題です。

 加害者が任意保険に加入している場合には、任意保険会社の社員が示談を代行するのが通常ですが、この場合保険会社が提示する賠償金額は、裁判所で認められる賠償金額に比べて低くなるケースが多いのが現状です。

 特に後遺障害が残った場合の慰謝料金額や逸失利益の金額の場合には裁判所基準と保険会社基準では比較的大きな開きが出てきます。

 しかし、だからといって直ちに裁判をして損害賠償請求をする方がよいとは限りません。示談には、事故被害の早期回復(賠償金を早く受領できる)という大きなメリットもありますし、弁護士を立てて裁判をする場合には相応の弁護士費用がかかります。

 これとの兼ね合いで、賠償金の総額が比較的少な物損事故や軽傷の人身事故の場合はご自分で示談交渉された方がよいかもしれません。逆に、後遺障害が残る傷害の交通事故や死亡事故などの場合は、場合によっては裁判所基準と保険会社基準で数百万円から1千万円単位での違いが出てきますので、お近くの弁護士に相談されて、裁判所基準での示談の交渉をしてもらうか(弁護士が強く交渉すれば保険会社も裁判所基準に近い金額で示談に応じる場合もあります)、それでも示談がまとまらない場合には損害賠償請求の訴訟を提起するのがよいでしょう。保険会社も判決が出ればそれに従うのです。

②示談交渉の時期

 示談交渉の時期は、一般に傷が治って職場復帰が可能になった後になると思われます。その時期にならないと、治療費や休業損害の算定ができないからです。

 また、後遺症が残る可能性がある場合には、担当医から後遺症の診断が出てからになります。それまでは治療に専念してください。なお、後遺障害とは、医学的にこれ以上治療を続けても傷が治らないと認められた状態のことです。

 これ対して、事故直後の混乱期に乗じて示談を迫ってくる者もいますが、これは眉唾ものです。混乱期には冷静な判断ができませんし、一体いくらの賠償金が妥当なのかも分かりません。500万円の札束を目の前に出されたのでその場で示談したが、その後正しい知識に基づいて計算すると正当な賠償金は数千万円にもなったという例もあります。一度示談すると、その後に治療が長引いてもその分の治療費、慰謝料、休業損害などは原則として請求できなくなります。また、判例上は、既に示談をしていてもその後に発覚した後遺症に関しては別途損害賠償ができることになっておりますが、一度示談をしてしまうとこれを争って新たに損害賠償の請求をするのはなかなかに大変です。事故直後に安易に示談に応ずるのは避けた方がよいでしょう。

 但し、どうしても、一時金として賠償金が欲しいと言う場合は、受領した金額は一時金であること、示談金の総額はその後の交渉によること等を明示して賠償金を受け取って下さい。保険会社によっては、一時金の支払いに応じてくれるところもあります。

③損害賠償請求の消滅時効

 交通事故などの不法行為による損害賠償請求は、事故発生時から3年です。後遺症による損害賠償は、後遺症の診断書が出たときから3年です。

 なお、自賠責保険の被害者請求は事故発生時(後遺症の場合は診断書が出たとき)から2年です。

 ただし、時効完成前に治療費の一部の支払いを受ける、交通事故の損害賠償請求権について承認書を書いてもらうなどすれば時効は完成しません。 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.03.16更新

隣地越境物による所有権侵害

<事例> 

隣家の「木の枝」が伸びてきて、私の敷地に入ってきたため、毎年秋になると大量の落葉が私の家の屋根に落ちてきます。

そのため、腐敗した落葉により屋根の劣化が激しなる、雨樋が詰まってしまうなどの被害が出ています。

このような場合、どのように対応したらよいでしょうか。

また、隣家の「木の根」が越境して私の土地に入ってきたときはどうでしょうか。

(回答)

1 竹木の「枝の越境」による被害の場合

民法は越境に関して、枝と根で異なる規定の仕方をしています。

民法233条1項は、①隣家の竹木の枝が境界線を越える場合には、②竹木の「所有者」に対して、③枝を切除するよう「申し入れることができる」と規定しております。

民法では、それだけの規定しかありませんが、単に竹木の枝が「境界線を越え」たというだけで切除を請求できるのか、それとも竹木の枝の侵入を受けた隣地所有者が、それにより「何らかの具体的な被害」を被ったり、被るおそれのある場合に限るのかということが問題となります。

この点について、新潟地判昭和39年12月22日(下民集15巻12号3027頁)は、枝の越境により枝の切除を請求できる要件として、単に枝が越境しているだけではなく、それに加えて、枝の越境により、落葉被害が生じている或いは生じる恐れがあるなど、何らかの被害を被っていたり、被る虞があることを求めております。

本来「お隣りさん同士」である相隣関係は相互の協力・受忍関係のもと円満に物事を解決することが大切であり、民法もそのような関係を前提に条文が作成されているため、形式的な法律論で自己の法的な権利主張をするのではなく、実際の被害の有無という側面で、物事を解決すべきだと言っているように考えられます。

本件の場合には「毎年秋になると大量の落葉が私の家の屋根に落ちてくる」「腐敗した落葉により屋根の劣化が激しなる、雨樋が詰まってしまう」などの実際の被害が出ておりますので、隣家の樹木の所有者に対し、木の枝を切除するよう請求できます。

また、このような場合には、建物の屋根に対しての深刻な被害が予想されますので、木枝が必ずしも越境をしていない場合でも、建物の「妨害排除権」として、木の枝から大量の落葉が舞い込んでくることのないよう、枝の切除も含めて適切に枝を管理するよう隣家に対して求めることが出来ます。

