弁護士 秋山亘のコラム

2018.05.21更新

返還されない借地には底地売買で対応するのも得策


 Aさんは土地を300坪所有してそこに住んでいました。そして、土地のうち80坪を銭湯を経営しているBさんに貸していました。AさんはBさんに土地を貸してから20年の期限が来るので、明け渡して欲しいと申し出ましたが断られました。これ以降Bさんは地代を供託するようになりました。困ったAさんは弁護士に相談に行きました。
 弁護士は、
①明け渡しが認められるためには、
「契約期間が満了したこと」「借地人が契約期間経過後も使用している場合には速やかに返還請求をすること」「返還を求める正当な事由があること」の三つの要件を全て満たす必要がある。これらの要件のうち「正当な事由がある」と裁判所に認めて貰うのは容易ではない。
②裁判所は、賃貸人が返して貰わなければならない必要性と借地人が継続して使用する必要性を比較して判断する。具体的には、「死活にかかわる場合」「切実な場合」「望ましい場合」「わがままな場合」の四段階にわけて、当事者双方がいずれの段階なのかを見極めて判断する
③AさんとBさんの「必要性」を考えると、Aさんの必要性はせいぜい「望ましい」という段階であり、Bさんの必要性は「死活にかかわる」という段階と考え得る。裁判所で、Aさんに「正当な事由」が認められる可能性は低い
と説明しました。
 しかし、それにもかかわらず弁護士は「土地明渡し」の裁判を起こすことを勧めました。Aさんは弁護士より
①裁判の真の目的は「土地明渡し」ではなく、「土地(底地)をBさんに買って貰う」ことにある
②賃貸人の底地割合(三割)、土地の価格、現在の地代、預金利息などを考慮するとAさんとしては底地を売る方が得である
と説明され、裁判を起こしました。裁判では、土地の値段で難航しましたが、最終的には相応の金額で底地を売買することで和解が成立しました。
 地主は、土地が値上がりしたとしても賃料を上げるのはなかなか難しいのが現状です。また、更新料も法律的な権利とまでは言えません。
 Aさんのように更新時に底地を売却するというのも一考に値するのではないでしょうか。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.05.14更新

賃料の自動増額条項の有効性

 

(質問)

 私がバブル時代に締結した土地の賃貸借契約書には、「賃料は3年毎に改定され、改定毎に賃料は20%ずつ増額する」という条項があります。

 このような賃料の自動増額条項で賃料を改定していくと、近隣の時代相場に比べてもの凄い高額の賃料となってしまい、とても賃料を払い続けることはできません。

 私としては、現在の賃料は、このような自動増額条項によって、近隣相場と比較して高すぎると思うので、むしろ賃料の減額をお願いしたいくらいです。

何とかならないでしょうか。

(回答)

1 賃料自動改定特約

 賃貸借契約には、賃料が自動的に改定されるという趣旨の特約が定められていることがあります。    

特約のタイプとしては

①物価変動自動改定特約

②定額自動改定特約

③定率自動改定特約

④路線価変動自動改定特約

⑤固定資産税変動自動改定特約

などが挙げられます。

 この点、借地借家法第11条1項(旧借地法第12条)は、土地に対する租税その他の公課の増減、土地の価格の増減、当該地代が近隣類似の土地の地代に比較して不相当となった時など、経済事情の変動があった場合を「要件」に、当事者は将来に向かって地代等の額の増額を請求できると規定し、地代の増額請求権の要件を定めております。

ところで、一方、借地借家法第9条では、借地借家法は強行規定であり、借地権者に不利な内容の特約は無効であると規定しております。

 そこで、本件の自動増額条項のように、借地借家法第11条に定める要件を確認せずに当然に地代が増額するという内容の特約は、地代の増額請求ができる場合の要件を定めている借地借家法第11条1項に反し無効ではないかという問題が生じてきます。

 なお、上記の問題は、借家の場合にも、家賃の増額請求の要件を定めた借地借家法第32条(旧借家法7条)がありますので、同様に生じます。

2 裁判所の考え方

 賃料自動改定特約についての裁判所の考え方はどの様なものでしょうか。

 裁判所は、自動改定特約だからといって当然に無効とはせずに、当該特約を個々の事例にあてはめた結果、賃借人に著しく不利益であるという特段の事情がない限り特約は有効と考えている様です。

