弁護士 秋山亘のコラム

2017.02.27更新

共有物分割の方法

 

(質問)

 私たちは、兄弟3人で、あるマンションを共有しております。

 しかし、このマンションは、兄が一人で使用しているため、私は共有持ち分をもっているだけで、何の利益にもなっておりません。

共有状態を解消して、私の共有持分を現金に変える方法はないものでしょうか。

(回答)

1 はじめに 

  共有状態のマンションを売却処分したい場合や共有状態の土地を分割・分筆した上で売却処分したい場合には、共有物分割手続きを知っておく必要があります。

そこで、今回は土地や建物の共有者が共有状態を解消したい場合、どのような方法があるのかご説明したいと思います。

2 共有物分割協議

共有物分割の協議(共有者全員の合意)が成立すれば、共有関係をいつでも解消できます。この場合に共有関係を解消する方法としては、以下の3つの方法が考えられます。

①現物分割

 例えば土地を3筆の土地に分割するように、共有物そのものを分割するやり方です。

 しかし、建物の現物分割は事実上不可能ですし、土地上に建物が目一杯建っているという場合にも土地の現物分割は困難でしょう。

②代金分割(換価分割)

 これは、土地やマンションを売却し、その売却代金を持分に従って分割するものです。現物分割が困難な場合にはこれによることが多いです。

③価格賠償

 価格賠償とは、例えば、共有物を一人の共有者の単独所有にする代わりに、他の共有者には共有持分相当分の金銭を支払って、共有物を分割する方法です(これを「全面的価格賠償」といいます)。

 また、この方法によれば、ABCと共有者がいる場合に、共有者Aのみを廃除したい場合には、Aのみに価格賠償をして、BCは共有状態のままにしておくこともできます。

 また、現物分割をした場合には、土地の現物分割ですと、土地面積を3等分したとしても土地をどのように分割するかで必ずしも平等な分割ができない場合があります(例えば、ある土地をA地B地C地に三等分した場合にも、A地のみが角地で道路に面しており好立地の場合は、B地C地を配分されるものは面積が同じでも納得できない場合もあるでしょう)。

 このような場合、各土地の実際上の価値を調整する為に、前記のA地を配分されたものが、B地C地を配分されたものに調整金を支払うという方法が取られます(これを「部分的価格賠償」といいます)。

3 共有物分割の裁判

では、共有者間に合意が成立しない場合にはどうすればよいのでしょうか。

この場合、共有物分割の裁判を請求できます(民法288条1項)。

共有物分割協議の場合、前記①から③の方法のいずれを採用するのも自由ですが、共有物分割請求の裁判の場合には、現物分割が原則です。

代金分割は、現物分割だと目的物が毀損したり、その価値が著しく減少したりする場合にのみ認められます(例;マンション1室の共有)。この場合は、裁判所の競売手続によって目的物を現金に換価した上、代金分割をします。(民法288条2項)

なお、共有物分割請求の裁判の場合に、代金分割ではなく価格賠償と言う方法が認められるかについては、民法には明確な規定がないのですが、判例上一定の要件のもと認められています(最判H8,10,31は、全面的価格賠償については、①共有物の性質等の事情を総合考慮し全面的価格賠償の方法が不公平とならないこと、②持分価格が適正に評価されていること、③取得者(賠償者)に支払い能力があることを条件に認めています)。

4 共有物不分割特約がある場合

共有者は、5年以内の期間で共有物を分割しないという共有物不分割特約をすることができます(民256条)。この特約がある場合は、共有物分割請求の裁判もできません。

共有状態を確保しておきたい場合には、この特約を結ぶ必要がありますが、5年を越える特約をしても、その超える部分は無効になります。但し、共有者は、5年ごとに不分割特約の更新をすることができます。

5 共有持分に抵当権設定登記がある場合

  共有持分に抵当権が設定されている共有者(抵当債務者)が共有物を現物分割する場合には、抵当権の移転登記をするなどその共有者(抵当債務者)が取得する物件に抵当権を集中させなければなりません。

