弁護士 秋山亘のコラム

2020.01.06更新

暴力団事務所と売買契約の瑕疵

 

 

1 暴力団事務所の問題

 暴力団事務所として賃貸物件が使用されている場合に賃貸借契約の解除が問題となることについては皆様もよくご存じのことと思います。

 では、売買の目的土地の近隣に暴力団事務所が存在する場合、土地の買主は売主に対し、売買契約の解除等何らかの責任を問えるのでしょうか。

2 判例

 東京地方裁判所(判例時報1560号 平成7年8月29日判決)は、暴力団事務所について売主に対し一定の責任を認めました。

(1)事案

 原告甲及び被告乙はいずれも不動産の売買等を業とする会社で、甲と乙は平成4年3月30日、ある土地を代金9100万円で乙から甲に対し売り渡すという内容の売買契約を締結しました。甲は、同日売買代金のうち910万円を支払い、同年4月30日に残金8190万円を支払い、乙から土地の引き渡しを受けました。甲はその土地に事務所兼賃貸マンションを建設するつもりでした。ところが、その後、土地と交差点を隔てた対角線の位置にある建物(直線距離にして9メートル)には暴力団事務所があり、以前から暴力団の組事務所として存在していたことが判明しました。

  そこで、甲は乙に対し、

① 売買契約の詐欺による取り消し(民法96条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

② 売買契約の錯誤による無効(民法95条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

③ 売買契約の瑕疵担保責任による解除(民法570条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

④ 売買契約の瑕疵担保責任による損害賠償請求として代金(9100万円)の75%相当の損害賠償

という内容で裁判を起こしました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、甲の請求のうち①から③については認めませんでしたが、④については、

・本件土地は小規模店舗、事業所等が点在する地域に所在するところ、交差点を隔てて対角線の位置に本件暴力団事務所が存在することは、本件土地の宅地としての用途に支障を来たし、その価値を低下させることは明らかである。本件土地は宅地として通常保有すべき品質・性能を欠いているものであり、本件暴力団事務所の存在は本件土地の瑕疵に当たる→ 「暴力団事務所の瑕疵該当性」

・本件暴力団事務所のある建物は、契約時において、暴力団事務所としての存在を示すような物を掲げることもなく、暴力団事務所であることを示す外観はなかった。通常人が本件土地を購入しようとして現場を検分しても、暴力団事務所の存在を容易に知り得なかったであろう→ 「本件暴力団事務所の『隠れた瑕疵』該当性」

とした上で、本件土地の暴力団事務所の存在による減価割合を20%と認定し、これを損害としました。

3 本判決の意義

 本判決は、暴力団事務所が「売買の目的物である土地の中に」あるのではなく、「売買の目的物の土地の近隣に」ある事案において、「瑕疵」に当たるとしました。暴力団事務所の実態、社会に及ぼす危険性等暴力団事務所の害悪を適正に評価したと言えるでしょう。しかし、本判決は、通常人には暴力団事務所を容易に発見することはできないので、暴力団事務所の存在という瑕疵は「隠れた瑕疵」に当たると判断していますので、外観上暴力団の「組事務所」を示す標識などがあった様な場合には、瑕疵担保責任は問えないことになります。

 なお、本判決は、原告の「契約の取消・契約無効・契約解除」という主張については認めませんでした。これは、原告は一般の購入者ではなく不動産業者であること、代金も完済し物件の引渡しも済んでいることから、可能な限り契約を維持するのが相当と考えたのだと思います。いわゆる暴力団対策法施行の影響で外観上暴力団事務所と分からない建物が増加しているようですので、本件の事案のような裁判は増えることが予想されますが、「契約の取消・無効、契約解除」まではなかなか認められないと思われますが、仲介をする際には注意をしていただきたいと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.23更新

不法投棄と土地の明け渡しの法律相談

 

 

<事例>

  当社は、ある解体業者A社に資材置場として土地を賃貸していたのですが、 地代を長期間滞納されていたため、契約を解除しました。

ところが、その解体業者は、その土地一杯に、わけのわからない家電製品や建築廃材・土砂などを3メートル以上堆く積み上げており、土地の明け渡しには一向に応じてくれません。

当社は、やむを得ず、土地の明け渡しの裁判を起こすことになり、弁護士にゴミの撤去を含めた明け渡し費用について相談しましたが、土地が広いだけにまともに明け渡しの強制執行をやるとなると土地明け渡しの執行費用だけで600万円以上かかると言われました。

