弁護士 秋山亘のコラム

2019.02.18更新

暴力団組員が居住するマンション売買での説明義務

 

 

1 はじめに

 暴力団組員がその1部屋を賃借して住んでいる賃貸マンションを売却するに際して、宅建業者がこれを説明せずに売却しても法律上問題はないのでしょうか。買主との信頼関係が大切な取引は別として、できることなら少なからず売買価格や取引の成否に影響する事情は話したくないところでしょう。

 もっとも、これを知らずに買ってしまった買主からは、①民法上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求、②重要事項説明義務違反に基づく損害賠償請求、③売買契約の錯誤無効、④売買契約の詐欺取消を主張される可能性はあります。

 そこで、今回はこのような買主の主張が通るものなのか検討していきたいと思います。                                2 暴力団組事務所として使用している場合

 暴力団員が組事務所として使用している場合、瑕疵担保責任、重要事項説明義務違反によって損害賠償できることは、第8回法律相談で東京地方裁判所平成7年8月29日判決をご説明した通りです。

 組事務所である以上、そこには通常多数の暴力団員が出入りしているでしょうし、組合間の抗争も予想できますから、そのような事務所が存在すること自体通常住居が有する住み心地の良さを欠く状態(瑕疵)に該当します。

 但し、民法上の瑕疵は「隠れたもの」(外観から見て認識できないようなもの)でなければならないので、組事務所であることが買主の実地見聞時に看板、外装、黒塗りの自動車等から明らかである場合は、買主は当然このことを認識すべきであるので、瑕疵担保責任は成立しません。但し、宅建業者にはこのようなケースでも重要事項説明義務が生じている点は注意して下さい。

3 暴力団組員が個人の住居として使用している場合

  住居として使用している場合でも、単に暴力団員が住んでいることのみをもって、瑕疵担保責任や重要事項説明義務違反を追求することは困難です。

 この点の裁判例として東京地判平成9年7月7日は、瑕疵担保責任による損害賠償請求を肯定したものですが、それは当該住居に暴力団組員を多数出入りしていること、夏には深夜にわたり大騒ぎすること、管理費用を長期間にわたって滞納すること等の事情が存在することを根拠に瑕疵に該当する判示しているのであって、これら不当な行為が存在しないのに、単に居住しているだけで瑕疵を認定しているわけではない点に注意が必要です。

 次に、東京地判平成9年10月20日は、表札等の外見からは組合員であることとは分らず、他に暴力団関係者や組事務所として使用している外観を表示するものを設置しておらず、組員が出入りしていることも窺えず、賃料の支払も大方順調であり、賃貸人や管理人、他の本件マンション住人と紛争を起こしたり、苦情を寄せられたことはなかった点をもって、暴力団員が住んでいることは宅建業者の重要事項説明義務違反はないとしております。

 上記の2判例はいずれも、外観上暴力団としての不当な行為があるかないかという点に注目して結論を異にしています。ですから、単に暴力団員が個人として住んでるというだけで、外観的に居住状況が一般人とさほど異ならない場合は、これを説明する必要はありません。

 但し、上記判例が問題としたような不当な行為が、当該マンションにおいて見られるときは重要事項説明義務の対象となりますし、瑕疵にも該当しますので、この点の事実確認は必要かと思われます。

 もっとも、事実確認といっても、居住者のプライバシー権の関係上、近隣住民からのクレームが頻発しているか、帳簿上家賃を滞納してないか等をマンションの所有者や管理会社に確認すればで十分であり、改めて積極的な調査をする必要はありません。

4 錯誤無効の検討

 まず民法95条の錯誤無効について簡単に説明しますと、例えば買主がA物件を買おうと思っていたが勘違いしていてB物件を買ってしまった場合や代金100万円だと思って契約書にサインしたがそれは勘違いで契約書100万ドルとなっていた場合等、契約条項は正しいのだけれども自分が勘違いしていたためその物件やその代金で買うつもりはなかった場合に、その勘違いに重大な過失がない場合には、契約を無効に出来るというものです。

 では同じマンションにに暴力団員が住んでいるとは思わなかった、暴力団員が住んでいるだけで嫌なのでそのような物件は買う意思などなかったという場合はどうでしょうか。これは勘違いですし、単に物件を訪れただけでは暴力団員が住んでるか分らないのでその勘違いに重大な過失は認められないでしょう。

 しかし、このよう勘違いは「動機の錯誤」といって、そのことを契約時に売主に表明していないと錯誤主張できないというのが確立した判例です。A物件を買うつもりがB物件を買うというのと、A物件を買うつもりだったことはそのとおりだけどその購入動機として同じマンションに暴力団員が住んでいないことというのは別物です。勘違いに重過失がなければ何でも無効というのでは安全な取引などできません。そこで、判例は勘違いが単に付随的な購入動機(例;眺望がよいからこのマンションを買う)についての場合はそのことを契約時に表明していないと無効主張は出来きないこととしたのです。

 ですから、通常は暴力団員が同じマンションに住んでいないことなどとは表明していませんので錯誤主張はできません。

5 詐欺取消し

 民法96条の詐欺取消しとは、①嘘をつくことで②相手方を錯誤に陥らせ物件を買わせることです。この詐欺取消しでの錯誤には上記購入動機などの動機の錯誤も含みます。ですから、暴力団員が住んでいない点での動機の錯誤があっても良いことになります。

