弁護士 秋山亘のコラム

2019.09.30更新

重要事項を告げなかった場合の宅建業者の責任

 

 

(事例)

 ある不動産業者は「海がよく見えるマンション」という売り出し文句で広告を出していた。そこで、海がよく見えるという点が気に入った買い主は、そのマンションの9階1部屋を不動産業者から購入した。

 しかし、その6ヶ月後には当該マンションの直ぐ隣に13階建てのマンションが完成し、購入者の9階の部屋からは海が全く見えなくなりました。

 このような場合不動産業者にはどのような責任が生じるのでしょうか。

(回答)

1 錯誤無効による契約無効

  民法95条の錯誤無効とは、例えば買主がA物件を買おうと思っていたが勘違いしていてB物件を買ってしまった場合や代金100万円だと思って契約書にサインしたがそれは勘違いで契約書100万ドルとなっていた場合等、契約条項は正しいのだけれども自分が勘違いしていたためその物件やその代金で買うつもりはなかった場合に、その勘違いに重大な過失がない場合には、契約を無効に出来るというものです。

  この点、「海がよく見える」というのは契約を締結した動機でありますので、このような動機の錯誤では、原則としては、錯誤無効の主張はできません。

  しかし、このような契約の動機が契約上表示されている場合には、錯誤無効の主張ができます。

  本件では、「海がよく見えるマンション」が売り出し文句として広告されています。従って、海がよく見えるから購入したという契約の動機は、契約上明示的若しくは黙示的に表示されていると解釈されると思われます。

  そうすると、民法95条による錯誤無効の主張も可能になります。

  契約が無効になりますと、不動産業者は、売買代金を全額購入者に返還することになります。購入者は、「現に利益を受ける限度」において当該マンションを返還すれば足りますので、当該不動産を既に何ヶ月か利用していても、そのままの状態で不動産業者に返還すればよいことになります。

2 消費者契約法第4条1項又は同条2項による契約取消

  消費者契約法第4条1項は「重要な事項について事実と異なることを告げた」場合、又、同条2項は「重要な事項について当事者の不利益となる事実を故意に告げなかった場合」には、契約を取り消すことができるとしております。

  本件では、購入後6ヶ月しか経っていないのに隣にマンションができて海が見えなくなるということは重要な事項で、かつ、消費者に不利益な事項ですので、このようなマンション建設計画を不動産業者が故意に告げなかった場合には、同条2項による契約取り消しの対象になります(なお、裁判例はまだ出ておりませんが、同条の趣旨からすれば、本件のマンション建設計画のように不動産業者が当然に調査し知り得べき事実については、「故意に告げなかった」場合だけでなく「重要な不利益事実の調査に重大な過失があり、これにより当該重要な不利益事実を告げなかった」場合にも同条が類推適用される可能性が高いと思われます)。

  また、「海がよく見えるマンション」であることは契約上「重要な事項」にあたりますので、これが6ヶ月後に隣にマンションができて海が見えなくなったならば事実と異なることを告げたとも評価されるものと思われます。従って、消費者契約法第4条1項に言う「重要な事項について事実と異なることを告げた」にも該当すると思われます。 

  なお、民法95条による錯誤無効の場合、不動産業者としては、「広告ではうたっていたとしても、そのことは契約書上では表示されていないから動機の表示は為されていない」と反論することや、又、購入当時としては海が見えることを売り物にしていたとしても、購入後も永遠に海が見えることまでを保証してうたっていたわけではないと反論することが考えられます。

  しかし、消費者契約法によると、上記のような反論は成り立ち難くなるでしょう。

     ただし、消費者契約法による取り消し権の行使期間は、契約の追認をすることができる時(本件では13階建てのマンション建設を知ったとき)から6ヶ月以内と法定されていますので、取り消し権の行使期間には注意が必要です。

