弁護士 秋山亘のコラム

2018.09.03更新

立退交渉の代理と弁護士法第72条違反の問題

 

<質問>

宅建業者が建物の所有者の依頼を受けて、賃貸借契約の期間満了に伴い更新契約の締結を拒絶するとして、当該建物に住み続けたいと希望する建物賃貸借契約上の賃借人に対し、立退交渉を行うことは弁護士法違反になるのでしょうか。

また、立退交渉の依頼を行政書士或いは司法書士に対し依頼することは可能でしょうか。 

<回答>

1 宅建業者に依頼することの可否

弁護士法第72条は、弁護士資格のないものが報酬を得る目的で法律事件を取り扱う業務を行うことを禁止しております。これに違反した場合には「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に処されます。

ところで、建物の立退交渉は、賃貸借契約に関する借地借家法第28条の更新拒絶の正当事由の有無や立退料の要否やその額をめぐる高度な法律的判断を要する事柄ですので、法律事件に該当します。また、上記のような立退交渉は、更新拒絶の正当事由があるとする賃貸人側の主張と正当事由がないとする借家人側の主張の対立を当然の前提にしたものですので、法律事件としての事件性の要件も満たすと考えられます。

しがたって、弁護士以外のものが報酬を得る目的で立ち退き交渉を行うことは、弁護士法第72条違反に該当しますので、宅建業者であっても報酬を得る約束の下で、建物所有者の依頼を受けて立退交渉を代理することは出来ません。

最近でも「スルガコーポレーション事件」として報道されましたように、弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で建物の立退交渉を行ったとして弁護士法72条違反の罪により逮捕され、有罪判決を受けているなど、弁護士法違反での取り締まりは厳しくなっていると考えられます(もっとも、上記のスルガコーポレーション事件では、立退交渉を行ったのが暴力団関係の会社であり、立退交渉の過程においてビルの電気水道等の設備をストップしたり、ビルでお経を唱えたりするなど賃借人に対する悪質な嫌がらせが頻繁に行われていたこと、また、スルガコーポレーションから立退報酬としてその会社に数十億円もの規模で金銭が流れたとされており、この辺の事情が警察による逮捕・起訴という厳しい取り締まりにまで発展した原因になっていると考えられます)。

これに対して、報酬を得る目的なくして、立退交渉を行うことは弁護士法違反の問題は生じません。

ただし、事前に専任媒介契約を結ぶなどして、立ち退き・建て替え後のアパートの賃貸借に関する仲介業務を独占的に行うことを約して、立ち退き交渉を行うといった場合には、報酬を得る目的があると見なされる可能性があるため、弁護士法違反の問題が生じる可能性が高いと思われます。

2 行政書士への依頼の可否

次に、立退交渉を行政書士に依頼することの可否ですが、これについても、弁護士法第72条に違反することから出来ません。

行政書士は、文書の作成の代理をすることは可能ですが、依頼者の代理人となって相手方と直接交渉したり、あるいは、相手方の回答書を受け取ったりすることはできません。

仮に、行政書士が本人の代理人としてこれらの行為を行うと弁護士法第72条違反の罪に該当します。

近時は、あたかも弁護士と同様、依頼者から立退交渉や立退料の額などに関する専門的な法律の相談を受け、依頼者の代理人として行動できるかのような宣伝を行っている行政書士もおりますが、そのような行為は弁護士法第72条違反に該当する違法な行為になります。

各地の弁護士会においても、これら弁護士法違反の行為を行う行政書士を告発する事例が増えております。

3 司法書士への依頼の可否

次に、司法書士に法律事件を依頼することの可否ですが、これについては、訴額140万円までの事件であれば、簡裁代理権を有する認定司法書士に対し、そのような事件の依頼をすることは可能です。

 しかし、立退交渉の事件は、賃借人が主張する立退料の額が140万円以上になるケースが殆どではないかと思われますので、殆どのケースでは上記の要件を満たさないのではないかと考えられます。

したがって、やはり立退交渉事件に関しては、代理人として司法書士に依頼することは弁護士法第72条違反の問題が生じる可能性が高いと思われます。

加えて、立退交渉の事件は、借地借家法第28条の正当事由の具備の判断、立退料の提供の要否、妥当な立退料の額の算定など、専門の弁護士でも判断をすることが困難な高度に専門的な法律的判断を伴う事件です。

家主としては、借地借家法の法解釈や判例に精通していない専門家に依頼したために、本来、立退料の提供の必要がない或いはごく低額の立退料の提供で立退請求が可能な事案で高額の立退料を支払ってしまうという場合、賃借人としても本来より多くの立退料の提供を求められるのに低額の立退料で立ち退きに応じてしまうといった場合もあると思われます。

この点からしても、司法書士への依頼は、立退請求事件などのように高度に法的な判断を要するような事件においては、事件処理能力や裁判例の十分な理解など法的な知識の観点からして、適切ではないように考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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