 しかし、詐欺は嘘をつくことが要件です。本件では何も説明していないだけですから積極的に嘘をついたわけではありません。もっても、説明義務があるのに説明しなかったというのであれば暴力団組員が住んでいることを隠したとして嘘をついたとみなされる可能性もあります。しかしながら、前記のように暴力団組員が単に住居として住んでいるだけの場合にはそもそも説明義務を負わないので嘘をついたとはいえません。

 従って、詐欺取消しもできません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.02.12更新

物件内で自殺・殺人事件、病死があった不動産売買での注意事項

 

 

1 はじめに

 近年不況に伴い自殺者数が急増しております。また、老化社会に伴い一人住まいのお年寄りの自然死も増えています。このような社会的事情のもと、自殺やお年寄りの自然死があった不動産の仲介にあたるケースはますます増えてくるものかと思われます。

 そこで、今回は、①このような物件であることが後に買主に判明した場合に、買主は売買契約を解除し又は損害賠償請求をできるのか、②また、このような不動産の仲介に際して、宅建業者には重要事項説明義務として当該物件内で自殺や病死のあった事実を報告する義務があるのかについて、ご説明したいと思います。

2 買主による契約解除、損害賠償請求の可否

(1)瑕疵担保責任について

 買主が当該物件の売買について解除、損害賠償請求する場合の法的根拠としては、瑕疵担保責任(民法570条)が考えられます。

 瑕疵担保責任とは、

 ①「瑕疵」(目的物が通常有している性能を欠く状態)が契約成立前から存し、かつ②その「瑕疵」が「隠れたる」(契約時に通常の注意義務を尽くしてもその瑕疵を発見できない場合)ものであるときに、生ずる責任です。例えば、売買目的の建売住宅が欠陥住宅で、かつ売買時にも外見上はその欠陥が分らなかった場合が典型例です。

 責任の内容としては、その瑕疵による目的物の価値の減少分については、損害賠償請求でき、また、瑕疵によって契約の目的を達成できない場合には契約を解除することもできます。

(2)「瑕疵」にあたるか

 本件で問題となるのは、まず、上記欠陥住宅例のような物理的欠陥は誰の目から見ても瑕疵にあたることは明らかですが、本件のような自殺・病死の例については、これを気にしない人もいれば気にする人もいます。そこで、このように人の感じ方によって瑕疵となるか瑕疵とならないかが違ってくるようなケース(「心理的瑕疵」といいます。)でも、瑕疵担保責任の「瑕疵」に該当するのかという点です(なお、ここにいう心理的瑕疵のケースでは、建物での死体の発見が遅れたので建物から死臭が取れない等の物理的瑕疵がない場合をいいます。このようなケースでは、物理的瑕疵がありますので当然「瑕疵」にあたります。)。

 この点、判例は、自殺・殺人事件があったという心理的瑕疵も「瑕疵」にあたり得ると判示しています(ケースバイケースですのでもちろん「瑕疵」にあたらないと判断された場合もあります。)。他方、単なる自然死、病死については一般に瑕疵にあたらないとしています。

 判例は、「瑕疵」にあたるかの判断基準について、心理的瑕疵の場合は、買主の個人的感情といった主観的事情ではなく、客観的に建物が通常有する「住み心地の良さ」を欠いている状態にあたるかで判断すべきだとしています。そして、建物が通常有する「住み心地の良さ」を欠くか状態か否かは、以下の事情を総合評価して、「人の死亡にまつわる忌わしさが当該物件から相当程度薄らいでいるか」で判断されるものとしています。

(ア)死体の数、死体の状況

  死体の数が多いほど、また死体の発見状況が、首吊り自殺、割腹自殺又は一家惨殺殺人事件であったり、死体発見が相当程度遅れていた場合等、死体発見の状態が忌わしいほど瑕疵該当性は肯定され易くなります。

 逆に、自殺が睡眠薬の服用であったり、自殺後直ぐに病院へ運ばれた場合等の場合は肯定され難くなります。

 前記病死や自然死が一般に否定されるのもその忌わしさが低いからです。

(イ)死体の存在した場所

  死体の存在した場所が、寝室やリビング等の人の日常生活空間であれば肯定され易くなります。

 逆に、複数人が出入りするマンションの階段・廊下については通常否定されるでしょう。離れの物置等についても居室等よりは否定され易くなります。

(ウ)死体発見時からの期間の経過

 年数が経過すればするほど過去の事実となってその忌わしさも軽減されます。事案にもよりますが判例は6・7年経過した物件について忌わしさを軽減する一事情としています。

  また、いったん他の人に貸してその間大過なく過ごして引っ越したのならば、これも忌わしさを軽減する要素になります。逆に、当該自殺等の事情にまつわる嫌悪感から引っ越したのであれば忌わしさを肯定する事情になってしまいます。

(エ)建物の物理的状況

 建物内に血痕や髪の毛等死体の痕跡が残っていると、忌わしさを肯定する重大な要素になってしまいます。逆に、当該建物を一度更地にし建て直した等の事情があれば忌わしさを軽減する重要な事情になります。