3 重要事項説明義務違反による損害賠償責任

    宅建業法35条は、宅建業者に重要事項の説明義務を課しておりますが、同法35条に掲げられている重要事項は例示列挙でありますので、この他にも当該不動産取引において説明すべき重要な事項がある場合にはこれを調査し説明する義務があります。

  本件では、「海がよく見えるマンション」を売り物にしていた以上、当該マンション前の土地で13階建てのマンション建設工事が計画されているという点はまさに重要事項ですから、宅建業者はこの事実の有無を積極的に調査した上これを購入者に説明する義務があります。

  従って、これを怠った宅建業者は、消費者から契約の取り消しや無効までもが主張されなくとも、重要事項の説明義務違反として、損害賠償の責任を負います(なお、購入したマンションの前の平屋建ての建物が取り壊され2階建ての建物が建設されたことでマンションの1階、2階の区分所有者に日照等の被害が生じた事例で、販売業者の説明義務違反が認められた裁判例として東京地裁平成13年11月8日があります)。

  次に、本件の場合の損害額としては、財産的価値が客観的に減少した分の損害として、海が見えるマンションであった場合の評価額と海が見えないマンションであった場合の評価額の差額が考えられます。

  この他に、購入者が海が見えなくなったことによる精神的苦痛を慰謝料として請求できるかという問題もあります。

  この点、通常の不動産取引における説明義務違反事例では、客観的な財産的価値の減少の損害の他に慰謝料までが損害として認められるかというと、不動産業者の当該説明義務違反の程度や当該説明義務違反の悪質性にもよりますが、慰謝料までは認められないか、仮に、認められても少額にとどまるというケースが一般的であると思われます。

  しかし、本件のように海が見えるマンションを売り物にしており、購入者もこの点が特に気に入って購入したという事例の場合には、本来であれば契約取り消しや契約無効の主張までもが可能な事例ですので、この点も考慮すると、慰謝料の支払いも認められる可能性が高いでしょう。

4 以上のように、専門業者の責任は重く、消費者の保護は厚くというのが近時の法律や裁判例の流れとなっております。

  不動産業者としても、このような流れを踏まえて、消費者への説明責任には十分に配慮することに注意を払う必要があると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.24更新

借地人の借地権譲渡に対する地主の対抗手段

 

 

(質問)

 この度、借地人Xから借地権を譲渡したいので承諾して欲しいとの申し入れを受けました。借地権の譲受人は、現在、借地上の建物をXから借りて住んでいるYです。

 しかし、借地人Xは、かねてから地代の滞納を繰り返していた人物なので信用できません。Yも近所の評判も芳しくなく、いわゆるフリーターで定職に就いていないと言う話ですので、地代をきちんと支払ってもらえるか心配です。

 そこで、私は、借地権の譲渡には承諾できないとXの申し入れをお断りしたのですが、Xは「裁判所に申し出れば、少々の承諾料を支払えば、借地権譲渡は許可される」と言って強気です。

 私としては、この借地権譲渡にはどうしても反対で、できることならば、この際、借地権をXから買い取り、現在の借地を私の完全な所有(更地)にした上で、売却したいと考えております。

 このような場合、地主側としては、どのような対抗手段があるのでしょうか。

 

(回答)

第1 借地権譲渡許可の申立

1 借地権は地主の承諾がないと譲渡できないのが原則です(民612条1項)。借地人による借地権の無断譲渡は契約の解除事由になります。

 しかし、地主が承諾しない場合でも、借地権者が借地権の目的である土地の上の建物及びその土地の借地権を第三者に譲渡しようとする場合、その第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合には、借地権者は、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可の申立てをすることができます(借地借家法19条1項)。

2 「第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合」とは、どのような場合かと言いますと、例えば、借地権の譲受人が暴力団員である場合、譲受人が産業廃棄物を扱う業者で借地に産業廃棄物を搬入し埋め立ててしまうことが予想される場合、地代の支払に不安が認められるような客観的な事由がある場合、などが挙げられます。

