弁護士 秋山亘のコラム

2018.04.16更新

借地の無断転貸に関する法律相談

 

<質問>

 私(以下「A」)は、ある借地に私名義の建物を建てて、以後十数年にわたり呉服店を営んで来ました。その後、数年前に、税金対策のため、個人で営業をしていた呉服店を株式会社(以下「B社」)に組織変更し、建物の名義も会社名義にしました。なお、会社の株式は80%を私が出資し、残りの20%の株式は妻と子の名義にしました。3名の会社役員については、私が代表取締役になり、妻と弟に名義だけを借りることにしました。

 そうしたところ、先日、地主から内容証明郵便が届き、建物の名義が個人から会社に代わっていることから、借地権の無断譲渡にあたるという理由で、借地契約の解除と土地の明け渡を求められました。

 このような場合、借地権の無断譲渡に当たってしまうのでしょうか。

<回答>

1 第三者に無断で借地権を譲渡することは借地契約の解除事由(民法612条2項)とされております。

 したがって、借地権を譲渡するには事前に地主の承諾を得なければなりません。地主の承諾を得ることが困難な場合には、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可の審判を申し立て、裁判所の許可を得てから譲渡することになります(借地借家法19条)。

2 本件のように、借地上の建物所有権の名義を個人から法人に変更(譲渡)した場合には、これに伴い借地権も当然に譲渡したと見なされると言う法理がありますので、これにより本件の借地権も法人に譲渡したものと見なされます。

 そうすると本件のような事案では、借地権の無断譲渡があったものとして、地主に借地契約の解除権が発生するようにも思えます。

3 しかし、最高裁昭和28年9月25日判決(民集7・9・979)は、建物の無断転貸の事例で、「賃借人が賃貸人の承諾なく、第三者をして建物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合には、賃貸人の解除権は発生しない」旨判示しております。 

そして、上記判例を受けて、最高裁昭和38年10月15日判決(民集17・9・1202)は、借地上にあった僧侶個人名義の建物所有権が宗教法人の名義へ地主に無断で変更されたという事案で、「借地の利用関係に実質的な変化はない」という理由で、背信行為なしとして地主の解除権を否定しております。

4 本件においては、①B社の代表取締役が元借地人のAであり、他の取締役もAの親族であること、②B社の株主も80%がAであり、残りの20%もAの家族であること、③B社の営業内容もAが長年行っていた呉服店であることからすれば、呉服店を法人化した後も当該借地の利用形態に実質的な変化はなかったものと考えられます。

したがって、本件のような事案では地主の解除権は否定されるものと考えられます。

最高裁昭和43年9月17日判決(判時536・50)も、本件と類似の事案において「借地人と地主との信頼関係を破壊するような背信行為とは言えない」という理由で、地主の解除権を否定しております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.04.09更新

商人間の売買には買主の検査義務があります

 

<質問>

(1) 当社は、X社から当社製品の原材料なる輸入小麦粉5000袋を仕入れましたが、年末の拡大生産のために、仕入れた原材料の数量検査をすることなく、3か月間放置してしまいました。年が明けて生産も落ち着いてきたところで、仕入れた原材料の数量を検査したところ、4500袋しかなく、500袋足りない状態でした。

 そこで、X社に500袋足りない旨を通知しましたが、X社は納品時には間違いなく5000袋納品したはずだ、納品時に数量を確認しなかった当社に非があるとして取り合ってもらえません。

500袋の不足があることを証明できれば不足分の引き渡し請求はできるのでしょうか。

(2) (1)の事例で、納品時にきちんと棚卸検査をし、仕入品の数量は正しかったのですが、納品時から約10か月後に食料品の安全性の検査を受けたところ、仕入れた小麦粉には基準値を超える残留農薬が含まれており、商品として使い物にならないことが分かりました。

このような場合、瑕疵担保責任を理由にした売買契約の解除はできるでしょうか。

 

<回答>

(1) 質問(1)の回答

商法第526条1項では、商人間の売買契約に関して、買主が目的物を受取った時は、遅滞なくこれを検査し、目的物に瑕疵又は数量不足があることを発見した時は直ちに売主に対してその通知をしなければならず、買主がこの検査・通知義務を怠ったときは、目的物の瑕疵あるいは数量不足による損害賠償請求、代金減額請求あるいは契約解除ができなくなると定められています。

 本問の場合、会社間、すなわち商人間の売買契約ですので、商法第526条1項の適用があります。

したがって、買主には納品後遅滞なく商品の数量を検査する義務がありますので、本問のように納品時から3か月も商品の数量の検査を怠っていた場合には、たとえ500袋の不足を証明できたとしても、商法第526条1項により、不足分の請求はできなくなります。