 この様に特約の効力は「当該賃借人に著しく不利益かどうか」という個々の事情により判断されます。

最高裁判所昭和44年9月25日は「固定資産税変動自動改定特約」について、特約条項としては有効であると認めつつ、「当事者の意思は、契約当時存在した事情と著しく異なる場合にも、その基準によるという意思ではない」として、特約の適用を制限しました。右の裁判例は、「賃料」の相当性を判断する際に、個々の事案において「具体的に考える」という裁判所の基本的姿勢を示したものと思われます。

 よって、裁判所は、バブルの時期に定めた基準を機械的に当てはめることはせず、契約で定めた基準を適用して妥当なものについて、自動改訂条項を認めているものと言えるでしょう。

したがって、賃料の自動改訂条項があっても、新賃料が著しく高額となり妥当とは思われないような場合は、貸主と交渉をしてみる必要があるでしょう。

 本件でも、バブル期に締結された賃料を更に3年ごとに20%も増額するという特約ですので、元々の賃料を特に安く定めていたというような事情がない限り、自動増額条項に従った賃料増額は認められない可能性が高いでしょう。

3 賃料減額請求の可否

では、賃料の自動増額条項がある場合には、賃借人が賃料を逆にに下げて欲しいと請求することは一切出来ないのでしょうか。

 この点も、自動増額条項が存在しても、借地借家法11条、32条による賃料減額請求権を一切排除することはできません。仮に、賃借人の借地借家法11条、32条に基づく賃料減額請求を一切認めないという条項があれば、それは無効です。

 実際の裁判例でも、賃貸人が自動増額条項に基づいて賃料増額請求をしたのに対し、賃借人が賃料減額請求の反訴をした事例で、賃借人の方の賃料減額請求が一部認容されているものがあります。

 本件でも、裁判で減額される見込みまであるかは別として、賃貸人と減額の交渉をしてみる価値は十分にあるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.05.07更新

土地・建物の共有状態を解消する方法はどのような方法がありますか。

 

(質問)

 私が住んでいる自宅の土地建物は、私、兄、姉の共有名義になっているのですが、私の相続の時に所有関係が複雑にならないように、できるだけ早く共有状態を解消しておきたいと思っております。私としては、自宅の土地建物は私の単独所有として、他の共有者には、持ち分に応じて代償金を支払おうと思っております。

法的にはどのような方法があるのでしょうか。

(回答)

1 共有物分割協議

共有物分割の協議(共有者全員の合意)が成立すれば、共有物不分割特約がある場合を除き、共有関係をいつでも解消できます。 

この場合に共有関係を解消する方法としては、以下の3つの方法が考えられます。

①現物分割

 例えば土地を3筆の土地に分割するように、共有物そのものを分割するやり方です。

 しかし、建物の現物分割は事実上不可能ですし、土地上に建物が目一杯建っているという場合にも土地の現物分割は困難でしょう。

②代金分割(換価分割)

 これは、土地やマンションを売却し、その売却代金を持分に従って分割するものです。現物分割が困難な場合にはこれによることが多いです。

③価格賠償

 価格賠償とは、例えば、共有物を一人の共有者の単独所有にする代わりに、他の共有者には共有持分相当分の金銭を支払って、共有物を分割する方法です(これを「全面的価格賠償」といいます)。

 また、この方法によれば、ABCと共有者がいる場合に、共有者Aのみを廃除したい場合には、Aのみに価格賠償をして、BCは共有状態のままにしておくこともできます。

 また、現物分割をした場合には、土地の現物分割ですと、土地面積を3等分したとしても土地をどのように分割するかで必ずしも平等な分割ができない場合があります(例えば、ある土地をA地B地C地に三等分した場合にも、A地のみが角地で道路に面しており好立地の場合は、B地C地を配分されるものは面積が同じでも納得できない場合もあるでしょう)。

 このような場合、各土地の実際上の価値を調整する為に、前記のA地を配分されたものが、B地C地を配分されたものに調整金を支払うという方法が取られます(これを「部分的価格賠償」といいます)。

3 共有物分割の裁判

では、共有者間に合意が成立しない場合にはどうすればよいのでしょうか。

この場合、共有物分割の裁判を請求できます(民法258条1項)。

共有物分割協議の場合、前記①から③の方法のいずれを採用するのも自由ですが、共有物分割請求の裁判の場合には、現物分割が原則です。

代金分割は、現物分割だと目的物が毀損したり、その価値が著しく減少したりする場合にのみ認められます(例;マンション1室の共有)。この場合は、裁判所の競売手続によって目的物を現金に換価した上、代金分割をします(民法258条2項)。

