弁護士 秋山亘のコラム

2019.10.15更新

申込証拠金の法的性質と返還義務

 

 

1  はじめに

 マンション、建売住宅、造成宅地の分譲等、購入申込の受付に際して、分譲業者が購入希望者から「申込証拠拠金」として、一定の金額を受領することが行われている。

売買契約が成立すれば、手付けの一部として又は売買代金の一部として充当されるため特に問題は生じないが、買い主がその後当該物件を購入しなかった場合には、この申込証拠金を返還するべきか問題となる。

2 申込証拠金の法的性質

(1)申込証拠金は、実定法上の概念ではなく、取引慣行として行われているもに過ぎない。

従って、基本的には、その内容を決めるのは、本来当事者間の合意内容と言うことになる。

しかしながら、実際の授受の際には、いかなる内容のものとして申込証拠金が受領されるのか、返還義務があるのか等は曖昧なまま受領されている。

(2)ただし、取引慣行に従えば、申込証拠金に共通するものとして、以下に述べる特徴がある。

 ① 授受の目的は、申込順位の確保と購入意思の真摯性の証明にあると言われる。

  ② 授受の時期は、具体的な売買契約の交渉が始まる直前に授受されることが多い。従って、申込証拠金の授受の段階では、契約成立に至っていないことが通例である。

③ 授受の金額は、3万円から30万円程度の幅があり一律ではないが、10万円程度の金額が多い。

④ 授受の名目は、申込証拠金のほかに申込金、予約金、売止金等と呼ばれている。

(3)なお、申込証拠金は、個々の取引事例における授受の目的、金額、時期によっては、手付けと解される余地は皆無ではないが、通常、売買契約の締結前に授受されるものであるから、いわゆる手付金とは異なる。

(4)法的性質に関する見解

このように申込証拠金については、実際の取り決め内容が曖昧であり実定法上の概念でもないため、その法的性質に関しても以下のように見解が分かれている。

① 申込証拠金は、解約手付けあるいは違約手付けとすることはできないが、その効力は、解約手付けに関する民法557条の規定を類推して、買主は差し入れた証拠金を放棄して自由に申込み意思を撤回できるとする見解(今西上祥郎監修『実例による不動産トラブル解決法』86頁)

② 申込証拠金は、予約契約の手付けと呼ばれる見解(幾代・山本『不動産相談』132頁)

③ 申込証拠金は、違約手付と見るべきとする見解(北川善太郎・及川昭伍『消費者保護法の基礎』256頁)

④ 申込証拠金は、特約のない限り、手付けと言うよりは、申込みを一時担保し優先順位を確保するための金銭であり、契約締結に至らないときは売主である宅建業者は返還する必要があるというもの(明石三郎ほか『詳解宅地建物取引業法』316頁、山岸ほか『ケース取引』4頁)

このうち、①から③の見解は返還義務を否定し、④は返還義務を肯定するものと解される。

3 返還義務

では、申込証拠金を授受し、契約不成立に至った場合、返還しなければならないのだろうか。

この点、取引実務においては、上記④の見解に従い購入希望者が申込意思を喪失した場合は、申込証拠金を全額返還するという処理が多く為されている。

また、各都道府県の不動産指導部でも、契約不成立の場合には全額返還するよう指導しているようである(昭和48年2月26日付建設省不動産室長通達も同旨)。

このような取引実務及び申込証拠金の授受の目的(順位確保、購入意思の真摯性)からすれば、申込証拠金の返還義務について特段の合意が為されていない場合は、上記④説のような全額返還説に従った処理が妥当だと思われる。

なお、以上に対して、申込証拠金の受領証などに、例えば「契約が成立しない場合には申込証拠金は返還しない」旨の特約を設けていた場合には、返還しないという処理ができる。

ただし、近年施行された消費者保護法からすれば、こうした条項も無効とされる可能性はある。特に、申込証拠金の金額が、通例に比して高額である場合には「全額返還しない」旨の条項は、無効とされる可能性は十分にあることに留意する必要がある。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.10.07更新

消費者契約法第10条の適用により原状回復義務を賃借人負担とする特約を無効とした裁判例

 

 

(事案)

 Xは、平成10年7月、Yとの間で共同住宅の一室の賃貸借契約を結んだ。 同賃貸借契約には、自然損耗および通常の使用による損耗について賃借人が原状回復義務を負担すること及び賃借人が原状回復義務を負担する場合の回復費用の具体的な単価が記載されていた。

 同契約は、消費者契約法が施行された平成13年4月1日のあとである同年7月7日に更新の合意がなされた。

 その後、賃貸借契約は解除されたが、Yは、上記特約により、原状回復費用を敷金から控除すると返還される敷金はないと回答したため、Xは、預け入れ敷金20万円の返還を求めてYに提訴した。

 以上のような事案で、京都地裁平成16年3月16日判決(最高裁ホームページ掲載)は、

 ① 消費者契約法施行前に締結された賃貸借契約にも、同法施行後に賃貸  借契約が合意により更新された場合には、更新後の契約に同法の適用が  ある、

 ② 消費者契約法第10条により、自然損耗および通常の使用による損耗  に関する原状回復義務を賃借人に負担させる旨の本件特約は無効である、

 と判示し、賃貸人Yに敷金全額の20万円の返還を命じました。

(解説)

1 消費者契約法の施行時期と賃貸借契約の更新

消費者契約法の施行時期は平成13年4月1日です。

法律には不遡及の原則がありますから、法施行日以前に締結された契約には、法の適用がないのが原則です。

しかし、本裁判例は、「消費者契約法の施行後である平成13年7月7日に締結された本件合意更新によって、同月1日をもって改めて本件建物の賃貸借契約が成立したから、更新後の賃貸借契約には消費者契約法の適用がある」としております。

その理由として、裁判例は「実質的に考えても、契約の更新がされるのは賃貸借契約のような継続的契約であるが、契約が同法施行前に締結されている限り、更新により同法施行後にいくら契約関係が存続しても同法の適用がないとすることは、同法の適用を受けることになる事業者の不利益を考慮しても、同法の制定経緯および同法1条の規定する目的にかんがみて不合理である」と判示しており、賃貸借契約の継続性という特殊性に照らして、消費者保護法の趣旨は、更新後の契約にも及ぼすべきだと解釈しております。

