弁護士 秋山亘のコラム

2019.04.15更新

借家の原状回復義務について 

 

1 問題点

 賃貸借契約が終了し借主が退去する際に、物件の汚れ・破損等を巡って、貸主または借主のどちらが修復費用を負担するか、言い換えると、「借主に原状回復義務があるのか」が問題となることが少なくないようです。具体的な修復箇所(費用)としては、カーペットの取り替え、壁紙(クロス)の張り替え・壁面の塗り替え、畳の表替え、柱や壁に空けた釘穴、室内の清掃(クリーニング)などが挙げられます。

2 基本的な考え方

(1)賃貸物件の経年変化によって生じた損耗・汚損(使用の有無にかかわらず生じるもの)や、通常の用法によって使用していた場合に生じる損耗・汚損は、借主の原状回復義務の対象外となります。借主には入居した時点と全く同一の状態に戻す義務はないのです。

 裁判所も、明け渡し時に①柱や壁に汚れがある②床に染みがある③クロスの一部が剥がれている④壁に釘穴がある⑤Pタイルに損傷箇所があるという事案で、

「これらの損耗・汚損はいずれも部分的なものであって、さほどの広範囲のものではなく、むしろ本件貸室を一年間程度使用すれば通常生じうるであろう軽微なものであるので、いずれも本件貸室の通常の使用によって生ずる程度を越える特別な損傷にあたらない」

として原状回復義務を否定しています(大阪高等裁判所平成6年12月13日=判例時報1540号)

 具体的なケースで個々の汚損につき借主に原状回復義務が課されるかは、汚損の程度をも考慮しなければなりませんが、一応の目安としては

①カーペットの取り替え 

  家具の重みによる凹み、お茶などによるシミ・・・含まれない

  たばこによる焦げ・・・含まれる

②壁紙の張り替え    

  日照などの自然現象による変色、電気焼け・・・含まれない

  子どもの落書き、結露の放置により広がったカビ・・・含まれる

③畳の表替え  

  お茶などによるシミ、擦り切れ・・・含まれない

  たばこによる焦げ・・・含まれる

④柱や壁に挙げた釘穴  含まれない

⑤室内のクリーニング  含まれない

ということになると思われます。

(2)それでは、賃貸借契約で、「カーペット・壁紙の張り替え、畳の表替え・・・に要する費用は、賃借人の負担とする」という様な特約を定められていた場合、賃借人はカーペットの張り替え等の原状回復をしなければならないのでしょうか。

 裁判所は、一定範囲の修繕を賃借人の負担で行うという特約について、(賃貸借関係が継続している間の)貸主の修繕義務を免除したものに過ぎず、積極的に借主に修繕義務を課したものではないと判断しました(最高裁判所昭和43年1月25日=判例時報513号)。

 右判決後も、借主の修繕特約や原状回復特約について、

①賃貸人の修繕義務を免除するに留まる

②賃借人の故意・過失、通常でない使用による損耗等に限定される

③特約自体が無効である

とする判決が数多く出されております。したがいまして、賃借人に負担を課す特約を定めたとしても、文言通り特約の効力が認められるとは限りません。

3 原状回復の範囲

 それでは、たとえば、賃借人に壁紙の張り替える義務がある場合、その範囲は、汚損された部分に限られるのでしょうか、それとも、それより広い範囲まで認められるのでしょうか。この点につきましては、基本的には、汚損された部分に限定され、具体的には補修工事が最低限可能な施工単位を基本とすることになると思われます。

4 その他

 賃借人に原状回復義務がある場合でも、当然に賃借人が修復費用全額を負担するとまでは言えません。物件の経年変化(減価償却)による損耗分があり、これらの修復費用まで賃借人に負担させることは妥当ではないでしょう。したがって、経年変化による損耗分を考慮に入れながら、修復費用の賃借人の負担割合を決めることになります。なお、当該修復部分が消耗品(たとえば畳・障子など)に近いものであれば減価償却になじまないので経過年数を考慮しないことになろうかと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.04.08更新

