弁護士 秋山亘のコラム

2018.07.09更新

建物賃貸借と敷地利用権の範囲

 

<質問>

1 私は一軒家を自宅として借りて住んでおります。家の前には、車2台分のスペースの空き地があったため、その空き地を庭にして小さな家庭菜園に利用しておりました。

そうしたところ、貸主から、敷地は契約書上賃貸借の目的物にはなっていから、今後は駐車場にして第三者に貸したいので、庭部分の敷地を返して欲しいと言ってきました。

貸主の主張は正しいものなのでしょうか。

2 私は、ある貸ビルの1室を飲食店利用の目的で借り、レストランを開いております。営業時間中は店の前のビル敷地部分に可動式の看板を置きたいと思いますが、貸主は認めてくれません。どうしても看板を出したいならば看板料を支払うよう言われております。

 なお、賃貸借契約書では、店の前に看板を出すことは禁止されておらず、また、看板もよくある飲食店用の小さな立て看板で特に通行の障害になるようなものでもありません。

 貸主の言うとおり看板を出すことはできないのでしょうか。

<回答>

1 質問1について

借家人は、敷地を利用せずに建物に居住することは不可能ですので、一般には、「住宅に使用するための家屋の賃貸借において、その家屋に居住し、これを利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用が随伴することは当然である」(東京高判昭三四・四・二三下民一〇・四・八〇四)と考えられています。

したがって、建物の賃貸借契約書に賃借物の範囲が明記されていなくても、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」は、建物の賃借権に含まれていると解されます。

もっとも、どの程度の敷地利用が「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」といえるかは、いちがいには言えません。契約の目的、趣旨、賃料の決め方、貸した当時の建物や敷地の形状、賃貸人が黙認していた賃借人の利用方法などの事情を総合考慮して決められることになると思われます。

質問1のように、住宅用の一軒家の賃貸においては、駐車場2台分程度のスペースを、庭として或いは駐車場として、借家人が使用することは、当然、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」といえます。

したがって、前記の敷地部分も建物の賃借権の範囲に含まれていると解せますので、貸主の主張は誤っていると言えます。

 これに対し、仮に、建物の前の空き地スペースが建物と同じくらいの広さで、駐車場10台分もある場合には、当該部分の敷地面積を考慮して建物賃料を決めたなどの特段の事情がない限り、その全部が「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」とは言えないと思われます。「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」と言えるのは、庭としてのスペース部分(駐車場1台分程度)及び家庭用自動車の駐車場1、2台部分に限られるでしょう。

2 質問2について

質問2の問題についても、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」と言えるかがポイントになります。

基本的には、飲食店を開いて営業している以上、客を呼び寄せるために店の前の入口に看板を出すことは必要不可欠のこととも考えられます。

したがって、営業時間内に可動式の看板を出すことは「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の利用」にあたり、看板を出すことは建物の賃借権の範囲内と言える可能性が高いでしょう。まずはこの点を貸主に十分説明して話し合うことが肝心です。

 但し、賃貸借契約書で看板を出すことを明確に禁止している場合、看板を置く場所が避難通路に指定されているなどして消防法上看板を置くことが違法になる場合には、看板を出すことは出来ませんので、注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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