本事例は、消費者契約法の施行後に合意更新が為されたケースですが、上記判断理由によりますと、法定更新のように合意によらない更新のケースでも、消費者保護法を適用すべきとの判断を下しているように思われます。この点は、法律の不遡及の原則からすれば、だいぶ思い切った解釈のように思われ、学説上は賛否が分かれるところかもしれませんが、消費者契約法の趣旨を現行の賃貸借契約に反映させる点を特に重視した判決例と言えます。

2 消費者契約法第10条の適用

 これまで、事業者と消費者の間には交渉力と情報に大きな格差があるため、消費者が不当な契約を強いられるといった批判がありました。消費者契約法は、この格差を是正し、消費者を不当な契約から守る目的で定められた法律です(消費者契約法の詳細は、本誌第17回で詳しく説明しております)。消費者契約法は、契約当事者の一方が「事業者」で他方が「消費者」である契約に適用されます。

そして、消費者契約法第10条では「消費者の権利を制限し、又は、義務を加重する消費者契約条項であって、民法第1条2項(信義誠実の原則)に反して、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と定めております。

 本裁判例では、本事例に消費者契約法第10条を適用した理由として、

①賃借人が、賃貸借契約の締結に当たって、明け渡し時に負担しなければならない自然損耗等による原状回復費用を予想することは困難であること(したがって、本件のように賃料には原状回復費用は含まれないと定められていても、そうでない場合に比べて賃料がどの程度安いのか判断することは困難であること)

②本件の契約書では、原状回復費用の単価は契約書に明示してあるが、建物明け渡し時に具体的にどの部分のどのような面積を原状回復しなければならないのか予測が困難であること、

③よって、賃借人は、賃貸借契約締結の意思決定に当たっての十分な情報を有していないこと、

④本件のような集合住宅の賃貸借において、入居申込者は、賃貸人または管理会社の作成した賃貸借契約書の契約条項の変更を求めるような交渉力は有していないから、賃貸人の提示する契約条件をすべて承諾して契約を締結するか、あるいは契約しないかのどちらかの選択しかできないこと、

  ⑤これに対し、賃貸人は将来の自然損耗等による原状回復費用を予想することは可能であるから、これを賃料に含めて賃料額を決定し、あるいは賃貸借契約締結時に賃貸期間に応じて定額の原状回復費用を定め、その負担を契約条件とすることは可能であり、また、このような方法をとることによって、賃借人は、原状回複費用の高い安いを賃貸借契約締結の判断材料とすることができること

を挙げ、自然損耗等による原状回復費用を賃借人に負担させることは、契約締結に当たっての情報力および交渉力に劣る賃借人の利益を一方的に害するものといえ、本件原状回復特約は消費者契約法10条により無効であると判示しております。

 本裁判例では、特に、建物明け渡し時の原状回復費用がいくらかかるのか、賃借人には、具体的に予測困難であることを重視し、同法の適用を認めているようです。

  これまでの裁判例でも、通常の居住用建物の事例における原状回復義務の特約条項(「契約時の原状に復旧」等の文言を使用)の解釈として、原状回復の義務付けられた損害に自然損耗等が含まれないとし、契約条項の制限解釈をした裁判例は、川口簡易裁判所平成9年2月18日判決(消費者法ニュース32号80ページ)、大阪高等裁判所平成12年8月22日判決(判例タイムズ1067号209ページ)他多数があり、裁判例の一般的な傾向にあると言えました。

 しかし、本事例のように、明文の条項をもって、自然損耗等についての原状回復義務を賃借人に負担させている場合、契約条項の解釈論としては限界がありました。本裁判例は、そのような中で消費者契約法の適用により正面から「自然損耗等についての原状回復義務を賃借人に負担させる」条項を無効とした点で、注目される裁判例です。

3 本裁判例の意義及び賃貸人としての今後の対応

 あくまで下級審レベルでの裁判例であり、最高裁判例とは異なります。 もっとも、最高裁のホームページでも紹介されているところを見ると、実務上は先例としての意義はそれなりに大きいと思われます。

 今後、賃貸人側としては、通常損耗や自然損耗について契約書の条文で賃借人負担とすることを明記しても、消費者との賃貸借契約では無効とされる可能性が十分にあることを考えなければなりません。

 したがって、賃貸人としは、通常損耗や自然損耗のリフォーム費用については毎月の家賃からの費用回収を前提に家賃設定をすることなどを考えなければならなくなる時代になったと言えるでしょう。

 あるいは、上記裁判例の理由⑤で示されているように、消費者契約法第10条が適用されないような契約書の記載方法としては、例えば、通常損耗分等として賃借人が負担する原状回復義務の履行費用を、居住年数に応じて「使用期間1年の場合金○○円」とするなど契約書上明記しておく方法が考えられます。このように負担金額が明記されていれば、消費者は退去時の費用負担を具体的に予測して契約を締結できることになりますから、上記裁判例で強調している①②の理由は当てはまらなくなりますし、上記裁判例でも、このような契約方法であれば、消費者契約法第10条の適用を避けられることを示しているように思われます。

 したがって、上記のような方法で退去時の費用負担額を具体的に明示していること、賃借人の負担金額も不合理ではない控え目な金額に止めていること、退去時の費用負担について分かり易い丁寧な説明を履行し確認書を別途取っておくこと、などの契約手続きをとっていれば、消費者契約法第10条により無効とされることもないと思われます。また、退去時のトラブルを避けるという意味でも有意義ではないかと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.30更新

重要事項を告げなかった場合の宅建業者の責任

 

 

(事例)

 ある不動産業者は「海がよく見えるマンション」という売り出し文句で広告を出していた。そこで、海がよく見えるという点が気に入った買い主は、そのマンションの9階1部屋を不動産業者から購入した。

 しかし、その6ヶ月後には当該マンションの直ぐ隣に13階建てのマンションが完成し、購入者の9階の部屋からは海が全く見えなくなりました。

 このような場合不動産業者にはどのような責任が生じるのでしょうか。

(回答)

1 錯誤無効による契約無効

  民法95条の錯誤無効とは、例えば買主がA物件を買おうと思っていたが勘違いしていてB物件を買ってしまった場合や代金100万円だと思って契約書にサインしたがそれは勘違いで契約書100万ドルとなっていた場合等、契約条項は正しいのだけれども自分が勘違いしていたためその物件やその代金で買うつもりはなかった場合に、その勘違いに重大な過失がない場合には、契約を無効に出来るというものです。

