弁護士 秋山亘のコラム

2018.12.17更新

借家契約において無効となる条項

 

<質問>

 借家契約では契約書で家主に有利な規定を設けても無効になる場合があると聞きます。どのような条項が無効になるのでしょうか。

<回答>

1 借地借家法では、一定の事項については仮に契約書等で賃貸人に有利な条項を定めても無効になる旨を定めております。これを強行規定といいます。

 借地契約については借地借家法9条が、借家契約については借地借家法30条がこれに当たります。

 具体的には借家契約の場合で、借地借家法28条(賃貸人は正当な事由がなければ更新を拒絶しまたは解約の申し入れをすることができない)、同法26条1項(期間満了前1年~6カ月の間に更新拒絶の通知をしないと契約は自動的に更新されたものと見なされる)、同法26条2項(期間満了前の26条1項の通知をした場合であっても、賃借人が期間満了後も建物の使用を継続している場合には賃貸人が遅滞なく異議を述べないと自動的に更新されたものと見なされる)、同法29条(1年未満の契約をした場合には期間の定めがない契約と見なされる)などの規定が強行規定にあたります。

 したがって、これらの規定に反する条項で賃貸人に有利な条項は無効とされています(借地借家法30条)。

2 具体的に問題となった例としては以下のような条項があります。

・家主の要求があれば直ちに明け渡す旨の特約

このような条項は、借地借家法28条の正当事由(地主の自己使用の必要性に関わる正当事由)がなければ解約できないとの条項に違反します。

また、建物の立ち退きに当たっては一切立ち退き料を請求しない旨の条項 も、立ち退き料の提供は正当事由を補完するための重要な要素ですので、このような条項も実質的には借地借家法28条に反するものとして無効になります。

また、家主の療養中に限り賃貸する旨の条項なども実質的に借地借家法28条に反するとして無効とされております(ただし、ここで述べているのは、療養が終わっても当然に借家契約が終了しないという意味ですので、療養が終わり家主が当該借家を自己使用する必要性が高いという事情は、借家契約の更新拒否の正当事由の一つとして考慮されます)。

なお、一定の期間に限り賃貸に出したいという場合には、借地借家法38条の各要件を備えることにより成立する定期借家契約という方法がありますので、この方法を検討するべきでしょう。

 ・賃借人が差し押さえを受け又は破産宣告の申し立てを受けた時には、家主は直ちに契約を解除することができる旨の条項

 差し押さえを受けたり、破産宣告の申し立てを受けただけで、家賃はきちんと支払い続けているという場合には、賃借人は何ら債務不履行(家賃の滞納)をしたことになりませんので、このような事項は借地借家法28条の正当事由にはなりません。

したがって、このような条項も無効になります(最高裁昭和43年11月21日民集22・12・2726)。

なお、賃借人の破産は、かつては民法上の賃貸借契約の解除事由とされていましたが、前記のような理由から合理性がない規定だとして民法の規定からも削除されています。

3 このように、賃貸借契約の終了事由に関わる条項の多くは、借地借家法28条の定めと実質的に反するという理由で無効とされておりますので、契約書の検討の際には特に注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.12.10更新

滞納管理費の一部弁済と時効中断の範囲 

 

<質問> 

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしておりますが、ある区分所有者の方で管理費を4年11ヶ月間滞納している方がいます。管理費の時効期間である5年の経過を間近にして、強く督促したところ、その方は1ヶ月分だけ支払って来ました。

債務の一部弁済も時効の中断事由にあたると聞いておりますので、もうしばらく訴訟の提起を見合わせたいと思っております。

時効の点は大丈夫でしょうか。

<回答>

 本件で問題となっているマンションの管理費は、民法169条所定の定期給付債権に該当することから5年の時効期間に服します(最高裁判所平成16年4月23日判決)。

 ところで、マンションの管理費のように毎月定期的に発生する債務に関して、その1ヶ月分のみが支払われた場合において、債務の一部弁済として滞納期間全体(本件では4年11ヶ月分)の債務について時効中断の効力が及ぶのか、それとも個々の債務は別個独立の債務であることから残りの滞納期間の債務には時効中断の効力は及ばないと考えるのかが問題となります。

 この点、医師会に入会後規約に基づき毎月定期的に発生する医師会会費の時効が問題となったというマンション管理費の滞納と類似する事案において、判例(大審院昭和16年2月28日判決)は、一年のうち4月分・5月分の会費を支払ったとしてもそのために同年度の他の未払会費の支払義務があることをも承認したものとは認定出来ない、として残りの滞納期間の債務には時効中断の効力が及ばない立場を明らかにしております。

 したがって、本件においても、1ヶ月分の管理費が支払われたからと言って、他の滞納期間の債務を承認したことにはならないと考えられます。

 そのため、本件において時効の成立を防ぐためには、①残りの滞納期間の債務について5年の時効期間が経過する前に訴訟を提起する(5年が経過する前に取りあえず内容証明郵便を送付して6ヶ月以内に提訴する場合も含む)、②残りの滞納期間の債務について滞納債務の総額と滞納期間を明示の上債務者がこれを承認する旨の債務承認書を債務者から取得する、或いは、③残りの滞納期間と滞納債務の総額を明示の上これを分割弁済する旨の分割弁済書を債務者から取得する、という方法によって時効中断の措置を取っておく必要があります。

 なお、②③について、しばしば口頭での遣り取りだけで済まされがちですが、口頭の遣り取りだけでは後に立証することが困難となりますので、書面の取り交わしは必須と言えます。