しかし、このような事情の立証は実際上は地主側が行わなければならず、その立証はかなり大変です。また、本件のように単にフリーターであると言うだけでは、地代の支払に不安が認められる「客観的な事由」があるとは必ずしも認められないでしょう。

3 第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合には、譲渡承諾料の支払いと引き換えに、譲渡が認められてしまうことになります。

 この場合の譲渡承諾料は、借地権付建物の価格の10%程度です。建物が老朽化している場合には建物価格は0円に等しいと考えられますので、借地権価格(場所により異なるが更地価格の6割~7割)の10%程度と考えてよいでしょう。

第2 地主の介入権

 しかし、このように借地人から地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立てがなされた場合は、地主は、建物及び借地権を優先的に自分が譲り受ける旨を裁判所に申し立てることができます(借地借家法19条3項)。これを介入権の行使と言います。

 この地主による介入権が行使されると、地主の譲受権が優先し、裁判所は、相当の対価を定めて地主に対する譲渡を命ずることになっています。

 そして、この相当の対価は、裁判所の選任した鑑定人で構成する鑑定委員会の意見に基づいて定められております。

 なお、介入権行使の対価は、借地権価格からその10%を差し引いた金額をもとに決められます。これは、借地権譲渡の承諾料は、前述のように借地権価格の約10%であり、第三者が借地権付建物を取得した場合、当然その承諾料は地主が取得できたはずであることから、借地権価格の10%を差し引いた金額とされているのです。

 以上のように、借地人による地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立てがなされた場合には、地主が介入権を行使して借地権を自分で買い取ることができますので、本件でもXが裁判所に申し立てた場合、介入権の行使を対抗手段に取ることができます。

 なお、裁判所を介せず地主と借地人との交渉で、地主が借地人から建物を買い取る場合も、通常の借地権価格から借地権価格の10%を差し引いた金額を目安に買取金額を決めることになるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.18更新

借地借家更新拒絶と正当事由

 

 

借地契約の契約期間の満了により地主から明け渡しを求められているのですが

(質問)

 私は、現在借りている土地に建物を建てて飲食店を経営しておりますが、先日、地主から借地の賃貸借契約の期間が満了するとして、土地の明け渡しを求められました。

地主は、明け渡しの理由として、当該土地を更地にして賃貸目的のビルを新たに建設する予定であると述べております。

私としては、相当額の補償があれば、立ち退きはやむを得ないと思っておりますが、地主側は、自己使用の必要性に基づく契約の更新拒否なので、立退料を支払う必要はない、多少の金額なら支払っても良いがそれも判子代程度に過ぎないと言っております。

法的にはどうなのでしょうか。

(回答)

 借地法4条、借地借家法5条では、賃借人が土地の使用を継続しているにも関わらず、賃貸人側が更新を拒否するには「正当な事由」がなければならないとしております。

 「正当な事由」とは、一般に、賃貸人側が借地を自己使用する必要性の程度と借地側の自己使用の必要性の程度の比較衡量を中心的な判断要素とし、補完的な判断要素として、賃貸借関係に関する従前の経緯(賃料の滞納の有無など信頼関係を傷つける事情があったか、権利金・更新料などの支払いの有無、これまで賃料額が相場からして低く押さえられていたかなど)、土地の利用状況(借地上の建物老朽化の程度、周囲の土地でも高層ビルが建設されるなど土地の有効利用がされているか)、財産的な給付の有無・その金額の相当性(立ち退き料の提供金額)などを総合考慮して、決められます。

 もっとも、殆どのケースでは、賃貸人が土地を自己使用する必要があるというだけでは正当事由ありとは認められず、相当額の立ち退き料の支払いと引き替えに、正当事由があると判断されます。