  この点、「海がよく見える」というのは契約を締結した動機でありますので、このような動機の錯誤では、原則としては、錯誤無効の主張はできません。

  しかし、このような契約の動機が契約上表示されている場合には、錯誤無効の主張ができます。

  本件では、「海がよく見えるマンション」が売り出し文句として広告されています。従って、海がよく見えるから購入したという契約の動機は、契約上明示的若しくは黙示的に表示されていると解釈されると思われます。

  そうすると、民法95条による錯誤無効の主張も可能になります。

  契約が無効になりますと、不動産業者は、売買代金を全額購入者に返還することになります。購入者は、「現に利益を受ける限度」において当該マンションを返還すれば足りますので、当該不動産を既に何ヶ月か利用していても、そのままの状態で不動産業者に返還すればよいことになります。

2 消費者契約法第4条1項又は同条2項による契約取消

  消費者契約法第4条1項は「重要な事項について事実と異なることを告げた」場合、又、同条2項は「重要な事項について当事者の不利益となる事実を故意に告げなかった場合」には、契約を取り消すことができるとしております。

  本件では、購入後6ヶ月しか経っていないのに隣にマンションができて海が見えなくなるということは重要な事項で、かつ、消費者に不利益な事項ですので、このようなマンション建設計画を不動産業者が故意に告げなかった場合には、同条2項による契約取り消しの対象になります(なお、裁判例はまだ出ておりませんが、同条の趣旨からすれば、本件のマンション建設計画のように不動産業者が当然に調査し知り得べき事実については、「故意に告げなかった」場合だけでなく「重要な不利益事実の調査に重大な過失があり、これにより当該重要な不利益事実を告げなかった」場合にも同条が類推適用される可能性が高いと思われます)。

  また、「海がよく見えるマンション」であることは契約上「重要な事項」にあたりますので、これが6ヶ月後に隣にマンションができて海が見えなくなったならば事実と異なることを告げたとも評価されるものと思われます。従って、消費者契約法第4条1項に言う「重要な事項について事実と異なることを告げた」にも該当すると思われます。 

  なお、民法95条による錯誤無効の場合、不動産業者としては、「広告ではうたっていたとしても、そのことは契約書上では表示されていないから動機の表示は為されていない」と反論することや、又、購入当時としては海が見えることを売り物にしていたとしても、購入後も永遠に海が見えることまでを保証してうたっていたわけではないと反論することが考えられます。

  しかし、消費者契約法によると、上記のような反論は成り立ち難くなるでしょう。

     ただし、消費者契約法による取り消し権の行使期間は、契約の追認をすることができる時(本件では13階建てのマンション建設を知ったとき)から6ヶ月以内と法定されていますので、取り消し権の行使期間には注意が必要です。

3 重要事項説明義務違反による損害賠償責任

    宅建業法35条は、宅建業者に重要事項の説明義務を課しておりますが、同法35条に掲げられている重要事項は例示列挙でありますので、この他にも当該不動産取引において説明すべき重要な事項がある場合にはこれを調査し説明する義務があります。

  本件では、「海がよく見えるマンション」を売り物にしていた以上、当該マンション前の土地で13階建てのマンション建設工事が計画されているという点はまさに重要事項ですから、宅建業者はこの事実の有無を積極的に調査した上これを購入者に説明する義務があります。

  従って、これを怠った宅建業者は、消費者から契約の取り消しや無効までもが主張されなくとも、重要事項の説明義務違反として、損害賠償の責任を負います(なお、購入したマンションの前の平屋建ての建物が取り壊され2階建ての建物が建設されたことでマンションの1階、2階の区分所有者に日照等の被害が生じた事例で、販売業者の説明義務違反が認められた裁判例として東京地裁平成13年11月8日があります)。

  次に、本件の場合の損害額としては、財産的価値が客観的に減少した分の損害として、海が見えるマンションであった場合の評価額と海が見えないマンションであった場合の評価額の差額が考えられます。

  この他に、購入者が海が見えなくなったことによる精神的苦痛を慰謝料として請求できるかという問題もあります。

  この点、通常の不動産取引における説明義務違反事例では、客観的な財産的価値の減少の損害の他に慰謝料までが損害として認められるかというと、不動産業者の当該説明義務違反の程度や当該説明義務違反の悪質性にもよりますが、慰謝料までは認められないか、仮に、認められても少額にとどまるというケースが一般的であると思われます。

  しかし、本件のように海が見えるマンションを売り物にしており、購入者もこの点が特に気に入って購入したという事例の場合には、本来であれば契約取り消しや契約無効の主張までもが可能な事例ですので、この点も考慮すると、慰謝料の支払いも認められる可能性が高いでしょう。

4 以上のように、専門業者の責任は重く、消費者の保護は厚くというのが近時の法律や裁判例の流れとなっております。

  不動産業者としても、このような流れを踏まえて、消費者への説明責任には十分に配慮することに注意を払う必要があると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.24更新

借地人の借地権譲渡に対する地主の対抗手段

 

 

(質問)

 この度、借地人Xから借地権を譲渡したいので承諾して欲しいとの申し入れを受けました。借地権の譲受人は、現在、借地上の建物をXから借りて住んでいるYです。

 しかし、借地人Xは、かねてから地代の滞納を繰り返していた人物なので信用できません。Yも近所の評判も芳しくなく、いわゆるフリーターで定職に就いていないと言う話ですので、地代をきちんと支払ってもらえるか心配です。

 そこで、私は、借地権の譲渡には承諾できないとXの申し入れをお断りしたのですが、Xは「裁判所に申し出れば、少々の承諾料を支払えば、借地権譲渡は許可される」と言って強気です。

 私としては、この借地権譲渡にはどうしても反対で、できることならば、この際、借地権をXから買い取り、現在の借地を私の完全な所有(更地)にした上で、売却したいと考えております。

 このような場合、地主側としては、どのような対抗手段があるのでしょうか。

 

(回答)