もっとも、商法第526条2項は、目的物に瑕疵又は数量不足があることについて売主に悪意があった場合(知っていた場合)には、1項の適用はないと規定されております。

したがって、500袋の不足があることを売主が知って納品したことを証明できる場合には、売主に不足分の引き渡し請求をすることができます。

(2) 質問(2)の回答

商法第526条1項では、目的物に直ちに発見できない瑕疵(隠れた瑕疵)がある時でも、買主は目的物の引き渡し時から6ヶ月以内に瑕疵を発見して売主に瑕疵担保責任の請求をしないと瑕疵担保責任の請求はできなくなる旨を定めています。

したがって、本問の場合には納品時から10ヶ月が経過しておりますので、買主は瑕疵担保責任による契約解除はできません。ただし、売主において目的物に瑕疵があることを知って納品したことを証明できれば、商法第526条2項により、瑕疵担保責任による契約解除はできます。

このように商人間の売買契約においては、取引の迅速性が特に重視されており、買主側の検査義務、瑕疵担保責任の行使期間の制限などが商法で定められています。

買主側としては、このような商法526条1項の規定を念頭に売買契約を締結しなければなりません。商法526条1項の規定は任意規定です。売買契約書において事前に「本件契約においては商法526条1項を適用しない」との条項を設ければ適用を排除できますので、検討されることをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.04.02更新

無催告解除特約による解除

 

<質問>

 賃貸借契約書に「1ヶ月分の家賃の滞納があった場合には、賃貸人は直ちに契約を解除することができる」(無催告解除特約)或いは「1ヶ月分の家賃の滞納があった場合には、当然に契約が解除される」(失権約款)がある場合に、このような規定に基づいて、賃借人の1ヶ月分の家賃の滞納を理由に賃貸人が契約を解除することは可能でしょうか。

<回答>

1 賃貸借契約解除の要件と手続き

一般に、契約を解除するには、相手方に債務の履行を催告し、その催告期間内に債務の履行がない場合に解除できるのが原則です。具体的には、配達証明付内容証明郵便などで「本書面到達後、5日以内に滞納賃料○○円を支払って下さい。万一、支払いがなければ上記催告期間の経過をもって、本契約を当然に解除します。」と通知するのが一般的です。

また、賃貸借契約のように継続的な法律関係を前提とする場合、契約の解除をするには、単に軽微な契約違反があるというだけでは足りず、当事者間の信頼関係が破壊していると見られる客観的な事情が必要(信頼関係破壊の法理)とされています。具体的には、1~2ヶ月分の賃料の滞納があったというだけでは足りず、3ヶ月分以上の賃料の滞納が必要と考えられ、また、一度はその支払いを催告しても支払いが全くなされないという事情が必要でしょう。

2 無催告解除特約

 ご質問の無催告解除特約は、上記の原則に対して、賃借人に対し、一定期間内に債務を履行するよう催告する手続きを要せずに、直ちに契約を解除することができるという特約です。失権約款との違いは、催告は不要でも解除通知は必要になりますので、解除通知が賃借人に到達するまでは賃貸借契約は終了しません。

 このような無催告解除特約の有効性に関して、判例は、前記の信頼関係破壊の法理を準用して当然に有効とはせず、「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合」にのみ有効としております(最判昭和43年11月21、民集22・12・2741)。したがって、例えば、1ヶ月の滞納で無催告解除が出来るとされている場合でも3ヶ月分以上の家賃の滞納がある場合、又は、1ヶ月~2ヶ月の滞納を頻繁に繰り返しており、賃貸人からもそれなりの解除に向けた警告が発せられている場合に無催告解除が有効になると考えられます。

3 失権約款

 上記の無催告解除特約をさらに推し進めて、一定の解除事由の発生をもって解除通知さえ要せず当然に契約が終了するというのが失権約款です。

 この失権約款の有効性に関して、判例は、上記の無催告解除特約よりも更に要件を厳しくして「当事者間の信頼関係が賃貸借契約の当然解除を相当するまで破壊された場合にのみ有効」としております(最判昭和51年12月17日民集30・11・1036)。

 したがって、失権約款が認められるのは、例えば、1ヶ月分の賃料の滞納があるだけでは足りず、例えば、賃料の滞納が半年~1年とある程度長期に渡るなどの場合に限られます。

そのため、賃貸人としては、失権約款は、あくまでも、賃借人に対し「家賃を1ヶ月でも滞納すると当然に解除されるかもしれない」という心理的効果を与えるための条項として理解し、実際に契約を解除する場合には、通常通り、家賃の支払いを最低一度は催告して、それでも支払いがない場合に解除通知を出すという手続きを踏んだ方が無難だと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.26更新