共有状態を解消する方法

 

1 はじめに 

  共有状態のマンションを売却処分したい場合や共有状態の土地を分割・分筆した上で売却処分したい場合には、共有物分割手続きを知っておく必要があります。

そこで、今回は土地や建物の共有者が共有状態を解消したい場合、どのような方法があるのかご説明したいと思います。

2 共有物分割協議

共有物分割の協議(共有者全員の合意)が成立すれば、共有関係をいつでも解消できます。この場合に共有関係を解消する方法としては、以下の3つの方法が考えられます。

①現物分割

 例えば土地を3筆の土地に分割するように、共有物そのものを分割するやり方です。

 しかし、建物の現物分割は事実上不可能ですし、土地上に建物が目一杯建っているという場合にも土地の現物分割は困難でしょう。

②代金分割(換価分割)

 これは、土地やマンションを売却し、その売却代金を持分に従って分割するものです。現物分割が困難な場合にはこれによることが多いです。

③価格賠償

 価格賠償とは、例えば、共有物を一人の共有者の単独所有にする代わりに、他の共有者には共有持分相当分の金銭を支払って、共有物を分割する方法です(これを「全面的価格賠償」といいます)。

 また、この方法によれば、ABCと共有者がいる場合に、共有者Aのみを廃除したい場合には、Aのみに価格賠償をして、BCは共有状態のままにしておくこともできます。

 また、現物分割をした場合には、土地の現物分割ですと、土地面積を3等分したとしても土地をどのように分割するかで必ずしも平等な分割ができない場合があります(例えば、ある土地をA地B地C地に三等分した場合にも、A地のみが角地で道路に面しており好立地の場合は、B地C地を配分されるものは面積が同じでも納得できない場合もあるでしょう)。

 このような場合、各土地の実際上の価値を調整する為に、前記のA地を配分されたものが、B地C地を配分されたものに調整金を支払うという方法が取られます(これを「部分的価格賠償」といいます)。

3 共有物分割の裁判

では、共有者間に合意が成立しない場合にはどうすればよいのでしょうか。

この場合、共有物分割の裁判を請求できます(民法288条1項)。

共有物分割協議の場合、前記①から③の方法のいずれを採用するのも自由ですが、共有物分割請求の裁判の場合には、現物分割が原則です。

代金分割は、現物分割だと目的物が毀損したり、その価値が著しく減少したりする場合にのみ認められます(例;マンション1室の共有)。この場合は、裁判所の競売手続によって目的物を現金に換価した上、代金分割をします。(民法288条2項)

なお、共有物分割請求の裁判の場合に、代金分割ではなく価格賠償と言う方法が認められるかについては、民法には明確な規定がないのですが、判例上一定の要件のもと認められています(最判H8,10,31は、全面的価格賠償については、①共有物の性質等の事情を総合考慮し全面的価格賠償の方法が不公平とならないこと、②持分価格が適正に評価されていること、③取得者(賠償者)に支払い能力があることを条件に認めています)。

4 共有物不分割特約がある場合

共有者は、5年以内の期間で共有物を分割しないという共有物不分割特約をすることができます(民256条)。この特約がある場合は、共有物分割請求の裁判もできません。

共有状態を確保しておきたい場合には、この特約を結ぶ必要がありますが、5年を越える特約をしても、その超える部分は無効になります。但し、共有者は、5年ごとに不分割特約の更新をすることができます。

5 共有持分に抵当権設定登記がある場合

  共有持分に抵当権が設定されている共有者(抵当債務者)が共有物を現物分割する場合には、抵当権の移転登記をするなどその共有者(抵当債務者)が取得する物件に抵当権を集中させなければなりません。