第1 借地権譲渡許可の申立

1 借地権は地主の承諾がないと譲渡できないのが原則です(民612条1項)。借地人による借地権の無断譲渡は契約の解除事由になります。

 しかし、地主が承諾しない場合でも、借地権者が借地権の目的である土地の上の建物及びその土地の借地権を第三者に譲渡しようとする場合、その第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合には、借地権者は、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可の申立てをすることができます(借地借家法19条1項)。

2 「第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合」とは、どのような場合かと言いますと、例えば、借地権の譲受人が暴力団員である場合、譲受人が産業廃棄物を扱う業者で借地に産業廃棄物を搬入し埋め立ててしまうことが予想される場合、地代の支払に不安が認められるような客観的な事由がある場合、などが挙げられます。

しかし、このような事情の立証は実際上は地主側が行わなければならず、その立証はかなり大変です。また、本件のように単にフリーターであると言うだけでは、地代の支払に不安が認められる「客観的な事由」があるとは必ずしも認められないでしょう。

3 第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがない場合には、譲渡承諾料の支払いと引き換えに、譲渡が認められてしまうことになります。

 この場合の譲渡承諾料は、借地権付建物の価格の10%程度です。建物が老朽化している場合には建物価格は0円に等しいと考えられますので、借地権価格(場所により異なるが更地価格の6割~7割)の10%程度と考えてよいでしょう。

第2 地主の介入権

 しかし、このように借地人から地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立てがなされた場合は、地主は、建物及び借地権を優先的に自分が譲り受ける旨を裁判所に申し立てることができます(借地借家法19条3項)。これを介入権の行使と言います。

 この地主による介入権が行使されると、地主の譲受権が優先し、裁判所は、相当の対価を定めて地主に対する譲渡を命ずることになっています。

 そして、この相当の対価は、裁判所の選任した鑑定人で構成する鑑定委員会の意見に基づいて定められております。

 なお、介入権行使の対価は、借地権価格からその10%を差し引いた金額をもとに決められます。これは、借地権譲渡の承諾料は、前述のように借地権価格の約10%であり、第三者が借地権付建物を取得した場合、当然その承諾料は地主が取得できたはずであることから、借地権価格の10%を差し引いた金額とされているのです。

 以上のように、借地人による地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立てがなされた場合には、地主が介入権を行使して借地権を自分で買い取ることができますので、本件でもXが裁判所に申し立てた場合、介入権の行使を対抗手段に取ることができます。

 なお、裁判所を介せず地主と借地人との交渉で、地主が借地人から建物を買い取る場合も、通常の借地権価格から借地権価格の10%を差し引いた金額を目安に買取金額を決めることになるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.18更新

借地借家更新拒絶と正当事由

 

 

借地契約の契約期間の満了により地主から明け渡しを求められているのですが

(質問)

 私は、現在借りている土地に建物を建てて飲食店を経営しておりますが、先日、地主から借地の賃貸借契約の期間が満了するとして、土地の明け渡しを求められました。

地主は、明け渡しの理由として、当該土地を更地にして賃貸目的のビルを新たに建設する予定であると述べております。

私としては、相当額の補償があれば、立ち退きはやむを得ないと思っておりますが、地主側は、自己使用の必要性に基づく契約の更新拒否なので、立退料を支払う必要はない、多少の金額なら支払っても良いがそれも判子代程度に過ぎないと言っております。

法的にはどうなのでしょうか。

(回答)

 借地法4条、借地借家法5条では、賃借人が土地の使用を継続しているにも関わらず、賃貸人側が更新を拒否するには「正当な事由」がなければならないとしております。

 「正当な事由」とは、一般に、賃貸人側が借地を自己使用する必要性の程度と借地側の自己使用の必要性の程度の比較衡量を中心的な判断要素とし、補完的な判断要素として、賃貸借関係に関する従前の経緯(賃料の滞納の有無など信頼関係を傷つける事情があったか、権利金・更新料などの支払いの有無、これまで賃料額が相場からして低く押さえられていたかなど)、土地の利用状況(借地上の建物老朽化の程度、周囲の土地でも高層ビルが建設されるなど土地の有効利用がされているか)、財産的な給付の有無・その金額の相当性(立ち退き料の提供金額)などを総合考慮して、決められます。

 もっとも、殆どのケースでは、賃貸人が土地を自己使用する必要があるというだけでは正当事由ありとは認められず、相当額の立ち退き料の支払いと引き替えに、正当事由があると判断されます。

もちろん、賃貸人側の自己使用の必要性があまり高度とは言えないケースでは、いくら立ち退き料の支払いを提供しても正当理由がないと判断される場合もあります。

なお、当事者間で合意がまとまらない場合には、借地非訟事件手続きで、裁判所が正当事由の有無の判断や幾らの立ち退き料の支払いがあれば正当事由ありとして土地の明け渡しを認めるかを判断します。

 そこで、幾らをもって立ち退き料として相当な額と認められるのかですが、これは、前記のような事情を総合考慮して決められます。賃貸人側の自己使用の必要性が不可欠であり、賃借人側の必要性が乏しいとして立ち退き料がゼロとなるケースから、借地権価格相当額を立ち退き料とするケース、借地権価格の何割かを立ち退き料と認めるケース、他の代替地の購入相当資金を立ち退き料と認めるケースなど事案の性格に応じて個別的に判断されます。

例えば、賃借人側が借地の使用を継続する必要性としては、当該借地で長年事業を営んでおり他に土地を所有していない場合には、賃借人の使用の必要性は高いと言えるでしょう。これに対して、賃貸人側の事情としては、例えば、単に土地を有効利用して収益を上げたいという場合や相続税の支払い、物納に充てたいという場合には自己使用の必要性が高いとは言えないでしょう。従って、このような場合、過去の裁判例に照らすと、正当事由があると認められるとしても、借地権価格相当額(通常は更地価格の60%~80%)の立ち退き料の支払いと引き替えに土地の明け渡しが認められる場合が多いと思われます。

本件につきましても、相当額の立ち退き料が支払われてしかるべき事案ですので、専門の弁護士等に相談することをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.10更新

借家契約に際しての注意点

 

 借家契約の成立後に貸主と借主との間で生じる様々な問題の中には、契約当初予想し得なかったものもあるでしょう。しかし、ある程度予想し得たものも少なからずあると思われます。予想できるものについては、その対応策を予め借家契約に盛り込むことが必要と考えます。以下では対応策として有効と思われるものについてご説明致します。