解体業者による地代の滞納は、契約解除後の遅延損害金も含めると300万円以上になります。しかし、解体業者は、他に借金も抱えているようで回収可能な資産は何もなさそうです。

明け渡しの強制執行には、ある程度の費用がかかるのは分かるのですが、できるだけ早く、費用を押さえて、明け渡してもらえる方法は何かないのでしょうか。

<回答>

 土地や建物の明け渡しの強制執行は執行費用がかかります。建物の明け渡しの場合でも、荷物が多い一軒家などの場合には、執行官が一日のうちに荷物を全て持ち出して明け渡しを完了させるため、人夫の手配や差押え禁止動産類の保管料などで100万円以上の執行費用がかかる場合もあります。

 本件のようなゴミが堆積されている土地の明け渡しの場合には、まともに強制執行をすると、数百万円レベルの費用を覚悟しなければなりません。

 しかし、強制執行以外の方法が取れれば、その費用がだいぶ押さえられる場合もあります。

1 廃棄物処理法違反による刑事告発の警告による任意撤去・任意明け渡しの 申し入れ

 廃棄物処理法第16条では、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定されており、同法第25条8号では、第16条違反の罪に対し「5年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処する」と定めるなど厳しい罰則が設けられております。

 近時は、同法違反の罪によって逮捕され厳しく処罰されていることは広く報道されているところです。

 そこで、このような悪質な業者には、土地への前記のような不法投棄(長期間の放置行為)が廃棄物処理法違反の犯罪行為にあたることと刑事告発の用意があることを告げて、任意の撤去・明け渡しを促すのが効果的と言えます。

 差し押さえるものが何もない債務者にとって、単にお金の問題だけであれば、強制執行をすると警告してもあまり効果がない場合も多く、明け渡しの強制執行を実施されるまでは解体業を続けようと居直る者もいるでしょうが、懲役刑も含む刑事問題となれば話はまた別だと考えるでしょう。

 なお、廃棄物処理法第16条は、たとえ、ゴミを捨てたのが自分の土地であっても、廃棄物の放置期間、廃棄物の質・量、廃棄の態様、周辺への居住環境への悪影響などを総合考慮して「廃棄物」を「みだりに捨てた」と言える場合には適用されます。

 本件でも、ゴミとしか言えない建築廃材や土砂を長期間他人の借地上に堆く放置しており、A社においては、これを適法に処理する意思も能力もないと思われますので、廃棄物処理法第16条違反に該当する可能性は極めて高いと言えます。

2 破産申立をし破産管財人の協力による任意撤去・任意処分

次に、このような警告にも関わらず、相手方が、任意の撤去・任意の明け渡しに応じない場合には、債権者として破産申立をする方法が考えられます。

破産申立は、債務の支払能力又は意思がない債務者に対しその制裁として、債権者側からも申立ができます。

破産開始決定がおりると破産管財人が選任されA社の資産の管理・処分権限は全て破産管財人に移ります。

破産管財人は、A社の預貯金など資産価値のあるものを集めて破産財団を形成します。破産管財人は、この破産財団から費用を出してでも可能な限り会社の所有物を全て廃棄処分しなかればなりません。したがって、ゴミの任意の撤去・土地の明け渡しにも応じてくれます。

債権者側から破産申立をするには、債権額にもよりますが、70万円~300万円程度の破産予納金を納める必要があります。しかし、この破産予納金を考慮しても、土地の明け渡しの強制執行によって、短期間のうちに大がかりな撤去作業をしなければならないよりは、だいぶ費用面では抑えられるはずです。

なお、破産管財人による調査の結果、A社には預金がほとんどなく破産財団としては何もお金がない場合もよくあるところです。

この場合、破産管財人としては、任意の土地明け渡しはできても、ゴミの撤去費用までは破産財団から拠出することはできません。

しかし、それでも任意に土地を明け渡してもらえる分、強制執行によって撤去するよりは安くすむものと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.16更新

売買契約の成立時期

 

 

(質問)

① 不動産売買に際して、話がまとまり買付証明書と売渡承諾書を交わしました。しかし、突然買主から「契約書調印はできなくなった。契約は白紙撤回する。」と言われてしましました。このような場合、当時者間の基本的合意はできているわけですから、契約成立を主張して買主に代金の請求ができないのでしょうか。