また、③の場合には、「期限の利益喪失約款」を付する場合がありますが、この場合には、「相手方の○回分の滞納により当然に期限の利益を喪失する」と記載されている場合には、相手方の○回分の滞納により期限の利益を喪失した時から5年間で、債務承認をした全体の残債務について時効になります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.12.03更新

遺留分の放棄に関する法律相談

 

 

<質問>

 私は、ある不動産賃貸業の会社を経営しており、いくつかの不動産を保有しております。

 妻は既に他界しておりますが、子どもが二人おります。長男は会社の経営を手伝い、次男は海外で悠々自適に暮らしている状況です。

 長男に会社を引き継がせるため、次男には一定額の預金を渡すことで、会社の株式とそのほかの不動産等の財産については、長男に相続させることを考えております。

 幸いにして次男もその考え方に了解してくれています。しかし、将来のことを考えると、次男にしても考えが変わるとも限りませんので、きちんとした法的な手続きを取っておきたいと思います。

 どのような手続きを取ればいいのでしょうか。今のうちに、次男から相続放棄の書面に署名・捺印をもらっておけばよいのでしょうか。

なお、これまでに長男・次男に生前贈与したことはありません。

<回答>

1 被相続人の生前に相続人が相続放棄の書面を作成していたとしても、生前の相続放棄は無効とされております。

 そのため、本件のように被相続人の生前において相続財産の分配方法を確定しておきたい場合には、あらかじめ遺言書を作成しておいて、相続財産の分配方法を具体的に定めた上で(例えば、預金Xは次男に、その他の遺産は全て長男に相続させる)、次男においては遺留分放棄の許可の申立(民法1043条)を家庭裁判所にして、家庭裁判所から許可の審判を得ておく必要があります。

家庭裁判所は、次男において遺留分の放棄の意思表示が真意に基づくものか、その他遺留分放棄に至った事情を考慮して、許可の審判をします。

2 もっとも、生前における遺留分の放棄が意味をなすのは、遺言による相続財産の分配方法が遺留分を侵害する場合です。本件における次男の遺留分は、これまでに生前贈与をしたことはないとのことですので、相続財産から相続時の負債額を差し引いた金額の4分の1(=1/2×1/2)です。

したがって、遺言によって次男に渡す予定の預金額がこの遺留分額を下回らなければ、遺留分を侵害することはないので、遺言書を書くだけで足ります。

本件のように不動産を多数お持ちの場合には、不動産の価値がかなり高額となる場合が多いでしょうから、一定額の預金を渡してもなお遺留分を侵害するとされるケースが多いでしょう。生前における遺留分の放棄の許可の手続きを取るべきか否かは、この点を考慮して決めることになります。

3 このほかに「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」では、会社の事業承継にあたって、後継者が議決権の過半数を確保することできるよう、株式等の生前贈与が行われた場合の遺留分に関する民法の特例が設けられております。

これは、一定の要件を満たす中小企業においては、旧代表者の推定相続人全員の合意により、旧代表者から後継者に生前贈与された株式等を①推定相続人の遺留分算定の基礎財産から除外する、または、②後継者が贈与を受けた株式等の評価額を一定額に固定する合意がなされ、その合意内容について家庭裁判所の許可を受けることにより、当該生前贈与を受けた株式等に対する遺留分の行使を制限できるというものです。

②は、株式等の生前贈与が為された後、後継者の経営努力によって株式の価値が上昇したという場合に、遺留分算定の際の株式の評価額は相続開始時を基準とされていることの不公平さをなくすための制度でもあります。

民法の制度は、遺留分の放棄という制度であり、遺留分権者にとってはオールオアナッシングの制度のため、かえって使いにくいという難点がありましたが、上記制度は、事業承継に必要な株式に関してのみ適用される制度ですので、遺留分を全部放棄してしまう民法の制度に比べて中間的な方法として利用が期待できます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.11.26更新

借地借家法の改正と定期借地権制度の概要

  

<質問>

 借地借家法が改正され事業用定期借地権の制度が利用しやすくなったと聞きました。どのような点が改正されたのでしょうか。

 また,借地借家法で定めのある定期借地権制度の概要を教えてください。

<回答>

1 平成19年の借地借家法の改正について

借地借家法の一部を改正する法律(平成19年法律第132号)が公布され,事業用定期借地権を設定する場合の存続期間がこれまでの「10年以上20年以下」から「10年以上50年未満」に改正され,上限が引き上げられました。施行期日は平成20年1月1日です。

これまで事業用定期借地権は存続期間10年以上20年以下の範囲でしか設定できませんでした。

しかし,建物の税法上の減価償却期間は20年を超えるものが多く,これに見合った条件で定期借地権を設定できるようにしてほしいという要望が多く寄せられたため,今回の改正により,存続期間10年以上50年未満の範囲で事業用定期借地権を設定できるようになりました。

なお,存続期間が50年以上の借地権を設定する場合には,その建物所有の目的が事業用であるか居住用であるかを問わず,一般定期借地権(借地借家法第22条)によることができます。

したがって,改正後は,事業用の建物の所有を目的とする借地権については,一般定期借地権と事業用定期借地権を適宜選択することにより,存続期間10年以上の範囲で自由に設定することが可能になりました。