なお、共有物分割請求の裁判の場合に、代金分割ではなく価格賠償と言う方法が認められるかについては、民法には明確な規定がないのですが、判例上一定の要件のもと認められています(最判H8,10,31は、全面的価格賠償については、①共有物の性質等の事情を総合考慮し全面的価格賠償の方法が不公平とならないこと、②持分価格が適正に評価されていること、③取得者(賠償者)に支払い能力があることを条件に認めています)。

4 本件では、まず、当事者同士で、話し合うべきでしょう。

  その上で、代償金の金額にどうしても折り合いが付かない場合や他の共有者が共有物の分割に応じない場合には、裁判による解決になります。

  裁判による解決の場合、あなたは、その土地建物で長年住んでいたと言うことですので、代償金の額が適正であり、かつ、あなたに代償金の支払い能力(現金)がある場合には、他の共有者に代償金を支払う代わりに、土地建物をあなたの単独所有とする共有物分割の裁判も認められるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.05.01更新

法定地上権の法律問題

 

<質問>

(1) 当社は、ある競売物件で土地の購入を検討しております。しかし、この土地上には建物が立てられており、建物には抵当権がついていなかったため、土地のみが競売に出されています。

 このような場合、建物には法定地上権が成立してしまうのでしょうか。 

(2) 当社は、X社に対しお金を貸しましたが、その際、X社が所有する更地Aに抵当権を設定しました。その後、X社はA土地に建物を建ててしまいました。

 このような場合、法定地上権は成立するのでしょうか。法定地上権が成立しないとしても、土地だけの競売であると他人所有の建物が建っているというだけで、競売価格が下がってしまうのではないかと心配です。どうにかならないでしょうか。

<回答>

1 (1)について

 法定地上権(ほうていちじょうけん)とは、競売の結果、建物所有者と土地の所有者が異なってしまった場合に、一定の要件のもとで建物所有者に地上権(土地の使用権)の設定を民法が認めることで、建物の存続を保護し、建物の撤去・取り壊しによる社会的損失を避けるという制度です。

民法388条では、法定地上権が成立するための要件として、①抵当権設定当時、土地の上に建物が存在していたこと、②抵当権設定当時、同一人がその土地及び建物を所有していたこと、③土地と建物の一方又は双方に抵当権が設定されて競売の結果別々の所有者に所有されるようになったこと、という3つの要件を設けております。

 したがって、本件では抵当権の設定登記が行われた時に、当該土地上に建物が存在したか否かによって、当該土地に法定地上権が成立するか否かが決まります。

 抵当権設定当時にはいまだ建物が存在しなかったという場合には法定地上権は成立しませんので、土地の競売の結果、建物所有者は無権限で他人(競落者)の土地の上に建物を建てていることになりますので、競落人は、建物所有者に対し、建物の収去・明け渡しを求めることになります。

したがって、競落人としては、建物の収去・明け渡しの裁判費用や建物の取り壊し・撤去費用は自己負担になる可能性が高いことを覚悟した上で競売に参加する必要があります(建物の取り壊し・撤去費用については、建物所有者に請求することが出来ますが、競売にかけられている債務者なので支払能力がないことが殆どかと思われます)。

2 (2)について

 このようなケースでは、前記1で述べたとおり法定地上権は成立しません。

 しかし、前記1でご説明しましたように、土地だけを競売で競落した人は、建物の収去・明け渡しを求めて、建物所有者に対し裁判をしなければならなくなり、また、建物の取り壊し費用等もかかることから、競売の落札価格は安くなる傾向にあります。

 このような場合に備えて、民法389条は、法定地上権が成立しない建物と土地を一括して競売に付すことを認めております。

 この一括競売の結果、土地と建物が落札されると落札代金のうち、土地の代金部分だけが抵当権の実行として抵当権者の債務に優先的に充当されます。

これに対し、建物の代金については、他に残債務が残っていれば通常の配当手続きの中で配当要求をすることにより、一般債権者と同等の立場で配当されます。配当要求をする債権者がいなければ建物の所有者に還付されます。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.04.23更新