1 賃料相当損害金について

 契約が終了した後も借主が退去しないという問題については、借家契約の中に、通常の賃料よりも高い「賃料相当損害金」を盛り込むことで、借主に対し、「退去が遅れると高い損害金を払わなければならなくなる」という意識を持たせることが可能となると思います。なお、損害金としては、(あまり高額ですと公序良俗に違反する可能性もありますので)賃料の3倍程度が宜しいかと思います。

2 契約終了時の残置物の処分について

 契約終了後、什器物、備品等を残したまま借主が出て行ってしまうことがあります。このようなケースでは、貸主は、一日も早く残置物を処分したいが、他方、処分すると旧借主から残置物の所有権侵害を理由に賠償請求等を主張されるのではないかという問題に直面します。そこで、残置物の処理で悩むケースについては、「賃貸借契約終了時に、賃貸物件内に残された什器、備品類等一切のものについては、賃借人はその所有権を放棄したものとみなす」などの「残置物の放棄条項」を盛り込むことが有効かと思います。

3 蒸発をした際の対応について

 借主が蒸発してしまった場合、貸主は、適当な時期に契約を解除して、新たな借主を探すことを希望するでしょうが、契約解除の通知方法等で迷うことががあります。

(1) このような「借主の蒸発」に対しては、契約解除がしやすくしておくのが宜しいかと思います。具体的には、

①借主が長期不在の場合にはその旨賃主に対し通知する義務を課し、通知せずに長期不在、かつ、家賃の滞納のある場合には貸主の借主に対する契約解除の通知義務を免除する

②通知せずに長期不在、かつ、家賃の滞納のあるの場合は、借主が借家権を放棄したものとみなすことができることにする

③契約解除の通知方法は「発信主義」をとる(民法の原則は「到達主義」です)

等の条項を盛り込むことがよいかと思います。なお、①②については、慎重な運用が必要と思われます。

(2) なお、所在不明の借主との契約について、裁判所で「解除」を認めて貰おうとする場合があります。

この場合、旧民事訴訟法では、①裁判を起こす前に、裁判外で「公示送達」による契約解除の意思表示をする②①を経た上で、裁判所に対し、契約解除を求める裁判をおこすという2段階の手続を経る必要がありました。

 しかし、新民事訴訟法(法113条)では、訴状で契約解除の意思を明らかにすれば(換言すると「裁判手続の中で契約解除の意思を明らかにする」ということです)、事前に裁判外で公示送達による契約解除の意思表示をしなくともよくなり、契約解除が迅速に行えるようになりました。

4 期間内解約について

 借主が契約後期間満了前に解約することにより、貸主側が物件に対する投資を回収できないことがあります。このような貸主の不利益に対する対応策としては、

①期間内解約自体を制限する

②期間内解約については違約金を徴収する

③解約予告期間を長期にする

等が考えられます。

5 その他

(1) 連帯保証人について

(後日の紛争を回避するために、念のため)連帯保証人は、契約更新後の債務についても、継続して連帯保証責任があることを明確にしておくことが宜しいと思います。

(2) 裁判について

  借主に対し賃料不払い等の裁判を起こした場合を想定して

①貸主の住所地を管轄する裁判所を、「専属的裁判管轄」或いは「追加的裁判管轄」に定めておく

②「弁護士報酬等訴訟費用については敗訴者の負担とする」等の弁護士費用敗訴者負担条項を定めておく

ことも有効なことではないかと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.09.02更新

詐欺の被害に遭わないために

 

 はじめに

 近時様々な手口の詐欺事件や詐欺的商法による被害が報告されています。このような事件では実際に被害にあってしまうと、加害者の所在不明や資力の欠如のため被害回復は困難な場合があります。

 そこで、今回は、詐欺的商法の被害に遭わないための予防策として、これら詐欺事件・詐欺的商法の事例をご紹介します。今回ご紹介するケースと少しでも似ているなと思われた場合には相当慎重な対応が必要がであると思われます。

1 極度額一杯まで保証責任が及ぶ根保証だが~根保証に対する無知を利用して、保証金額を知らないうちに拡大~

近時「根保証」(ねほしょう)制度の濫用による思いもかけない保証責任を強いられる事例が報告されています。

 例えば、A社が、金融機関から百万円を借り入れたとします。その時に保証人が必要になり、友人のB社長に連帯保証人を頼むとする。B社長は、A社長が「借りるのは100万円だけだから」と懇願するので、100万円ならばあげたものと思って保証人になってもいいだろうと思い、判子を捺す。しかし、B社長の保証責任は100万円ではすまないこともあるのです。

 それが、根保証契約の場合です。根保証とは極度額(きょくどがく)に至るまでA社長が借り入れた債務や利息・遅延損害金の一切を保証するという契約です。契約書が根保証契約となっていて、1000万円となっている極度額を確認しないで判子を捺すと、後で、B社長が知らないうちにA社長が900万円を借りて支払い不能になった場合でも、B社長は1000万円の保証義務を免れることは基本的にできないのです。

 また、本物の詐欺の事件としては、A社長と貸手の自称金融機関Xが集団詐欺師である事例もあります。これは、A社長が最初は300万円の保証人になってくれれば、お礼として20万円をお渡しする、直ぐに返済できる当てがあるので絶対に迷惑をかけないと言うのでB社長が保証人になる、300万円はA社長の言うとおり返済されるが、次は、500万円の保証人になって欲しい、お礼は30万円出しますと言われ、前回の300万円の返済で信用してしまったB社長は500万円の保証人となる、その後500万円の返済が為された後、A社長は、最後の詐欺に取りかかるのである。A社長は、実際に借りるのは500万円だけだが、書面上だけ2000万円の根保証人をお願いしたい、お礼は50万円をお支払いしますと言われ、2000万円の根保証人になる。その後、A社長は夜逃げし、A社長に2000万円を融資したという自称金融機関Xから2000万円の根保証責任を追及されるのである。金融機関Xが本物の金融機関でちゃんとお金を貸している場合もあるし、実際にはお金を貸しておらずA社長と共犯の場合もあるでしょう。いずれにしても、根保証契約書やA社長にお金を貸した形跡のある領収書・預金通帳などをそろえられれば、B社長が根保証人の責任を免れるのは難しいと思われます。B社長は100万円の小金を得たものの結局は2000万円の根保証責任を果たすため、持ち家を売却せざるを得なくなったのです。