  この場合、抵当権者の利益を保護するため、原則として抵当権者の同意を得なければならないというのが裁判実務です。

  もっとも、このような実務慣行に対しては、抵当権の集中を認めたとしても必ずしも抵当権者の利益を害することにはならないとの批判もあり、例外を認めた裁判例(大阪地裁H4,4,24)もあります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.04.01更新

共有者の一部による共有物の変更と原状回復請求

 

 

1 問題事例

 A所有の農地であった土地(以下「本件土地」といいます)を、Aの死亡後、共同相続人(妻と四人の子)の一人である長男Yが、本件土地に家屋を建築する目的で、他の共同相続人に無断で宅地造成工事を施して非農地化した。三男Xは、共有持分権にもとづく妨害排除請求としてYに対し原状回復を求めた。

2 問題の所在

 共同相続人による遺産の共同所有の性質については、判例では「共有」と考えています(なお、学説では、遺産の共同所有は通常の共有と若干異なる性質があり、「合有」とする説が有力です)。共有物の全部について、各共有者はその持分に応じて「使用収益」することが出来ます。しかし、「共有物」を「変更」するには、共有者全員の同意が必要となります。

 各共有者は、第三者や他の共有者が、

①無断で共有物を変更しようとする

②無断で共有物を処分しようとする

ような場合には、単独で、「共有持分権に対する妨害排除請求」という形で、当該侵害の禁止や除去、或いは損害賠償などを求めることが出来ます。

 もっとも、他の共有者が共有者間の協議によることなく「共有物を独占して使用している」ような場合には、その独占している共有者にも持分に応じた「使用収益権原」があるため、その者の使用を全面的に排除することは出来ないとされています。各共有者は独占者に対し、「共有物全部の引き渡し」や「共有物の明け渡し」を求めることは出来ません。各共有者は独占者に対し、「(自己の持分の価格の限度において)共有物を使用収益することを妨害してはならない」という裁判(「不作為請求」の裁判といいます)を起こすことが出来るに止まるのです。

 このように各共有者には「共有持分権に対する妨害排除請求」が認められています。しかし、(共有持分権を侵害している当の)共有者にも「使用収益権原」が認められている関係上、他の共有者は「妨害排除請求」を理由に100%満足できる結果はなかなか期待出来ないのです。

3 裁判例

 独占している共有者の「使用収益権原」との関係で、各共有者の「妨害排除請求」にも限界があることは以上のとおりです。では、上記のような極端な事例において、侵害されている共有者は、「不作為請求」しか出来ないのでしょうか。

 最高裁判所平成10年3月24日判決

 最高裁判所は、前記の事例について

① 共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく、共有物を物理的に損傷するとか、共有物を改変するなどの「共有物に変更を加える行為」をしている場合、他の共有者は各自の共有持分権にもとづいて、「共有物に変更を加える行為」の全部の禁止を求めることが出来る

② 更に、原状回復が不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、当該侵害共有者に対し共有物の原状回復を求めることが出来る

と判断しました(ちなみに、本最高裁の一、二審は、いずれも、Yにも共有者として本件土地を使用する権原があることを理由に、Xの共有持分権にもとづく妨害排除請求は認めませんでした)。

 本最高裁は、

① 共有持分権にもとづく妨害排除請求がどの程度まで認められるかは、相手方共有者の侵害行為の程度によって異なる。侵害行為が「共有物の使用収益の方法」に止まるのか、これを越えて「共有物の変更」にあたるかで異なる

② 共有物に加えられた変更について原状回復を求めることは、必ずしも相手方共有者の占有使用の全面的な排除を求めるものではない

ことを理由として、Xの妨害排除請求権にもとづく原状回復請求を認めたのでした。本最高裁判決により、共有者の一人が目的物の独占的利用を越えて、原状を変えようとしている、或いは、変えてしまったような場合には、他の共有者は、裁判によりこれを禁止し、或いは、原状回復を求めることが出来るとした点で意味があると思われます。