② ①の場合、逆に売主から、突然、他に売りたいので契約調印はできなくなったといわれ売買契約の締結を拒否されてしましました。私は、契約調印日を直前に控え売買代金も調達し、また、購入物件で歯科医開業をしようとしていたので開業準備のための機材を購入したりしておりました。このことは、売主にもだいぶ前から話しております。この場合、何とか損害賠償を請求できないでしょうか。

 

(回答)

① 契約の履行請求の可否について

(1) 日本の民法では、契約書を交わすことを契約成立の要件とはしていません。従って、裁判での立証の話は措くとして、単なる口約束でも契約は成立しているのが原則です。売買の場合、売り主の「○○円で○○を売ります」という意思表示と、「買います」という意思表示が為されていれば売買契約は成立したことになります。

 この原則に従えば、①のような場合にも、契約は成立しているように思えます。   

(2) しかし、不動産のような高額の物件を売買する場合には、裁判例は契約の成立を認定するには厳格な態度を示しており、買付証明書と売渡承諾書を取り交わした段階では、契約の成立を認めておりません。

 不動産取引の慣行を重視して、契約書を締結する時までは契約成立に向けた「確定的な意思は有していなかった」ことを理由としたものです。

(3) このような裁判例に照らせば、①の事例でも、「契約の成立」は認められていないわけですから、契約の履行請求、すなわち、代金の請求まではできないことになります。

②損害賠償請求の可否

   では、契約の履行請求はできないとして、②のような場合、不誠実な相手 方に対して損害賠償請求をできないのでしょうか。

このような場合、損害賠償の請求はできるものと思われます。

裁判例は、契約締結に至らなくとも、契約交渉に入った段階や交渉が進んで基本的な合意に至った段階には、その契約交渉の成熟度に応じて、契約の相手方には、信義則上の配慮義務、説明義務、誠実交渉義務などが生ずるとしています。

配慮義務とは、相手方の人格・財産に損害が生じないよう配慮する義務、説明義務とは、契約締結に関して相手方に不都合な事由がある場合にはこれを積極的に開示し説明する義務、誠実交渉義務とは、従前の交渉経緯を踏まえて契約の成立に努めるべき義務のことです。

これらの義務に反した場合、不法行為による損害賠償の請求ができます。

本件では、売り主が資金調達や開業準備を進めていることを知っていながら、突然、売主に対し売却を拒絶したわけですから、誠実交渉義務や配慮義務に反しているといえます。

従って、買主は、売主に対し、調達資金の利息分や開業準備費の一部について損害賠償の請求ができます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.09更新

農地転用許可申請協力請求権の消滅時効

 

 

<事例>

(1)A氏は、知人B氏から畑地を買い、代金全額を支払い、土地の引き渡しも受けました。購入後は、畑地に家を建てる予定で、必要書類が整い次第、転用許可申請を行う予定でしたが、知人B氏が許可申請に協力してくれないため、申請を行えないまま、9年が経とうとしています。

 このまま、知人B氏が申請に協力してくれない場合は、どのようになってしまうのでしょうか。

 (2) 知人B氏が申請に協力してくれないまま、10年が経過してしまった場合には、どうなるのでしょうか。

<回答>

1 (1)について

 農地を売買して宅地に転用するには、農地法第5条により、売主・買主の双方が農業委員会に対し申請をし、転用目的で売買することの許可を得なければならない。

 転用の許可を得ずになされた売買は、たとえ代金の授受が為されていても法的には所有権移転の効果は生じないとされている。また、刑事罰の対象にもなるので注意が必要である。

 もっとも、売買契約が締結され、代金の完済が為されている以上、売主は、法的にも許可申請に協力する義務を負っている。

 この許可申請協力義務が消滅時効にかかるかどうかについて、かつては、争いがあったが、最高裁昭和50年4月11日(判時778号61頁)は、肯定説に立つことを明らかにしている。

 従って、このままB氏との連絡が付かないまま、10年が経過すると、将来、B氏から許可申請協力請求権は10年の民事消滅時効にかかっているとの主張をされる可能性がある(なお、当事者の一方が会社である場合には商事時効として時効期間は5年となる)。

 従って、A氏としては、10年が経過する前に、B氏に対し、許可申請への協力を求めて訴訟を提起する必要がある。この訴訟で請求認容の勝訴判決が確定すれば、単独でも許可申請を行うことができる。