2 借地借家法上の定期借地権制度

 借地借家法では,一般定期借地権,建物譲渡特約付借地権,事業用借地権の3種類の制度が定められております。

以下では,誌面の関係もありますので,この3つの制度の概要及び契約上の注意点に関する項目を挙げておきます。

(1)一般定期借地権

  一般定期借地権は以下のような特徴をもった契約です。

 ①契約の更新がなく契約上の存続期間が経過すれば確定的に終了

 ②建物買取請求権がない,建物の再築による期間の延長がない

 ③書面によることが必要

 ④存続期間は50年以上

 ⑤契約上の留意点

  ・原状回義務の範囲を明確にする。

  ・権利金若しくは保証金の性格を明確にしておく。

    ・分譲マンションでは借地権譲渡に地主の同意が不要な地上権方式を利用する。

  ・定期借地権消滅後の建物賃借人の扱い

   →借地借家法35条の建物賃借人の1年間の明け渡し猶予,38条の一般の定期借家権制度の利用,39条により建物賃貸借契約で終期を明記することで建物の取り壊し時に建物賃貸借契約が終了する特約などによって,定期借地権の消滅時若しくはそれから1年以内の間に建物賃借人は建物からの退去義務が生じる。

  ・特約がなければ借地人は期間満了まで中途解約はできない。

  ・建物無償譲渡特約の有無

(2)建物譲渡特約付借地権

建物譲渡特約付借地権とは,通常の借地契約に,設定後30年を経過した日以降に借地上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨の特約を定めた契約です。例えば,契約期間40年の普通借地契約に30年を経過した時から期間満了時までに地主の申し出によって建物が譲渡される特約を付けた契約です。

 更新なく借地権が消滅するという点で地主の利益に適い,建物譲渡による投下資本の回収ができ,原状回復義務がないという点で借地人の利益に適うが,実際に契約をするとなると以下のような問題点があり,複雑な契約関係になるため,現在ではあまり利用はされていないようです。

 ①相当の対価の額をめぐり将来紛争になる可能性がある(契約書では相当な対価をどのように算定すべきかを明確にすることが望ましい。契約書に明確な売買金額を定めておく,複数の不動産鑑定士の鑑定結果によるなど。)

 ②相当の対価に借地上の「場所的・環境的利益」を考慮するのか否かは見解が分かれるところである(契約書でも上記の点を明らかした方が望ましい。なお,建物買取請求権の場合,借地権価格は含まれないが「場所的・環境的利益」を考慮するというのが判例である)

 ③無償で譲渡する旨の特約は「相当の対価」との条項に違反し無効

 ④建物所有権移転登記を保全するための仮登記を設定する必要がある(地主は,譲渡特約に反して第三者に建物が譲渡される或いは建物が競売されると,建物を優先的に譲り受けることによって借地権を消滅させることができなくなる。そのため,譲渡特約による建物所有権移転登記を保全するため第1順位の所有権移転の仮登記を設定する必要がある)

 ⑤地主による建物譲渡の申出期間の設定の制限の定め(借地人が長期間不安定な地位におかれることを防ぐため)

⑥建物賃借人の扱い

・建物譲渡特約に基づく地主の所有権保全の仮登記前に建物が第三者に賃貸され引き渡された場合で,建物が第三者に賃貸され現に第三者に使用されている場合には,法31条により建物の賃借権が地主が取得する建物所有権に対抗可能となる。そのため、建物賃借人は建物賃借権を従前の借地人に対するのと同様に地主に対し主張することが可能になる。

・建物譲渡特約に基づく地主の所有権保全の仮登記後に建物が第三者に賃貸され引き渡された場合若しくは借地人自身が建物を使用している場合で,借地権の消滅時点において借地人又は建物の賃借人が借地上の建物を現に使用している場合には,法24条2項により,同人らの請求によって地主との間で「期限の定めのない建物賃貸借契約」が成立したものとみなされる。ただし,借地権者と建物賃借人との間で38条1項の定期借家契約が締結されている場合には,それによる契約終了が優先する(24条3項)。「期限の定めのない建物賃貸借」は,貸主からいつでも解約申出ができ,解約申し出時から6ヶ月の経過をもって賃貸借契約は終了するが,解約申し出には「正当事由」が必要になるため,一般の賃貸借契約と同じように貸主側の自己仕使用の必要性と借主側の必要性及び立退料の提供の有無などを総合考慮して判断される。もっとも,貸主側の正当事由として,建物の借地がもともと24条の建物譲渡特約付借地権であったことが考慮されるので,一般の賃貸借契約の場合に比べ正当事由は具備される易くなる(一定期間の立ち退きの猶予若しくは通常よりも少額の立退料の提供で正当事由を具備すると判断される可能性が高い)。

(3)事業用定期借地権

 ①契約の更新がなく契約上の存続期間が経過すれば確定的に終了

 ②建物買取請求権がない,建物の再築による期間の延長がない

 ③専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く)を所有する目的で設定される借地権

 ④存続期間は10年以上50年未満と拡大された

 ⑤公正証書による契約が必要

 ⑥定期借地権消滅後の建物賃借人の扱いは,法35条により建物賃借人が借地権消滅を知った時から1年間明け渡し義務が猶予される。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.11.19更新

賃借人の行方不明と明け渡し

 

<質問>

私は、アパートのオーナーをしておりますが、アパートの賃借人が半年前から行方不明になり、賃料も滞納しています。

このような場合、どのような方法をもって部屋の明渡を受ければよいでしょうか。

なお、賃貸借契約では賃借人の父親が連帯保証人となっています。

また、賃貸借契約書には、「契約終了後に賃借人が部屋の明け渡しに応じない場合には、賃貸人は、鍵の変更及び残置物の処分をすることが出来る」と書かれております。

 

<回答>

1 賃貸借契約解除・建物明渡の方法

 本件では、賃料の滞納を理由に賃貸借契約を解除した上で、建物の明け渡しを求めることになりますが、賃借人が行方不明の場合には、契約解除の意思表示をどのような方法で行うかが問題となります。

 というのも、民法97条1項により、契約解除などの意思表示は相手方に到達して初めて、効力を持つのですが(通常、配達記録付きの内容証明郵便で通知をするのもこの為です。)、本件のように相手方が行方不明の場合にはどのようにして解除の意思表示を相手方に到達させるかが問題になるのです。