マンション管理費の一部弁済と時効中断の範囲

 

<質問> 

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしておりますが、ある区分所有者の方で管理費を4年11ヶ月間滞納している方がいます。管理費の時効期間である5年の経過を間近にして、強く督促したところ、その方は1ヶ月分だけ支払って来ました。

債務の一部弁済も時効の中断事由にあたると聞いておりますので、もうしばらく訴訟の提起を見合わせたいと思っております。

時効の点は大丈夫でしょうか。

<回答>

 本件で問題となっているマンションの管理費は、民法169条所定の定期給付債権に該当することから5年の時効期間に服します(最高裁判所平成16年4月23日判決)。

 ところで、マンションの管理費のように毎月定期的に発生する債務に関して、その1ヶ月分のみが支払われた場合において、債務の一部弁済として滞納期間全体(本件では4年11ヶ月分)の債務について時効中断の効力が及ぶのか、それとも個々の債務は別個独立の債務であることから残りの滞納期間の債務には時効中断の効力は及ばないと考えるのかが問題となります。

 この点、医師会に入会後規約に基づき毎月定期的に発生する医師会会費の時効が問題となったというマンション管理費の滞納と類似する事案において、判例(大審院昭和16年2月28日判決)は、一年のうち4月分・5月分の会費を支払ったとしてもそのために同年度の他の未払会費の支払義務があることをも承認したものとは認定出来ない、として残りの滞納期間の債務には時効中断の効力が及ばない立場を明らかにしております。

 したがって、本件においても、1ヶ月分の管理費が支払われたからと言って、他の滞納期間の債務を承認したことにはならないと考えられます。

 そのため、本件において時効の成立を防ぐためには、①残りの滞納期間の債務について5年の時効期間が経過する前に訴訟を提起する(5年が経過する前に取りあえず内容証明郵便を送付して6ヶ月以内に提訴する場合も含む)、②残りの滞納期間の債務について滞納債務の総額と滞納期間を明示の上債務者がこれを承認する旨の債務承認書を債務者から取得する、或いは、③残りの滞納期間と滞納債務の総額を明示の上これを分割弁済する旨の分割弁済書を債務者から取得する、という方法によって時効中断の措置を取っておく必要があります。

 なお、②③について、しばしば口頭での遣り取りだけで済まされがちですが、口頭の遣り取りだけでは後に立証することが困難となりますので、書面の取り交わしは必須と言えます。

また、③の場合には、「期限の利益喪失約款」を付する場合がありますが、この場合には、「相手方の○回分の滞納により当然に期限の利益を喪失する」と記載されている場合には、相手方の○回分の滞納により期限の利益を喪失した時から5年間で、債務承認をした全体の残債務について時効になります。 

                       

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.04.16更新

借地の無断転貸に関する法律相談

 

<質問>

 私(以下「A」)は、ある借地に私名義の建物を建てて、以後十数年にわたり呉服店を営んで来ました。その後、数年前に、税金対策のため、個人で営業をしていた呉服店を株式会社(以下「B社」)に組織変更し、建物の名義も会社名義にしました。なお、会社の株式は80%を私が出資し、残りの20%の株式は妻と子の名義にしました。3名の会社役員については、私が代表取締役になり、妻と弟に名義だけを借りることにしました。

 そうしたところ、先日、地主から内容証明郵便が届き、建物の名義が個人から会社に代わっていることから、借地権の無断譲渡にあたるという理由で、借地契約の解除と土地の明け渡を求められました。

 このような場合、借地権の無断譲渡に当たってしまうのでしょうか。

<回答>

1 第三者に無断で借地権を譲渡することは借地契約の解除事由(民法612条2項)とされております。

 したがって、借地権を譲渡するには事前に地主の承諾を得なければなりません。地主の承諾を得ることが困難な場合には、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可の審判を申し立て、裁判所の許可を得てから譲渡することになります(借地借家法19条)。

2 本件のように、借地上の建物所有権の名義を個人から法人に変更(譲渡)した場合には、これに伴い借地権も当然に譲渡したと見なされると言う法理がありますので、これにより本件の借地権も法人に譲渡したものと見なされます。

 そうすると本件のような事案では、借地権の無断譲渡があったものとして、地主に借地契約の解除権が発生するようにも思えます。

3 しかし、最高裁昭和28年9月25日判決(民集7・9・979)は、建物の無断転貸の事例で、「賃借人が賃貸人の承諾なく、第三者をして建物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合には、賃貸人の解除権は発生しない」旨判示しております。 

