弁護士 秋山亘のコラム

2019.09.24更新

借地人の借地権譲渡に対する地主の対抗手段

 

 

(質問)

 この度、借地人Xから借地権を譲渡したいので承諾して欲しいとの申し入れを受けました。借地権の譲受人は、現在、借地上の建物をXから借りて住んでいるYです。

 しかし、借地人Xは、かねてから地代の滞納を繰り返していた人物なので信用できません。Yも近所の評判も芳しくなく、いわゆるフリーターで定職に就いていないと言う話ですので、地代をきちんと支払ってもらえるか心配です。

 そこで、私は、借地権の譲渡には承諾できないとXの申し入れをお断りしたのですが、Xは「裁判所に申し出れば、少々の承諾料を支払えば、借地権譲渡は許可される」と言って強気です。

 私としては、この借地権譲渡にはどうしても反対で、できることならば、この際、借地権をXから買い取り、現在の借地を私の完全な所有(更地)にした上で、売却したいと考えております。

 このような場合、地主側としては、どのような対抗手段があるのでしょうか。

 

(回答)

第1 借地権譲渡許可の申立

1 借地権は地主の承諾がないと譲渡できないのが原則です(民612条1項)。借地人による借地権の無断譲渡は契約の解除事由になります。

 しかし、地主が承諾しない場合でも、借地権者が借地権の目的である土地の上の建物及びその土地の借地権を第三者に譲渡しようとする場合、その第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合には、借地権者は、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可の申立てをすることができます(借地借家法19条1項)。

2 「第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合」とは、どのような場合かと言いますと、例えば、借地権の譲受人が暴力団員である場合、譲受人が産業廃棄物を扱う業者で借地に産業廃棄物を搬入し埋め立ててしまうことが予想される場合、地代の支払に不安が認められるような客観的な事由がある場合、などが挙げられます。

しかし、このような事情の立証は実際上は地主側が行わなければならず、その立証はかなり大変です。また、本件のように単にフリーターであると言うだけでは、地代の支払に不安が認められる「客観的な事由」があるとは必ずしも認められないでしょう。

3 第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合には、譲渡承諾料の支払いと引き換えに、譲渡が認められてしまうことになります。

 この場合の譲渡承諾料は、借地権付建物の価格の10%程度です。建物が老朽化している場合には建物価格は0円に等しいと考えられますので、借地権価格(場所により異なるが更地価格の6割~7割)の10%程度と考えてよいでしょう。

第2 地主の介入権

 しかし、このように借地人から地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立てがなされた場合は、地主は、建物及び借地権を優先的に自分が譲り受ける旨を裁判所に申し立てることができます(借地借家法19条3項)。これを介入権の行使と言います。

 この地主による介入権が行使されると、地主の譲受権が優先し、裁判所は、相当の対価を定めて地主に対する譲渡を命ずることになっています。

 そして、この相当の対価は、裁判所の選任した鑑定人で構成する鑑定委員会の意見に基づいて定められております。

 なお、介入権行使の対価は、借地権価格からその10%を差し引いた金額をもとに決められます。これは、借地権譲渡の承諾料は、前述のように借地権価格の約10%であり、第三者が借地権付建物を取得した場合、当然その承諾料は地主が取得できたはずであることから、借地権価格の10%を差し引いた金額とされているのです。

 以上のように、借地人による地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立てがなされた場合には、地主が介入権を行使して借地権を自分で買い取ることができますので、本件でもXが裁判所に申し立てた場合、介入権の行使を対抗手段に取ることができます。

 なお、裁判所を介せず地主と借地人との交渉で、地主が借地人から建物を買い取る場合も、通常の借地権価格から借地権価格の10%を差し引いた金額を目安に買取金額を決めることになるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.18更新

借地借家更新拒絶と正当事由

 

 

借地契約の契約期間の満了により地主から明け渡しを求められているのですが

(質問)

 私は、現在借りている土地に建物を建てて飲食店を経営しておりますが、先日、地主から借地の賃貸借契約の期間が満了するとして、土地の明け渡しを求められました。

地主は、明け渡しの理由として、当該土地を更地にして賃貸目的のビルを新たに建設する予定であると述べております。

私としては、相当額の補償があれば、立ち退きはやむを得ないと思っておりますが、地主側は、自己使用の必要性に基づく契約の更新拒否なので、立退料を支払う必要はない、多少の金額なら支払っても良いがそれも判子代程度に過ぎないと言っております。

法的にはどうなのでしょうか。

(回答)

 借地法4条、借地借家法5条では、賃借人が土地の使用を継続しているにも関わらず、賃貸人側が更新を拒否するには「正当な事由」がなければならないとしております。

 「正当な事由」とは、一般に、賃貸人側が借地を自己使用する必要性の程度と借地側の自己使用の必要性の程度の比較衡量を中心的な判断要素とし、補完的な判断要素として、賃貸借関係に関する従前の経緯(賃料の滞納の有無など信頼関係を傷つける事情があったか、権利金・更新料などの支払いの有無、これまで賃料額が相場からして低く押さえられていたかなど)、土地の利用状況(借地上の建物老朽化の程度、周囲の土地でも高層ビルが建設されるなど土地の有効利用がされているか)、財産的な給付の有無・その金額の相当性(立ち退き料の提供金額)などを総合考慮して、決められます。

 もっとも、殆どのケースでは、賃貸人が土地を自己使用する必要があるというだけでは正当事由ありとは認められず、相当額の立ち退き料の支払いと引き替えに、正当事由があると判断されます。

もちろん、賃貸人側の自己使用の必要性があまり高度とは言えないケースでは、いくら立ち退き料の支払いを提供しても正当理由がないと判断される場合もあります。

なお、当事者間で合意がまとまらない場合には、借地非訟事件手続きで、裁判所が正当事由の有無の判断や幾らの立ち退き料の支払いがあれば正当事由ありとして土地の明け渡しを認めるかを判断します。

 そこで、幾らをもって立ち退き料として相当な額と認められるのかですが、これは、前記のような事情を総合考慮して決められます。賃貸人側の自己使用の必要性が不可欠であり、賃借人側の必要性が乏しいとして立ち退き料がゼロとなるケースから、借地権価格相当額を立ち退き料とするケース、借地権価格の何割かを立ち退き料と認めるケース、他の代替地の購入相当資金を立ち退き料と認めるケースなど事案の性格に応じて個別的に判断されます。