この点、民事訴訟法の改正に伴い、訴状に意思表示が記載されているときは、訴状の「公示送達」で契約解除の意思表示を相手方に通知することもできるようになりました(民訴法113条)。そのため、現在は、訴状に解約解除の意思表示を記載した上で、訴状の送達を「公示送達」の手続きによってすることになります。

公示送達とは、訴状の送達は、本来は、郵便局員が被告の居住地に赴き被告本人若又は被告の同居人若しくは被告の勤務先の従業員に手渡しをすることによって行われるのが原則ですが、被告の居住地や勤務先が調査を試みても不明な場合には、裁判所にその旨の調査報告書を提出することによって、裁判所の掲示板に呼び出し状を貼り、その日から2週間経過した時に訴状の送達があったものと見なされる手続きです。

ただし、公示送達のための調査は、被告の住民票上の住所に赴き、近隣者等に聞き込み調査をしたり、郵便受けの状況、表札の状況、電気ガスメーターの状況などを調査したり、或いは、連絡の取れる親族に聞き込みをしたりしなければならないため、なかなか手間がかかる作業となります。

2 連帯保証人の明渡義務について

 このように、行方不明になった賃借人本人には、訴訟を通じて明け渡しを求めることが出来ますが、例えば、連絡のつく連帯保証人に対し、建物の明け渡し求めることは出来ないのでしょうか。

しかし、この点、大阪地判昭和51・3・12は、「建物明渡義務は、賃借人の一身専属的な義務であり、保証人が代わって実現することはできない。建物明渡について保証債務は、明渡の不履行により、この義務が損害賠償義務に変ずることを停止条件として効力を生じる」ものとしています。

したがって、この立場からは、連帯保証人は、建物明渡義務それ自体は負担しないことになります。

 もっとも、連帯保証人は、賃貸借契約上の賃借人の一切の債務を連帯保証するのが通常ですから、明け渡し自体は求められなくとも、明け渡し完了時までの賃料相当損害金や明け渡しに要する執行費用など金銭請求については求めることが出来ます。

 そこで、このままでは連帯保証人が支払わなければならない保証債務が膨れあがることを説明し、連帯保証人である父親の手で建物の明け渡しを実施してもらうことが現実的な解決方法でしょう。

3 残存動産を処分するための法的手段

 明渡の判決を得て強制執行に及んだとしても、それをもって、建物の内部に残された動産を当然に処分することはできません。

そこで、建物明渡を求める訴えを起こす際、同時に滞納家賃を支払えとの判決を求める訴えも起こして、その判決に基づいて残された動産の差押競売をなし、滞納家賃の一部に充当することにより、残置動産を処分するという方法が必要になります。

近時の民事執行法の改正で、資産価値の高い重要な動産を除き、明け渡しの断行当日に即時競売が出来るようになりましたので、賃料債権をもって動産類を差押えするなどして、建物明け渡しの執行費用を抑えることが大切です。

建物明け渡しの強制執行の時に、資産価値がある動産が残っていると、倉庫を借りて一定期間保管しなければならず、その保管料、運搬料、運び出し人夫の費用などがかかってしまいます。

この費用は、荷物の量にもよりますが1回の建物明け渡しで50万円程度かかると言われております。

4 残置動産放棄条項の有効性

 このように、明渡の判決を得て強制執行をするにしても、その執行費用は結構な金額になります。

それを回避するために、賃貸借契約書には「契約終了後に賃借人が部屋の明け渡しに応じない場合には、賃借人は、残置動産を放棄し、賃貸人は、鍵の変更及び残置物の処分をすることが出来る」といった条項が書かれている場合があります。

しかし、東京高判平成3・1・29は、このような条項の有効性について「本件建物についての賃借人の占有に対する侵害を伴わない態様における搬出・処分のみを認めるものと解するのが合理的」と認定し、賃借人の占有が残っている建物への立ち入り搬出・処分は違法な自力救済に該当し、許されないと判示しております。

したがって、仮に、賃貸人がこのような賃貸借契約書の条項が存在するとして、契約解除後に改めて賃借人から同意書を取り付けることなく、賃借人の建物内に入り、賃借人の荷物を持ち出したり、処分する行為は、民事上の損害賠償請求をされるおそれがあるほか、住居侵入罪や窃盗罪として処罰されるおそれがあります。

そこで、賃貸人としては、出来るだけ契約解除後、改めて賃借人と連絡を取り、鍵の引き渡しと共に残置物放棄の書面を取り付けなければなりません。

もしくは、このような明け渡しの作業については賃貸人本人が行うのではなく、連帯保証人である父親を説得して、父親の責任で行ってもらう、それが出来なければ、訴訟を提起した上で強制執行の手続きをもって行うことが必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.11.12更新

借地権付建物を競売により取得する場合の注意点

 

<質問>

 私は、借地権付建物を競売により取得しました。

 落札後、地主のところに行き、改めて借地契約の締結をしたい旨を話しましたところ、地主は、承諾料として借地権価格の1割を支払わなければ借地権譲渡は認めないと言ってきました。

 しかし、この競売物件の物件明細書には、借地人が借地上に建物を建てた際に地主が金融機関に提出したものと思われる借地上の建物に対する抵当権設定の承諾書が添付されており、その承諾書には「将来第三者が所有権を取得したときは、借主に対するもの同一の条件で、その者に引続き貸与します」と記載されており、地主の署名捺印が押されていました。

