弁護士 秋山亘のコラム

2019.09.10更新

借家契約に際しての注意点

 

 借家契約の成立後に貸主と借主との間で生じる様々な問題の中には、契約当初予想し得なかったものもあるでしょう。しかし、ある程度予想し得たものも少なからずあると思われます。予想できるものについては、その対応策を予め借家契約に盛り込むことが必要と考えます。以下では対応策として有効と思われるものについてご説明致します。

1 賃料相当損害金について

 契約が終了した後も借主が退去しないという問題については、借家契約の中に、通常の賃料よりも高い「賃料相当損害金」を盛り込むことで、借主に対し、「退去が遅れると高い損害金を払わなければならなくなる」という意識を持たせることが可能となると思います。なお、損害金としては、(あまり高額ですと公序良俗に違反する可能性もありますので)賃料の3倍程度が宜しいかと思います。

2 契約終了時の残置物の処分について

 契約終了後、什器物、備品等を残したまま借主が出て行ってしまうことがあります。このようなケースでは、貸主は、一日も早く残置物を処分したいが、他方、処分すると旧借主から残置物の所有権侵害を理由に賠償請求等を主張されるのではないかという問題に直面します。そこで、残置物の処理で悩むケースについては、「賃貸借契約終了時に、賃貸物件内に残された什器、備品類等一切のものについては、賃借人はその所有権を放棄したものとみなす」などの「残置物の放棄条項」を盛り込むことが有効かと思います。

3 蒸発をした際の対応について

 借主が蒸発してしまった場合、貸主は、適当な時期に契約を解除して、新たな借主を探すことを希望するでしょうが、契約解除の通知方法等で迷うことががあります。

(1) このような「借主の蒸発」に対しては、契約解除がしやすくしておくのが宜しいかと思います。具体的には、

①借主が長期不在の場合にはその旨賃主に対し通知する義務を課し、通知せずに長期不在、かつ、家賃の滞納のある場合には貸主の借主に対する契約解除の通知義務を免除する

②通知せずに長期不在、かつ、家賃の滞納のあるの場合は、借主が借家権を放棄したものとみなすことができることにする

③契約解除の通知方法は「発信主義」をとる(民法の原則は「到達主義」です)

等の条項を盛り込むことがよいかと思います。なお、①②については、慎重な運用が必要と思われます。

(2) なお、所在不明の借主との契約について、裁判所で「解除」を認めて貰おうとする場合があります。

この場合、旧民事訴訟法では、①裁判を起こす前に、裁判外で「公示送達」による契約解除の意思表示をする②①を経た上で、裁判所に対し、契約解除を求める裁判をおこすという2段階の手続を経る必要がありました。

 しかし、新民事訴訟法(法113条)では、訴状で契約解除の意思を明らかにすれば(換言すると「裁判手続の中で契約解除の意思を明らかにする」ということです)、事前に裁判外で公示送達による契約解除の意思表示をしなくともよくなり、契約解除が迅速に行えるようになりました。

4 期間内解約について

 借主が契約後期間満了前に解約することにより、貸主側が物件に対する投資を回収できないことがあります。このような貸主の不利益に対する対応策としては、

①期間内解約自体を制限する

②期間内解約については違約金を徴収する

③解約予告期間を長期にする

等が考えられます。

5 その他

(1) 連帯保証人について

(後日の紛争を回避するために、念のため)連帯保証人は、契約更新後の債務についても、継続して連帯保証責任があることを明確にしておくことが宜しいと思います。

(2) 裁判について

  借主に対し賃料不払い等の裁判を起こした場合を想定して

①貸主の住所地を管轄する裁判所を、「専属的裁判管轄」或いは「追加的裁判管轄」に定めておく

②「弁護士報酬等訴訟費用については敗訴者の負担とする」等の弁護士費用敗訴者負担条項を定めておく

ことも有効なことではないかと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

COLUMN 弁護士 秋山亘のコラム
FAQ よくある質問
REVIEWS 依頼者様の声