例えば、賃借人側が借地の使用を継続する必要性としては、当該借地で長年事業を営んでおり他に土地を所有していない場合には、賃借人の使用の必要性は高いと言えるでしょう。これに対して、賃貸人側の事情としては、例えば、単に土地を有効利用して収益を上げたいという場合や相続税の支払い、物納に充てたいという場合には自己使用の必要性が高いとは言えないでしょう。従って、このような場合、過去の裁判例に照らすと、正当事由があると認められるとしても、借地権価格相当額(通常は更地価格の60%~80%)の立ち退き料の支払いと引き替えに土地の明け渡しが認められる場合が多いと思われます。

本件につきましても、相当額の立ち退き料が支払われてしかるべき事案ですので、専門の弁護士等に相談することをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.10更新

借家契約に際しての注意点

 

 借家契約の成立後に貸主と借主との間で生じる様々な問題の中には、契約当初予想し得なかったものもあるでしょう。しかし、ある程度予想し得たものも少なからずあると思われます。予想できるものについては、その対応策を予め借家契約に盛り込むことが必要と考えます。以下では対応策として有効と思われるものについてご説明致します。

1 賃料相当損害金について

 契約が終了した後も借主が退去しないという問題については、借家契約の中に、通常の賃料よりも高い「賃料相当損害金」を盛り込むことで、借主に対し、「退去が遅れると高い損害金を払わなければならなくなる」という意識を持たせることが可能となると思います。なお、損害金としては、(あまり高額ですと公序良俗に違反する可能性もありますので)賃料の3倍程度が宜しいかと思います。

2 契約終了時の残置物の処分について

 契約終了後、什器物、備品等を残したまま借主が出て行ってしまうことがあります。このようなケースでは、貸主は、一日も早く残置物を処分したいが、他方、処分すると旧借主から残置物の所有権侵害を理由に賠償請求等を主張されるのではないかという問題に直面します。そこで、残置物の処理で悩むケースについては、「賃貸借契約終了時に、賃貸物件内に残された什器、備品類等一切のものについては、賃借人はその所有権を放棄したものとみなす」などの「残置物の放棄条項」を盛り込むことが有効かと思います。

3 蒸発をした際の対応について

 借主が蒸発してしまった場合、貸主は、適当な時期に契約を解除して、新たな借主を探すことを希望するでしょうが、契約解除の通知方法等で迷うことががあります。

(1) このような「借主の蒸発」に対しては、契約解除がしやすくしておくのが宜しいかと思います。具体的には、

①借主が長期不在の場合にはその旨賃主に対し通知する義務を課し、通知せずに長期不在、かつ、家賃の滞納のある場合には貸主の借主に対する契約解除の通知義務を免除する

②通知せずに長期不在、かつ、家賃の滞納のあるの場合は、借主が借家権を放棄したものとみなすことができることにする

③契約解除の通知方法は「発信主義」をとる(民法の原則は「到達主義」です)

等の条項を盛り込むことがよいかと思います。なお、①②については、慎重な運用が必要と思われます。

(2) なお、所在不明の借主との契約について、裁判所で「解除」を認めて貰おうとする場合があります。

この場合、旧民事訴訟法では、①裁判を起こす前に、裁判外で「公示送達」による契約解除の意思表示をする②①を経た上で、裁判所に対し、契約解除を求める裁判をおこすという2段階の手続を経る必要がありました。

 しかし、新民事訴訟法(法113条)では、訴状で契約解除の意思を明らかにすれば(換言すると「裁判手続の中で契約解除の意思を明らかにする」ということです)、事前に裁判外で公示送達による契約解除の意思表示をしなくともよくなり、契約解除が迅速に行えるようになりました。

4 期間内解約について

 借主が契約後期間満了前に解約することにより、貸主側が物件に対する投資を回収できないことがあります。このような貸主の不利益に対する対応策としては、

①期間内解約自体を制限する

②期間内解約については違約金を徴収する

③解約予告期間を長期にする

等が考えられます。

5 その他

(1) 連帯保証人について

(後日の紛争を回避するために、念のため)連帯保証人は、契約更新後の債務についても、継続して連帯保証責任があることを明確にしておくことが宜しいと思います。

(2) 裁判について

  借主に対し賃料不払い等の裁判を起こした場合を想定して

①貸主の住所地を管轄する裁判所を、「専属的裁判管轄」或いは「追加的裁判管轄」に定めておく

②「弁護士報酬等訴訟費用については敗訴者の負担とする」等の弁護士費用敗訴者負担条項を定めておく

ことも有効なことではないかと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.02更新

詐欺の被害に遭わないために

 

 はじめに

 近時様々な手口の詐欺事件や詐欺的商法による被害が報告されています。このような事件では実際に被害にあってしまうと、加害者の所在不明や資力の欠如のため被害回復は困難な場合があります。

 そこで、今回は、詐欺的商法の被害に遭わないための予防策として、これら詐欺事件・詐欺的商法の事例をご紹介します。今回ご紹介するケースと少しでも似ているなと思われた場合には相当慎重な対応が必要がであると思われます。

1 極度額一杯まで保証責任が及ぶ根保証だが~根保証に対する無知を利用して、保証金額を知らないうちに拡大~

近時「根保証」(ねほしょう)制度の濫用による思いもかけない保証責任を強いられる事例が報告されています。

 例えば、A社が、金融機関から百万円を借り入れたとします。その時に保証人が必要になり、友人のB社長に連帯保証人を頼むとする。B社長は、A社長が「借りるのは100万円だけだから」と懇願するので、100万円ならばあげたものと思って保証人になってもいいだろうと思い、判子を捺す。しかし、B社長の保証責任は100万円ではすまないこともあるのです。

 それが、根保証契約の場合です。根保証とは極度額(きょくどがく)に至るまでA社長が借り入れた債務や利息・遅延損害金の一切を保証するという契約です。契約書が根保証契約となっていて、1000万円となっている極度額を確認しないで判子を捺すと、後で、B社長が知らないうちにA社長が900万円を借りて支払い不能になった場合でも、B社長は1000万円の保証義務を免れることは基本的にできないのです。