 この同意書によると、地主は、借地権の譲渡について、事前に承諾しておりますので、改めて借地権の承諾料を支払わなくてもいいのではないかと思います。

 このまま地主の同意を得ないでいても、地主に対し、借地権を主張することは出来るのでしょうか。

<回答>

1 まず、上記のような承諾書がない一般的な場合についてご説明致します。

競売により借地上の建物を取得した者は、建物の所有権と共に借地権も取得しますが、この借地権は地主の承諾を得て取得したものではないため、落札後に地主の承諾を得ないと、借地権の無断譲渡によって借地契約を解除されてしまいます。

  そこで、借地借家法第20条は、競売によって借地権付建物を取得した借地人を保護するため、地主の承諾に代わる裁判所の許可の審判を申立てることができるとされております。

  この許可の審判の申立てがあると、裁判所は、地主から介入権の行使があった場合や借地人が借地を暴力団事務所に使うなどの特段の事情がない限り、許可の審判を下します。ただし、自己の意思に関わりなく、借地権譲渡を認めなければならない地主の利益に配慮して、借地権価格の1割に相当する金員を借地権者が地主に支払うことが条件とされます。

 2 ところで、上記の借地借家法20条の審判申立は、借地人が競売代金を納付した日から2ヶ月以内に申立てなければならないとされており、これは、当事者間の合意によって伸長することができない不変期間だとされております(東京地方裁判所平成10年10月19日判決・判例タイムズ1010号267頁)。

この2ヶ月の不変期間を設けた趣旨は、自らの意思に関わりなく借地権譲渡への承諾か介入権行使かを迫られる地主側の不安定な状態を速やかに確定するためとされております。

  したがって、この期間を経過してしまうと、結局、競売によって借地権を取得した借地人は、地主に対し、借地権を対抗できなくなってしまい、地主の土地明け渡し請求に応じなければならなくなってしまいます(前記東京地方裁判所平成10年10月19日、東京高等裁判所平成17年4月27日判決)。

  このような結論は、借地人に対しあまりにも酷なように思え、上記裁判例に対して批判の声もありましょうが、借地借家法20条の申立期間を経過した借地権者に対する裁判例の態度は厳しい傾向にあるようです。

  なお、地主の土地明け渡し請求に対して、借地権を対抗できなかった借地人は、借地権を喪失することになりますが、裁判所は、そのような不利益も、借地借家法第14条に基づく建物買取請求権によって調整が図れるとしております。建物買取請求権を行使した場合に、地主が支払うべき建物代金には借地の場所的利益を金銭に換価したものも含まれますが、借地権価格と比べれば格段にその金額は低くなります。前記の東京地方裁判所平成10年10月19日判決は、場所的利益の金額を更地価格の1割として認定しておりますが、借地権価格が更地価格の7割前後であることに照らせば、借地借家法20条の申立期間を経過してしまったために、借地権付建物を競落した借地人が被った損失は極めて大きな額になります。

 3 さて、以上を踏まえて今回のご質問ですが、確かに地主の承諾書を読めば、地主は借地権譲渡を事前に承諾しているように思えます。

  しかし、東京高等裁判所平成17年6月29日判決(判例タイムズ1203号182頁)は、当該承諾書が提出されたのは競売物件の買受申出時から10年前であり、抵当権者に対して提出された書類に過ぎないことから、競売手続当時に承諾書の拘束力を有することを認めることが困難であるという理由で、借地権譲渡に対する地主の承諾を否定しました。

  そして、当該事案では、既に借地借家法20条の申立期間を経過してしまった事案であり、また、地主側も競売の物件明細書や競売後の事前の交渉段階から借地権譲渡に対し承諾せず、介入権を行使する予定である旨を明言していたこと、借地権者側も不動産業者であり前記申立期間を徒過した場合に自らが被るリスクを認識し得たことなどの事情も考慮して、借地権を地主に対抗できないとの判断を示しました。その結果、結局、借地権者は、借地権が消滅したことを前提に建物買取請求権を行使しておりますが、借地権価格が億単位であったため、この事案の借地権者側の損失はまさに億単位のものになりました。

  この裁判例の結論に対しても、学者の判例評者でも疑問が呈されておりますが、借地借家法20条の申立期間を経過した借地権者に厳しい態度を取っている点では、従前の裁判例の流れをつぐものと言えます。

 4 本件でも、地主と交渉してみるにしても、代金納付日から2ヶ月以内に借地借家法20条の審判申立をしなければ借地権そのものが消滅してしまう可能性が高いことに留意する必要があります。うっかり地主と交渉している間に上記の期間を経過してしまうと取り返しがつきませんので、地主の承諾が得られなそうな時や承諾料の金額で争いがある場合には、速やかに、借地借家法20条の審判申立をすべきでしょう。

本件では、まずは上記の申立をした後に、借地非訟手続きの中で、前記の金融機関への承諾書をもって、承諾料の支払いなく許可をすべきである、或いは、承諾料の減額をすべきであると主張をすればよいと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.11.05更新

借地条件変更の裁判

 

(質問)

 現在借地上に木造住宅を建てて住んでおりますが、私の借地を含む近隣の地域が高度利用地区に指定されたため、近隣の土地は高層ビルが建ち並んでおり、商業地域化が進んでおります。

 そこで、私の借地も鉄筋コンクリート造り5階建てのビルに全面改築しようと考えておりますが、賃貸借契約書では借地上の建物は「非堅固建物に限る」と記載されており、地主は、建物改築に承諾してくれません。

 この場合、どのような手続きを取ったらよいのでしょうか。

(回答)