 A社長に「100万円しか絶対に迷惑をかけないから」などと言われてそれを信じたとしてもそのような主張はお金を貸した第三者には通用しません。このような契約の場合は、特に契約上の文章をよく読み、少しでも疑問点があれば質問をする、専門家の意見を聞くことが大切でしょう。根保証をするのであれば、極度額一杯の保証をするつもりでないと(多くのケースでは根保証人に通知が行くときには既に極度額一杯まで融資されている)根保証はすべきではないでしょう。

 なお、平成17年4月1日から改正民法が施行され、極度額の定めのない包括的根保証が無効となるなどの改正がなされました(本稿第41回参照)。

2 古典的な詐欺の手口ながら被害件数の多いのは取りこみ詐欺

~少額の信用取引を積み重ね、信用獲得後は、取引額を一気に跳ね上げ商品を手に入れたら突然ドロン~

 信用取引を利用して最初から騙すつもりで商品を購入し、それを横流しして現金化するのが取りこみ詐欺の手口でです。

 しかし、まったく取引のなかった会社と最初から3000万円の信用取引を行うところはないでしょう。最初は少額の10万円程度の取引を開始し、ある程度継続して徐々に取引額を上げていくのです。もちろん、この間の商取引は、代金も正常に振り込まれます。その間、取り込み詐欺を企んでいる会社は、あの手この手を使って、さりげなく自分の会社は信用できる会社だということをアピールしてきます。

 ところが、ある程度信用をつけたところで、「今度、取引先の大手企業の新商品として使ってもらう話になった」などとそれらしい話をして、一気に取引額を10倍に引き上げるのです。そして、商品を信用取引で購入したら、ある日突然姿を消してしまいます。

これが、取りこみ詐欺の典型的な手口です。取り込んだ商品は二束三文でバッタ屋などに売られ現金化されます。

商業登記簿謄本を取り寄せてそれなりに調査したつもりでも、世の中にはペーパーカンパニーが何万と存在します。詐欺師は、それらペーパーカンパニーのうち歴史のある古い会社を選び買い取って、信用できる会社に仕立てて取引を持ち込むのです。もちろん、商業登記簿謄本上の代表取締役などは、名前を貸しただけで事情は何も知らず、詐欺被害の被害賠償をする資力がないような倒産した会社の元社長だったりします。

また、この手の詐欺師は、名刺にロゴマークを入れたり、所在地を一等地に置くなど、いろいろなテクニックを駆使して見せかけの信用を築いているのも特徴です。中には、大手企業の子会社だと称して、大手企業に類似した商号を使用して取引を持ちかける会社もあります。

最後に、取り込み詐欺に遭わないためには、これが一番大事なことなのですが、急に注文額が大きくなったとき、シメシメと思わず、どういう会社で、どういう社長なのか、どういう理由で取引額が増えたのか、例えば前記の新商品としての取り扱いの話は本当かなどを確認するため取引先だという大手企業に直接問い合わせてみる、一度挨拶に伺うなど、調べられることはきちんと調べて取引を行わなければならないということです。 

場合によっては、胡散臭さがどうしても拭えないと思ったら、おいしい話かもしれないが、痛手を負うリスクを避ける為に、取引額が多額なだけに然るべき担保や現金取引でないと応じられないとお断りした方がよい場合もあるでしょう。

これらを怠ったがために、最初から会社すら存在しないという典型的な取りこみ詐欺の被害に遭ったり、多額の取り込み詐欺に遭い、その損失を補填できず倒産に追い込まれるというケースもよく耳にします。  

3 地面師

 不動産取引にかかわる詐欺の典型ともいえるのが地面師です。

 地面師とは、不動産登記簿を偽造するなどして、他人名義の不動産をその人になりすました上で勝手に所有名義を書き換えては、その不動産を担保に多額の融資を受けたり、第三者に売却するなどしてお金を持ち逃げする輩のことです。

 地面師による手口としては、登記所に赴き登記簿原本を閲覧している時に偽造した偽の登記簿と該当ページごとすり替えてしまったり、本人の委任状を偽造するなどして住民票を無断で移転し、移転先の住所で登記所から本人確認のために送られてきた書類を受領し、不動産の名義変更を完了させてしてしまうなどの手口がよく使われます。

 地面師対策ですが、これは当たり前のことではありますが、必ず現地を見て、誰がどのようにして住んでいる土地なのか、どのように使われている土地なのかを確認することです。

 現に住んでいる人に話を聞くだけで、登記簿が偽造されていたことが発覚するケースは多いです。また、不動産登記簿謄本を見た場合、短期間のうちに何人もの人が間に入って売買を繰り返されていたり、前所有者の住所表示が売買の直前に移転している場合には要注意が必要です。

4 結びに

 甘い話には乗ってはいけないと十分認識していたはずでも、「この人ならば間違いないだろう」と思ってしまい、お金を渡してしまう詐欺の被害は後を絶たないのが現状です。

詐欺師は、人を騙すため、というより見せかけの信用を作るためには労力やお金を惜しみません。例えば、打ち合わせの最中に、あたかも財務省の高級官僚から携帯電話があったかのようにして電話に出てみたり、大企業の社長から偶々もらった名刺をさも懇意にしているかのように見せてみたり、一度しかあったことがない弁護士の名刺を見せては相談に乗ってもらうならこの人を紹介するなどと言ってみたり、さりげなく自分が信用のある人間だと言うことを見せかけるのである。

「詐欺師は紳士の顔でやってくる」と言われますが、まさにその通りで、物腰の柔らかな接し方、法律や金融に関する詳しい知識、そして、紳士的な雰囲気など、その人が装っている雰囲気や知性にまずダマされてしまうのです。

また、詐欺師は、より大きいお金を引き出すため人を信用させるためならば、少々の費用は惜しみません。前記の通り、一等地に事務所を設けたり、お金のかかったホームページを作成したり、会社のロゴマーク入りの名刺を作ったり、時には、高級ホテルのスウィートルームを面談場所に指定したりもします。このようなお金のかかった演出にはダマされるなと言う方が無理なのかもしれません。