 しかし、同時に、本最高裁は、

③ 共有物に変更を加える行為の具体的態様及び程度、妨害排除により相手方共有者の受ける社会的経済的損失の程度、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来における分割、帰属、利用の可能性その他諸般の事情に照らして、妨害排除請求が「権利の濫用」にあたる場合がある

としていますので、今後具体的な事案を検討するにあたり、③(権利濫用)で示された事情が重要な意味を持つことは言うまでもありません。

4 終わりに

  遺産相続の場合は遺産分割をするまで「共有」となることは避けられませんが、財産を共有した場合、共有者間でその管理や利用を巡ってトラブルが生じることがあり、その解決に苦労することがありますので、このような観点からは、財産はなるべく共有にせず、単独所有にした方がよいと言えます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.03.26更新

競売と借地権・借家権

 

 

1 競売と借地権・借家権との優先関係

 競売の対象となる物件に借地権等が設定されている場合がありますが、競売と借地権等のいずれが優先するのでしょうか。言い換えると、どのような場合であれば、競落人は借地権等の制限のない物件を手に入れることができるのでしょうか。

(1)借地権・借家権が抵当権設定前になされているとき

 借地権・借家権が優先(競落人に対し対抗できる)します(借地借家法10条・31条)。

 しかし、注意を要するのは、「第1抵当権ー賃借権ー第2抵当権」というように賃借権が設定される以前に抵当権が設定されている場合です。この場合は、賃借権設定後の第2抵当権者などが競売の申立をした場合でも、賃借権は消滅するということです(最高裁判所昭和46年3月30日判例時報628号)。第1抵当権が弁済等により抹消された場合は、賃借権が優先するようになります。

 このようなことになるのは、賃借権より先に設定された抵当権は、賃借権がないことを前提にして設定されていますので、その抵当権を保護するため必要だからです。

(2)借地権・借家権が抵当権設定後になされているとき

 いわゆる「短期賃貸借」のみが保護されます(民法395条)。法律上「短期賃貸借」とは、土地(樹木の栽植等を目的とする山林を除く)の場合は5年、建物の場合は3年となります(民法602条)。賃借人は、この期間は、土地や建物を利用できることになります。

 なお、借地契約で契約期間を5年未満とした場合、

①貸主及び借主の間では借地借家法により約定期間は無効となり、契約期間は30年となりますが、

②借主及び抵当権者・競落人との間では約定期間が有効とされ、借主は短期賃貸借の保護を受ける

ということになります。

(3)期間の定めのない借地権・借家権

 借地権については、借地借家法で30年となりますので、借主は短期賃貸借の保護は受けられません。

 借家権については(借地権と異なり)期間の定めのない契約のままであり、解約に際しいわゆる「正当事由」が必要となります。しかし、「正当事由」は比較的認められやすいと思われます。

(4)短期賃貸借について

①短期賃貸借の起算点は契約時となります。

②差押え後に設定された短期賃貸借は保護されません。

③差押え後に賃貸借契約が更新された場合は、短期賃貸借の保護は受けられません。

(5)競落人の敷金返還義務等の承継について

 賃貸物件の競落人は、賃借人が賃貸人(債務者・物件の所有者)に差し入れた敷金等の全てについて、賃貸人の返還義務を引き継ぐのでしょうか。

 裁判所では、「敷金相当額」については返還義務を引き継ぐが、それ以上の「保証金・建設協力金」については引き継がないとされています(最高裁判所昭和51年3月4日判例時報812号、東京地方裁判所平成7年8月24日判例タイムス904号など)。裁判所は、敷金名目でも、実質が敷金を超える部分については、これを貸付金と同じだと見ているものと思われます。

(6)引渡命令

 競落人は代金全額を納付しますと競売物件の所有権を取得しますが、その後も引き続き賃借人が当該物件を占有している場合があります。代金を納付した競落人は、競売手続の中で、裁判所に対し「引渡命令」を申立てることにより(民事執行法83条以下)、迅速に物件の占有を確保することができます。