契約社員の人員整理と解雇権濫用法理の類推適用 


<質問>
 当社には,正社員45人,契約社員5人がいます。契約社員Aの契約期間は半年間で,これまでに5回の更新を経て,もうすぐ丸3年が経とうとしています。
 しかし,昨今の不況の影響もあり,わが社の経営状態は思わしくなく,このたび,経費削減の一環として人員整理を行うことにし,Aについては次回の更新をしないこととしました。これにつき何か問題はあるでしょうか。

<回答>
 契約社員など,一定の期間の定めのある労働契約(有期労働契約)が締結されている場合,その契約は,期間の満了とともに終了するのが原則です。したがって,正社員を解雇する場合と異なって,解雇予告など,何らかの手続を採らなければならないというわけではありません。
 しかし,有期労働契約の終了(いわゆる雇止め)については何の法的規制も及ばないというわけではありません。労働契約法16条は,正社員の解雇について規制していますが(いわゆる解雇権濫用法理),有期労働契約についても,一定の場合には同条が類推適用されると考えられています(最判昭49・7・22民集28・5・927,最判昭61・12・4労判486・6など)。
 解雇権濫用法理が類推適用される有期労働契約であるか否かについては,①職務内容の恒常性・臨時性,②勤務実態の正社員との同一性・近似性,③有期雇用労働者の基幹性・臨時性,④更新手続の態様・厳格さ,⑤雇用継続を期待させる使用者の言動・認識の有無,⑥ほかの労働者の更新状況,等を総合考慮して,有期雇用労働者の雇用継続に対する期待が法的保護に値するレベルに達しているか,という観点から判断されます。具体的事情によって大きく左右されますが,次の3つの類型のうち,どれに当てはまるかを第1次的な判断材料にすると良いと思います。
 第1は,「実質的に無期契約と同一」タイプです。これは,期間の定めが形骸化しており,実質的には期間の定めのない労働契約と異ならない状態であると認められる場合です。何度も更新をしている場合で,その更新手続が形骸化しているような場合が典型です。
 第2は,「有期雇用であるが解雇規制を類推する」タイプです。第1の類型と異なり,期間の定めや更新手続が明確なため,無期契約と同視することはできないけれども,前記①~⑥を考慮した結果,雇用継続の期待が高いと判断される場合です。雇止め規制の本来的対象となるような類型といえるでしょう。
 第3は,「当然終了」タイプです。期間雇用であって当然には契約が更新されるものではないことを労働者も十分認識しており,更新手続も厳格になされているという場合にはこの類型に該当するといえるでしょう。この類型に該当する場合には,解雇権濫用法理の類推適用はありません。
 Aさんについても,前記①~⑥の考慮要素次第では,第1または第2の類型に当たる可能性があります(更新手続の厳格さ,Aさんの担っている職務の重要性,更新を期待させるような言動が有ったか等がポイントになるでしょう)。その場合には,解雇権濫用法理が類推適用されますので,人員整理目的での雇止めについては,整理解雇の4要件を満たす必要があります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.19更新

マンション管理費の回収方法

 

(質問)私は現在マンションの管理組合の理事長をしております。現在管理費を長期間滞納者がいて困っています。何か有効な方法はありませんか。また、管理組合は管理会社に管理を委託していますが、管理会社は回収する責任がないのでしょうか。
(回答)多くのマンションで長期滞納者を抱えており、困っています。通常は、裁判をして、判決に基づき差押えをして回収します。
 長期滞納者がマンション以外に財産を有していることが分かっている場合は、裁判をし、判決に基づいてその財産を差押えをすることになります。その区分所有者が他の第三者にマンションを貸している場合は、その家賃を差し押さえることができあます。取引銀行が分かっていれば預金を押さえたり、また、給与所得者の場合は一定額の給料を差し押さえることもできます。
 ところで、「建物の区分所有等に関する法律」では、管理費や修繕積立金債権については当該区分所有建物やそこに備え付けた動産については、先取(さきどり)特権(とっけん)という担保権があると規定しています。裁判をやらなくても、直接管理費や修繕積立金があることを示す文書(管理規約等)を提出すれば競売ができます。しかし、区分所有建物の競売の申立てをするには、予納金等が80万円以上かかり(後日返ってきます)、余り利用されていないようです。
 また、「建物の区分所有等に関する法律」では管理費等を支払わずにそのマンションを売却した場合には、買い主に滞納管理費を払うよう請求ができると定められています。競売で競落した人に対しても請求できます。管理費を長に滞納している人は視力がないことが多く、住宅ローンを抱えていれば、そのうちマンションが競売になることがあります。これを待って、新所有者に支払ってもらうのも一つの方法です。
 ところで、管理費の消滅時効は5年です。時効にかかってしまった分は、新所有者が時効の援用をすれば請求ができなくなります。時効が近い場合は、本人から管理費等を滞納していることを認める念書を取るか、裁判をしておくことが必要になります。
 管理会社が回収という結果まで責任を負うかということですが、そこまでは責任がありません。通常の取立業務については責任がありますが、任意に支払わない場合は、管理会社としてもやりようがありません。管理会社は、滞納があることを管理組合に通知すれば、その任務を終えます。後は管理組合が裁判などをして回収することになります。管理会社は裁判の原告となることもできませんし、管理組合の代理人となることもできません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.12更新