 このように詐欺師による人を信用させる為の工作は極めて巧妙です。

したがって、詐欺の被害に遭わない方法としては、第一に、詐欺師の外見や雰囲気だけにとらわれて判断しないこと、第二に、実際の取引内容を冷静に分析し・見極め、あまりにうますぎる話であれば必ず裏があると思った方がよいこと、第三に、これは逆説的でありますが、その相手方自身からもたらされたものではない情報や第三者の評価を重視することです。例えば、自分の足でその会社の本社に赴いて調べてみたり、親会社だという有名企業の総務部に問い合わせて見たり、時には興信所を使って第三者の評判を聞いてみたりすることです。

商売を成功させる為には、ある程度のリスクは覚悟して、千載一遇のチャンス掴まなければならない場合もあるでしょう。しかし、そのチャンスとは決しておいしい話、うますぎる話ばかりではないのではないでしょうか。

本稿を読んでいただくことで、詐欺師とはどのような人達なのか、詐欺にはどのような手口があるのかを実際に認識していただき、少しでも、詐欺の被害に遭わない為の予備知識として頂ければ幸いです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.26更新

公正証書、即決和解の利用法

 


(質問)
 1 賃貸借契約を公正証書で行う場合のメリットを教えてください。
 2 ある物件の建物賃貸借契約における賃料不払いによる契約解除に関し、賃貸人・賃借人の間でもめていたのですが、この度、両者の協議によって、滞納賃料の分割払いを条件に建物の明渡し時期を1年間猶予することで話し合いが纏まりました。
もっとも、賃借人が万一明渡し期限にも建物を明渡さない場合に備えて、法的にはどのような手続きをとっておいた方がいいのでしょうか。
(回答) 
 1 賃貸借契約を公正証書で行うメリット(質問1のご回答)
 公正証書とは、契約当事者双方が公証人役場に出向いた上(代理人でも可)、契約内容を公証人の面前で確認し、公証人がその確認された契約内容を書面化したものです。
 公正証書による場合、一定額の公証人手数料を支払いを要しますが、例えば、月額10万円で2年間の賃貸借契約の場合の公証人手数料は1万1千円ですので、それ程費用がかかるものではありません。
 公正証書によって契約をすることで、一般的には、①偽造、変造がない、②万一公正証書をなくしても公証人役場に原本が保管されている、③公証人のチェックにより確実な契約が出来る、④裁判の場合、公正証書が証拠として提出されると、裁判所は原則として当事者間では書かれた内容の合意はなされたものとして取り扱う(「そんな文書に印鑑を押したことがない」「そんな条項が入っていたとは知らなかった」と主張しても、まず通らない)、⑤金銭債務の支払義務に関し裁判を経ることなく債務名義となる、などの利点があります。
 この中で、賃貸借契約上の賃料が万一滞納された場合における滞納賃料の簡易・迅速な回収と言う観点では、⑤債務名義となる点が特に着目すべき点です。
 債務名義とは、権利の存在を明らかにし強制執行をするための根拠となる文書のことです。この債務名義が存在して初めて、給与、銀行預金、不動産等の財産を差し押さたり、建物の明渡しの強制執行をすることができます。
 債務名義の典型例としては、判決、支払命令、裁判上の和解調書、調停調書などのことです。
 一般に債務名義というと、裁判手続きの中で裁判所の関与によって得ることができるというイメージをもたれるかもしれませんが、賃料の支払義務や売買代金など金銭の支払義務の場合には、強制執行認諾文言付公正証書であれば、裁判を経ることなく公正証書が直ちに債務名義となります(強制執行認諾文言付公正証書とは、「公正証書上の債務を履行しない場合には、直ちに強制執行をされることにも同意します」という債務者の同意が付された公正証書のことです)。
 従いまして、万一、賃料が滞納されたという場合に賃借人や連帯保証人の給与や預貯金債権を差し押さえることによって、賃料を簡易・迅速に回収したいという場合には、賃貸借契約書を公正証書にすることのメリットは大きいものと思われます。
 2 明渡しの強制執行に備えて(質問2のご回答)
本件のようなケースでは、万一、賃借人が明渡しに任意に応じない場合にも、裁判を経ることなく、直ちに、執行官による明渡しの強制執行をすることができるように手続きをきちんととっておくことが有効だと思われます。
このような手続きとっておくことで、実際に費用をかけて執行官による強制執行を断行する場合はもちろん、賃借人にもその旨の認識を得させることによって、居直りの防止や任意の退去をより確実なものにすることができるからです。
 もっとも、上記に説明しました公正証書が債務名義となるという点は、「金銭の支払義務」の場合に限られますので、公正証書では建物明渡しの強制執行の債務名義にはなりません。
 このようなケースでは、簡易裁判所で行う「即決和解」(訴え提起前の和解)が有効です。
 即決和解とは、当事者間で話し合った合意内容(和解内容)を予め簡易裁判所に申立てた上、裁判所から指定された期日に当事者双方が出席し、裁判官の面前でその合意内容を確認することで、合意内容が裁判上の和解調書として文書化される手続きです。合意内容が和解調書となるわけですから、当然、債務名義になりますし、公正証書のように金銭債務に限定されません。
 本件での合意内容(和解内容)としては、①賃貸借契約の解除の有効性に関する確認条項、②明渡期限における建物明渡しの履行に関する条項、③明渡し期限までの賃料相当損害金の支払い及び滞納賃料の分割金の支払いに関する条項、④万一③の不履行があった場合には直ちに建物を明渡すことに関する条項等を要点にした和解をするが考えられます。
 ただし、個々和解条項の書きかたには、権利の確認条項(「毎月末日金○○円の支払い義務を認める。」「○月○日までに本件建物の明渡し義務がある。」)では強制執行ができず、必ず給付条項(「毎月末日までに金○○円を支払う。」「○月○日までに本件建物を明渡す。」)にしなければならないなど細かい決まりもありますので、和解条項の書きかたについては、事前に専門家に相談しておくことをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.20更新

建設共同企業体(JV)の法律関係

 

第1 問題の所在

 建設共同企業体(「JV」)は、複数の企業が共同して大型の土木・建築工事を行う事業方式として広く利用されています。JVの協定では、代表者(「親企業」)を定めた上、親企業(代表者)に自己の名で請負代金の請求・受領及びJVに属する財産の管理を行う等の権限を与え、取引口座について親企業(代表者)名義で開設された別口の預金口座を使用する旨を定める例も多いと思われます。