この「引渡命令」により競落人が占有を確保し得るのは、

①抵当権設定後の、民法602条の期間(土地5年、建物3年)を超える賃貸期間を定めた長期賃貸借契約の賃借人

②差押え後に短期賃貸借の期間が満了した賃借人(期間満了後更新した場合も含む)

③差押え後に対抗要件(登記、引渡等)を備えた賃借人

など、賃借人が競落人に対抗できない場合です。

 に限られることは言うまでもありません。

2 仲介する際の注意事項

 既に抵当権が設定されている物件につきましては、借主との紛争を避けるために、「貸主が競売の申立を受けるような事態になった時には、借主が競落人には対抗できないこと、借主が多額の「保証金」を差し入れても競落人には引き継がれないこと(実際には回収不能ということになります)」を予め借主に知らせておいた方が宜しいかと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.03.18更新

期間の定めのない使用貸借の終了時期

 

 

第1 問題の所在

 期間を特に定めることなく、無償で、土地などが貸借されている、いわゆる「期間の定めのない使用貸借」は、

① 使用貸借契約に定めた目的にしたがった使用収益が終わったとき(民法597条2項本文)、

または、

② それ以前でも、使用収益をするのに足りる期間が経過し、かつ、貸主が返還を請求したとき(同項但書)

のいずれかの時点で終了します。このように、法文上の終了時期は明らかなのですが、実際に終了時期を判断するのはなかなか難しいのが裁判実務のようです。使用貸借は、親子間、兄弟間のような特別な人間関係にある者の間に、「暗黙のうち」に成立したと見るべき場合が多く、経緯、原因等貸借の実態を把握するのが困難という事例が少なくないからです。

第2 学説・判例の傾向

1 民法597条2項の「契約にさだめた目的」というものを、土地使用貸借における「建物所有の目的」、または、建物使用貸借における「居住の目的」というような一般的抽象的なもので足りるとすると、返還時期の定めがない場合、借り主がその目的にしたがい使用収益を継続している限り、貸主はいつまでも返還請求できないことになります。しかし、これでは、無償の契約である使用貸借の借主が、有償の契約である賃貸借の借主よりも手厚く保護されることになり、非常に不公平な結果となります。

  そこで、学説には、「建物所有の目的」や「居住の目的」という様な一般的抽象的なものではなく、「使用貸借契約成立当時における当事者の意思」から推測される個別具体的な目的として制限的に解釈しようとするものもあるようです。

2 この点に関する、最高裁判所の幾つかの判例を見てみましょう。

最高裁昭和34年8月18日判決

(Yが所有家屋の焼失により住居に窮し、Xから建物を「他に適当な家屋に移るまでの暫くの間」住居として使用するため、無償で借り受けた事案で)

「本件使用貸借については、返還の時期の定めはないけれども、使用、収益の目的が定められていると解すべきである。そして、その目的は、当事者の意思解釈上、適当な家屋を見つけるまでの一時的住居として使用収益するということであると認められる」

と判断しました。

最高裁昭和42年11月24日判決

「父母を貸主とし、子を借主として、成立した返還時期の定めのない土地の使用貸借であって、使用の目的は、建物を所有して経営をなし、併せて、右経営から生ずる利益により老父母を扶養する等の内容の物である場合において、借主は、さしたる理由もなく老父母に対する扶養をやめ、兄弟とも往来を断ち、使用貸借当事者間における信頼関係は地を払うに至った等の事実関係があるときは、民法第597条2項但書を類推適用して、貸主は借主に対し使用貸借を解約できる」

と判断しました。

最高裁昭和59年11月22日判決

(建物の使用貸借について返還の時期は定められていないが、目的について、借主及びその家族の長期間の居住としていたという事案で)