不動産広告に関する法的規制

 

<質問>

 当社は、自社ホームページ上で不動産の広告も行っておりますが、不動産広告に関しては、景品表示法に基づき、「公正競争規約」によって様々な規制がなされていると聞いております。

公正競争規約ではどのような規制があるのでしょうか?

<回答>

1 景品表示法の規制

 不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)第4条第1項は、次の三つの表示を不当表示として禁止しております。

(1) 商品の内容に関する不当表示

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

(2) 取引条件に関する不当表示

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

(3) 「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務に関する事項について、一般消費者に誤認されるおそれのある表示であって、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの」

(第3号)

2 公正競争規約による規制

前記の景品表示法による不当表示の規制に関しては、景品表示法に基づき、公正取引委員会の認定を受けて、不当な顧客の誘引を防止し、公正な競争を確保するために、事業者団体間において自主的に締結される「公正競争規約」(表示規約)が設けられております。

この表示規約において不動産広告に関する詳細な規制内容が定められております。

この表示規約に関しては、「不動産公正取引協議連合会」(03-3261-3811)が規約の制定・改定や規約の全国統一的な解釈を示す役割を担っており、表示規約・景品規約違反に対する調査・是正措置・違約金の賦課徴収に関しては、各地域の不動産公正取引協議会(首都圏については「社団法人首都圏不動産公正取引協議会」(03-3261-3811、http://www.sfkoutori.or.jp/)がその役割を担っています。

不動産公正取引協議会の加盟事業者が表示規約・景品規約に違反する場合、原則として景品表示法にも違反することとなりますが、業界の自主的努力を尊重ないし活用するという表示規約の制度趣旨が考慮され、特に悪質な違反行為を除き、原則として、直ちに景品表示法上の排除命令等の措置が講じられることはなく、一義的には公正競争規約・景品規約による改善・是正措置・違約金の賦課徴収に委ねられることになっています。

表示規約は、規約の加盟事業者に対してのみ規約の効力が及ぶことになっておりますが、宅建業者の場合、それぞれが所属する宅建業協会が規約に参加している場合、当該宅建業協会に加盟している宅建業者であれば規約の効力が及ぶ加盟事業者となるため、事実上、ほとんどの宅建業者に規約の効力が及ぶことになります。なお、宅建業協会などの業界団体に加盟していない不動産業者については、景品表示法が直接適用されますが、この解釈・運用に際しては表示規約が斟酌されますので、これらの業者に対しても、事実上、表示規約の適用があると言うことができます。

3 表示規約違反の具体例

  以下では、よくある表示規約違反のケースを3つほど紹介します。ただし、表示規約での規制内容はこれに限られませんので、詳しくは、上記の不動産公正取引協議連合会が発行している「不動産広告ハンドブック」などを参考にして頂きたいと思います。

<ケース1>

Q 当社は、宅地建物取引業と建設業を営んでいます。この度、土地(更地:価格4,000万円)の売却の媒介の依頼を受けました。できれば、購入者から住宅の建築の注文も受けたいと考えていますので、当社の標準仕様で建築した場合を前提として、次のような新築住宅の広告をしたいと思っています。表示規約上何か問題はあるでしょうか。なお、建物の建築確認は受けていません。

新築6,000万円(税込)

●交通/○○線○○駅歩10分

●敷地/○○㎡(正味)

●建物/110㎡・4LDK

●所在/○○市○○○丁目

A 規約違反になる。

この広告は、建物の建築工事完了前の建物(土地付き)について、当該建物の建築に際し必要とされる建築確認を受ける前に、その売買に関して広告表示をしたものと認められます。したがって、表示規約第5条(広告表示の開始時期の制限)に違反するものです。純粋な土地だけに関する表示事項(「売地○○円」など)を明示した上で、建設予定の建物価格の目安(「1㎡あたり○○円で建築請け負います」など)を示すことは可能です。