(オ)購入目的

 購入目的が居住目的ではなく営業目的、事務所目的、倉庫目的であれば瑕疵該当製は否定され易くなります。

(カ)売買価格

  売買価格が低く抑えられており、自殺等の事情がきちんと価格に反映されていれば瑕疵該当性は否定され易くなります。

(キ)地域

  当該地域が人の出入りが多い都市であれば、自殺等の噂も比較的早くなくなるでしょう。逆に、出入りがほとんどない田舎であったりするとその噂もなかなかなくなるものではありません。このような理由で、判例は当該地域の人の出入りの多さや地域社会の密接度等も考慮しています。

(3)忌わしさ軽減の為に売主として為すべきこと

 上記判断要素に照らして、以下のことをすることで忌わしさを軽減でき、瑕疵該当性を否定できるか、否定はできなくても損害賠償請求時の損害額軽減につながるものと思われます。

(ア)内装を一変する、建物自体を建て替えること(いったん取り壊して駐車場等にすれば大抵の事案では瑕疵該当性は否定できるでしょう)

 最低限血痕や死臭を残さないこと(これが残っていれば瑕疵を肯定されても仕方がありません)

(イ)自殺等について気にしないという人や営業目的の利用者にある程度の期間事情を話して安く貸すこと

(ウ)お払い等もしておくこと

(4)「隠れた」瑕疵にあたるか

 買主が予め自殺等があった事実を知って入居した場合は、「隠れた」瑕疵といえないので、売主は瑕疵担保責任を負いません。

 また、買主に自殺等の事実があったことを知らなかった点に過失があるといえる場合にも「隠れた」瑕疵には該当しません。ただし、物件を内見しただけでは既にリフォーム済みであったりして、買主はこのような事情を知り得ないのが通常ですので、当該物件が自殺・殺人事件として地元メディアで報道されており、かつ買主が地元の不動産業者であった場合のような特別の事情がない限り、知らなかったことの過失を理由に「隠れた」瑕疵の該当性を否定することは難しいでしょう。

(5)瑕疵該当性が肯定された場合の損害額

 裁判例では、事例にもよるが、殺人事件等のひどい事案でも購入価格から建物価格の30パーセント前後の損害額しか認めていない事例が多いです。

 また、殺人事件で床下に遺体を埋めた等の事案では建物の損害に加えて土地に対する損害賠償の請求もできるとしています(但し、損害額は建物より低いです。)。

3 自殺、病死の説明義務

 宅建業法35条1項には重要事項説明義務についての重要事項について列挙されていますが、この説明義務は列挙事項に限定されるものではありません。これまで説明してきたような心理的瑕疵が存する場合にも説明義務の対象になります。

 但し、説明義務があるというためには、前提として自殺・殺人事件の有無についての調査義務が認められなければなりません。そこで、自殺・殺人といったプライバシーに関する問題についても売主から根掘り葉掘り聞く義務があるかといえば、確定的な裁判例はないですが、売主のプライバシーの侵害を理由に消極に解すべきだとの見解が多いです。

 従って、説明義務が課されるのは、宅建業者が、ニュース報道や近隣の不動産情報として知っている場合か容易に知り得る場合に限られる場合が多いものと思われます。かかる説明義務が認められるのにこれを怠れば、宅建業者は説明義務違反を理由に損害賠償請求をされます。

 病死・自然死については、前記のとおりそもそも瑕疵にあたらないので、通常、説明義務の対象にはなりません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.02.04更新

下水道の設置について

 

隣地所有者の排水設備の利用

 私の家は袋地ですが、この度、公共下水道の処理区域内となりました。下水を公共下水道に流入させるため、囲繞地に排水管を設置することは可能ですか。また、隣人の設置した排水管を一部利用させていただくと、とても費用が安くすみますがそのようなことは可能なのでしょうか。

1下水道法の規程
 下水道法10条1項は、「公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道区内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という)を設置しなければならい。」と定めています。
 わが国の下水道の普及率は非常い低く、浄化槽等を利用して排水を処理しているところが非常に多いというのが現状です。多額の費用をかけて新たに公共下水道の供用を開始した場合には、皆に利用してもらわなければ意味がありません。
 しかし、今まで特段の問題もなく浄化槽等により排水を処理していた者が、公共下水道を利用するために、自己の土地から本官までに新に排水設備の工事をしなければならず、新に出費が必要とされるので、この規程により、下水道の利用を法律上義務化したのです。
 また、下水道法11条1項では「(第10条)第1項の規程により排水設備を設置しなければならい者は、他人の土地又は排水施設を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水施設を設置し、又は他人の設置した排水施設を使用することができ。この場合においては、他人の土地又は排水設備にとって最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない。」と定められています。
 また、他人の土地に排水設備を設置した者は、その排水設備の改善、修理、維持のために、その他人の土地を使用することができます(下水道法11条3項)。
 しかし、これらの規定により、他人の土地を使用することで、損害を与えた場合、損失を補償しなければなりません(下水道法11条4項)。また、他人の排水設備を使用する者は、その利益を受ける場合に応じて、設置、改善、修理、維持に要する費用を負担しなければなりません(下水道法11条2項)。この費用負担の割合は、両地の排水量を基準とするとされています。
 また、民法上の相隣関係の規定中、下水に関しては、民法220条の余水排池権と民法221条の流水用工作物の使用権があります。