「借主が建物の使用を始めてから約32年4か月を経過したときは、特段の事情がない限り、右目的に従った使用収益をなすに足るべき期間は経過したものと認めるべきである」

と判断しました。

最高裁平成11年2月25日判決

最近の判例ですので、事案を少し詳しく説明しますと

① 昭和33年12月頃、X(法人)の代表取締役はAであり、Aの長男B及び次男Yは取締役であった

② 昭和33年12月頃、Aは本件土地上に本件建物を建築して、Yに取得させ、本件土地を本件建物の敷地として無償で使用させ、XとYとの間で本件建物の所有を目的とする使用貸借契約が黙示に締結された。その後、A夫婦も本件建物でYと同居していた。しかし、Aは昭和47年に死亡した。

③ Aの死後、Xの経営をめぐり、BとYとの間で争いとなったが、Xの営業実務はBが担当し、平成4年以降、Yは取締役の地位を失った

④ 本件建物は朽廃に至っていない

⑤ Bは、X所有地のうち本件土地に隣接する部分に自宅及びマンションを建築しているが、Yには本件建物以外に居住すべきところがない

⑥ Xには、本件土地の使用を必要とする特別の事情がない

という事例でした。

一審及び二審は、④から⑥の事情を理由に、「本件使用貸借は、いまだ民法代597条2項但書の使用収益するのに足りるべき期間を経過したものとはいえない」と判断しました。

これに対し、最高裁は、

「土地の使用貸借において、民法第597条2項但し書の使用収益をするのに足りるべき期間が経過したかどうかは、経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的なつながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較考慮して判断すべきである」

として、これらの事情につき、二審の裁判所に、再度審理するように事件を差し戻しました。

 以上の一連の判例から言えるのは、裁判所は、使用貸借契約の成立の前後をとわず、使用貸借契約にかかわるあらゆる事情を考慮して判断するということです。契約成立後経過した期間の長短や、借主側に他に居住すべきところがないというような比較的はっきりとした事情だけではなく、諸々の事情が考慮されますので、使用貸借契約が保護されるのかどうか、判断するのは、非常に難しいと思われます。

    契約書できちんと期限を定めておくことが必要でしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.03.12更新

個人保証制度に関する民法改正について

 

(質問)

個人保証に関する民法改正が為されたと聞きましたが、どのような点が改正されたのですか。

(回答)

1 書面によらない保証契約の無効

 これまでの民法では口頭による合意でも契約は成立するというのが大原則でした。

 しかし、今回の改正では、保証契約に限り、書面によらない保証契約は当然に無効とされることになりました。なお、この点に関する改正法は、個人保証だけでなく、法人の保証契約など全ての保証契約に適用があります。

2 個人貸金等根保証契約の改正

 銀行取引約定書等では「X会社が現在及び将来負担す一切の債務を連帯保証する」というような定めがありました。このような形態の保証契約、すなわち、具体的にどの債務を保証するのかが定まっていない保証契約のことを根保証契約といいます。

 今回の改正では、このような根保証契約のうち、主たる債務(保証の対象となる債務)が貸金債務又は手形割引債務を含んでおり(例えば賃貸借契約の保証人のように主債務が貸金債務でない場合にはこれに該当しません)、かつ、保証人が法人ではなく個人である場合には、以下の①~③の制限がなされることになりました。

① 極度額の定めがない根保証の無効

 極度額とは、元本、利息、遅延損害金等を全て含んだ保証責任の最高限度額のことです。

 これまでの根保証契約においては、このような保証人の責任の最高限度額の定めがない形態のものもありました(包括的根保証契約)。

 しかし、このような包括的根保証契約では保証人の保証責任が無制限に拡大してしまうため、後に、根保証契約の締結時には予想もしていなかったような莫大な金額の保証責任を負わされることもありました。