<ケース2>

Q ①建売住宅を、平成20年6月1日に、6000万円で売り出しましたが、買い手がつかず平成20年8月1日に5,500万円に値下げしました。

 この場合、広告に際し、次のように表示してもよいでしょうか。

「価格6,000万円(旧価格公表時期/平成20年6月1日)→5,500万円(平成20年8月1日値下げ)」

②建売住宅を、平成20年6月1日に、6000万円で売り出しましたが、買い手がつかず平成21年1月1日に5,500万円に値下げしました。

 この場合、広告に際し、次のように表示してもよいでしょうか。

「価格6,000万円(旧価格公表時期/平成20年6月1日)→5,500万円(平成21年1月1日値下げ)」

A ①規約違反になる

 二重価格表示は規約第20条により原則禁止されていますが、規則第14条の要件を満たす場合に限り許されています。

規則第14条は、値下げの場合に二重価格をしてもよい「旧価格」について「値下げの3ヶ月以上前に公表された価格であって、かつ、値下げ前3ヶ月以上にわたり実際に販売していた価格」(規則第14条本文)であることを要件としています。

A ②規約違反になる

 規則第14条は「(2)値下げの時期から6ヶ月以内に表示するものであること」を要件としています。

<ケース3>

Q  取引しようとする土地に法的規制(例えば、市街化調整区域に該当する)がかかっている場合には、どのように記載しなければならないのでしょうか?

A 取引物件に関する不利益条件に関しては、表示規約第13条において「見やすい場所に、見やすい大きさ、見やすい色彩の文字により、分かりやすい表現で明りょうに表示」するよう義務付けられております。

市街化調整区域に所在する土地については、都市計画法第29条、第43条によって開発行為や建物の建築が原則として禁止されておりますので、このような土地については「市街化調整区域。宅地の造成及び建物の建築はできません。」と16ポイント(5.6mm四方の大きさ)以上の文字で明示しなければなりません。「市街化調整区域」との表示だけでは、宅地建物取引の知識がない消費者が具体的にどのような不利益を受けるのかが明示したことにはならないため、「宅地の造成及び建物の建築はできません。」まで明示する必要があります。

4 そして、表示規約違反の広告について、不動産業者が不動産公正取引協議会の是正勧告を無視し是正しないでいると、最高で500万円の違約金が課される可能性がありますので、注意が必要です。

  具体的には、以下の順に不利益処分を受けることになります。

事業者が規約違反のための不動産公正取引協議会の調査に協力しない場合にはおいて、警告を発しても調査に協力しない場合→50万円以下の違約金
表示規約第5条、第8条~第23条に規定に違反した場合→違反行為を排除するために必要な措置(EX:看板・チラシの撤去・回収、訂正広告など)、再び行ってはならないことの警告又は50万円以下の違約金
事業者が不動産公正取引協議会による上記②排除措置を履行しない場合(看板の撤去等に応じない、再度表示規約違反に該当する表示行為をした場合)→500万円以下の違約金

また、不動産公正取引協議会による上記のような是正措置を無視して、違法な広告を続けていると、今度は、公正取引委員会による「排除命令」などの摘発の対象にもなります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.05更新

高齢者の財産管理をする方法~成年後見制度

<質問>
私は父と長年同居をして介護をしてきたのですが、最近父の痴呆が激しくなってきまして、同居して介護するのにも限界を感じてきました。そこで、父が持っている不動産を売却し、その代金で介護設備や療養設備が充実した老人ホームに入居してもらおうと考えておりますが、父は身のまわりの状況が全く判断できない状態です。なお、兄は、父の不動産の売却と数百万かかるという老人ホームへの入居に反対しております。
 私だけで父の不動産を処分したり、そのお金で老人ホームの入居契約を締結することは問題ないのでしょうか。