  この場合、抵当権者の利益を保護するため、原則として抵当権者の同意を得なければならないというのが裁判実務です。

  もっとも、このような実務慣行に対しては、抵当権の集中を認めたとしても必ずしも抵当権者の利益を害することにはならないとの批判もあり、例外を認めた裁判例(大阪地裁H4,4,24)もあります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.02.20更新

蒸発した夫名義の不動産を処分する方法

 

(ご質問)

 私の夫は蒸発して3年になります。その間、八方手を尽くして探したのですが、夫とは何も連絡がつきませんでした。

 夫が蒸発してからは夫は生活費の送金もしてくれないので、現在ある預貯金も底をついてきました。

 そこで、夫が親から相続した夫名義の土地を処分して、その売買代金を生活費に充てたいと思うのですが、夫不在のままでは売却することもできません。

 法的には何とかならないのでしょうか。

(ご回答)

 他人所有の不動産を当該他人に無断で処分することができないことは言うまでもありません。

 これは、夫名義の不動産を妻が処分する場合であっても同様です。特に、本件の不動産は、夫が相続によって親から相続した土地ですので、夫の特有財産として、離婚をしても、夫に対する財産分与として妻の持ち分を請求できない性質のものです。

 このような夫所有の財産を妻が勝手に売却処分しても、夫が帰来後当該処分行為を追認しない限り、当該売買契約は無効になりますし、場合によっては、夫に無断で処分をした妻は、詐欺罪・私文書偽造罪などの罪に問われる可能性があります。

 そこで、本件のようなケースでは、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申立てることを勧めます。

 不在者の財産管理人制度とは、本件のように蒸発して容易に帰来する見込みのない者の財産を適正に管理・保存することで、不在者の財産状況の維持を図ると共に、残留財産に利害関係を有する者を保護する制度です。

 不在者の財産管理人に選任された管理人は、不在者の財産の保存行為(例えば、不在者の債権を取り立てること、弁済期の到来し遅延損害金が発生する債務の支払いをすることなど)をすることの他、裁判所の許可の審判を得た上で、不在者の財産を売却処分することもできます。

 不在者の財産管理人の申立は不在者に対して債権を有する者など利害関係人が行うことができます。

 なお、本件のように申立人と不在者との間で利害関係が対立する可能性のある事案では家庭裁判所の方で弁護士などの適任者を適宜不在者の財産管理人に選任してもらう方がよいでしょう。

 本件のような場合では、夫は妻子に対し扶養義務があり毎月一定額の生活費を支払う具体的な義務があります。

 従って、妻は、「利害関係人」として、夫の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に不在者の財産管理人の選任を申し立てることができます。

 なお、家庭裁判所が、不動産の売却処分を許可するのは、当該財産について所有権を有する不在者の権利保護の要請もありますので、当該不動産を処分しなければならない特段の必要性と不動産の売却処分をしても不在者に不利とならない事情を主張する必要があると思われます。 

本件のように、妻や子が経済的に困窮していて夫から生活費が支払われなければならない必要性が高く、他方、夫の生活費支払い義務を根拠に審判を経て夫の不動産の競売を申し立てるよりも任意売却をした方が不動産を高く処分できるため不在者である夫にとっても有利であると認められる場合には、家庭裁判所も、不動産の売却処分を許可するものと思われます。なお、この場合、当該不動産の時価を明らかにするため、不動産鑑定士の鑑定書や複数の仲介業者の見積書の提出を求められます。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.02.13更新