2 (2)について

 (2)の場合には、10年が経過しているため、許可申請協力請求を求めて、B氏に対する訴訟を提起しても、B氏からは消滅時効の主張をされる可能性が出てくる。

 もっとも、下級審の裁判例の中には、このような売主側の主張を認めるのは不合理だとして、信義則違反や権利の濫用を理由に売主側の時効の主張を排斥するものもある(東京高判昭和60年3月19日・判タ556号139頁、東京高判平成3年7月11日判時1401号61頁等)。

 裁判例は、その理由として、代金が全額支払われていること、買主側に特に権利の行使を怠ったような事情がないことなどを挙げているが、裁判所が権利濫用や信義則違反の主張を認めるのは、結論が著しく不当な場合などに例外的に認める救済措置に過ぎないことから、時効期間が経過する前に是非とも訴訟を提起しておくべきであろう。

 なお、売主側の時効主張が認められた場合には、その時点で、法定条件の不成就が確定する為、売買契約は無効となる。したがって、買主は、売主に対し、売買代金の返還請求をすることになる(なお、この売買代金の返還請求権は、売主が許可申請協力請求に対し消滅時効の援用をしたときから10年で時効消滅する)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.02更新

任意売却のメリット・被相続人が死亡した場合の任意売却の方法

 

 

(質問)

 ある不動産を所有している債務者が死亡したのですが、その相続人は全員相続放棄をしたため、相続人が誰もいなくなってしまいました。

 その不動産には多額の抵当権が設定されていて、亡くなられた債務者の方とは任意売却の交渉をしていたところでした。

 1 このような場合、死亡された債務者の不動産については、どのように処  分したらよいのでしょうか。

 2 また、任意売却は競売とどのように違うのでしょうか。任意売却のメリ  ットを教えてください。

(回答)

1 質問1に対して

  近年多額の債務を負ったまま亡くなられる方のケースが増えています。  そして、このようなケースでは、相続財産よりも負債の方が大きい為、相続人も相続放棄をしてしまうケースが多くなっております。

(1) このようなケースでは、まず確認のため相続人から家庭裁判所の相続放棄申述の受理証明書の交付を求めて下さい。相続人が相続放棄をしたといっても、被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしないと、相続人は被相続人の財産を相続したものとみなされます。

  相続人が上記期間内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をしていなかった場合は、相続財産や負債は上記申述をしていない相続人が相続しものとみなされますので、この相続人と任意売却の交渉をすることになります。

(2) 相続人全員が相続放棄の申述をしていた場合、任意売却を進める手だてとしては、被相続人の住所地の家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申立し、家庭裁判所から選任された相続財産管理人と任意売却の交渉をすることになります。

 なお、相続財産管理人の選任を申立てることができるのは、「利害関係人」に限られますが、被相続人の債権者(抵当権者)はこれに該当します。

(3) 以上が任意売却をする場合ですが、債務者(被相続人)が死亡した後に当該不動産を競売する場合も同様です。相続財産管理人を相手に競売を申し立てます。

  

2 質問2に対して

(1)抵当権者が不動産を売却して債権を回収する手段としては、競売と任意売却の2種類があります。

任意売却は、債務者(不動産の所有者)、抵当権者(後順位抵当権者を含む)の同意を得て不動産を売却し、売却代金を債権の弁済にあてるというものです。

  後順位抵当権者には、通常判子代といって登記抹消同意料を支払って抵当権設定登記を抹消してもらいます。判子代は通常10万から100万で、この判子代をめぐって後順位担保権者と交渉をします。 

 この他に、債務者が税金の滞納をしており差押え登記がされている場合は、税務署や市役所の納税課等との間で差押えを取り下げてもらう代わりにいくら弁済するのかをめぐって交渉が必要になります。