<回答>
1 民法上、法律行為(不動産の売買契約を締結したり、介護契約を締結すること)をするには「意思能力」が必要とされています。「意思能力」とは、自己の意思に基づいて判断し、行動する能力のことです。そして、「意思能力」が欠ける法律行為は、無効になります。
 本件では、お父様ご自身には意思能力がない状況と思われますので、お父様ご自身では法律上も不動産の売買契約はできないものと思われます。また、意思能力がない場合には、委任契約もできませんので、他人が本人から依頼されて法律行為を代理することもできません。
そうすると、後日、将来相続が生じた際に反対されていたお兄様との関係で、上記不動産の売買契約等の有効性について紛争になるおそれがあります。
2 後見制度とは
従いまして、本件では、家庭裁判所にお父様の後見人開始の審判の申立をし、後見人が選任された後、後見人を通じて、上記のような不動産売買契約等を行うべきだと思われます。
「後見開始」の審判は、「精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者」に対してできます。また、本人の判断能力の低下の程度に応じて、後見に至らなくても、「事理を弁識する能力が著しく低下している者」に対しては「保佐」の制度、「事理を弁識する能力が不十分な者」に対しては「補助」の制度が適用されます。
なお、後見開始の審判をするには、本人の判断能力の低下を調査する為に医師の鑑定を経なければなりませんが、その鑑定料も、従来は30万円程度かかりましたが、近時は書式を定型化するなど工夫をすることで10万円程度に抑えられております。
また、申立をしてから後見人選任までの期間ですが、事案によって異なるものの、約3ヶ月程度かかるケースが多いです。
このようにして、後見開始がなされ後見人が選任されると、後見人は、裁判所及び後見監督人の監督の下、本人の利益の為に財産管理行為と身上看護行為をします。 
財産管理行為とは、例えば、高額の預金を引き出して本人の生活費に使う、不動産を売却して本人の生活費に充てる、不動産を賃貸に出して利益を挙げるなどして、本人所有の財産を管理することです。
身上看護行為とは、後見人自らは実際に本人を介護する義務を負うものではないので(後見人が実際に介護をしてもかまわないのですが)、通常は、介護サービス契約の締結や病院・老人ホームへの入院契約の締結をして、介護士や医師といったその道の専門家を通じて本人の身上看護をすることです。
後見人には、通常は信頼のできる親族や弁護士、司法書士、税理士などが選任されます。今回の法改正で複数の後見人の選任も認められるようになりましたので、不動産取引等の財産管理は弁護士等に、身上看護はご子息等に、それぞれ後見人の任務を振り分けて後見人を選任してもらうことも可能になりました。
また、申立人の方で後見人に適した人物を見つけることができない場合には、家庭裁判所の方で信頼のできる弁護士等の専門家を紹介してもらえる場合もあります。
なお、後見が開始されると、本人が一人で行った法律行為は、原則として当然に取り消せますので、万一、本人が、判断能力の低下から騙されて本人に不利な契約をしてしまっても、後見人によってその契約を取り消すことができます。
3 新しい成年後見制度について
 なお、近時新設された成年後見制度は、従来の禁治産制度を下記の点で改正し、より利用しやすい制度に改善されております。
① 名称が「禁治産」から「成年後見」へ変更した。
② 成年後見の開始の審判は、戸籍には表示されず、成年後見登記簿へ表示されるようになった。
③ 成年後見人は1人ではなく、複数人を選任できるようになった。また、配偶者でなくても後見人に選任できるようになった。
④ 本人が行う日常品の購入などについては、本人の自己決定権の尊重の見地から、当然の取り消し権の対象にはしないことにした。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.02.26更新

遺留分の放棄に関する法律相談

 

<質問>

 私は、ある不動産賃貸業の会社を経営しており、いくつかの不動産を保有しております。

 妻は既に他界しておりますが、子どもが二人おります。長男は会社の経営を手伝い、次男は海外で悠々自適に暮らしている状況です。

 長男に会社を引き継がせるため、次男には一定額の預金を渡すことで、会社の株式とそのほかの不動産等の財産については、長男に相続させることを考えております。

 幸いにして次男もその考え方に了解してくれています。しかし、将来のことを考えると、次男にしても考えが変わるとも限りませんので、きちんとした法的な手続きを取っておきたいと思います。

 どのような手続きを取ればいいのでしょうか。今のうちに、次男から相続放棄の書面に署名・捺印をもらっておけばよいのでしょうか。

なお、これまでに長男・次男に生前贈与したことはありません。

<回答>

1 被相続人の生前に相続人が相続放棄の書面を作成していたとしても、生前の相続放棄は無効とされております。

 そのため、本件のように被相続人の生前において相続財産の分配方法を確定しておきたい場合には、あらかじめ遺言書を作成しておいて、相続財産の分配方法を具体的に定めた上で(例えば、預金Xは次男に、その他の遺産は全て長男に相続させる)、次男においては遺留分放棄の許可の申立(民法1043条)を家庭裁判所にして、家庭裁判所から許可の審判を得ておく必要があります。

家庭裁判所は、次男において遺留分の放棄の意思表示が真意に基づくものか、その他遺留分放棄に至った事情を考慮して、許可の審判をします。

2 もっとも、生前における遺留分の放棄が意味をなすのは、遺言による相続財産の分配方法が遺留分を侵害する場合です。本件における次男の遺留分は、これまでに生前贈与をしたことはないとのことですので、相続財産から相続時の負債額を差し引いた金額の4分の1(=1/2×1/2)です。

したがって、遺言によって次男に渡す予定の預金額がこの遺留分額を下回らなければ、遺留分を侵害することはないので、遺言書を書くだけで足ります。

本件のように不動産を多数お持ちの場合には、不動産の価値がかなり高額となる場合が多いでしょうから、一定額の預金を渡してもなお遺留分を侵害するとされるケースが多いでしょう。生前における遺留分の放棄の許可の手続きを取るべきか否かは、この点を考慮して決めることになります。

