弁護士 秋山亘のコラム

2019.09.18更新

借地借家更新拒絶と正当事由

 

 

借地契約の契約期間の満了により地主から明け渡しを求められているのですが

(質問)

 私は、現在借りている土地に建物を建てて飲食店を経営しておりますが、先日、地主から借地の賃貸借契約の期間が満了するとして、土地の明け渡しを求められました。

地主は、明け渡しの理由として、当該土地を更地にして賃貸目的のビルを新たに建設する予定であると述べております。

私としては、相当額の補償があれば、立ち退きはやむを得ないと思っておりますが、地主側は、自己使用の必要性に基づく契約の更新拒否なので、立退料を支払う必要はない、多少の金額なら支払っても良いがそれも判子代程度に過ぎないと言っております。

法的にはどうなのでしょうか。

(回答)

 借地法4条、借地借家法5条では、賃借人が土地の使用を継続しているにも関わらず、賃貸人側が更新を拒否するには「正当な事由」がなければならないとしております。

 「正当な事由」とは、一般に、賃貸人側が借地を自己使用する必要性の程度と借地側の自己使用の必要性の程度の比較衡量を中心的な判断要素とし、補完的な判断要素として、賃貸借関係に関する従前の経緯(賃料の滞納の有無など信頼関係を傷つける事情があったか、権利金・更新料などの支払いの有無、これまで賃料額が相場からして低く押さえられていたかなど)、土地の利用状況(借地上の建物老朽化の程度、周囲の土地でも高層ビルが建設されるなど土地の有効利用がされているか)、財産的な給付の有無・その金額の相当性(立ち退き料の提供金額)などを総合考慮して、決められます。

 もっとも、殆どのケースでは、賃貸人が土地を自己使用する必要があるというだけでは正当事由ありとは認められず、相当額の立ち退き料の支払いと引き替えに、正当事由があると判断されます。

もちろん、賃貸人側の自己使用の必要性があまり高度とは言えないケースでは、いくら立ち退き料の支払いを提供しても正当理由がないと判断される場合もあります。

なお、当事者間で合意がまとまらない場合には、借地非訟事件手続きで、裁判所が正当事由の有無の判断や幾らの立ち退き料の支払いがあれば正当事由ありとして土地の明け渡しを認めるかを判断します。

 そこで、幾らをもって立ち退き料として相当な額と認められるのかですが、これは、前記のような事情を総合考慮して決められます。賃貸人側の自己使用の必要性が不可欠であり、賃借人側の必要性が乏しいとして立ち退き料がゼロとなるケースから、借地権価格相当額を立ち退き料とするケース、借地権価格の何割かを立ち退き料と認めるケース、他の代替地の購入相当資金を立ち退き料と認めるケースなど事案の性格に応じて個別的に判断されます。

例えば、賃借人側が借地の使用を継続する必要性としては、当該借地で長年事業を営んでおり他に土地を所有していない場合には、賃借人の使用の必要性は高いと言えるでしょう。これに対して、賃貸人側の事情としては、例えば、単に土地を有効利用して収益を上げたいという場合や相続税の支払い、物納に充てたいという場合には自己使用の必要性が高いとは言えないでしょう。従って、このような場合、過去の裁判例に照らすと、正当事由があると認められるとしても、借地権価格相当額(通常は更地価格の60%~80%)の立ち退き料の支払いと引き替えに土地の明け渡しが認められる場合が多いと思われます。

本件につきましても、相当額の立ち退き料が支払われてしかるべき事案ですので、専門の弁護士等に相談することをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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