 また、本物の詐欺の事件としては、A社長と貸手の自称金融機関Xが集団詐欺師である事例もあります。これは、A社長が最初は300万円の保証人になってくれれば、お礼として20万円をお渡しする、直ぐに返済できる当てがあるので絶対に迷惑をかけないと言うのでB社長が保証人になる、300万円はA社長の言うとおり返済されるが、次は、500万円の保証人になって欲しい、お礼は30万円出しますと言われ、前回の300万円の返済で信用してしまったB社長は500万円の保証人となる、その後500万円の返済が為された後、A社長は、最後の詐欺に取りかかるのである。A社長は、実際に借りるのは500万円だけだが、書面上だけ2000万円の根保証人をお願いしたい、お礼は50万円をお支払いしますと言われ、2000万円の根保証人になる。その後、A社長は夜逃げし、A社長に2000万円を融資したという自称金融機関Xから2000万円の根保証責任を追及されるのである。金融機関Xが本物の金融機関でちゃんとお金を貸している場合もあるし、実際にはお金を貸しておらずA社長と共犯の場合もあるでしょう。いずれにしても、根保証契約書やA社長にお金を貸した形跡のある領収書・預金通帳などをそろえられれば、B社長が根保証人の責任を免れるのは難しいと思われます。B社長は100万円の小金を得たものの結局は2000万円の根保証責任を果たすため、持ち家を売却せざるを得なくなったのです。

 A社長に「100万円しか絶対に迷惑をかけないから」などと言われてそれを信じたとしてもそのような主張はお金を貸した第三者には通用しません。このような契約の場合は、特に契約上の文章をよく読み、少しでも疑問点があれば質問をする、専門家の意見を聞くことが大切でしょう。根保証をするのであれば、極度額一杯の保証をするつもりでないと(多くのケースでは根保証人に通知が行くときには既に極度額一杯まで融資されている)根保証はすべきではないでしょう。

 なお、平成17年4月1日から改正民法が施行され、極度額の定めのない包括的根保証が無効となるなどの改正がなされました(本稿第41回参照)。

2 古典的な詐欺の手口ながら被害件数の多いのは取りこみ詐欺

~少額の信用取引を積み重ね、信用獲得後は、取引額を一気に跳ね上げ商品を手に入れたら突然ドロン~

 信用取引を利用して最初から騙すつもりで商品を購入し、それを横流しして現金化するのが取りこみ詐欺の手口でです。

 しかし、まったく取引のなかった会社と最初から3000万円の信用取引を行うところはないでしょう。最初は少額の10万円程度の取引を開始し、ある程度継続して徐々に取引額を上げていくのです。もちろん、この間の商取引は、代金も正常に振り込まれます。その間、取り込み詐欺を企んでいる会社は、あの手この手を使って、さりげなく自分の会社は信用できる会社だということをアピールしてきます。

 ところが、ある程度信用をつけたところで、「今度、取引先の大手企業の新商品として使ってもらう話になった」などとそれらしい話をして、一気に取引額を10倍に引き上げるのです。そして、商品を信用取引で購入したら、ある日突然姿を消してしまいます。

これが、取りこみ詐欺の典型的な手口です。取り込んだ商品は二束三文でバッタ屋などに売られ現金化されます。

商業登記簿謄本を取り寄せてそれなりに調査したつもりでも、世の中にはペーパーカンパニーが何万と存在します。詐欺師は、それらペーパーカンパニーのうち歴史のある古い会社を選び買い取って、信用できる会社に仕立てて取引を持ち込むのです。もちろん、商業登記簿謄本上の代表取締役などは、名前を貸しただけで事情は何も知らず、詐欺被害の被害賠償をする資力がないような倒産した会社の元社長だったりします。

また、この手の詐欺師は、名刺にロゴマークを入れたり、所在地を一等地に置くなど、いろいろなテクニックを駆使して見せかけの信用を築いているのも特徴です。中には、大手企業の子会社だと称して、大手企業に類似した商号を使用して取引を持ちかける会社もあります。

最後に、取り込み詐欺に遭わないためには、これが一番大事なことなのですが、急に注文額が大きくなったとき、シメシメと思わず、どういう会社で、どういう社長なのか、どういう理由で取引額が増えたのか、例えば前記の新商品としての取り扱いの話は本当かなどを確認するため取引先だという大手企業に直接問い合わせてみる、一度挨拶に伺うなど、調べられることはきちんと調べて取引を行わなければならないということです。 

場合によっては、胡散臭さがどうしても拭えないと思ったら、おいしい話かもしれないが、痛手を負うリスクを避ける為に、取引額が多額なだけに然るべき担保や現金取引でないと応じられないとお断りした方がよい場合もあるでしょう。

これらを怠ったがために、最初から会社すら存在しないという典型的な取りこみ詐欺の被害に遭ったり、多額の取り込み詐欺に遭い、その損失を補填できず倒産に追い込まれるというケースもよく耳にします。  

3 地面師

 不動産取引にかかわる詐欺の典型ともいえるのが地面師です。

 地面師とは、不動産登記簿を偽造するなどして、他人名義の不動産をその人になりすました上で勝手に所有名義を書き換えては、その不動産を担保に多額の融資を受けたり、第三者に売却するなどしてお金を持ち逃げする輩のことです。

 地面師による手口としては、登記所に赴き登記簿原本を閲覧している時に偽造した偽の登記簿と該当ページごとすり替えてしまったり、本人の委任状を偽造するなどして住民票を無断で移転し、移転先の住所で登記所から本人確認のために送られてきた書類を受領し、不動産の名義変更を完了させてしてしまうなどの手口がよく使われます。

 地面師対策ですが、これは当たり前のことではありますが、必ず現地を見て、誰がどのようにして住んでいる土地なのか、どのように使われている土地なのかを確認することです。

 現に住んでいる人に話を聞くだけで、登記簿が偽造されていたことが発覚するケースは多いです。また、不動産登記簿謄本を見た場合、短期間のうちに何人もの人が間に入って売買を繰り返されていたり、前所有者の住所表示が売買の直前に移転している場合には要注意が必要です。