3 このほかに「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」では、会社の事業承継にあたって、後継者が議決権の過半数を確保することできるよう、株式等の生前贈与が行われた場合の遺留分に関する民法の特例が設けられております。

これは、一定の要件を満たす中小企業においては、旧代表者の推定相続人全員の合意により、旧代表者から後継者に生前贈与された株式等を①推定相続人の遺留分算定の基礎財産から除外する、または、②後継者が贈与を受けた株式等の評価額を一定額に固定する合意がなされ、その合意内容について家庭裁判所の許可を受けることにより、当該生前贈与を受けた株式等に対する遺留分の行使を制限できるというものです。

②は、株式等の生前贈与が為された後、後継者の経営努力によって株式の価値が上昇したという場合に、遺留分算定の際の株式の評価額は相続開始時を基準とされていることの不公平さをなくすための制度でもあります。

民法の制度は、遺留分の放棄という制度であり、遺留分権者にとってはオールオアナッシングの制度のため、かえって使いにくいという難点がありましたが、上記制度は、事業承継に必要な株式に関してのみ適用される制度ですので、遺留分を全部放棄してしまう民法の制度に比べて中間的な方法として利用が期待できます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.02.19更新

通常損耗の原状回復費用と敷引特約の有効性

 

<質問> 
建物の賃貸借契約において,建物退去時の居室の通常損耗に関する原状回復費用を,敷金から定額で控除する方法で,賃借人に負担させる特約は有効でしょうか。

 
<回答>
1 質問のような特約が消費者契約法10条に違反しないかが争われた事案として,最高裁平成23年3月24日判決があります。
 上記最高裁判決は,結論としては,消費者契約法に違反しないとして質問のような特約を有効としましたが,同時に,控除される敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,無効になる場合もあることを示しております。
 そこで,今回は,上記最高裁の判示に即して,消費者契約法10条の問題を解説したいと思います。
2 まず,消費者契約法10条は,消費者契約の条項が「民法等の法律の公の秩序に関しない規定,すなわち任意規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであること」を要件としています。
この点,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものですので,賃借人は,特約のない限り,通常損耗等についての原状回復義務を負わず,その補修費用を負担する義務も負いません(前掲最高裁判決)。
したがって,賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む本件のような特約は,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するものに該当します。
3 次に,消費者契約法10条は,「消費者契約の条項が民法1条2項に規定する基本原則,すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであること」を要件としています。消費者契約法10条違反が問題となる事案では,主にこの要件を満たすかが争点となっております。
 この点に関して,前掲最高裁判決は,「通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。また,上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。」として,基本的には,本件のような敷引特約の合理性を認めています。
 しかし,前掲最高裁判例は,以下のように述べて,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,本件のような敷引特約も無効になる場合もあることを示しています。
「もっとも,消費者契約である賃貸借契約においては,賃借人は,通常,自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。そうすると,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」
4 そして,前掲最高裁判例は,以下のような具体的な事情に鑑みて,当該敷引金の金額が不当に高額ではないとして、当該敷引特約を有効とする結論を導いています。
「これを本件についてみると,本件特約は,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また,本件契約における賃料は月額9万6000円であって,本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,上告人は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
 そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない」
5 このように,本件のような敷金引き特約は,通常損耗に関する原状回復費用として不当に高額に過ぎるものでなければ,消費者契約10条に違反するものではありません。
しかし,前掲最高裁判決が考慮した前記のような事情,すなわち,①通常損耗の補修費用として通常想定される金額との比較,②月額賃料と敷引金の比較,③更新料,礼金の支払額との比較などの諸事情に照らして,敷引金の金額が不当に高額に過ぎると判断されれば,消費者契約法10条に違反するとして,無効になる場合もありますので,注意が必要です。                            (以上)<質問> 
建物の賃貸借契約において,建物退去時の居室の通常損耗に関する原状回復費用を,敷金から定額で控除する方法で,賃借人に負担させる特約は有効でしょうか。 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.02.13更新

期間の定めのない使用貸借の終了時期

 

<質問>

 私の父は、ある親戚の人に特に返還時期を定めることなく、無償で土地を貸して、建物を建てることを承諾しておりました。

 その後、その土地を私が相続して私の所有になったのですが、いつになったら土地を返してくれと言えるのでしょうか。

<回答>

第1 問題の所在

 期間を特に定めることなく、無償で、土地などが貸借されている、いわゆる「期間の定めのない使用貸借」は、

① 使用貸借契約に定めた目的にしたがった使用収益が終わったとき

(民法597条2項本文)、

または、

② それ以前でも、使用収益をするのに足りる期間が経過し、かつ、貸

主が返還を請求したとき(同項但書)