2 近時の裁判例
 東京地判平成9・7・10【判タ966号223頁】は、水洗式の便所へ切り替えるため、下水の排水のために隣人の設置した既存の排水管の利用の承認を求めた訴えにつき、既設の排水管がたまたま建物の下を通っているという特殊事情を考慮し、新たに水洗式便所汚水が合流することにより、万一、管が詰まるなどして改修工事の必要が生じた場合には、建物を一部にせよ取り壊すなどして下水工事を施工しな
ければならなくなるおそれがあり、迂回路になるとはいえ、前記私道に排水管を新設するという方法も十分考え得ること等を理由に、請求を棄却しました。
 また、東京高判平成9・9・30【判タ981号134頁】は、付近の土地の排水設備の設置状況および本件土地の所在する場所の環境にかんがみると、本件土地につき排水設備等を設置することは、本件土地の利用に特別の便益を与えるというものではなく、むしろ、建物の所有を目的とする本件借地契約に基づく土地の通常の利用上相当なものというべきであるから、賃貸人である控訴入らにおいて、本件土地につき排水設備等を設置することにより回復し難い著しい損害を被るなど特段の事情がないかぎり、その設置に協力すべきものであると解するのが相当である。 そうであれば、控訴人らは、被控訴人が本件土地につき排水工事および水洗化設備の新設工事をするにあたり、これを承諾し、かつ、右工事の施工を妨害してはならないものといわなければならい旨判示しています。

3 設問の場合
本件では、まずこちらの土地が「公共下水道の排水区域内である」こと、そして「他人の土地を使用しないと下水の公共下水道への流入が困難である」ことがポイントとなります。
本件は、袋地であって、囲緯地通行権を有しているような案件であれば、下水道法=条1項の規定により、隣地に排水設備を設置し、または隣人の設置した排水設備を使用することができることになります。その際の設置場所については、「他人の土地又は排水設備にとって最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない」と規定されているので、原則として、囲続地通行権による通路の下ということになるでしょう。
ただ、それがあまりに下水道に排水するにあたって迂遠であり、多額の費用を要するような場合には、別の部分を利用することも可能でしょう。
また、隣人の設置した排水管を一部利用させていただくことも、先出の東京地裁判例のように特殊な事情のないかぎり可能です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.01.28更新

袋地の通行権にはどのようなものがありますか

 

<質問>

私は、土地付の中古建物を購入しました。その物件は、建物からから公道に出ることができる唯一の通路部分は、隣接地の地主が所有している土地なのですが、自由に行き来できるので問題ないと売主Aから説明を受けていました。

しかし、購入後、しばらくすると、その地主が当該通路部分に植木や花壇を造り、公道に出れないようにされてしまいました。

通路部分の地主に植木等を撤去するように言っても、自分の土地だから何をしようと自由だと言って話に応じてくれません。

どうしたらよいのでしょうか。売主に責任追及すべきでしょうか。それとも、まずは、地主に植木の撤去を請求すべきでしょうか。

 

<回答>

1 この種の事案では、まず、当該通路部分にどのような通行権が設定されているのかを、売主から詳しく事情を聞くことが肝心です。といいますのも、これまで通路として利用できたという場合には、多くのケースで、地主の封鎖行為が違法な場合が多いからです。

 そこで、まずは、通行権の種類についてご説明します。

① 通行地役権(物権的通行権)

 これは売主と当該通路部分の地主との間において、売主の土地の便益のために、当該通路部分の土地を通行目的のために利用するという内容の地役権設定契約(民法280条)が締結されていた場合に生ずる権利です。

明確な地役権設定契約がなくても、10年以上にわたり、通路としての公然と使用し続けている場合には、通行地役権設定の時効取得が認められる場合もあります。

また、例えば、かつて袋地だった土地を地主が売主に分譲したという経緯がある場合には、公道まで通じる部分を通路として利用することを黙示に設定していたとして、通行地役権が認められる場合もあります。

通行地役権は、土地に登記することが認められる権利であって、登記がされていれば、たとえ通路部分の所有者が変わったとしても、その者に対し、通行地役権を主張できます。

② 通路利用契約(債権的通行権)

 当該通路所有者との間において、通行を目的とする当該通路の利用契約が結ばれている場合にも通行権が発生します。

 通行の対価を伴うものであれば、賃貸借契約ないしこれに類似した債権契約と考えられ、無償利用であれば、使用貸借契約ないしこれに類似した債権契約と考えられます。

債権的通行権の場合には、通行地役権と異なり、契約当事者間のみにおいて拘束力があるにすぎません。

したがって、債権的通行権の場合には、事前に、売主が買主に通行権を承継することを地主に申出て地主から承諾を取っておくことが必要になります。

したがって、債権的通行権の場合には、本問のように土地の売買が為されても、当然に、買主は売主が有していたこの種の通行権を主張することはできません。

④ 囲繞地(いぎょうち)通行権

 購入した土地が他人の土地(囲繞地)に囲まれて公路に通じていない袋地である場合は、民法211条の囲繞地(いぎょうち)通行権として、その他人の土地を通行することができます。ただし、通行の場所および方法は、通行権者のために必要にして囲繞地のために最も損害の少ない経路でなければなりません。

 したがって、本問においても、当該通路が当然囲繞地通行権の認められる通行部分であれば、すなわち、「通行権者のために必要にして囲繞地のために最も損害の少ない経路」であれば、囲繞地通行権が認められます。