なお、この場合、木の所有者に対して、あくまでも切除の「請求権」があるだけですので、こちら側で勝手に枝を切除することはできません。

相手方が任意にこれに応じない場合には、落ち葉被害による損害賠償の請求も含めて、枝の切除を請求する裁判を提起する必要があります。 また、民法233条1項による木の切除を請求できる相手方は、土地の所有者ではなく「木の所有者」ですので、隣地が借地の場合には、実際に木を植えた人に対してのみ請求できます。従って、土地の所有者が植えた植木ではなく、借地人が植えた植木である場合には切除請求の相手方は借地人になります。

2 竹木の「根の越境」による被害の場合

これに対して、根の越境の場合には民法233条2項は「隣地の竹木の根が彊界線を踰えるとき之を裁取することを得」と規定しており、根が境界線を越えてきた場合には、その越境部分に関して竹木の所有者の承諾なしに切ることができるとされています。

 よく、隣家の柿の木の枝が越境してもその柿の実は勝手に取れないが、竹林から越境して生えてきたタケノコは、勝手に取ってもよいとされるのは、上記規定によるものです。

 但し、先の新潟地裁の判例の趣旨からすると、根を切ることで隣家の樹木が枯れてしまうような場合には、単に根が越境していると言うだけではなく、何らかの「具体的な被害」を被っているか、または被る虞のある場合に限られ、勝手に根を切って木を枯らしてしまった場合、権利の濫用として損害賠償の責任を負うことも考えられますので注意が必要です。

したがって、まずは、竹木の所有者に対し、竹木を植え替えてくれるよう申し入れるなどするほうがよいでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.03.07更新

賃料の自動増額条項の有効性

 

(質問)

私がバブル時代に締結した土地の賃貸借契約書には「賃料は3年毎に改定され、改定毎に賃料は20%ずつ増額する」という条項があります。

 このような賃料の自動増額条項で賃料を改定していくと、近隣の時代相場に比べてもの凄い高額の賃料となってしまい、とても賃料を払い続けることはできません。

 私としては、現在の賃料は、このような自動増額条項によって、近隣相場と比較して高すぎると思うので、むしろ賃料の減額をお願いしたいくらいです。

何とかならないでしょうか。

(回答)

1 賃料自動改定特約

 賃貸借契約には、賃料が自動的に改定されるという趣旨の特約が定められていることがあります。    

特約のタイプとしては

①物価変動自動改定特約

②定額自動改定特約

③定率自動改定特約

④路線価変動自動改定特約

⑤固定資産税変動自動改定特約

などが挙げられます。

 この点、借地借家法第11条1項(旧借地法第12条)は、土地に対する租税その他の公課の増減、土地の価格の増減、当該地代が近隣類似の土地の地代に比較して不相当となった時など、経済事情の変動があった場合を「要件」に、当事者は将来に向かって地代等の額の増額を請求できると規定し、地代の増額請求権の要件を定めております。

ところで、一方、借地借家法第9条では、借地借家法は強行規定であり、借地権者に不利な内容の特約は無効であると規定しております。

 そこで、本件の自動増額条項のように、借地借家法第11条に定める要件を確認せずに当然に地代が増額するという内容の特約は、地代の増額請求ができる場合の要件を定めている借地借家法第11条1項に反し無効ではないかという問題が生じてきます。

 なお、上記の問題は、借家の場合にも、家賃の増額請求の要件を定めた借地借家法第32条(旧借家法7条)がありますので、同様に生じます。

2 裁判所の考え方

 賃料自動改定特約についての裁判所の考え方はどの様なものでしょうか。

 裁判所は、自動改定特約だからといって当然に無効とはせずに、当該特約を個々の事例にあてはめた結果、賃借人に著しく不利益であるという特段の事情の有無によって特約の有効性を判断しています。

 この様に特約の効力は「当該賃借人に著しく不利益かどうか」という個々の事情により判断されます。

最高裁判所昭和44年9月25日は「固定資産税変動自動改定特約」について、特約条項としては有効であると認めつつ、「当事者の意思は、契約当時存在した事情と著しく異なる場合にも、その基準によるという意思ではない」として、特約の適用を制限しました。右の裁判例は、「賃料」の相当性を判断する際に、個々の事案において「具体的に考える」という裁判所の基本的姿勢を示したものと思われます。

よって、裁判所は、バブルの時期に定めた基準を機械的に当てはめることはせず、契約で定めた基準を適用して妥当なものについて、自動改訂条項を認めているものと言えるでしょう。

したがって、賃料の自動改訂条項があっても、新賃料が著しく高額となり妥当とは思われないような場合は、貸主と交渉をしてみる必要があるでしょう。

 本件でも、バブル期に締結された賃料を更に3年ごとに20%も増額するという特約ですので、元々の賃料を特に安く定めていたというような事情がない限り、自動増額条項に従った賃料増額は認められない可能性が高いでしょう。

3 賃料減額請求の可否

では、賃料の自動増額条項がある場合には、賃借人が賃料を逆に下げて欲しいと請求することは一切出来ないのでしょうか。

 この点も、自動増額条項が存在しても、借地借家法11条、32条による賃料減額請求権を一切排除することはできません。仮に、賃借人の借地借家法11条、32条に基づく賃料減額請求を一切認めないという条項があれば、それは無効です。

 実際の裁判例でも、賃貸人が自動増額条項に基づいて賃料増額請求をしたのに対し、賃借人が賃料減額請求の反訴をした事例で、賃借人の方の賃料減額請求が一部認容されているものがあります。

 本件でも、裁判で減額される見込みまであるかは別として、賃貸人と減額の交渉をしてみる価値は十分にあるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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