そして、上記判例を受けて、最高裁昭和38年10月15日判決(民集17・9・1202)は、借地上にあった僧侶個人名義の建物所有権が宗教法人の名義へ地主に無断で変更されたという事案で、「借地の利用関係に実質的な変化はない」という理由で、背信行為なしとして地主の解除権を否定しております。

4 本件においては、①B社の代表取締役が元借地人のAであり、他の取締役もAの親族であること、②B社の株主も80%がAであり、残りの20%もAの家族であること、③B社の営業内容もAが長年行っていた呉服店であることからすれば、呉服店を法人化した後も当該借地の利用形態に実質的な変化はなかったものと考えられます。

したがって、本件のような事案では地主の解除権は否定されるものと考えられます。

最高裁昭和43年9月17日判決(判時536・50)も、本件と類似の事案において「借地人と地主との信頼関係を破壊するような背信行為とは言えない」という理由で、地主の解除権を否定しております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.04.09更新

商人間の売買には買主の検査義務があります

 

<質問>

(1) 当社は、X社から当社製品の原材料なる輸入小麦粉5000袋を仕入れましたが、年末の拡大生産のために、仕入れた原材料の数量検査をすることなく、3か月間放置してしまいました。年が明けて生産も落ち着いてきたところで、仕入れた原材料の数量を検査したところ、4500袋しかなく、500袋足りない状態でした。

 そこで、X社に500袋足りない旨を通知しましたが、X社は納品時には間違いなく5000袋納品したはずだ、納品時に数量を確認しなかった当社に非があるとして取り合ってもらえません。

500袋の不足があることを証明できれば不足分の引き渡し請求はできるのでしょうか。

(2) (1)の事例で、納品時にきちんと棚卸検査をし、仕入品の数量は正しかったのですが、納品時から約10か月後に食料品の安全性の検査を受けたところ、仕入れた小麦粉には基準値を超える残留農薬が含まれており、商品として使い物にならないことが分かりました。

このような場合、瑕疵担保責任を理由にした売買契約の解除はできるでしょうか。

 

<回答>

(1) 質問(1)の回答

商法第526条1項では、商人間の売買契約に関して、買主が目的物を受取った時は、遅滞なくこれを検査し、目的物に瑕疵又は数量不足があることを発見した時は直ちに売主に対してその通知をしなければならず、買主がこの検査・通知義務を怠ったときは、目的物の瑕疵あるいは数量不足による損害賠償請求、代金減額請求あるいは契約解除ができなくなると定められています。

 本問の場合、会社間、すなわち商人間の売買契約ですので、商法第526条1項の適用があります。

したがって、買主には納品後遅滞なく商品の数量を検査する義務がありますので、本問のように納品時から3か月も商品の数量の検査を怠っていた場合には、たとえ500袋の不足を証明できたとしても、商法第526条1項により、不足分の請求はできなくなります。

もっとも、商法第526条2項は、目的物に瑕疵又は数量不足があることについて売主に悪意があった場合(知っていた場合)には、1項の適用はないと規定されております。

したがって、500袋の不足があることを売主が知って納品したことを証明できる場合には、売主に不足分の引き渡し請求をすることができます。

(2) 質問(2)の回答

商法第526条1項では、目的物に直ちに発見できない瑕疵(隠れた瑕疵)がある時でも、買主は目的物の引き渡し時から6ヶ月以内に瑕疵を発見して売主に瑕疵担保責任の請求をしないと瑕疵担保責任の請求はできなくなる旨を定めています。

したがって、本問の場合には納品時から10ヶ月が経過しておりますので、買主は瑕疵担保責任による契約解除はできません。ただし、売主において目的物に瑕疵があることを知って納品したことを証明できれば、商法第526条2項により、瑕疵担保責任による契約解除はできます。

このように商人間の売買契約においては、取引の迅速性が特に重視されており、買主側の検査義務、瑕疵担保責任の行使期間の制限などが商法で定められています。

買主側としては、このような商法526条1項の規定を念頭に売買契約を締結しなければなりません。商法526条1項の規定は任意規定です。売買契約書において事前に「本件契約においては商法526条1項を適用しない」との条項を設ければ適用を排除できますので、検討されることをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.04.02更新