(2)任意売却のメリット

(ア)任意売却は、債権者(抵当権者)にとっては以下のメリットがあります。

① 競売より高く売れること

競売の場合、時価の7割程度の金額が最低売却価格となります。

そして、競売の場合、競落人(買主)は建物の中を見れないので、一般に時価よりも低い価格(最低売却価格+α)でしか競落されません。

② 短期間で売却し債権回収ができること

任意売却の場合、関係者の合意が得られれば、その時点で売却で債権の回収ができます。

しかし、競売の場合には、手続き終了まで早くて1年から2年もかかってしまいます。

(イ)他方、不動産購入者にとっても以下のメリットがあります。

① 希望物件を確実に取得できること

競売の場合、第三者に落札される危険もあります。また、建物の中を見れないので、建物の傷み具合などは分からないまま落札しなければなりません。

② ローンが組みやすいこと

競売の場合、金融機関によってはローンが組めない場合があります。

任意売却の場合は、この点でも安心です。

③ 建物から債務者が任意に退去することを期待できること

競売の場合、債務者が建物から任意に退去しない場合があります。

このような場合、手続きが長期化することはもちろん、競落後、購入者は、決して安くない費用をかけて債務者を強制的に退去させる手続きをしなくてはなりません。

任意売却の場合、債務者(所有者)も不動産の売却に納得済みですから、任意に退去することが期待できます。また。これを条件に売買契約を結ぶことも可能です。

(3)任意売却のデメリット

以上のようにメリットは大きい任意売却ですが、債務者や後順位抵当権者、差押えをした租税機関等の同意が得られることが必要条件ですので、後順位抵当権者や国税等が頑強に任意売却に同意しない場合には、競売に移らざるを得ません。競売になれば一銭も得られないはずの後順位抵当権者や国税等ですが、この点を強調しても、任意売却にそう簡単には応じてくれません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.11.18更新

抵当権者による賃料債権に対する物上代位

 

 

第1 問題の所在

抵当権は抵当目的物の交換価値(担保価値)を把握する権利ですから、何らかの理由により目的物の交換価値が現実化した場合、この価値代替物にも効力を及ぼすのが妥当です。このように、抵当権者が、目的物の滅失・毀損等によって債務者が受けるべき金銭その他の物から優先弁済を受けることを物上代位といいます(民法372条、304条)。

ところで、近時の不動産不況下においては、抵当不動産の競売によるよりも、抵当権設定者が抵当不動産を第三者に賃貸している場合の賃料債権に対して物上代位権を行使することによって債権の回収を図る方が簡便であることから、抵当権者が賃料債権に対して物上代位権を行使する例が増加しています。

しかし、賃料は、抵当不動産の法定果実であって、目的物の滅失・毀損によって債務者が受ける金銭等の価値代替物とは性質が異なり、物上代位の対象になるのかどうか問題とされてきました。

第2 賃料に対する物上代位

1.学説

この点、学説上は、物上代位権の法的性質をどう考えるかと関連して、賃料に対する物上代位を肯定する見解と否定する見解とが争われてきました。

肯定説は、抵当権の効力は交換価値の現実化した物にも当然に及ぶとの理解に立って、不動産の交換価値の「なし崩し的現実化」である賃料にも及ぶべきであると主張しました。304条が、賃料についても規定しているし、実質的にも、抵当不動産を競売するより、賃料から債権の満足を得る方が関係者の利益にも合致するというのです。

他方、否定説は、物上代位権は抵当権者保護のために認められた特権であり、あまり拡張的に認めるべきではないという理解に立って、目的物使用の対価である賃料に対する物上代位を認めると、抵当権設定者の使用収益権(賃貸権限)を害するので、認めるべきでないと主張しました。

2.判例

このような状況下で、最高裁判所は、平成元年10月27日に、賃料債権に対する抵当権の物上代位を認めても抵当権設定者の使用収益権を害さないと述べて、これを全面的に肯定する判決を下したのです。

第3 その後の動向

1 この判例が出てから、先に述べたように不動産価格の低落に伴い、抵当権者が賃料債権に対して物上代位権を行使する事例が急増することになりました。

しかし、他方で、抵当権設定者側の自衛手段として、物上代位を妨害するような行為も多発することになったのです。

2.賃料債権の譲渡

抵当不動産の所有者(賃貸人)が抵当権者による賃料債権の差押前に賃料債権を第三者に包括的に譲渡してしまうということがあります。抵当権者が物上代位権を行使するためには被代位債権をその「払渡し又は引渡し前に」差し押さえる必要があります。

この場合、賃料債権の譲渡が「払渡し又は引渡し」に該当するかどうかが問題となります(該当すれば、それに遅れた物上代位は認められないことになります)。

この点、学説上は見解が対立していましたが、最高裁判所は、平成10年1月30日、債権譲渡は「払戻し又は引渡し」には該当せず、抵当権者は、賃料債権が譲渡されても、賃借人が賃料を譲受人に支払ってしまわない限り、これに対して物上代位権を行使できるという判決を下しました。