1 借地条件変更の裁判

  本件のように賃貸借契約書において借地上の建物は「非堅固建物に限る」「木造家屋に限る」という建物の構造・規模等に関する制限(これを「借地条件」といいます)がある場合に、これを変更して「堅固建物」(例えば、鉄筋コンクリート造りの建物)に全面改築したい場合には借地条件変更の裁判を申立てる方法が考えられます。

  この借地条件変更の裁判は、増改築許可の裁判と異なり要件がだいぶ厳しくなり、また、承諾料も更地価格の10%と高くなります。

  そこで、今回は、借地条件変更の裁判の要件について詳しくご説明します。

2 借地借家法施行前(平成4年8月1日)に設定された土地賃貸借契約では、借地条件として「非堅固建物所有目的」を掲げているものがあります。

これは、土地の上に木造家屋といった非堅固建物を建設することは許可するが、鉄筋コンクリート造等の堅固建物を建設することは許可しないという内容の借地条件です。

これに反して無断で堅固建物を建てると契約違反となり賃貸借契約を解除されることがあります。

しかし、時の経過と共に木造建物は老朽化しますし、次に建物を建替えるときは、付近の建物にあわせて鉄筋造の堅固なビルにしたいという借地権者もいることでしょう。

  このような場合、まずは地主と協議して、借地条件の変更の承諾を得なければなりません。この際相当の承諾料を払わなければならないでしょう。

  しかし、それでも地主との協議がつかない場合は、裁判所へ借地条件変更の許可の裁判を求めることができます(借地借家法17条1項)。

なお、旧法では、この借地条件変更の許可の裁判ができる対象が、非堅固建物所有目的から堅固建物所有目的に限られていましたが、新法では、「建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合」に対象を拡張しています。

もっとも、実際に問題になるケースは非堅固建物から堅固建物への変更が多いようです。

3 裁判所は、法令の規制の変更(新たに防火地域に指定された、高度利用地区に指定された等)や近隣の土地の利用状況の変化(付近の土地上の建物では商業化に伴いほとんどが鉄筋の建物・高層のビルになっている)等のいわゆる「事情の変更」がある場合には、借地条件変更の許可の裁判をすることができます。

  但し、この借地条件変更の裁判の場合は、借地権譲渡の裁判と異なり、借地権の存続期間の延長を命ずる処分(通常は30年程度)がなされるなど(これは建物を保護する目的でなされます)、地主に対して不利な処分を伴いますので、借地権譲渡の許可の裁判や増改築許可の裁判と異なり、簡単にはでません。

例えば、単に、「家族が増えたから」とか「商業替えのための建て替え」「既存建物老朽化のための堅固建物への建て替え」といった借地人の個人的事情だけでは、許可の裁判はでないのです。

  そして、許可の裁判がでる場合にも、裁判所は大抵の場合借地人に相当の承諾料の支払を命じます。 

その承諾料の相場は更地価格の10パーセント前後となっています。この更地価格の10パーセントというのは、前記の地主との事前交渉の際にも一つの目安となるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.10.29更新

平成17年最高裁判例と原状回復義務

  

<質問>

私は、大家さんから家を賃借し、敷金として35万円を交付していましたが、賃貸借契約の終了により、借りていた家を出て、大家さんに対して敷金の返還を求めました。

しかし、大家さんは、退去時の原状回復義務に関して、賃貸借契約書では「生活することによる変色・汚損・破損」に対する修繕・補修費が賃借人の負担する旨の条項があるとして、敷金から家の補修費用として30万円を差し引いた5万円しか返還してくれませんでした。

大家さんは、通常の使用に伴う損耗についての補修費用まで敷金から差し引いているようですが、そこまで賃借人である私が負担しなければならないなんて納得できません。残りの30万円も返還してもらうことはできないでしょうか。

 

<回答>

1 敷金 

 不動産賃貸借成立の際には、通常、敷金と呼ばれる金銭の授受が行われます。

その目的は、借家契約の期間が満了して賃貸借契約が終了する時に、支払の滞っている賃料債務や建物に関する損害賠償債務を担保することにあり、延滞賃料や損害賠償額を控除して、残額は借家人に返還されます。

2 原状回復

賃貸借契約が終了し、借りた家を貸主に返す場合、借主は、借りた家を原状回復して返す必要があります(民法616条、598条)。

もっとも、ここでいう「原状回復」とは、借りた時の状態と同じに戻さなければならないという意味ではありません。借りた借家が、通常の用法で使用していればそうなるであろう状態であれば、「原状」にあたります。借家契約は、その借家を利用することが契約の本質的な内容ですから、通常の使用に伴う消耗は当然に予定されていることであり、損耗以前の状態にまで回復させることは民法は予定していないのです。

借りた家が通常の用法で使用していればそうなるであろう状態以上に痛んでいた場合には、借主は、借りた家を通常の用法で使用していればそうなるであろう状態に原状回復しなければなりませんが、その場合、通常は、補修費用を敷金から差し引くという形で清算されます。

本件では、通常の使用に伴う消耗についての補修費用まで敷金から差し引かれているということですが、上述したように、そのような補修費用は、本来、借主が負担すべき費用ではありません。そこで、原則として、借主は残りの30万円も返還してもらうことができます。

3 通常の使用に伴う消耗についての補修費用を賃借人に負担させる旨の特約の効力

 もっとも、賃貸借契約の際に、賃貸人と賃借人の間で、通常の使用に伴う消耗についての補修費用を賃借人に負担させる旨の特約がなされることがあります。

このような特約の効力については、有効であるか無効であるかという議論がなされてきましたが、最高裁は、平成17年の判決(平17.12.16第二小法廷判決・判例タイムズ1200号)において、一般的に特約を結ぶこと自体は民法90条の公序良俗違反に該当ぜず必ずしも無効とはならないとしつつ、特約に関する合意の成立要件を極めて厳格に解する立場をとることを明らかにし、結論としては、特約の成立を認めませんでした。