4 結びに

 甘い話には乗ってはいけないと十分認識していたはずでも、「この人ならば間違いないだろう」と思ってしまい、お金を渡してしまう詐欺の被害は後を絶たないのが現状です。

詐欺師は、人を騙すため、というより見せかけの信用を作るためには労力やお金を惜しみません。例えば、打ち合わせの最中に、あたかも財務省の高級官僚から携帯電話があったかのようにして電話に出てみたり、大企業の社長から偶々もらった名刺をさも懇意にしているかのように見せてみたり、一度しかあったことがない弁護士の名刺を見せては相談に乗ってもらうならこの人を紹介するなどと言ってみたり、さりげなく自分が信用のある人間だと言うことを見せかけるのである。

「詐欺師は紳士の顔でやってくる」と言われますが、まさにその通りで、物腰の柔らかな接し方、法律や金融に関する詳しい知識、そして、紳士的な雰囲気など、その人が装っている雰囲気や知性にまずダマされてしまうのです。

また、詐欺師は、より大きいお金を引き出すため人を信用させるためならば、少々の費用は惜しみません。前記の通り、一等地に事務所を設けたり、お金のかかったホームページを作成したり、会社のロゴマーク入りの名刺を作ったり、時には、高級ホテルのスウィートルームを面談場所に指定したりもします。このようなお金のかかった演出にはダマされるなと言う方が無理なのかもしれません。

 このように詐欺師による人を信用させる為の工作は極めて巧妙です。

したがって、詐欺の被害に遭わない方法としては、第一に、詐欺師の外見や雰囲気だけにとらわれて判断しないこと、第二に、実際の取引内容を冷静に分析し・見極め、あまりにうますぎる話であれば必ず裏があると思った方がよいこと、第三に、これは逆説的でありますが、その相手方自身からもたらされたものではない情報や第三者の評価を重視することです。例えば、自分の足でその会社の本社に赴いて調べてみたり、親会社だという有名企業の総務部に問い合わせて見たり、時には興信所を使って第三者の評判を聞いてみたりすることです。

商売を成功させる為には、ある程度のリスクは覚悟して、千載一遇のチャンス掴まなければならない場合もあるでしょう。しかし、そのチャンスとは決しておいしい話、うますぎる話ばかりではないのではないでしょうか。

本稿を読んでいただくことで、詐欺師とはどのような人達なのか、詐欺にはどのような手口があるのかを実際に認識していただき、少しでも、詐欺の被害に遭わない為の予備知識として頂ければ幸いです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.26更新

公正証書、即決和解の利用法

 


(質問)
 1 賃貸借契約を公正証書で行う場合のメリットを教えてください。
 2 ある物件の建物賃貸借契約における賃料不払いによる契約解除に関し、賃貸人・賃借人の間でもめていたのですが、この度、両者の協議によって、滞納賃料の分割払いを条件に建物の明渡し時期を1年間猶予することで話し合いが纏まりました。
もっとも、賃借人が万一明渡し期限にも建物を明渡さない場合に備えて、法的にはどのような手続きをとっておいた方がいいのでしょうか。
(回答) 
 1 賃貸借契約を公正証書で行うメリット(質問1のご回答)
 公正証書とは、契約当事者双方が公証人役場に出向いた上(代理人でも可)、契約内容を公証人の面前で確認し、公証人がその確認された契約内容を書面化したものです。
 公正証書による場合、一定額の公証人手数料を支払いを要しますが、例えば、月額10万円で2年間の賃貸借契約の場合の公証人手数料は1万1千円ですので、それ程費用がかかるものではありません。
 公正証書によって契約をすることで、一般的には、①偽造、変造がない、②万一公正証書をなくしても公証人役場に原本が保管されている、③公証人のチェックにより確実な契約が出来る、④裁判の場合、公正証書が証拠として提出されると、裁判所は原則として当事者間では書かれた内容の合意はなされたものとして取り扱う(「そんな文書に印鑑を押したことがない」「そんな条項が入っていたとは知らなかった」と主張しても、まず通らない)、⑤金銭債務の支払義務に関し裁判を経ることなく債務名義となる、などの利点があります。
 この中で、賃貸借契約上の賃料が万一滞納された場合における滞納賃料の簡易・迅速な回収と言う観点では、⑤債務名義となる点が特に着目すべき点です。
 債務名義とは、権利の存在を明らかにし強制執行をするための根拠となる文書のことです。この債務名義が存在して初めて、給与、銀行預金、不動産等の財産を差し押さたり、建物の明渡しの強制執行をすることができます。
 債務名義の典型例としては、判決、支払命令、裁判上の和解調書、調停調書などのことです。
 一般に債務名義というと、裁判手続きの中で裁判所の関与によって得ることができるというイメージをもたれるかもしれませんが、賃料の支払義務や売買代金など金銭の支払義務の場合には、強制執行認諾文言付公正証書であれば、裁判を経ることなく公正証書が直ちに債務名義となります(強制執行認諾文言付公正証書とは、「公正証書上の債務を履行しない場合には、直ちに強制執行をされることにも同意します」という債務者の同意が付された公正証書のことです)。
 従いまして、万一、賃料が滞納されたという場合に賃借人や連帯保証人の給与や預貯金債権を差し押さえることによって、賃料を簡易・迅速に回収したいという場合には、賃貸借契約書を公正証書にすることのメリットは大きいものと思われます。
 2 明渡しの強制執行に備えて(質問2のご回答)
本件のようなケースでは、万一、賃借人が明渡しに任意に応じない場合にも、裁判を経ることなく、直ちに、執行官による明渡しの強制執行をすることができるように手続きをきちんととっておくことが有効だと思われます。
このような手続きとっておくことで、実際に費用をかけて執行官による強制執行を断行する場合はもちろん、賃借人にもその旨の認識を得させることによって、居直りの防止や任意の退去をより確実なものにすることができるからです。
 もっとも、上記に説明しました公正証書が債務名義となるという点は、「金銭の支払義務」の場合に限られますので、公正証書では建物明渡しの強制執行の債務名義にはなりません。
 このようなケースでは、簡易裁判所で行う「即決和解」(訴え提起前の和解)が有効です。
 即決和解とは、当事者間で話し合った合意内容(和解内容)を予め簡易裁判所に申立てた上、裁判所から指定された期日に当事者双方が出席し、裁判官の面前でその合意内容を確認することで、合意内容が裁判上の和解調書として文書化される手続きです。合意内容が和解調書となるわけですから、当然、債務名義になりますし、公正証書のように金銭債務に限定されません。
 本件での合意内容(和解内容)としては、①賃貸借契約の解除の有効性に関する確認条項、②明渡期限における建物明渡しの履行に関する条項、③明渡し期限までの賃料相当損害金の支払い及び滞納賃料の分割金の支払いに関する条項、④万一③の不履行があった場合には直ちに建物を明渡すことに関する条項等を要点にした和解をするが考えられます。
 ただし、個々和解条項の書きかたには、権利の確認条項(「毎月末日金○○円の支払い義務を認める。」「○月○日までに本件建物の明渡し義務がある。」)では強制執行ができず、必ず給付条項(「毎月末日までに金○○円を支払う。」「○月○日までに本件建物を明渡す。」)にしなければならないなど細かい決まりもありますので、和解条項の書きかたについては、事前に専門家に相談しておくことをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.20更新