3.賃料債権と賃借人の債権との相殺

次に、抵当不動産の賃借人が、抵当権の物上代位により差し押さえられた賃料債権と自己の賃貸人に対して有する一般債権とを相殺してしまうという事例が問題となりました。

物上代位による債権回収の利益と相殺による期待利益のいずれを優先させるべきかは困難な問題であり、下級審の判断も分かれていました。

この点、平成13年3月13日の最高裁判決は、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているから、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差押えた後は、賃借人は抵当権設定登記後に賃貸人に対して取得した債権と賃料債権との相殺をもって抵当権者に対抗できないとして、物上代位を優先させる判決を下しました。

4.転貸賃料債権に対する物上代位の可否

このように判例を見てくると、抵当権者による物上代位の範囲がかなり拡大される傾向にあるように思えます。しかし、次の判例では、物上代位の拡大傾向にやや絞りがかけられているようにも見受けられます。

最高裁決定平成12年4月14日の事案は、抵当権設定者が抵当不動産を賃貸し、賃借人が更にそれを転借人に転貸したところ、抵当権者が賃借人(転貸人)の転貸賃料債権に対して物上代位権を行使したというものです。

転貸賃料債権に対する物上代位の可否については下級審・学説上争われてきましたが、最高裁は、抵当不動産の賃借人(転貸人)はその不動産について物的責任を負う者ではないから自己の賃料債権を抵当権者に供すべきいわれはなく、転貸賃料債権を物上代位の対象とすると賃借人の利益を害するという理由で、抵当権者の転貸賃料債権に対する物上代位を認めませんでした。

このように、判例は、物上代位にも限界があることを認めて賃借人を保護したのですが、もちろん、物上代位を回避するために転貸借を仮装して、賃料債権に対する物上代位の実効性を失わせるという事態までが許される訳ではありません。上記最高裁決定も、「抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合」には物上代位権を行使する余地を残すという安全弁を付けている点には注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.11.11更新

賃料自動改定特約(その1)

 

 

1 賃料自動改定特約

 賃貸借契約の中で、賃料が自動的に改定されるという趣旨の特約が定められていることがあります。特にバブルの時期には、このような特約が定められたことがよくありました。特約のタイプとしては

①物価変動自動改定特約

②定額自動改定特約

③定率自動改定特約

④路線価変動自動改定特約

⑤固定資産税変動自動改定特約

などが挙げられます。

 このような特約は借地借家法第11条・32条(旧借地法第12条・旧借家法第7条)との関係で無効ではないかという問題が生じます。と申しますのは、これらの規定は賃料増減額の要件を定めたもので強行規定(規定違反の行為の効力を失わせる規定)と解されているところ、特約は、賃料増額の要件を定めた法の趣旨を没するものとも考えられるからです。

2 裁判例

 賃料自動改定特約についての裁判所の考え方はどの様なものでしょうか。

 裁判所は、自動改定特約だからといって当然に無効とはせずに、当該特約を個々の事例にあてはめた結果、賃借人に著しく不利益であるなどという特段の事情がない限り特約は有効と考えている様です。

 この様に特約の効力は「当該賃借人に著しく不利益かどうか」という個々の事情により判断されますので、特約を定めるにあたり、借地借家法11条32条の趣旨に反しないように工夫する必要があります。少なくとも、値上げ後の賃料が近隣相場に比べて相当に高くなってしまうという様な特約は避けるべきでしょう。

 最高裁判所昭和44年9月25日は「固定資産税変動自動改定特約」について、特約条項としては有効であると認めつつ、「当事者の意思は、契約当時存在した事情と著しく異なる場合にも、その基準によるという意思ではない」として、特約の適用を制限しました。右の裁判例は、「賃料」の相当性を判断する際に、個々の事案において「具体的に考える」という裁判所の基本的姿勢を示したものと思われます。

  裁判所は、バブルの時期に定めた基準を機械的に当てはめることはせず、契約で定めた基準を適用して妥当なものについて、自動改訂条項を認めているものと言えるでしょう。

  したがって、このような賃料の自動改訂条項があっても、新賃料が著しく高額となり妥当とは思われないような場合は、貸主と交渉をしてみる必要があるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.11.05更新

賃貸人の民事再生と賃借人の相殺権について

 

 

(事例)

  Xはその所有ビルを家賃1ヶ月10万円、敷金50万円でAに賃貸していたが、賃貸人Xは民事再生の開始決定を受けた。

(1) このような事例でAの敷金返還請求権は保護されるのか?