 そこで、今回の民法改正では、極度額の定めのない根保証契約は無効とされることになりました。

② 元本を確定しなければならない期間の制限

 根保証契約において、保証の対象となる主債務がそれまでに発生した債務に限られ新たに発生する債務は保証の対象外となることを「元本の確定」といいます。 通常、この元本の確定日は、根保証契約の締結時から何年という形で根保証契約上定められております。

 しかし、この元本の確定期間があまりにも長すぎたり、確定日の定めがない場合には、根保証人は、いつになってもその責任から開放さないことになってしまいます。

 そこで、今回の改正では、根保証契約における元本の確定期間を、根保証契約締結時から5年以内と制限しました。

 もし、これに反して、5年以上の日を取り決めたり、または、元本の確定期間を設けなかった場合には、根保証契約締結時から3年で元本の確定がなされることとなりました。

③ 元本が当然に確定する事由

 以下の場合には法律上当然に元本の確定がなされることになりました。

(ア) 根保証契約の債権者が、主たる債務者または根保証人の財産に対し差押さえ をかけるなど強制執行の申立をしたとき。

(イ) 主たる債務者または根保証人が、破産開始決定を受けたとき。

(ウ) 主たる債務者または根保証人が、死亡したとき。

3 改正民法の施行時期

  今回の改正民法の施行時期は平成17年4月1日です。

したがって、施行日より前に締結された保証契約には、上記のような改正民 法の適用はありません。

もっとも、上記2②の元本の確定日については、改正民法の施行日前に締結 された根保証契約にも以下のように適用があります。

 ① 契約で極度額の定めのある場合

・契約で元本の確定日の定めのない場合、改正法施行日から3年で確定する。

・契約で元本の確定日の定めがある場合であっても、その確定日が施行日から5年経過後に設定されている場合には、施行日から5年で確定する。

 ② 契約で極度額の定めがない場合

・契約で元本の確定日の定めのない場合には、改正法施行日から3年で確定する。

・契約で元本の確定日の定めのある場合であっても、その確定日が施行日から3年経過後に設定されている場合には、施行日から3年で確定する。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.03.04更新

マンション管理費等の回収方法

 

1 はじめに

 文京区支部の組合員には、マンション管理に携われている方が多いかと思います。管理費や修繕積立金は月額2万円~3万円程度のものも多く、1年も滞納されても裁判をするには、特に弁護士に頼んで裁判をするには、費用倒れとなってしまう事例が多々あり、困っている管理組合も多くあります。

 私も管理会社の顧問をしておりますが、弁護士として行う労力に見合った報酬をいただきにくく、悩みながら事件に当たっているのが現状です。

 そこで、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「建物区分所有法」と言います)の特例もご紹介し、実践的な回収方法を考えてみたいと思います。

2 管理組合の努力の必要性

 管理会社が行うべきことは管理委託契約で定められています。管理会社は、滞納がある場合には通常、催告書を出し、それでも回収できなければ管理組合に報告します。それ以上は(現実に回収することまでは)、本来管理会社の責任ではありません。管理組合は、必要とあらば、裁判などを提起することになります。

 管理会社は裁判の代理人とはなれませんので、裁判をすることまでは管理会社の義務にはなりません。裁判の代理人になれるのは弁護士に限られています(正確に言えば、簡易裁判所の事件(金額が90万円以下の事件)について会社の従業員が会社の代理をする場合や、本人が裁判をするのに病気などにより支障があるとき家族が代理をする場合などは、簡易裁判所の許可があれば出来ます)。

 管理組合の理事が滞納している組合員(区分所有建物の所有者)に管理費の重要性を説明するなどして回収に努力し、成果を挙げているところもあります。裁判等をする前にまず管理組合に(実際は管理組合の理事に)努力してもらう必要があります。このような活動を通じマンション管理の大切さをわかってもらえることもあります。