建設共同企業体(JV)の法律関係

 

第1 問題の所在

 建設共同企業体(「JV」)は、複数の企業が共同して大型の土木・建築工事を行う事業方式として広く利用されています。JVの協定では、代表者(「親企業」)を定めた上、親企業(代表者)に自己の名で請負代金の請求・受領及びJVに属する財産の管理を行う等の権限を与え、取引口座について親企業(代表者)名義で開設された別口の預金口座を使用する旨を定める例も多いと思われます。

 親企業(代表者)名義の別口預金口座にJVとしての請負代金が振り込まれて預金債権となっている状態で、親企業(代表者)につき破産などの手続が開始された場合、他のJV構成員は右預金債権について、「自分の取得分が含まれている」として優先的な権利(取戻権など)を主張できるのでしょうか、それとも、他の一般債権者と同様の権利(破産債権など)しか主張できないのでしょうか。親企業(代表者)名義の別口預金口座に振り込まれた請負代金(預金債権)は、JVと親企業(代表者)のいずれに帰属するのでしょうか。

 これは、JVの代表者が、その業務執行権限に基づき遂行した法律行為の効果の帰属の問題であり、前提としてJVの法的性質やその業務執行・財産管理に関する法律関係が問題となります。

第2 考え方

1 JVの法的性質については、一般に民法上の「組合」と解されています。民法上の「組合」では、各組合員が業務執行権を有することを基本的な建前としつつ、組合契約または組合員の過半数による決定で、一部の組合員または第三者に業務執行を委任することが出来ます(民法670条)。この、業務執行権を委任された組合員を「業務執行組合員」といいます。そして、業務執行組合が組合業務の執行として財産取得を目的とする法律行為を行った場合、その効果が総組合員に直接帰属するものであれば、当該財産は、組合財産として総組合員の「共有」(民法668条)となり、そうでなければ当該業務執行組合員の個人財産ということになります。

2 業務執行組合員が「自己の名による方式」で法律行為を行った場合には、直ちに当該法律行為の効果が総組合員に直接帰属するとは考えられていません。学説や裁判所は、代表者の権限や財産管理等に関する組合員間の合意の内容や、これまでの運用などの具体的な事情を総合的に考慮した上で、当該業務執行組合員の法律行為の効果が直接総組合員(組合財産)に帰属すると考えるのが宜しいのか、或いは、一旦は当該業務執行組合員に帰属した後に、組合への移転行為を経ることにより組合財産となると考えるのが宜しいのかを判断しているようです。

 これに対し、業務執行組合員の対外的な法律行為が「代理による方式」でなされた場合は、当該法律行為の効果が総組合員に直接帰属すると評価されることが多いと思われます。

3 そこで、JV構成員の、JVの親企業名義の別口預金(請負代金)に対する権利につきましても、JVの共同企業体の協定の内容やこれに基づく財産管理状況がどのようなものであるのかにより異なるものと思われます。

 最高裁判所は、

① XとAがJVを結成し、代表者をAとした

② 協定で、「代表者Aに自己の名義で請負代金を請求・受領し、企業体に属する財産を管理する権限を与える」、「請負代金を受領したときは、代表者Aの経理機構による精算及び運営委員会の承認を得て、すみやかにXに分配する」、「取引口座としてA名義で開設した別口預金口座を使用する」と定めた

③ 実際の財産管理も②の協定のとおり行われていた

という事例で、A名義の別口預金口座の預金債権はAのものであると判断しました(最高裁平成11年4月16日判決)

 いわゆるゼネコン企業の倒産が十分に予想されるのが現在の状況です。親企業以外のJV構成員の権利を保全するという観点から、今後、JVを進める場合には、少なくとも、協定で

① 親企業の対外的な法律行為は全て、「共同企業体名」や「共同企業体代表者(の肩書)」を示すなどの「代理方式」で行うこと

② 預金口座も、「共同企業体名」や「共同企業体代表者(の肩書)」で開設すること

を定め、、実際の運用もこれに基づいて行うのが望ましいと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.13更新

賃借人の債務不履行による賃貸借解除と転貸借との関係

 

1 問題の所在

     賃貸借関係(以下「基本賃貸借」といいます)の他に、「賃貸人の承諾のある転貸借関係」(以下「適法な転貸借」といいます)があるという状況を想定します。この様な状況で、賃借人の債務不履行による解除により基本賃貸借が終了した場合、転貸借関係は当然に終了するのでしょうか、当然に転借料債務も消滅するのでしょうか。