(2) AがXに対し売掛金債権100万円を有していた場合、賃料の支払い義 務と売掛金債権との相殺を賃貸人Xに対し主張することができるか。

(回答)

1 (1)賃借人の敷金返還請求権の保護について

賃借人の敷金返還請求権は、民事再生手続き上でも、賃貸借契約が終了し明け渡しが完了することを条件に発生する停止条件付きの再生債権となるのが原則です。

したがって、賃借人は、賃貸借契約が終了し明け渡しが完了する前には、敷金返還請求権と賃料の支払い義務の相殺を主張することではできません(この点は、前回の賃貸人破産の場合と同様です)。

よって、再生債権となりますので、民事再生計画の認可によって、将来の敷金返還請求権は権利変更されることになります(すなわち、再生計画に従い、他の債権と同様に敷金返還請求権も債権額が圧縮されます)。

しかし、今回の民事再生法の改正により、賃借人が以下の条件を満たしている場合には、敷金返還請求権を共益債権とすることができるようになりました(改正民事再生法92条3項)(すなわち、再生計画に関わらず共益債権として権利変更の対象にならないことになります)。

① 民事再生手続の開始後に弁済期が到来する賃料債務について、手続開始後その弁済期までに弁済していること

② 手続開始時の賃料の6ヶ月分相当額の範囲内で、かつ、当該弁済額の限度内のものを、共益債権とする。

 したがって、民事再生手続の開始後に発生する賃料債務について、各弁済期までに、賃料債務を6回分現実に弁済した場合(後記(2)のように賃料債務と売掛金債権と相殺をした場合は上記要件の弁済したことにはなりません)には、賃料の6ヶ月分相当の敷金返還請求権が共益債権になります。6ヶ月分を超える敷金返還請求権は共益債権にはなりません。また、弁済期までに弁済しなかった賃料についても、たとえ弁済しても上記の6回分にはカウントされませんので注意してください。

2 (2)売掛金債権との相殺権について

本件のような事例で、賃貸人破産のケースでは、賃借人は、賃貸人への売掛金債権と賃料支払義務を無制限に相殺できるので、100万円の売掛金と10回分の賃料支払義務の相殺を賃貸人Xに対抗できることは前回説明しました。

これに対し、民事再生法では、賃借人は、無制限に相殺を主張できるのではなく、以下の条件を満たしている場合にのみ相殺ができるので、注意が必要です(民事再生法92条)。

① 民事再生手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務のうち、手続開始時の賃料の6ヶ月分相当額の限度額のものを受動債権とすること

② 債権届出期間の満了時までに、売掛金債権の弁済期が到来するなど相殺適状(売掛金の支払い義務が現に生じている状態のこと)となること

③ 債権届出期間の満了時までに相殺の意思表示をしていること

したがって、本件では、上記①~③を満たしている限り、賃料の6か月分である60万円分の売掛金債権については賃料支払義務との相殺が可能となります。

なお、相殺の意思表示は、上記③のとおり、債権届出期間の満了時までに行わなければなりませんので、この期限を過ぎないよう注意が必要です。また、相殺の意思表示は内容証明郵便などで行っておくべきでしょう。

 また、民事再生手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務との相殺については上記①のとおり、6か月分という量的制限がありますが、手続き開始前に弁済期が到来している未払賃料との相殺は、上記①のような量的制限なく行うことができます。したがって、民事再生開始決定までに、4か月分の賃料を未払いとしていた場合には、上記①による60万円分の相殺とは別に、4か月分の未払賃料にあたる40万円との相殺もできます。

 なお、上記は、担保権者が物上代位権により賃料の差し押さえ手続きをしていない場合についての取り扱いです。担保権者が賃料債権を差し押さえてきた場合には、前回の賃貸人破産の場合の説明と同様に、賃借人の売掛金の取得時期が担保権設定登記の時よりも後の場合には、相殺の主張を差し押さえ担保権者に対抗できません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.10.28更新

賃貸住宅の原状回復について

 

 

1 原状回復義務の内容

 使用開始当時の状態に復することではない。

 社会通念上通常の使用方法に従って使用した場合、経年変化・通常損耗による損耗したそのままの状態で返還すればよい

2 特約の効力

原状回復義務を超えた修繕義務等を賃借人に負わせた特約(例:クリーニング代)は、通常単に賃貸人の修繕義務を免除する意味しか有せず、特段の事情がない限り原状回復義務義務以上の義務を課するものではないとされている。