他の囲繞地も含めて公道へ通じるより短い適当な通路があるようであれば、その通路の方に通行権が認めら、本件の当該通路には囲繞地通行権は認められません。

なお、建築基準法上、建物を立てるには敷地が原則として幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(42条、43条)が、囲繞地通行権による通路の幅員としては、必ずしも2メートル以上の幅員が確保されているわけではありませんので、注意が必要です。

また、購入した土地が従前袋地でなかった場合は、分割されて袋地になったときの分割者の土地のみを通行できるだけです(民法213条)。

また、購入した土地の隣地が元々買主の土地であり、その土地が公道に面している場合にも、買主は、自分の土地を通行すればよいわけですので、囲繞地通行権は認められません。

⑤ 建築基準法上の位置指定道路・みなし道路

また、建築基準法上の位置指定道路或いはみなし道路として認められているケースも多くあります。

建築基準法上、建物を立てるには敷地が原則として幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(42条、43条)。

建物建築のための接道要件といわれるものですが、それを満たすために、当該土地所有者等が特定行政庁に対し、この道路位置指定を申請し、これによって認められた道路が位置指定道路です。

 また、4メートル幅以上の道路でないにしても、昭和25年11月以前という古い時期から現に建築物が建ち並んでおり、通路として使用されていたところは、特定行政庁が建築基準法上の道路とみなしている場合が多く、それをみなし道路(2項道路ともいいます)と呼んでいます。

 このように当該通路部分が位置指定道路やみなし道路だとすると、そこに建築物を築造することはできず、本件の買主は当該通路を自由に通行できます。

2 本件では、まずは、上記のいずれの通行権が存在するのかについて、売主Aから詳しく事情を聞き、建物の建築確認申請時の資料を取り寄せたり、或いは、登記簿謄本、公図、地積図、旧土地台帳、航空写真などを取り寄せる、区役所の細街路課に問い合わせるなどによって、調査する必要があります。

 その上で、通行権が存在する場合には、当該通路部分の地主に対し、構築物撤去を求める裁判を提起することができます。

 仮に、調査の結果、通行権というものが認められなかった場合や訴訟をしても通行権の主張が認められなかった場合には、売主Aに対して、瑕疵担保責任に基づく契約解除、錯誤無効による契約の無効主張をすることになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.01.22更新

相続の発生と自己株式の取得

 

 <質問>

 私は,不動産業を営む株式会社を経営しており,自社の株式も多数保有しています。私にもしものことがあった場合には,息子に後を継いでもらうつもりですが,会社は多数の不動産を保有しているため株式の時価も相当高額になると思われますので、相続税が高額になってしまうことから,果たして息子が相続税を支払えるか心配です。ところで,最近,商法の改正で会社の自己株式の取得が可能になったということを聞きました。

そこで,息子が相続した株式の一部を会社が買い取り,その売却代金で相続税を支払うということができないかと考えているのですが,どうでしょうか。

 

<回答>

1 自己株式の取得

 会社が自社の発行した株式を取得することを,「自己株式の取得」といいます。自己株式の取得は,平成13年6月改正までは原則として禁止されていましたが,同改正により手続・方法・財源の規制のもとで認められ,会社法もこれを引き継ぎ,規制を合理化しています。

 会社が自己株式を取得できる場合としては,いくつかありますが,本件のような場合に考えられるのは,「株主総会の特別決議による取得」であると思われます。

2 株主総会決議に基づく取得

 この場合の取得手続規制としては,以下のものがあります。

(1)株主総会の特別決議

 会社が特定の株主から自己株式を買い取る場合,株主総会の特別決議(当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した株主の議決権の3分の2以上にわたる多数をもって行う決議)が必要になります(会社法156条1項,160条1項,309条2項)。

この株主総会では,原則として,会社から株式を買い取ってもらう株主は議決権を行使できません(同法160条4項)。

そこで,他の株主の賛成が得られないと,会社に買い取ってもらうことは困難です。

(2)売主追加請求権

売主以外の他の株主は,会社に対し,自分も売主に加えることを請求することができます(同法160条2項,3項)。会社は,株式を買い取ろうとした相手の株主以外の株主からも株式を買い取らなくてはならなくなるので,前記の規定は,会社が特定の株主からのみ株式を買い取ろうとする場合,大きな障害になる可能性があります。

しかし,株式会社が株主の相続人から相続により取得した当該株式を取得する場合には,前記の売主追加請求権の規定は適用されません(同法162条)。もっとも、①株式会社が公開会社である場合、②当該相続人が株主総会等で当該株式を株式会社が自己取得することに関して議決権を行使している場合には,原則どおり,前記の規定の適用があります。

なお,公開会社とは,その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない会社をいいます。すなわち,譲渡制限株式(譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する株式)を発行している会社は,公開会社ではありませんから,他の株主の売主追加請求は認められず,会社はその相続人からのみ株式を買い取ることができます。

なお,株式会社は,会社法160条2項,3項の適用(他の株主の売主追加請求権)を,定款をもって排除することも可能です(同法164条1項)。もっとも,会社成立後に当該定款変更を行う場合には,株主全員の同意を要することになり(同法164条2項),会社が成立した後でこのような定款に改めることは困難な場合もあります。