2 判例の傾向

   大審院昭和10年11月18日は

        ① 基本賃貸借が終了しても、適法な転貸借は当然には失効しない

        ② 賃貸人から返還請求があれば、転借人はこれを拒否する理由がなく、このため転貸人としての義務を履行することが不能となる結果、転貸借は終了する

    としました。

     また、最高裁昭和36年12月21日も、

        基本賃貸借の賃借人がその債務の不履行により賃貸人から基本賃貸借契約を解除されたときは、基本賃貸借の終了と同時に転貸借も履行不能により当然に終了する

    としています。

     このように、判例は、

        ① 適法な転貸借は基本賃貸借の終了により当然には終了しない

        ② 適法な転貸借は転貸人の転借人に対する債務が履行不能となったときに終了する

    と考えています。

   では、「転貸借が履行不能となった」という時点とは何時なのでしょうか。「基本賃貸借契約が解除された」時なのでしょうか、「転借人が基本賃貸借の賃貸人から返還請求された」時なのでしょうか。

     この点につき、最高裁平成9年2月25日は、

        基本賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対し目的物の返還を請求したときに転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する

    としました。要するに「転借人が賃貸人から返還請求された」時点を転貸借の終了時としたのです。

   したがいまして、基本賃貸借の賃貸人から転借人が返還請求をされた時点以降は、転借人は転借料を支払う義務はなく、逆に、基本賃貸借が終了しても賃貸人から返還請求されない限り、転借料を支払う義務があることになります(なお、この場合の転借料の支払先ですが、転貸借関係が継続している以上、転貸人に支払うことになると思われます)。 

     なお、賃貸人としては、基本賃貸借終了後は、速やかに、転借人に対し返還請求をすることが大切です。基本賃貸借を解除したことに安心し、転借人に返還請求するのを失念していますと、転借料を取り損ねることになりますので注意が必要です。

3 その他

    基本賃貸借が債務不履行解除により終了し、賃貸人が転借人に対し返還請求した場合、「返還請求時」から「目的物の現実の返還時」までには、多少の時間の経過があるのが通常です。この場合の賃料相当損害金の支払関係について、前記の判決では、賃貸人が転借人に対し請求できるとしています。そこで、転借人としては転借料相当損害金を賃貸人に支払うことになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.05更新

借地の無断転貸に関する法律相談

 

<質問>

 私(以下「A」)は、ある借地に私名義の建物を建てて、以後十数年にわたり呉服店を営んで来ました。その後、数年前に、税金対策のため、個人で営業をしていた呉服店を株式会社(以下「B社」)に組織変更し、建物の名義も会社名義にしました。なお、会社の株式は80%を私が出資し、残りの20%の株式は妻と子の名義にしました。3名の会社役員については、私が代表取締役になり、妻と弟に名義だけを借りることにしました。

 そうしたところ、先日、地主から内容証明郵便が届き、建物の名義が個人から会社に代わっていることから、借地権の無断譲渡にあたるという理由で、借地契約の解除と土地の明け渡を求められました。

 このような場合、借地権の無断譲渡に当たってしまうのでしょうか。

<回答>

1 第三者に無断で借地権を譲渡することは借地契約の解除事由(民法612条2項)とされております。

 したがって、借地権を譲渡するには事前に地主の承諾を得なければなりません。地主の承諾を得ることが困難な場合には、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可の審判を申し立て、裁判所の許可を得てから譲渡することになります(借地借家法19条)。

2 本件のように、借地上の建物所有権の名義を個人から法人に変更(譲渡)した場合には、これに伴い借地権も当然に譲渡したと見なされると言う法理がありますので、これにより本件の借地権も法人に譲渡したものと見なされます。

 そうすると本件のような事案では、借地権の無断譲渡があったものとして、地主に借地契約の解除権が発生するようにも思えます。

3 しかし、最高裁昭和28年9月25日判決(民集7・9・979)は、建物の無断転貸の事例で、「賃借人が賃貸人の承諾なく、第三者をして建物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合には、賃貸人の解除権は発生しない」旨判示しております。 

そして、上記判例を受けて、最高裁昭和38年10月15日判決(民集17・9・1202)は、借地上にあった僧侶個人名義の建物所有権が宗教法人の名義へ地主に無断で変更されたという事案で、「借地の利用関係に実質的な変化はない」という理由で、背信行為なしとして地主の解除権を否定しております。

4 本件においては、①B社の代表取締役が元借地人のAであり、他の取締役もAの親族であること、②B社の株主も80%がAであり、残りの20%もAの家族であること、③B社の営業内容もAが長年行っていた呉服店であることからすれば、呉服店を法人化した後も当該借地の利用形態に実質的な変化はなかったものと考えられます。

したがって、本件のような事案では地主の解除権は否定されるものと考えられます。

最高裁昭和43年9月17日判決(判時536・50)も、本件と類似の事案において「借地人と地主との信頼関係を破壊するような背信行為とは言えない」という理由で、地主の解除権を否定しております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.07.29更新

賃貸人の破産と賃借人の相殺権について

 

(事例)

  Xはその所有ビルを家賃1ヶ月10万円、敷金50万円でAに賃貸していたが、賃貸人Xは破産をし、破産管財人が選任された。

(1) このような事例で、Aは、預け入れ敷金と今後の賃料の支払い義務と   を相殺することができるか。

(2) また、Aが敷金とは別に、Xに対し売掛金債権100万円を有していた  場合、賃料の支払い義務と相殺することを破産管財人に対し主張すること  ができるか。

(3) 破産管財人は、破産法上、賃貸借契約を一方的に解除することが認められているか。    

(4) (2)のケースで、抵当権者が物上代位権に基づいて、賃貸人の賃料債権を差し押さえてきた場合に、賃借人は、(2)の相殺を差押債権者(抵当権者)に対しても主張できるか。

 

(回答)

 この度、破産法と民事再生法が大きく改正され、その結果、賃貸人や賃借人が破産・民事再生した場合における、賃貸借契約法上の法律関係も大きく変わりました。

 そこで、今回は、賃貸人が破産した場合における賃借人の相殺権、そして、敷金返還請求権の保護の制度について、ご説明します。なお、賃貸人が民事再生した場合については、破産をした場合とは異なる法律関係となり、また、異なる賃借人保護の手続き取られておりますので、次回にご説明致します。