すなわち、最高裁は、このような特約は、賃借人に予期しない特別の負担を課すものであるから、賃借人がそのような特約の具体的な内容を明確に認識できるようなかたちで合意された場合のみ特約が成立するとしたのです。

 そこで、本件でも、上記のような特約がなされており、しかも、賃借人が補修費用を負担することになる通常消耗の範囲が、賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、賃借人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなどのような場合には、右特約は有効と解されます。そして、その場合には、賃借人は特約に従って、通常の使用に伴う消耗についての補修費用も負担することになりますので、残りの30万円の返還を請求することはできないということになります。

4 もっとも、前記判例の事案は本件と同様の事案ですが、賃借人の負担とされている修繕・補修の範囲・場所について、賃貸借契約書の別表である修繕費負担表で、襖紙、障子紙について「汚損(手垢の汚れタバコの煤けなど生活することによる変色を含む)・汚れ」、各種床仕上材・各種壁・天井等仕上材については「生活することによる変色・汚損・破損」に対する修繕・補修費が賃借人の負担とする旨が定められておりました。

しかし、最高裁は、上記のような条項では「賃借人が補修費用を負担することになる通常消耗の範囲が、賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているとはいえない」として、特約による賃借人の修繕費負担を認めませんでした。

上記の定めでは、「生活することによる変色・汚損」も賃借人負担とすることが書かれており、通常損耗についても賃借人が負担することが契約書でも書かれているように思われますが、最高裁は、上記のような書き方でも特約の成立を認めませんでした。

したがって、上記の最高裁の判断を踏まえると、修繕費負担の特約の成立が認められるためには、賃借人が退去するときに負担すべき修繕の範囲及び負担の程度が具体的に認識・予測できるほど一義的に明確にかつ具体的に契約書に明記されている必要があるということになります。すなわち、少なくても、契約書において、賃借人が負担することとなる通常損耗(通常の日常生活を送っていても生じる建物の傷み・汚損)の程度、通常損耗により補修すべき範囲、そして、賃借人が負担すべき修繕費の額若しくは計算方法などを明記した上、口頭でも十分説明をしておく必要があると思われます。

5 消費者契約法10条

 消費者契約法には、民法の規定の適用による場合に比べて消費者に不利な条項で、消費者の利益を一方的に害する契約は無効とする旨の規定があります(消費者契約法10条)。上記3で述べた特約は、民法の適用による場合よりも賃借人(消費者)に不利であるといえ、この規定によって無効になるのではないかという見解もあります。この点についての裁判所の判断はまだ明らかになっておらず、今後の動向が注目されています。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.10.22更新

賃借人による敷金と家賃の相殺の可否 

 

<質問>

 私は、店舗を借りて飲食店の営業をしている者ですが、賃貸借契約の際に、敷金として6ヶ月分を差し入れています。営業が不振なので、当面、敷金の一部を賃料の支払いに充てたいと考えております。家主に敷金と家賃の相殺を請求することは可能でしょうか。

 

<回答>

1 この問題は、賃借人が家主に預け入れた敷金の返還請求権の発生時期と関連する問題ですが、最高裁昭和48年2月2日判決(民集271・80)は、敷金返還請求権の発生時期について、建物の明け渡し時だと判示しています。

 これは、敷金の法的性質について、賃貸借契約の継続中の賃料だけでなく、賃貸借契約が解除等により終了した後の賃料相当損害金、また、建物の原状回復費用など明け渡し時までに賃借人が負担すべき一切の費用を担保するために預け入れられているものであることを理由とします。

 したがって、賃貸借契約の継続中においては、賃借人の家主に対する敷金返還請求権の弁済期が未だ発生しておりませんので、賃借人の方から家主に対し、敷金の一部と賃料との相殺を請求することは出来ません(大判大15年7月12日・民集5・616)。

 なお、上記の点は賃貸借契約書において相殺禁止の条項が入っていなくても同様です。

 もっとも、当然のことですが、家主が相殺を同意すれば相殺することも可能ですので、賃借人と家主の個別的な合意書を締結することによって相殺することは出来ます。

2 では、賃借人が家主に対し、一方的に敷金と家賃との相殺を通知した場合に、賃借人は、どのような不利益を被る事になるのでしょうか。

 前記の通り、建物明け渡し以前における家賃と敷金の相殺の主張は無効ですので、家主としては、賃料の不払いを理由に賃貸借契約の解除をすることができます。そして、賃料未払いの期間の長さや賃借人の対応に鑑みて、賃借人と賃貸人の信頼関係を破壊するとの事情が認められれば、契約解除は有効とされます。

 この点、最高裁昭和45年9月18日(判時612・57)も、敷金16万円、未払賃料20万円、賃料1ヶ月8万円という不動産賃貸借契約において、敷金と未払賃料を相殺すれば賃料の滞納は1ヶ月分にもならないという事案において、賃貸借契約において敷金が差し入れられていたとしても、敷金の性質上、特段の事情がない限り、賃料延滞を理由として契約を解除することができ、右解除が信義則に反し権利濫用であると認めることは出来ない旨判示して、解除を有効と判断しております。

 したがって、賃借人としては敷金を預け入れている場合においても、一方的に敷金と賃料の相殺を通知することは、賃貸人から契約解除をされてしまう不利益を被ることが予想されます。