 親企業(代表者)名義の別口預金口座にJVとしての請負代金が振り込まれて預金債権となっている状態で、親企業(代表者)につき破産などの手続が開始された場合、他のJV構成員は右預金債権について、「自分の取得分が含まれている」として優先的な権利(取戻権など)を主張できるのでしょうか、それとも、他の一般債権者と同様の権利(破産債権など)しか主張できないのでしょうか。親企業(代表者)名義の別口預金口座に振り込まれた請負代金(預金債権)は、JVと親企業(代表者)のいずれに帰属するのでしょうか。

 これは、JVの代表者が、その業務執行権限に基づき遂行した法律行為の効果の帰属の問題であり、前提としてJVの法的性質やその業務執行・財産管理に関する法律関係が問題となります。

第2 考え方

1 JVの法的性質については、一般に民法上の「組合」と解されています。民法上の「組合」では、各組合員が業務執行権を有することを基本的な建前としつつ、組合契約または組合員の過半数による決定で、一部の組合員または第三者に業務執行を委任することが出来ます(民法670条)。この、業務執行権を委任された組合員を「業務執行組合員」といいます。そして、業務執行組合が組合業務の執行として財産取得を目的とする法律行為を行った場合、その効果が総組合員に直接帰属するものであれば、当該財産は、組合財産として総組合員の「共有」(民法668条)となり、そうでなければ当該業務執行組合員の個人財産ということになります。

2 業務執行組合員が「自己の名による方式」で法律行為を行った場合には、直ちに当該法律行為の効果が総組合員に直接帰属するとは考えられていません。学説や裁判所は、代表者の権限や財産管理等に関する組合員間の合意の内容や、これまでの運用などの具体的な事情を総合的に考慮した上で、当該業務執行組合員の法律行為の効果が直接総組合員(組合財産)に帰属すると考えるのが宜しいのか、或いは、一旦は当該業務執行組合員に帰属した後に、組合への移転行為を経ることにより組合財産となると考えるのが宜しいのかを判断しているようです。

 これに対し、業務執行組合員の対外的な法律行為が「代理による方式」でなされた場合は、当該法律行為の効果が総組合員に直接帰属すると評価されることが多いと思われます。

3 そこで、JV構成員の、JVの親企業名義の別口預金(請負代金)に対する権利につきましても、JVの共同企業体の協定の内容やこれに基づく財産管理状況がどのようなものであるのかにより異なるものと思われます。

 最高裁判所は、

① XとAがJVを結成し、代表者をAとした

② 協定で、「代表者Aに自己の名義で請負代金を請求・受領し、企業体に属する財産を管理する権限を与える」、「請負代金を受領したときは、代表者Aの経理機構による精算及び運営委員会の承認を得て、すみやかにXに分配する」、「取引口座としてA名義で開設した別口預金口座を使用する」と定めた

③ 実際の財産管理も②の協定のとおり行われていた

という事例で、A名義の別口預金口座の預金債権はAのものであると判断しました(最高裁平成11年4月16日判決)

 いわゆるゼネコン企業の倒産が十分に予想されるのが現在の状況です。親企業以外のJV構成員の権利を保全するという観点から、今後、JVを進める場合には、少なくとも、協定で

① 親企業の対外的な法律行為は全て、「共同企業体名」や「共同企業体代表者(の肩書)」を示すなどの「代理方式」で行うこと

② 預金口座も、「共同企業体名」や「共同企業体代表者(の肩書)」で開設すること

を定め、、実際の運用もこれに基づいて行うのが望ましいと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.08.13更新

賃借人の債務不履行による賃貸借解除と転貸借との関係

 

1 問題の所在

     賃貸借関係(以下「基本賃貸借」といいます)の他に、「賃貸人の承諾のある転貸借関係」(以下「適法な転貸借」といいます)があるという状況を想定します。この様な状況で、賃借人の債務不履行による解除により基本賃貸借が終了した場合、転貸借関係は当然に終了するのでしょうか、当然に転借料債務も消滅するのでしょうか。

2 判例の傾向

   大審院昭和10年11月18日は

        ① 基本賃貸借が終了しても、適法な転貸借は当然には失効しない

        ② 賃貸人から返還請求があれば、転借人はこれを拒否する理由がなく、このため転貸人としての義務を履行することが不能となる結果、転貸借は終了する

    としました。

     また、最高裁昭和36年12月21日も、

        基本賃貸借の賃借人がその債務の不履行により賃貸人から基本賃貸借契約を解除されたときは、基本賃貸借の終了と同時に転貸借も履行不能により当然に終了する

    としています。

     このように、判例は、

        ① 適法な転貸借は基本賃貸借の終了により当然には終了しない

        ② 適法な転貸借は転貸人の転借人に対する債務が履行不能となったときに終了する

    と考えています。

   では、「転貸借が履行不能となった」という時点とは何時なのでしょうか。「基本賃貸借契約が解除された」時なのでしょうか、「転借人が基本賃貸借の賃貸人から返還請求された」時なのでしょうか。

     この点につき、最高裁平成9年2月25日は、

        基本賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対し目的物の返還を請求したときに転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する

    としました。要するに「転借人が賃貸人から返還請求された」時点を転貸借の終了時としたのです。

   したがいまして、基本賃貸借の賃貸人から転借人が返還請求をされた時点以降は、転借人は転借料を支払う義務はなく、逆に、基本賃貸借が終了しても賃貸人から返還請求されない限り、転借料を支払う義務があることになります(なお、この場合の転借料の支払先ですが、転貸借関係が継続している以上、転貸人に支払うことになると思われます)。 

     なお、賃貸人としては、基本賃貸借終了後は、速やかに、転借人に対し返還請求をすることが大切です。基本賃貸借を解除したことに安心し、転借人に返還請求するのを失念していますと、転借料を取り損ねることになりますので注意が必要です。

3 その他

    基本賃貸借が債務不履行解除により終了し、賃貸人が転借人に対し返還請求した場合、「返還請求時」から「目的物の現実の返還時」までには、多少の時間の経過があるのが通常です。この場合の賃料相当損害金の支払関係について、前記の判決では、賃貸人が転借人に対し請求できるとしています。そこで、転借人としては転借料相当損害金を賃貸人に支払うことになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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