 (1) 敷金返還請求権と賃料債務との相殺の可否

 破産法上、債権者は、破産開始の時において、破産者に対して債務を負担している場合には、破産者に対し有している債権と相殺をすることができます(新破産法67条1項)。

破産者に対し有する債権は、弁済期が未到来の期限付きの債権や解除条件付き債権(未確定の一定の条件が発生しない限り有効な債権)でもよいとされておりますが、停止条件付きの債権(未確定の一定の条件の成就をもって初めて発生する債権)の場合には、破産開始時までに条件の成就がなされていない限り相殺することができないとされています(新法67条2項)。

そこで、賃借人が賃貸人に対して有する将来の敷金返還請求権がここに言う相殺をなし得る債権に当たるかが問題になります。

しかし、最高裁判例(昭和48年2月2日)は、敷金債権の法的性格は、建物明け渡し時までの一切の賃料債権、賃料相当損害金、原状回復費用等を担保するものであるから、これらの一切の賃貸人の賃借人に対する債権を控除した上、残金があれば、建物の明け渡しの完了が為されたときに初めて発生する債権であるとして、停止条件付き債権であると判示しており、賃借人の破産者(賃貸人)に対する相殺権を否定しております。この点は、改正破産法においても変更はないところです。

したがって、賃借人は、破産管財人の賃料の支払い請求に対して、破産開始後も、将来の敷金返還請求権と今後の賃料の支払い義務とを相殺することはできません。

もっとも、このような取扱に対しては、賃借人は一方的に賃料の支払いを請求され支払わなければならないのに敷金返還の保証がないのは不合理だとする批判がありました。

そこで、改正産法は、将来賃借人が明け渡しを完了したときに発生する敷金返還請求権を確保するために、破産管財人に対する賃借人の賃料の寄託請求の制度を設けました。

これは、賃借人が賃料を支払うときに、破産管財人に対し、預け入れ敷金額の限度内で弁済した賃料を破産管財人が預かるよう寄託を請求した場合には、破産手続きが終了して最後配当が為されるまでの期間までに、賃借人が賃貸借契約を解約するなどして建物明け渡しを完了させた場合には、破産管財人は、寄託を受けた金額の範囲内で返還義務のある敷金を賃借人に返還しなければならないと言う制度です。これにより、賃借人の敷金返還請求権が保護されるよう配慮されました。なお、破産手続開始後から最後配当が為されるまでの期間については、破産事件の規模や複雑生にもよりますので一概にはいえませんが、早ければ半年程度、長い場合には2年以上かかる複雑な事件もあります。

もっとも、この寄託請求の制度によっても、最後配当の時までに敷金返還請求権が現実化しなかったとき(具体的には、当該不動産に担保価値を超える多額の抵当権が設定されており任意売却も纏まらないなどの理由で破産管財人が破産財団から当該不動産の所有権を放棄したが、それまでに、賃借人も賃貸借契約の解約・明け渡しを行わなかった時などが想定されます)には、寄託した金額は結局は一般債権者に対する配当に回されて、破産手続きが終了しますので、寄託金も返還されないことになります。

なお、賃貸人が破産をしても、当該不動産が抵当権者の競売手続きによらずに破産管財人によって任意売却されたときには(破産事件のうち大多数は抵当権者による競売手続きよりも任意売却により不動産の処分がなされます)、新賃貸人に敷金返還請求義務が承継されます。もっとも、敷金や保証金名目で賃料の何十ヶ月分も預けている場合には、預け入れている金銭の全額が承継されるのではなく、実質的な敷金相当部分に限定されて承継されます(実務的には特殊なケースは別として事業用の通常の賃貸借のケースでは家賃の1年分相当額が敷金相当部分として承継が認められる部分の上限かと思われます)。

また、抵当権者の競売手続きによった場合でも、抵当権設定前に契約した賃借人など賃借権を抵当権者に対抗できる場合には、競落人に対し、敷金返還請求権を主張できます。

したがって、破産管財人への寄託請求の制度の実益があるのは、賃貸人破産のケースでは、ある程度限られた場面になるでしょう。

(2) 売掛金との相殺権

 改正前破産法の下では、賃借人が賃料支払い債務を受動債権として賃貸人に対する債権とを無制限に相殺できるのかについては、旧法103条1項前段の解釈をめぐり、見解が別れておりました。

 しかし、改正破産法では、賃借人の相殺に対する期待を保護すべきとの考え方から、賃借人の相殺対象の債権を「破産宣告月及び翌月の賃料について相殺できる」とする旧法103条が削除された結果、賃借人の賃料を受動債権とする相殺は無制限に認められることになりました。

 したがって、本件では、賃借人は10ヶ月分の賃料債務と100万円の売掛金債権を相殺することで、10ヶ月分の家賃を支払わずに本物件を賃借することができます(11ヶ月目から3ヶ月分は敷金返還請求権を確保すべく破産管財人に賃料を弁済する際に寄託請求をすることになります)。

(3) 破産管財人による契約解除について

 (2)のような場合、破産管財人の方からは、賃料が入らないという理由で、賃貸借契約を解除されるのではとの疑問を考えられるかもしれません。

 この点、確かに、旧破産法では、破産管財人による賃貸借契約の一方的な解除権が認められておりました(旧法59条)。

 しかし、改正破産法では、賃借人が第三者に対する対抗力を具えている場合(建物賃貸借であれば建物の引渡が為されている場合、土地賃貸借であれば借地上の建物登記がある場合がそれぞれ第三者対抗要件を具えている場合にあたります)には、破産管財人は、賃借人に対して、一方的な解除権を行使することができないとされました(新法56条1項)。

(4) 抵当権者の物上代位権による賃料差押えと相殺主張

 以上のように、賃借人の相殺権は、新法下では大幅に保護されることとなりましたが、この相殺の主張が許されるのは、あくまでも賃借人と破産管財人との法律関係についてです。

 (4)のケースのように、抵当権者が物上代位権に基づいて、賃貸人の賃料債権を差し押さえてきた場合に、賃借人が売掛金と賃料との相殺の主張を抵当権者に対しても主張できるかについては、賃借人の売掛金の取得時期が抵当権の設定よりも前か後かによることになります。

 すなわち、売掛金の取得が抵当権の設定後であれば、賃借人は相殺の主張を差押債権者(抵当権者)に対して対抗できない(最判平成13年3月13日・判時1745号69頁)のに対し、抵当権の設定前であれば対抗できます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.07.23更新