もちろん、賃貸人側の自己使用の必要性があまり高度とは言えないケースでは、いくら立ち退き料の支払いを提供しても正当理由がないと判断される場合もあります。

なお、当事者間で合意がまとまらない場合には、借地非訟事件手続きで、裁判所が正当事由の有無の判断や幾らの立ち退き料の支払いがあれば正当事由ありとして土地の明け渡しを認めるかを判断します。

 そこで、幾らをもって立ち退き料として相当な額と認められるのかですが、これは、前記のような事情を総合考慮して決められます。賃貸人側の自己使用の必要性が不可欠であり、賃借人側の必要性が乏しいとして立ち退き料がゼロとなるケースから、借地権価格相当額を立ち退き料とするケース、借地権価格の何割かを立ち退き料と認めるケース、他の代替地の購入相当資金を立ち退き料と認めるケースなど事案の性格に応じて個別的に判断されます。

例えば、賃借人側が借地の使用を継続する必要性としては、当該借地で長年事業を営んでおり他に土地を所有していない場合には、賃借人の使用の必要性は高いと言えるでしょう。これに対して、賃貸人側の事情としては、例えば、単に土地を有効利用して収益を上げたいという場合や相続税の支払い、物納に充てたいという場合には自己使用の必要性が高いとは言えないでしょう。従って、このような場合、過去の裁判例に照らすと、正当事由があると認められるとしても、借地権価格相当額(通常は更地価格の60%~80%)の立ち退き料の支払いと引き替えに土地の明け渡しが認められる場合が多いと思われます。

本件につきましても、相当額の立ち退き料が支払われてしかるべき事案ですので、専門の弁護士等に相談することをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.10更新

借家契約に際しての注意点

 

 借家契約の成立後に貸主と借主との間で生じる様々な問題の中には、契約当初予想し得なかったものもあるでしょう。しかし、ある程度予想し得たものも少なからずあると思われます。予想できるものについては、その対応策を予め借家契約に盛り込むことが必要と考えます。以下では対応策として有効と思われるものについてご説明致します。

1 賃料相当損害金について

 契約が終了した後も借主が退去しないという問題については、借家契約の中に、通常の賃料よりも高い「賃料相当損害金」を盛り込むことで、借主に対し、「退去が遅れると高い損害金を払わなければならなくなる」という意識を持たせることが可能となると思います。なお、損害金としては、(あまり高額ですと公序良俗に違反する可能性もありますので)賃料の3倍程度が宜しいかと思います。

2 契約終了時の残置物の処分について

 契約終了後、什器物、備品等を残したまま借主が出て行ってしまうことがあります。このようなケースでは、貸主は、一日も早く残置物を処分したいが、他方、処分すると旧借主から残置物の所有権侵害を理由に賠償請求等を主張されるのではないかという問題に直面します。そこで、残置物の処理で悩むケースについては、「賃貸借契約終了時に、賃貸物件内に残された什器、備品類等一切のものについては、賃借人はその所有権を放棄したものとみなす」などの「残置物の放棄条項」を盛り込むことが有効かと思います。

3 蒸発をした際の対応について

 借主が蒸発してしまった場合、貸主は、適当な時期に契約を解除して、新たな借主を探すことを希望するでしょうが、契約解除の通知方法等で迷うことががあります。

(1) このような「借主の蒸発」に対しては、契約解除がしやすくしておくのが宜しいかと思います。具体的には、

①借主が長期不在の場合にはその旨賃主に対し通知する義務を課し、通知せずに長期不在、かつ、家賃の滞納のある場合には貸主の借主に対する契約解除の通知義務を免除する

②通知せずに長期不在、かつ、家賃の滞納のあるの場合は、借主が借家権を放棄したものとみなすことができることにする

③契約解除の通知方法は「発信主義」をとる(民法の原則は「到達主義」です)