3 なお、建物の明け渡し後において、賃貸人に対する敷金返還請求権と未払賃料を相殺する(或いは敷金と未払賃料が当然に充当される)ことは可能です。

実際にも、賃借人としても賃貸借契約の解約を考えているが、賃貸人側に敷金の弁済能力がなく、預け入れている敷金が返還される見込みがないという事案では、解約申し入れの数ヶ月前から賃料の支払いを停止し、賃貸借契約の解約を申し入れて、建物の明け渡しを行った後に、敷金と未払賃料を相殺する(或いは当然に充当される)という方法で預け入れ敷金の回収を図るという方法が実務上行われております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.10.15更新

借地権の存続期間

 

<質問>

 旧「借地法」と現「借地借家法」では借地権の存続期間に関してどのような違いがあるのでしょうか。

<回答>

1 旧借地法、現借地借家法は、借地人の保護と建物の保護のために、建物所有を目的で借りた土地賃借権の存続期間に関して、特別の定めをおいております。

  この存続期間に関する定めは、借地人の保護のための規定ですので、契約で法の定めより長い存続期間を設けることは可能ですが、契約でこれよりも短い存続期間を設けることはできません。

2 借地借家法は、平成4年8月1日に施行された法律で、同日以降に締結された借地契約に適用があります。

それより前に借地法下で設定された借地権(いわゆる既存借地権)の効力は、借地借家法の施行によって妨げられないとされています(附則4条)ので、存続期間に関する借地借家法3条は、既存の借地権には適用されません。

また、借地法の下で借地契約が成立した後、更新を重ねた借地契約も、存続期間との関係では借地法が適用となり、借地借家法の適用はありません(附則6条)。

したがって、原借地契約の成立時が平成4年8月1日以前か以後かで借地法と借地借家法のどちらの適用になるかが決まります。

3 借地法の存続期間

(1) 原借地契約の存続期間

借地法では、借地権の存続期間について、借地契約で期限の定めのない場合には、石造・土造・煉瓦造などの堅固の建物の所有を目的とするときは60年、その他の建物(いわゆる非堅固の建物)の所有を目的とするときには30年とされています(2条1項本文)。

これは建物の効用を全うするために設けられた規定ですので、その期間中に建物が「朽廃」すれば、借地権は目的を達成して消滅します(同項但書)。

なお、借地権設定契約で建物の種類・構造を定めなかったときは、非堅固の建物の所有を目的とするものとみなされます(3条)。

これに対し、借地契約で堅固の建物に関して30年以上、非堅固の建物について20年以上の存続期間を定めたときは、この合意が優先され、借地権はその期間の満了によって消滅します(2条2項)。この存続期間は合意の効果ですから、期間中に建物が朽廃しても借地権は消滅しません。

なお、借地契約で上記の期間よりも短い存続期間を定めた場合、そのような存続期間に関する合意は無効となりますので、結局、「期限の定めがない借地契約」になり、存続期間は堅固・非堅固の別により60年ないしは30年となります(最大判昭44・11・26民集23・11・2221)。

契約更新の場合の存続期間

(ア) 合意更新の場合

借地法では、借地契約の存続期間満了に際し、借地契約を合意によって更新する場合(但し、更新の合意だけで更新後の期間の定めの取り決めは特に行われない場合)の存続期間は、堅固の建物は更新時から30年、非堅固の建物は20年となります(5条1項)。

ただし、この期間中に建物が朽廃した時は借地権は消滅します(5条1項、2条1項但し書き)

当事者が上記より長い期間を定めて合意更新をしたときは、その合意に従います(5条2項)。この場合には朽廃の規定の適用はありません。

(イ) 法定更新の場合

期間経過後も借地上に建物が存在し、借地人が借地の使用を継続しており、地主が「正当事由」を具備して遅滞なく異議を申し出ないと、借地契約は更新したものを見なされます(6条、法定更新)。いわゆる法定更新の場合には、上記と同様、堅固の建物は更新時から30年、非堅固の建物は20年となります。

第2回目以降の法定更新の場合も、前記と同様です。

3 借地借家法の存続期間

(1) 原借地契約の存続期間

借地借家法では、借地契約で存続期間の定めをしていない場合、借地権の存続期間を30年と定めております。契約でそれより長い期間を合意したときはその期間となります(新法3条)。

借地借家法では、堅固建物・非堅建物の区別による存続期間の定めが廃止され、存続期間は上記のとおり30年に一本化されました。

また、借地借家法では、旧借地法下での建物朽廃による借地権の消滅の制度も廃止されました。

なお、契約で法の定める30年より短い存続期間を定めた場合には、そのような存続期間に関する合意は無効となりますので、結局、期限の定めがない借地契約ということになり、存続期間は30年になります。

(2) 契約更新の場合の存続期間

 (ア) 合意更新の場合

次に、借地契約を合意によって更新するときの存続期間は、第一回目の更新の場合には更新日から20年、第2回目以降の更新の場合には更新日からそれぞれ10年となります。当事者がこれより長い期間を定めたときもその期間によります(新法4条)。

 (イ) 法定更新の場合

また、期間経過後も借地上に建物が存在し、借地人が借地の使用を継続しており、地主が「正当事由」を具備して遅滞なく異議を申し出ないと、借地契約は更新したものを見なされますが(法定更新)、この法定更新の場合も、上記と同様、第一回目の更新の場合には更新日から20年、第2回目以降の更新の場合には更新日からそれぞれ10年となります(新法5条)。

5 借地法と借地借家法の違い

以上をまとめると、借地借家法は、借地法に対し、
建物の種類・構造による存続期間の相違がなく存続期間は30年、
建物の朽廃による借地権の消滅がない、
更新後の存続期間は、第1回目は20年であるが、2回目以降は10年(借地法は2回目以降も堅固・非堅固の相違により30年若しくは20年と続く)、

などの点で異なっております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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