のいずれかの時点で終了します。このように、法文上の終了時期は明らかなのですが、実際に終了時期を判断するのはなかなか難しいのが裁判実務のようです。使用貸借は、親子間、兄弟間のような特別な人間関係にある者の間に、「暗黙のうち」に成立したと見るべき場合が多く、経緯、原因等貸借の実態を把握するのが困難という事例が少なくないからです。

第2 学説・判例の傾向

1 民法597条2項の「契約にさだめた目的」というものを、土地使用貸

借における「建物所有の目的」、または、建物使用貸借における「居住の目的」というような一般的抽象的なもので足りるとすると、返還時期の定めがない場合、借り主がその目的にしたがい使用収益を継続している限り、貸主はいつまでも返還請求できないことになります。しかし、これでは、無償の契約である使用貸借の借主が、有償の契約である賃貸借の借主よりも手厚く保護されることになり、非常に不公平な結果となります。

  そこで、学説には、「建物所有の目的」や「居住の目的」という様な一

般的抽象的なものではなく、「使用貸借契約成立当時における当事者の意思」から推測される個別具体的な目的として制限的に解釈しようとするものもあるようです。

2 この点に関する、最高裁判所の幾つかの判例を見てみましょう。

最高裁昭和34年8月18日判決

(Yが所有家屋の焼失により住居に窮し、Xから建物を「他に適当な家屋に移るまでの暫くの間」住居として使用するため、無償で借り受けた事案で)

「本件使用貸借については、返還の時期の定めはないけれども、使用、収益の目的が定められていると解すべきである。そして、その目的は、当事者の意思解釈上、適当な家屋を見つけるまでの一時的住居として使用収益するということであると認められる」

と判断しました。

最高裁昭和42年11月24日判決

「父母を貸主とし、子を借主として、成立した返還時期の定めのない土地の使用貸借であって、使用の目的は、建物を所有して経営をなし、併せて、右経営から生ずる利益により老父母を扶養する等の内容の物である場合において、借主は、さしたる理由もなく老父母に対する扶養をやめ、兄弟とも往来を断ち、使用貸借当事者間における信頼関係は地を払うに至った等の事実関係があるときは、民法第597条2項但書を類推適用して、貸主は借主に対し使用貸借を解約できる」

と判断しました。

最高裁昭和59年11月22日判決

(建物の使用貸借について返還の時期は定められていないが、目的について、借主及びその家族の長期間の居住としていたという事案で)

「借主が建物の使用を始めてから約32年4か月を経過したときは、特段の事情がない限り、右目的に従った使用収益をなすに足るべき期間は経過したものと認めるべきである」

と判断しました。

最高裁平成11年2月25日判決

最近の判例ですので、事案を少し詳しく説明しますと

① 昭和33年12月頃、X(法人)の代表取締役はAであり、A

の長男B及び次男Yは取締役であった

② 昭和33年12月頃、Aは本件土地上に本件建物を建築して、

Yに取得させ、本件土地を本件建物の敷地として無償で使用させ、XとYとの間で本件建物の所有を目的とする使用貸借契約が黙示に締結された。その後、A夫婦も本件建物でYと同居していた。しかし、Aは昭和47年に死亡した。

③ Aの死後、Xの経営をめぐり、BとYとの間で争いとなったが、

Xの営業実務はBが担当し、平成4年以降、Yは取締役の地位を失った

④ 本件建物は朽廃に至っていない

⑤ Bは、X所有地のうち本件土地に隣接する部分に自宅及びマン

ションを建築しているが、Yには本件建物以外に居住すべきところがない

⑥ Xには、本件土地の使用を必要とする特別の事情がない

という事例でした。

一審及び二審は、④から⑥の事情を理由に、「本件使用貸借は、いま

だ民法代597条2項但書の使用収益するのに足りるべき期間を経過したものとはいえない」と判断しました。

これに対し、最高裁は、

「土地の使用貸借において、民法第597条2項但し書の使用収益をするのに足りるべき期間が経過したかどうかは、経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的なつながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較考慮して判断すべきである」

として、これらの事情につき、二審の裁判所に、再度審理するように事件を差し戻しました。

 以上の一連の判例から言えるのは、裁判所は、使用貸借契約の成立の前後をとわず、使用貸借契約にかかわるあらゆる事情を考慮して判断するということです。契約成立後経過した期間の長短や、借主側に他に居住すべきところがないというような比較的はっきりとした事情だけではなく、諸々の事情が考慮されますので、使用貸借契約が保護されるのかどうか、判断するのは、非常に難しいと思われます。

契約書できちんと期限を定めておくことが必要でしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

前へ 前へ
COLUMN 弁護士 秋山亘のコラム
FAQ よくある質問
REVIEWS 依頼者様の声