無催告解除特約による解除

 

<質問>

 賃貸借契約書に「1ヶ月分の家賃の滞納があった場合には、賃貸人は直ちに契約を解除することができる」(無催告解除特約)或いは「1ヶ月分の家賃の滞納があった場合には、当然に契約が解除される」(失権約款)がある場合に、このような規定に基づいて、賃借人の1ヶ月分の家賃の滞納を理由に賃貸人が契約を解除することは可能でしょうか。

<回答>

1 賃貸借契約解除の要件と手続き

一般に、契約を解除するには、相手方に債務の履行を催告し、その催告期間内に債務の履行がない場合に解除できるのが原則です。具体的には、配達証明付内容証明郵便などで「本書面到達後、5日以内に滞納賃料○○円を支払って下さい。万一、支払いがなければ上記催告期間の経過をもって、本契約を当然に解除します。」と通知するのが一般的です。

また、賃貸借契約のように継続的な法律関係を前提とする場合、契約の解除をするには、単に軽微な契約違反があるというだけでは足りず、当事者間の信頼関係が破壊していると見られる客観的な事情が必要(信頼関係破壊の法理)とされています。具体的には、1~2ヶ月分の賃料の滞納があったというだけでは足りず、3ヶ月分以上の賃料の滞納が必要と考えられ、また、一度はその支払いを催告しても支払いが全くなされないという事情が必要でしょう。

2 無催告解除特約

 ご質問の無催告解除特約は、上記の原則に対して、賃借人に対し、一定期間内に債務を履行するよう催告する手続きを要せずに、直ちに契約を解除することができるという特約です。失権約款との違いは、催告は不要でも解除通知は必要になりますので、解除通知が賃借人に到達するまでは賃貸借契約は終了しません。

 このような無催告解除特約の有効性に関して、判例は、前記の信頼関係破壊の法理を準用して当然に有効とはせず、「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合」にのみ有効としております(最判昭和43年11月21、民集22・12・2741)。したがって、例えば、1ヶ月の滞納で無催告解除が出来るとされている場合でも3ヶ月分以上の家賃の滞納がある場合、又は、1ヶ月~2ヶ月の滞納を頻繁に繰り返しており、賃貸人からもそれなりの解除に向けた警告が発せられている場合に無催告解除が有効になると考えられます。

3 失権約款

 上記の無催告解除特約をさらに推し進めて、一定の解除事由の発生をもって解除通知さえ要せず当然に契約が終了するというのが失権約款です。

 この失権約款の有効性に関して、判例は、上記の無催告解除特約よりも更に要件を厳しくして「当事者間の信頼関係が賃貸借契約の当然解除を相当するまで破壊された場合にのみ有効」としております(最判昭和51年12月17日民集30・11・1036)。

 したがって、失権約款が認められるのは、例えば、1ヶ月分の賃料の滞納があるだけでは足りず、例えば、賃料の滞納が半年~1年とある程度長期に渡るなどの場合に限られます。

そのため、賃貸人としては、失権約款は、あくまでも、賃借人に対し「家賃を1ヶ月でも滞納すると当然に解除されるかもしれない」という心理的効果を与えるための条項として理解し、実際に契約を解除する場合には、通常通り、家賃の支払いを最低一度は催告して、それでも支払いがない場合に解除通知を出すという手続きを踏んだ方が無難だと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.26更新

契約社員の人員整理と解雇権濫用法理の類推適用 


<質問>
 当社には,正社員45人,契約社員5人がいます。契約社員Aの契約期間は半年間で,これまでに5回の更新を経て,もうすぐ丸3年が経とうとしています。
 しかし,昨今の不況の影響もあり,わが社の経営状態は思わしくなく,このたび,経費削減の一環として人員整理を行うことにし,Aについては次回の更新をしないこととしました。これにつき何か問題はあるでしょうか。