等の条項を盛り込むことがよいかと思います。なお、①②については、慎重な運用が必要と思われます。

(2) なお、所在不明の借主との契約について、裁判所で「解除」を認めて貰おうとする場合があります。

この場合、旧民事訴訟法では、①裁判を起こす前に、裁判外で「公示送達」による契約解除の意思表示をする②①を経た上で、裁判所に対し、契約解除を求める裁判をおこすという2段階の手続を経る必要がありました。

 しかし、新民事訴訟法(法113条)では、訴状で契約解除の意思を明らかにすれば(換言すると「裁判手続の中で契約解除の意思を明らかにする」ということです)、事前に裁判外で公示送達による契約解除の意思表示をしなくともよくなり、契約解除が迅速に行えるようになりました。

4 期間内解約について

 借主が契約後期間満了前に解約することにより、貸主側が物件に対する投資を回収できないことがあります。このような貸主の不利益に対する対応策としては、

①期間内解約自体を制限する

②期間内解約については違約金を徴収する

③解約予告期間を長期にする

等が考えられます。

5 その他

(1) 連帯保証人について

(後日の紛争を回避するために、念のため)連帯保証人は、契約更新後の債務についても、継続して連帯保証責任があることを明確にしておくことが宜しいと思います。

(2) 裁判について

  借主に対し賃料不払い等の裁判を起こした場合を想定して

①貸主の住所地を管轄する裁判所を、「専属的裁判管轄」或いは「追加的裁判管轄」に定めておく

②「弁護士報酬等訴訟費用については敗訴者の負担とする」等の弁護士費用敗訴者負担条項を定めておく

ことも有効なことではないかと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.02更新

詐欺の被害に遭わないために

 

 はじめに

 近時様々な手口の詐欺事件や詐欺的商法による被害が報告されています。このような事件では実際に被害にあってしまうと、加害者の所在不明や資力の欠如のため被害回復は困難な場合があります。

 そこで、今回は、詐欺的商法の被害に遭わないための予防策として、これら詐欺事件・詐欺的商法の事例をご紹介します。今回ご紹介するケースと少しでも似ているなと思われた場合には相当慎重な対応が必要がであると思われます。

1 極度額一杯まで保証責任が及ぶ根保証だが~根保証に対する無知を利用して、保証金額を知らないうちに拡大~

近時「根保証」(ねほしょう)制度の濫用による思いもかけない保証責任を強いられる事例が報告されています。

 例えば、A社が、金融機関から百万円を借り入れたとします。その時に保証人が必要になり、友人のB社長に連帯保証人を頼むとする。B社長は、A社長が「借りるのは100万円だけだから」と懇願するので、100万円ならばあげたものと思って保証人になってもいいだろうと思い、判子を捺す。しかし、B社長の保証責任は100万円ではすまないこともあるのです。

 それが、根保証契約の場合です。根保証とは極度額(きょくどがく)に至るまでA社長が借り入れた債務や利息・遅延損害金の一切を保証するという契約です。契約書が根保証契約となっていて、1000万円となっている極度額を確認しないで判子を捺すと、後で、B社長が知らないうちにA社長が900万円を借りて支払い不能になった場合でも、B社長は1000万円の保証義務を免れることは基本的にできないのです。

 また、本物の詐欺の事件としては、A社長と貸手の自称金融機関Xが集団詐欺師である事例もあります。これは、A社長が最初は300万円の保証人になってくれれば、お礼として20万円をお渡しする、直ぐに返済できる当てがあるので絶対に迷惑をかけないと言うのでB社長が保証人になる、300万円はA社長の言うとおり返済されるが、次は、500万円の保証人になって欲しい、お礼は30万円出しますと言われ、前回の300万円の返済で信用してしまったB社長は500万円の保証人となる、その後500万円の返済が為された後、A社長は、最後の詐欺に取りかかるのである。A社長は、実際に借りるのは500万円だけだが、書面上だけ2000万円の根保証人をお願いしたい、お礼は50万円をお支払いしますと言われ、2000万円の根保証人になる。その後、A社長は夜逃げし、A社長に2000万円を融資したという自称金融機関Xから2000万円の根保証責任を追及されるのである。金融機関Xが本物の金融機関でちゃんとお金を貸している場合もあるし、実際にはお金を貸しておらずA社長と共犯の場合もあるでしょう。いずれにしても、根保証契約書やA社長にお金を貸した形跡のある領収書・預金通帳などをそろえられれば、B社長が根保証人の責任を免れるのは難しいと思われます。B社長は100万円の小金を得たものの結局は2000万円の根保証責任を果たすため、持ち家を売却せざるを得なくなったのです。