3 財源規制

 会社が自己株式を有償取得する場合には,会社から金銭が流出することになり,会社の債権者が害されるおそれがあります。そこで,取得の際に株主に交付する金銭等は,分配可能額を超えることはできません(同法461条,157条1項,176条1項)。すなわち,自己株式を取得するためには,会社が取得のため資金を有している必要があります。

 最近では,このように会社が後継者(相続人)の相続した株式を一部買い取り,相続人の相続税納税資金準備を行うための生命保険も現れています。すなわち,社長を被保険者とし,会社を契約者かつ死亡保険金受取人として,生命保険契約を締結しておき,社長が死亡した場合には,会社に生命保険金が下り,会社はその保険金で相続人から自己株式を取得することができ,相続人は,その売却代金で相続税を支払うというわけです。また,役員を被保険者とする積み立て式の厚生保険は保険料を一部損金として計上することができる場合もあるため,節税対策の一つとして,このような保険に加入するのも検討に値するのではないかと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.01.15更新

私道の通行妨害に関する法律問題

 

<質問>

 ある土地を購入して、駐車場経営をしようと考えております。しかし、その土地は、公道には面しておらず、第三者が所有する建築基準法42条2項のみなし道路に指定されている私道にしか通じていません。そこで、この私道の所有者に「上記の土地を購入して駐車場を作りたい」旨の挨拶に行ったところ、「私道なので車の通行は許さない」と言われてしまいました。

私としては、私道であっても道路である以上、車の通行を許さないなどという理屈は通用しないと思います。現にその私道には近隣住宅の所有者の自動車が通行しております。

 上記の土地を購入して駐車場を作っても問題はないでしょうか。

<回答>

 結論から申し上げますと本件のような場合には、私道の所有者から通行権(通行地役権等)を設定してもらい、当該私道部分における駐車場の車の通行を認めてもらった上でなければ、購入は中止した方がよいと考えられます。

 といいますのは、私道の所有者等による私道の通行妨害があった場合に、そのような通行妨害を禁止するよう請求するための要件として、最判平成5年11月26日(判時1502号89頁)、最判平成9年12月18日(民集51巻10号4241頁)、最判平成12年1月27日(判時1703号131頁)は、①当該私道が建築基準法上の私道であること、②通路が現実に開設されていること、③通行が日常生活上不可欠であること、④私道所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情がないこと、という4つの要件を全て満たす必要があるとしています。

 上記要件の中で特に注意が必要なのが、③の「通行が日常生活上不可欠であること」という要件です。

本件のような場合には、駐車場を建設して、駐車場収入を得るといういわば「営利的な目的」による私道の通行ですので、このような場合には私道の通行が「日常生活上不可欠」とは言えないと判断されます。

前掲最判平成12年1月27日も上記のような理由で、私道に対する通行妨害の排除の請求を棄却しております。最高裁判決のいう「日常生活上の不可欠の利益」とは、私道だけに通じる土地に自宅を所有する者が生活のためにやむを得ず通行する利益のことですので、商業上の利益は含まれないことになります。

なお、自宅の駐車場に止めてある車を通行させることに関してはどうかという点ですが、例えば、高齢や障害のため車での外出が不可欠などの事情があれば、「日常生活上の不可欠の利益」と言えると思います。しかし、単に自宅に車の駐車場があると便利であるという理由だけで「日常生活上の不可欠の利益」があると言えるかについてはかなり微妙な問題があります。

 最高裁が上記③の要件を設けたことに関しては、私道上には構築物を設置することを禁止する行政上の規制違反を結果的に容認することになるなどの学説上の批判があるところですが、平成12年の最高裁判決ですので、上記③の要件は今後も当分の間は維持されると考えられます。

 したがって、私道の所有者の意向を無視して駐車場を建設しても、私道の所有者が私道上にポールを設置するなどして通行を妨害した場合には、そのような通行妨害の禁止を求めることはできないと考えられますので、私道所有者との間で通行権の設定に関する合意が成立しない場合には、土地の購入は中止しておいた方がよいと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.01.07更新

借地権の相続の法律問題

 

<質問>

 父は、10年前から土地を借りて、借地上に店舗を建設し、洋品店を経営しておりました。しかし、昨年急逝したため、父の店は、相続人である私が引き継いで、経営を引き継ぐことになりました。そこで、地主に挨拶に行ったところ、借地契約の名義書換をしてくれなければ困ると言われ、名義書換料として地代の1年分を請求されました。

地主が言うように名義書換料の支払いに応じなければならないのでしょうか?
(1)の事例で、借地契約には「当該借地契約は借地人一代一限りで失効する」という特約が付されていました。

この場合、借地契約は上記特約により終了するのでしょうか?