<回答>
 契約社員など,一定の期間の定めのある労働契約(有期労働契約)が締結されている場合,その契約は,期間の満了とともに終了するのが原則です。したがって,正社員を解雇する場合と異なって,解雇予告など,何らかの手続を採らなければならないというわけではありません。
 しかし,有期労働契約の終了(いわゆる雇止め)については何の法的規制も及ばないというわけではありません。労働契約法16条は,正社員の解雇について規制していますが(いわゆる解雇権濫用法理),有期労働契約についても,一定の場合には同条が類推適用されると考えられています(最判昭49・7・22民集28・5・927,最判昭61・12・4労判486・6など)。
 解雇権濫用法理が類推適用される有期労働契約であるか否かについては,①職務内容の恒常性・臨時性,②勤務実態の正社員との同一性・近似性,③有期雇用労働者の基幹性・臨時性,④更新手続の態様・厳格さ,⑤雇用継続を期待させる使用者の言動・認識の有無,⑥ほかの労働者の更新状況,等を総合考慮して,有期雇用労働者の雇用継続に対する期待が法的保護に値するレベルに達しているか,という観点から判断されます。具体的事情によって大きく左右されますが,次の3つの類型のうち,どれに当てはまるかを第1次的な判断材料にすると良いと思います。
 第1は,「実質的に無期契約と同一」タイプです。これは,期間の定めが形骸化しており,実質的には期間の定めのない労働契約と異ならない状態であると認められる場合です。何度も更新をしている場合で,その更新手続が形骸化しているような場合が典型です。
 第2は,「有期雇用であるが解雇規制を類推する」タイプです。第1の類型と異なり,期間の定めや更新手続が明確なため,無期契約と同視することはできないけれども,前記①~⑥を考慮した結果,雇用継続の期待が高いと判断される場合です。雇止め規制の本来的対象となるような類型といえるでしょう。
 第3は,「当然終了」タイプです。期間雇用であって当然には契約が更新されるものではないことを労働者も十分認識しており,更新手続も厳格になされているという場合にはこの類型に該当するといえるでしょう。この類型に該当する場合には,解雇権濫用法理の類推適用はありません。
 Aさんについても,前記①~⑥の考慮要素次第では,第1または第2の類型に当たる可能性があります(更新手続の厳格さ,Aさんの担っている職務の重要性,更新を期待させるような言動が有ったか等がポイントになるでしょう)。その場合には,解雇権濫用法理が類推適用されますので,人員整理目的での雇止めについては,整理解雇の4要件を満たす必要があります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.19更新

マンション管理費の回収方法

 

(質問)私は現在マンションの管理組合の理事長をしております。現在管理費を長期間滞納者がいて困っています。何か有効な方法はありませんか。また、管理組合は管理会社に管理を委託していますが、管理会社は回収する責任がないのでしょうか。
(回答)多くのマンションで長期滞納者を抱えており、困っています。通常は、裁判をして、判決に基づき差押えをして回収します。
 長期滞納者がマンション以外に財産を有していることが分かっている場合は、裁判をし、判決に基づいてその財産を差押えをすることになります。その区分所有者が他の第三者にマンションを貸している場合は、その家賃を差し押さえることができあます。取引銀行が分かっていれば預金を押さえたり、また、給与所得者の場合は一定額の給料を差し押さえることもできます。
 ところで、「建物の区分所有等に関する法律」では、管理費や修繕積立金債権については当該区分所有建物やそこに備え付けた動産については、先取(さきどり)特権(とっけん)という担保権があると規定しています。裁判をやらなくても、直接管理費や修繕積立金があることを示す文書(管理規約等)を提出すれば競売ができます。しかし、区分所有建物の競売の申立てをするには、予納金等が80万円以上かかり(後日返ってきます)、余り利用されていないようです。
 また、「建物の区分所有等に関する法律」では管理費等を支払わずにそのマンションを売却した場合には、買い主に滞納管理費を払うよう請求ができると定められています。競売で競落した人に対しても請求できます。管理費を長に滞納している人は視力がないことが多く、住宅ローンを抱えていれば、そのうちマンションが競売になることがあります。これを待って、新所有者に支払ってもらうのも一つの方法です。
 ところで、管理費の消滅時効は5年です。時効にかかってしまった分は、新所有者が時効の援用をすれば請求ができなくなります。時効が近い場合は、本人から管理費等を滞納していることを認める念書を取るか、裁判をしておくことが必要になります。
 管理会社が回収という結果まで責任を負うかということですが、そこまでは責任がありません。通常の取立業務については責任がありますが、任意に支払わない場合は、管理会社としてもやりようがありません。管理会社は、滞納があることを管理組合に通知すれば、その任務を終えます。後は管理組合が裁判などをして回収することになります。管理会社は裁判の原告となることもできませんし、管理組合の代理人となることもできません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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