 A社長に「100万円しか絶対に迷惑をかけないから」などと言われてそれを信じたとしてもそのような主張はお金を貸した第三者には通用しません。このような契約の場合は、特に契約上の文章をよく読み、少しでも疑問点があれば質問をする、専門家の意見を聞くことが大切でしょう。根保証をするのであれば、極度額一杯の保証をするつもりでないと(多くのケースでは根保証人に通知が行くときには既に極度額一杯まで融資されている)根保証はすべきではないでしょう。

 なお、平成17年4月1日から改正民法が施行され、極度額の定めのない包括的根保証が無効となるなどの改正がなされました(本稿第41回参照)。

2 古典的な詐欺の手口ながら被害件数の多いのは取りこみ詐欺

~少額の信用取引を積み重ね、信用獲得後は、取引額を一気に跳ね上げ商品を手に入れたら突然ドロン~

 信用取引を利用して最初から騙すつもりで商品を購入し、それを横流しして現金化するのが取りこみ詐欺の手口でです。

 しかし、まったく取引のなかった会社と最初から3000万円の信用取引を行うところはないでしょう。最初は少額の10万円程度の取引を開始し、ある程度継続して徐々に取引額を上げていくのです。もちろん、この間の商取引は、代金も正常に振り込まれます。その間、取り込み詐欺を企んでいる会社は、あの手この手を使って、さりげなく自分の会社は信用できる会社だということをアピールしてきます。

 ところが、ある程度信用をつけたところで、「今度、取引先の大手企業の新商品として使ってもらう話になった」などとそれらしい話をして、一気に取引額を10倍に引き上げるのです。そして、商品を信用取引で購入したら、ある日突然姿を消してしまいます。

これが、取りこみ詐欺の典型的な手口です。取り込んだ商品は二束三文でバッタ屋などに売られ現金化されます。

商業登記簿謄本を取り寄せてそれなりに調査したつもりでも、世の中にはペーパーカンパニーが何万と存在します。詐欺師は、それらペーパーカンパニーのうち歴史のある古い会社を選び買い取って、信用できる会社に仕立てて取引を持ち込むのです。もちろん、商業登記簿謄本上の代表取締役などは、名前を貸しただけで事情は何も知らず、詐欺被害の被害賠償をする資力がないような倒産した会社の元社長だったりします。

また、この手の詐欺師は、名刺にロゴマークを入れたり、所在地を一等地に置くなど、いろいろなテクニックを駆使して見せかけの信用を築いているのも特徴です。中には、大手企業の子会社だと称して、大手企業に類似した商号を使用して取引を持ちかける会社もあります。

最後に、取り込み詐欺に遭わないためには、これが一番大事なことなのですが、急に注文額が大きくなったとき、シメシメと思わず、どういう会社で、どういう社長なのか、どういう理由で取引額が増えたのか、例えば前記の新商品としての取り扱いの話は本当かなどを確認するため取引先だという大手企業に直接問い合わせてみる、一度挨拶に伺うなど、調べられることはきちんと調べて取引を行わなければならないということです。 

場合によっては、胡散臭さがどうしても拭えないと思ったら、おいしい話かもしれないが、痛手を負うリスクを避ける為に、取引額が多額なだけに然るべき担保や現金取引でないと応じられないとお断りした方がよい場合もあるでしょう。