中古マンションを購入する際の注意点~その2

 

(質問)

 当社は、中古マンションを購入することになりました。前の所有者は、自己破産をして免責を得た後、抵当権者主導で任意売却をした物件です。そして、前の所有者は、管理費と修繕積立金を過去7年間支払っていなかったようです。

 このようなケースでは、管理費・修繕積立金は時効にかかっているのでしょうか。

 また、前の所有者が自己破産をして免責を得た以上、当社は前の所有者の管理費を支払わなくてよいのでしょうか。

(回答)

1 管理費・修繕積立金の時効

これまで、管理費・修繕積立金の時効期間は、民法167条1項の一般債権であるという10年説と、民法169条の定期給付債権(典型例としては家賃がこれに当たります)に当たるという5年説に分かれておりましたが、近時の下級審裁判例(東京高裁平成13年10月31日、東京地裁平成9年8月29日)では10年説を採用するものが出ておりました。

しかし、最高裁判所は、管理費等の時効期間について、平成16年4月23日最高裁判所第二小法廷判決において、5年説を採用することを明らかにしました。

したがって、今後は、5年説に基づいて実務運用がされることになります。

本件では、2年分の管理費・修繕積立金については時効消滅を主張できることになります。

もっとも、時効消滅を主張できるのは、前の所有者とマンションの管理組合との間で時効の中断事由がない場合です。

前の所有者が管理費等の滞納期間を明示して滞納を認める念書を管理組合に差し入れている場合や管理組合が滞納者に対し訴訟を提起し勝訴判決を得ている場合には、時効は中断されています。

したがって、念書を差し入れている場合には念書の作成日から5年間、勝訴判決の場合には判決確定時から10年間は時効消滅の主張はできません。

なお、時効中断の方法としては、以上の他に、催告書・請求書等で請求する方法も挙げられます。しかし、この裁判外での請求では、請求をした日から6ヶ月以内に正式な裁判を提起しないと時効中断としての効力は認められません。したがって、たとえば、4年11ヶ月目に管理組合が内容証明郵便等で裁判外の請求をしていれば、請求後6ヶ月間は時効の完成を暫定的に止めることができますが、6ヶ月を過ぎるまでに訴訟を提起していないと、時効中断との関係では内容証明郵便による請求は何の意味もなくなります。

以上のように、発生日から5年を経過した管理費等は必ずしも時効消滅しているとは限りませんので、そのような物件を購入する際には、事前に管理会社や管理組合に問い合わせる等して時効中断事由の有無を調査しておくべきでしょう。

2 前の所有者が自己破産した場合の管理費の支払義務

前の所有者が自己破産をし免責決定を得た場合、破産決定日を堺に破産決定日までの管理費・修繕積立金については、管理組合は当該破産者に対して請求できません。破産決定日以降の管理費・修繕積立金については、管理組合は当該破産者に対しても請求できます。

では、中古マンションの新しい所有者は、前の所有者との関係では既に免責されている破産決定日までの管理費・修繕積立金についても、管理組合に支払う義務があるのでしょうか。

この点に関しては法も明確な規定をおいておらず、また、裁判例もいまだ出ていないようです。

この点、免責決定を得たことで、債務者に対しては強制的に請求できない債務を前の所有者から区分所有法8条により承継したに過ぎないと考えれば、新しい所有者は管理組合に対し支払う法的な義務はない(破産免責の効力を承継する)という考え方もあるでしょう。

しかし、以下のような理由から、前の所有者の下で破産免責された管理費等でも、新しい所有者との関係では管理組合に対し支払義務を負う可能性が高いと思われます。

 ① 管理費・修繕積立金の支払義務についての前所有者と新所有者との関係ですが、連帯債務又は連帯保証債務の関係にあるという説が有力です。これによると、連帯債務者又は主債務者の1人が免責を得たとしても、他の連帯債務者又は連帯保障人には免責の効力は及ばないことになりますので、前所有者が破産しても、前の所有者とは連帯債務の関係にある新所有者についても、免責の効力は及ばないとするのが理論的な帰結となります。

 ② 管理費・修繕積立金は、当該マンションの価値を維持する為に不可欠なものですが、新しい所有者が、従前適正に管理されることで維持され、又は、修繕積立金によって修繕されたマンションの価値を享受できるのも、これまでに他の区分所有者によって管理費や修繕積立金が毎月きちんと支払われてきた蓄積があるからです。しかし、新しい所有者のみがこのようなマンション維持・管理の利益を享受しながら、偶々前の所有者が破産免責されたという理由で新所有者はマンションの管理費・修繕積立金の支払義務を免れ、他方で、マンションの維持・管理の利益、そして、マンション修繕の利益を享受出来るというのは、極めて不公平な結果となります。その為、管理費・修繕積立金は、単に前の所有者の債務を引き継ぐというものではなく、区分所有権と一体となって承継される債務と解されます。そうすると、前の所有者が偶々破産をして破産免責を受けたかどうかに関わりなく、新しい所有者は、前の所有者から区分所有権を承継した以上、管理費等の支払い義務を負うべきことになります。

 ③ 一般に、破産免責された債務は、免責により消滅するのではなく、自然債務として存続はすると解されています。自然債務とは、債務者の方から任意に支払えば債務の弁済として有効となるが、債権者は債務者に対し強制的には支払を求めることはできない債務のことです。このように破産免責された債務は消滅するわけではないので、破産免責の効力が及ばない者に対しては、通常の債務として債権者からの請求に強制力が認められることになります。そして、破産法は、破産者の資力や破産者の社会経済的更生を企図して特別に破産者の為に認めた制度が破産免責の制度ですから、破産法の趣旨から考えても、この免責の効力を破産者ではなくマンションの新しい所有者にまで拡張して認める合理性はないことになります。

  以上のような理由から、いまだ裁判例が出ている事案ではありませんが、前の所有者との関係で免責を受けた管理費・修繕積立金でも、新所有者が支払義務を負う可能性は高いと思われます。

  従って、破産者が所有していた中古マンションを購入される場合にも、管理費等の滞納の事実があるかどうか十分調査した上で、購入する必要があると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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