<回答>

(1) 賃借権の相続と名義書換料支払いの必要性

借地人が死亡した場合、相続が開始し、借地権はその時から当然に相続人に移転します(民法882条・896条)。

この場合、賃借権だけでなく、これに付随する一切の賃貸借上の権利義務関係ないし地位が相続人に移りますから、地主と借地人との契約関係も法律上当然に相続人に承継されます。

 そして、借地権の相続によって、その権利の持ち主の名義に変更が生じますが、この名義の変更は、賃借権の第三者への譲渡等とは異なり、地主の承諾を得る必要がなく、法律上当然に生ずるものです。

したがって、賃借権の名義変更による承諾料としての名義書換料を支払う必要はありません。

実際上、本問のように地主から賃貸借契約の名義書換や更新の申出を受けることもあります。

名義書換をしておいた方が権利関係を明確にするという意味では望ましいことですが、従前の借地契約が法律上当然に承継されますので、多額の名義書換料を支払ってまでして名義書換をする必要性は余りないのではないかと思われます。

(2) 契約期間を「一代限り」とする特約の効力

 「賃借人が死亡したときには契約が終了し土地を明け渡す」旨のいわゆる賃借人一代限りの特約を結ぶ例もまれに見受けられます。この特約の法的性質は、不確定期限を付した合意解除契約といえます。

しかし、借地借家法(旧借地法)では、法の定める借地権の存続期間(借地借家法では30年)に反する特約は、無効とされています(借地借家法3条、9条)。賃借人一代限りとする特約は、借地契約後30年未満に賃借人が亡くなった場合にはその時点で賃貸借契約の期間が満了するという特約ですので、借地権の存続期間を最低でも30年とする借地借家法の規定に反することになります。

この点、裁判例(東京高判昭48・11・28/判時726・44)においても、賃借人一代限りとする特約は、借地法の定める存続期間に反する結果となり、借地人に不利なものとして無効である判示しています。

したがって、本件でもこのような特約は原則として無効と理解してよいと考えられます。

そして、この場合の存続期間は、期限の定めのない借地契約ということになるため、借地借家法3条の定める存続期間である30年と見なされることになります(最判昭44年11月26日/民集23・11・2221)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.12.25更新

建物の賃貸借と敷地の利用権

 

<質問>

1 私は一軒家を自宅として借りて住んでおります。家の前には、車2台分のスペースの空き地があったため、その空き地を庭にして小さな家庭菜園に利用しておりました。

そうしたところ、貸主から、敷地は契約書上賃貸借の目的物にはなっていから、今後は駐車場にして第三者に貸したいので、庭部分の敷地を返して欲しいと言ってきました。

貸主の主張は正しいものなのでしょうか。

2 私は、ある貸ビルの1室を飲食店利用の目的で借り、レストランを開いております。営業時間中は店の前のビル敷地部分に可動式の看板を置きたいと思いますが、貸主は認めてくれません。どうしても看板を出したいならば看板料を支払うよう言われております。

 なお、賃貸借契約書では、店の前に看板を出すことは禁止されておらず、また、看板もよくある飲食店用の小さな立て看板で特に通行の障害になるようなものでもありません。

 貸主の言うとおり看板を出すことはできないのでしょうか。

<回答>

1 質問1について

借家人は、敷地を利用せずに建物に居住することは不可能ですので、一般には、「住宅に使用するための家屋の賃貸借において、その家屋に居住し、これを利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用が随伴することは当然である」(東京高判昭三四・四・二三下民一〇・四・八〇四)と考えられています。

したがって、建物の賃貸借契約書に賃借物の範囲が明記されていなくても、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」は、建物の賃借権に含まれていると解されます。

もっとも、どの程度の敷地利用が「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」といえるかは、いちがいには言えません。契約の目的、趣旨、賃料の決め方、貸した当時の建物や敷地の形状、賃貸人が黙認していた賃借人の利用方法などの事情を総合考慮して決められることになると思われます。

質問1のように、住宅用の一軒家の賃貸においては、駐車場2台分程度のスペースを、庭として或いは駐車場として、借家人が使用することは、当然、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」といえます。

したがって、前記の敷地部分も建物の賃借権の範囲に含まれていると解せますので、貸主の主張は誤っていると言えます。

 これに対し、仮に、建物の前の空き地スペースが建物と同じくらいの広さで、駐車場10台分もある場合には、当該部分の敷地面積を考慮して建物賃料を決めたなどの特段の事情がない限り、その全部が「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」とは言えないと思われます。「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」と言えるのは、庭としてのスペース部分(駐車場1台分程度)及び家庭用自動車の駐車場1、2台部分に限られるでしょう。

2 質問2について

質問2の問題についても、「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の通常の方法による使用」と言えるかがポイントになります。

基本的には、飲食店を開いて営業している以上、客を呼び寄せるために店の前の入口に看板を出すことは必要不可欠のこととも考えられます。

したがって、営業時間内に可動式の看板を出すことは「建物の通常の利用に必要な範囲内での敷地の利用」にあたり、看板を出すことは建物の賃借権の範囲内と言える可能性が高いでしょう。まずはこの点を貸主に十分説明して話し合うことが肝心です。

 但し、賃貸借契約書で看板を出すことを明確に禁止している場合、看板を置く場所が避難通路に指定されているなどして消防法上看板を置くことが違法になる場合には、看板を出すことは出来ませんので、注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.12.17更新

借家契約において無効となる条項

 