これらを怠ったがために、最初から会社すら存在しないという典型的な取りこみ詐欺の被害に遭ったり、多額の取り込み詐欺に遭い、その損失を補填できず倒産に追い込まれるというケースもよく耳にします。  

3 地面師

 不動産取引にかかわる詐欺の典型ともいえるのが地面師です。

 地面師とは、不動産登記簿を偽造するなどして、他人名義の不動産をその人になりすました上で勝手に所有名義を書き換えては、その不動産を担保に多額の融資を受けたり、第三者に売却するなどしてお金を持ち逃げする輩のことです。

 地面師による手口としては、登記所に赴き登記簿原本を閲覧している時に偽造した偽の登記簿と該当ページごとすり替えてしまったり、本人の委任状を偽造するなどして住民票を無断で移転し、移転先の住所で登記所から本人確認のために送られてきた書類を受領し、不動産の名義変更を完了させてしてしまうなどの手口がよく使われます。

 地面師対策ですが、これは当たり前のことではありますが、必ず現地を見て、誰がどのようにして住んでいる土地なのか、どのように使われている土地なのかを確認することです。

 現に住んでいる人に話を聞くだけで、登記簿が偽造されていたことが発覚するケースは多いです。また、不動産登記簿謄本を見た場合、短期間のうちに何人もの人が間に入って売買を繰り返されていたり、前所有者の住所表示が売買の直前に移転している場合には要注意が必要です。

4 結びに

 甘い話には乗ってはいけないと十分認識していたはずでも、「この人ならば間違いないだろう」と思ってしまい、お金を渡してしまう詐欺の被害は後を絶たないのが現状です。

詐欺師は、人を騙すため、というより見せかけの信用を作るためには労力やお金を惜しみません。例えば、打ち合わせの最中に、あたかも財務省の高級官僚から携帯電話があったかのようにして電話に出てみたり、大企業の社長から偶々もらった名刺をさも懇意にしているかのように見せてみたり、一度しかあったことがない弁護士の名刺を見せては相談に乗ってもらうならこの人を紹介するなどと言ってみたり、さりげなく自分が信用のある人間だと言うことを見せかけるのである。

「詐欺師は紳士の顔でやってくる」と言われますが、まさにその通りで、物腰の柔らかな接し方、法律や金融に関する詳しい知識、そして、紳士的な雰囲気など、その人が装っている雰囲気や知性にまずダマされてしまうのです。

また、詐欺師は、より大きいお金を引き出すため人を信用させるためならば、少々の費用は惜しみません。前記の通り、一等地に事務所を設けたり、お金のかかったホームページを作成したり、会社のロゴマーク入りの名刺を作ったり、時には、高級ホテルのスウィートルームを面談場所に指定したりもします。このようなお金のかかった演出にはダマされるなと言う方が無理なのかもしれません。

 このように詐欺師による人を信用させる為の工作は極めて巧妙です。

したがって、詐欺の被害に遭わない方法としては、第一に、詐欺師の外見や雰囲気だけにとらわれて判断しないこと、第二に、実際の取引内容を冷静に分析し・見極め、あまりにうますぎる話であれば必ず裏があると思った方がよいこと、第三に、これは逆説的でありますが、その相手方自身からもたらされたものではない情報や第三者の評価を重視することです。例えば、自分の足でその会社の本社に赴いて調べてみたり、親会社だという有名企業の総務部に問い合わせて見たり、時には興信所を使って第三者の評判を聞いてみたりすることです。

商売を成功させる為には、ある程度のリスクは覚悟して、千載一遇のチャンス掴まなければならない場合もあるでしょう。しかし、そのチャンスとは決しておいしい話、うますぎる話ばかりではないのではないでしょうか。

本稿を読んでいただくことで、詐欺師とはどのような人達なのか、詐欺にはどのような手口があるのかを実際に認識していただき、少しでも、詐欺の被害に遭わない為の予備知識として頂ければ幸いです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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