 特段の事情=特約の必要性、暴利的でないこと、賃借人が通常の原状回復義務以上の義務を負うことを認識していること

3  問題点

① 通常の使用により生ずる損耗に当たるのか、それとも賃借人の故意過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超える使用かどうかの認定

・家具の設置跡、電気ヤケ、たばこヤケやたばこのヤニ、コーヒーをこぼした跡

②通常使用により発生し、その後の管理等が悪く発生・拡大した損耗をどう考えるか

③ グレードアップの問題(賃借人に補修等をさせた場合、「原状」よりよくなり賃貸人が不当利得をすることにならないか。耐用年数と残存価値)

・フローリングの一部補修、襖紙・障子紙・畳表

④  毀損部分と補修箇所にギャップがある場合、どの範囲まで補修をするのか

・壁等のクロス

4 紛争予防・・・・契約時のチェックリストの作成

5 参考文献   『賃貸住宅の原状回復を巡るトラブル事例とガイドライー敷金返還と原状回復義務ー』(財)不動産適正取引推進機構著(大成出版)

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.10.21更新

賃貸借契約の解除と無催告解除特約・失権約款

 

 

<質問>

 賃貸借契約書に「1ヶ月分の家賃の滞納があった場合には、賃貸人は直ちに契約を解除することができる」(無催告解除特約)或いは「1ヶ月分の家賃の滞納があった場合には、当然に契約が解除される」(失権約款)がある場合に、このような規定に基づいて、賃借人の1ヶ月分の家賃の滞納を理由に賃貸人が契約を解除することは可能でしょうか。

<回答>

1 賃貸借契約解除の要件と手続き

一般に、契約を解除するには、相手方に債務の履行を催告し、その催告期間内に債務の履行がない場合に解除できるのが原則です。具体的には、配達証明付内容証明郵便などで「本書面到達後、5日以内に滞納賃料○○円を支払って下さい。万一、支払いがなければ上記催告期間の経過をもって、本契約を当然に解除します。」と通知するのが一般的です。

また、賃貸借契約のように継続的な法律関係を前提とする場合、契約の解除をするには、単に軽微な契約違反があるというだけでは足りず、当事者間の信頼関係が破壊していると見られる客観的な事情が必要(信頼関係破壊の法理)とされています。具体的には、1~2ヶ月分の賃料の滞納があったというだけでは足りず、3ヶ月分以上の賃料の滞納が必要と考えられ、また、一度はその支払いを催告しても支払いが全くなされないという事情が必要でしょう。

2 無催告解除特約

 ご質問の無催告解除特約は、上記の原則に対して、賃借人に対し、一定期間内に債務を履行するよう催告する手続きを要せずに、直ちに契約を解除することができるという特約です。失権約款との違いは、催告は不要でも解除通知は必要になりますので、解除通知が賃借人に到達するまでは賃貸借契約は終了しません。

 このような無催告解除特約の有効性に関して、判例は、前記の信頼関係破壊の法理を準用して当然に有効とはせず、「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合」にのみ有効としております(最判昭和43年11月21、民集22・12・2741)。したがって、例えば、1ヶ月の滞納で無催告解除が出来るとされている場合でも3ヶ月分以上の家賃の滞納がある場合、又は、1ヶ月~2ヶ月の滞納を頻繁に繰り返しており、賃貸人からもそれなりの解除に向けた警告が発せられている場合に無催告解除が有効になると考えられます。

3 失権約款

 上記の無催告解除特約をさらに推し進めて、一定の解除事由の発生をもって解除通知さえ要せず当然に契約が終了するというのが失権約款です。

 この失権約款の有効性に関して、判例は、上記の無催告解除特約よりも更に要件を厳しくして「当事者間の信頼関係が賃貸借契約の当然解除を相当するまで破壊された場合にのみ有効」としております(最判昭和51年12月17日民集30・11・1036)。

 したがって、失権約款が認められるのは、例えば、1ヶ月分の賃料の滞納があるだけでは足りず、例えば、賃料の滞納が半年~1年とある程度長期に渡るなどの場合に限られます。

そのため、賃貸人としては、失権約款は、あくまでも、賃借人に対し「家賃を1ヶ月でも滞納すると当然に解除されるかもしれない」という心理的効果を与えるための条項として理解し、実際に契約を解除する場合には、通常通り、家賃の支払いを最低一度は催告して、それでも支払いがない場合に解除通知を出すという手続きを踏んだ方が無難だと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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