<質問>

 借家契約では契約書で家主に有利な規定を設けても無効になる場合があると聞きます。どのような条項が無効になるのでしょうか。

<回答>

1 借地借家法では、一定の事項については仮に契約書等で賃貸人に有利な条項を定めても無効になる旨を定めております。これを強行規定といいます。

 借地契約については借地借家法9条が、借家契約については借地借家法30条がこれに当たります。

 具体的には借家契約の場合で、借地借家法28条(賃貸人は正当な事由がなければ更新を拒絶しまたは解約の申し入れをすることができない)、同法26条1項(期間満了前1年~6カ月の間に更新拒絶の通知をしないと契約は自動的に更新されたものと見なされる)、同法26条2項(期間満了前の26条1項の通知をした場合であっても、賃借人が期間満了後も建物の使用を継続している場合には賃貸人が遅滞なく異議を述べないと自動的に更新されたものと見なされる)、同法29条(1年未満の契約をした場合には期間の定めがない契約と見なされる)などの規定が強行規定にあたります。

 したがって、これらの規定に反する条項で賃貸人に有利な条項は無効とされています(借地借家法30条)。

2 具体的に問題となった例としては以下のような条項があります。

・家主の要求があれば直ちに明け渡す旨の特約

このような条項は、借地借家法28条の正当事由(地主の自己使用の必要性に関わる正当事由)がなければ解約できないとの条項に違反します。

また、建物の立ち退きに当たっては一切立ち退き料を請求しない旨の条項 も、立ち退き料の提供は正当事由を補完するための重要な要素ですので、このような条項も実質的には借地借家法28条に反するものとして無効になります。

また、家主の療養中に限り賃貸する旨の条項なども実質的に借地借家法28条に反するとして無効とされております(ただし、ここで述べているのは、療養が終わっても当然に借家契約が終了しないという意味ですので、療養が終わり家主が当該借家を自己使用する必要性が高いという事情は、借家契約の更新拒否の正当事由の一つとして考慮されます)。

なお、一定の期間に限り賃貸に出したいという場合には、借地借家法38条の各要件を備えることにより成立する定期借家契約という方法がありますので、この方法を検討するべきでしょう。

 ・賃借人が差し押さえを受け又は破産宣告の申し立てを受けた時には、家主は直ちに契約を解除することができる旨の条項

 差し押さえを受けたり、破産宣告の申し立てを受けただけで、家賃はきちんと支払い続けているという場合には、賃借人は何ら債務不履行(家賃の滞納)をしたことになりませんので、このような事項は借地借家法28条の正当事由にはなりません。

したがって、このような条項も無効になります(最高裁昭和43年11月21日民集22・12・2726)。

なお、賃借人の破産は、かつては民法上の賃貸借契約の解除事由とされていましたが、前記のような理由から合理性がない規定だとして民法の規定からも削除されています。

3 このように、賃貸借契約の終了事由に関わる条項の多くは、借地借家法28条の定めと実質的に反するという理由で無効とされておりますので、契約書の検討の際には特に注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.12.10更新

滞納管理費の一部弁済と時効中断の範囲 

 

<質問> 

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしておりますが、ある区分所有者の方で管理費を4年11ヶ月間滞納している方がいます。管理費の時効期間である5年の経過を間近にして、強く督促したところ、その方は1ヶ月分だけ支払って来ました。

債務の一部弁済も時効の中断事由にあたると聞いておりますので、もうしばらく訴訟の提起を見合わせたいと思っております。

時効の点は大丈夫でしょうか。

<回答>

 本件で問題となっているマンションの管理費は、民法169条所定の定期給付債権に該当することから5年の時効期間に服します(最高裁判所平成16年4月23日判決)。

 ところで、マンションの管理費のように毎月定期的に発生する債務に関して、その1ヶ月分のみが支払われた場合において、債務の一部弁済として滞納期間全体(本件では4年11ヶ月分)の債務について時効中断の効力が及ぶのか、それとも個々の債務は別個独立の債務であることから残りの滞納期間の債務には時効中断の効力は及ばないと考えるのかが問題となります。

 この点、医師会に入会後規約に基づき毎月定期的に発生する医師会会費の時効が問題となったというマンション管理費の滞納と類似する事案において、判例(大審院昭和16年2月28日判決)は、一年のうち4月分・5月分の会費を支払ったとしてもそのために同年度の他の未払会費の支払義務があることをも承認したものとは認定出来ない、として残りの滞納期間の債務には時効中断の効力が及ばない立場を明らかにしております。

 したがって、本件においても、1ヶ月分の管理費が支払われたからと言って、他の滞納期間の債務を承認したことにはならないと考えられます。

 そのため、本件において時効の成立を防ぐためには、①残りの滞納期間の債務について5年の時効期間が経過する前に訴訟を提起する(5年が経過する前に取りあえず内容証明郵便を送付して6ヶ月以内に提訴する場合も含む)、②残りの滞納期間の債務について滞納債務の総額と滞納期間を明示の上債務者がこれを承認する旨の債務承認書を債務者から取得する、或いは、③残りの滞納期間と滞納債務の総額を明示の上これを分割弁済する旨の分割弁済書を債務者から取得する、という方法によって時効中断の措置を取っておく必要があります。

 なお、②③について、しばしば口頭での遣り取りだけで済まされがちですが、口頭の遣り取りだけでは後に立証することが困難となりますので、書面の取り交わしは必須と言えます。

また、③の場合には、「期限の利益喪失約款」を付する場合がありますが、この場合には、「相手方の○回分の滞納により当然に期限の利益を喪失する」と記載されている場合には、相手方の○回分の滞納により期限の利益を喪失した時から5年間で、債務承認をした全体の残債務について時効になります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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