借地契約の更新料


 AさんはBさんから、昭和五〇年四月に二〇年間の契約で一五〇坪ほどの土地を借りてきましたが、期間満了の一か月前に、Bさんは更新料として六〇〇万円支払って欲しいと行ってきました。Aさんは二〇年前にも同じように更新料を要求され、そのときは金額が大したことはなかったので支払いましたが、今回は金額が多額であり、Bさんの要求にそのまま応じることはできないと思いました。AさんはBさんと話し合いをしましたが、Bさんは「更新料を支払って貰えないのなら、法定更新にせざるを得ません」と言い出しました。Aさんは更新料を支払わないと自分が不利になるのではと不安になり弁護士に相談しに行きました。
 弁護士の話では
①更新料は法律上必ず支払わなければならないものではない
②更新料を支払う義務がないのでこれを支払わなかったからと言って契約が解除されることはない
③「法定更新」とは、借地期間は堅固な建物で三〇年で、それ以外の建物で二〇年となる。この期間内に建物が朽廃すればその時点で契約が終了する。「合意更新」の場合は、右期間より長い借地期間を定めることができ、その期間内に建物が朽廃しても借地権は消滅せず、期間満了まで借地権は存続する
④借地期間が満了しても特別のことがない限り土地の使用権はそのまま認められ、借地人が永遠に土地を使い続けることができるに等しい
とのことでした。
 Aさんは安心しましたが、Bさんとまずい関係になるのも嫌でしたので、自分で妥当と思う金額を更新料として支払うと申し出ましたが、結局折り合いがつかず支払いませんでした。
 以上は借主の立場からの対処ですが、では地主の側に立ち更新料を取得できるようにするにはどの様にしたらよいのでしょうか。とりあえず借地契約に更新料の条項を入れておくことでしょう。注意すべきは、法律上はこのような条項も借地人に不利な条項として、認められない可能性が高いということです。しかし、更新料を契約の条項に入れておきますと、借地人も地主から要求されればスムーズに支払う可能性が高いと思われます。なお、平成八年四月一日以降に設定された借地契約には改正された「借地借家法」が適用されますが、基本的な考え方は従前の「借地法」と同じです。
   

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.02.07更新

管理監督者と残業代請求


<質問>
当社では、2つの店舗で不動産仲介業を行っております。近時、あるファーストフードチェーン店の店長が労働基準法上の管理監督者ではないとして残業代を請求した事案で、裁判所は会社に対し残業代の支払いを命じたと聞きました。
当社の場合でも2つの店舗の各店長には残業代を支払わなければならないのでしょうか。

<回答>
1 労働基準法41条2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」に関しては、労基法の労働時間、休憩、休日の規定が適用されず、残業代の支払義務がないとされております。
この「管理監督者」とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者」を指すものと解されており、一般の大企業で言うならば、部長、課長クラス、工場長クラスがこれに当たりますが、形式的な役職の名称に関わらず、「管理監督者」に該当するか否かは労働実態に即して具体的に判断されます。
2 そして、その具体的な判断基準は、①職務内容や職務遂行上、使用者と一体的な地位にあるといえるほどの権限を有し、これに伴う責任を負担していること、②出退勤について裁量があり、時間拘束が弱いこと(例えば、タイムカードで出退勤を管理され、遅刻や欠勤に対し賃金控除されるような労働者はこれに該当しない)、③基本給、役付手当、ボーナスの額において、一般の労働者に比べ優遇され、その責任と権限にふさわしい待遇を受けていること、という各要件を満たしているかを総合考慮して判断されます。
 そして、店長、営業所長という肩書が付いている場合であっても、上記のような各要件を満たしている者は一部の者に限られるのが一般的でしょう。
 前記のファーストフード店の店長の事案で東京地判平成20年1月28日(判時1998-149)は、「ファーストフード店の店長の職務と権限は店舗限りのもので、経営者と一体となって本法の労働時間規制の枠を超えて事業活動することが必要なものではなく、また、管理監督者としての待遇がなされていたわけでもない」として、管理監督者該当性を否定しております。上記の事案は、全国に多数の店舗を持つファーストフードチェーン店の場合には、店長と言ってもその地位や権限は、当該店舗内に限られ、本社の正社員(平社員)よりも高いとは言えないという実情に照らし、上記②の要件は満たしていても、上記①③の要件について否定的に解した為、管理監督者の該当性を否定した事案と言えます。
3 本件については、前記のようなファーストフードチェーン店とは異なり、わずか2店舗しかない店舗の店長ですので、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体となって従業員を管理する必要性は必ずしも否定されるものではありません。
したがって、前記①~③の各要件を満たせば、管理監督者として認められる可能性は十分にあるでしょう。

(以上)

投稿者: 弁護士 秋山亘

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