 一度に支払えない場合には、分割払いをするという「念書」を書いてもらうとよいでしょう。

 管理費等の消滅時効は5年です。「念書」を書いてもらうことは、時効の中断をするためにも役に立ちます。

 また、区分所有建物が賃貸されているときは、区分所有者の同意を得て、賃借人から賃料の一部を管理組合に管理費として支払ってもらえるよう交渉するとよいでしょう。

3 先取特権の活用(建物区分所有法7条)

  通常債権を回収するには、裁判や支払督促の申立てをし、判決や支払督促に基づき債務者の財産(不動産・動産・債権等)を差押え、これから得られる売却代金などから弁済を受けるということになります。判決書に代わるものとして執行認諾約款付公正証書もあります。

  建物区分所有法第7条では、管理費等について、当該区分所有建物及びその区分所有建物に備え付けられた動産(畳・建具・家具調度・什器備品等)に先取特権があると規定しています。即ち、この先取特権により、特に判決や支払督促がなくても、直ちにその区分所有建物や区分所有建物に備え付けられた動産について、競売をすることができることになっています。

 ただ、先取特権があることを証明する文書として、管理規約や集会・理事会の議事録(管理等の金額・理事長の選任)などの書類が必要となります。管理費等の改訂は集会の決議で行えますが、集会の議事録により証明することが必要です。多くの管理組合では、可能でしょう。

(1)不動産の先取特権による競売申立て

  法律では先取特権に基づく区分所有建物の競売が認められていますが、実際には利用されていないようです。その理由は、東京地方裁判所の場合競売の予納金として80万円ほど裁判所に預ける必要があるからです。

 滞納管理費は50万円を超えるというような例は余り多くなく、回収すべき金額より多くの予納金を納めなければならないのでは、利用しにくいのではないかと思われます。

 また、区分所有建物に抵当権が設定されていて、抵当債権の額が最低競売価格より大きいと予想される場合は、管理組合が競売の申立てをしても却下されてしまいます。抵当権が設定されていて、その抵当権者の債権も全額回収できないような場合は、管理費等の先取特権は抵当権などより効力が弱いので、管理組合が競売の申立をしたとしても、競売代金の配当金が回ってきません。そのような無駄な手続をする必要がないと考えられています。また、抵当権者にとって不利な時期に競売をされてしまうという可能性もありますので、それを避けるということもその理由の一つになっています。このようなことで、抵当権が設定されていますと、競売開始決定が後で却下されてしまう場合があります。この場合は、それまでかかった費用は返って来ません。

(2)動産の先取特権による競売申立て

 先取特権による動産の差押えは、債権者である管理組合がその動産を占有しているか、債務者が差し押さえることを「承諾した文書」が必要となります。このようなことは実際上まずありえないと思います。この権利は「絵に描いた餅」と言え、利用することは事実上不可能です。

  また、仮に、債務者が「承諾した文書」を入手できたとしても、費用倒れになる可能性が極めて高いのです。動産執行は、家財道具等が対象になりますが、このような動産を競売しても実際には費用にも満たないことが多いからです。そこで、特別な場合を除きお勧めできないのが現状です。 このことは判決に基づいて行う動産の強制執行(差押え)についても同じことが言えます。

 なお、「建物に備え付けられた動産」と規定されていますので、現金・有価証券・衣服・宝石などが区分所有建物内にあっても、競売をすることはできないと解されています。

(3)家賃の先取特権による差押え

  管理費等は、区分所有建物の上に先取特権があると規定されいますが、その優先権の順位や効力については、共益費用の先取特権と同じとされています(建物区分所有法8条2項、民法306条以下)

 そして、民法304条では「先取特権は其目的物の売却、賃貸、滅失又は毀損に因りて債務者か受くへき金銭其他の物に対しても之を行ふことを得但先取特権者は其払渡又は引渡前に差押を為すことを要す」と規定されていますので、区分所有者がその区分所有建物を他の第三者に賃貸している場合は、管理費等の先取特権によりその家賃を差し押さえることができます。

  家賃を差し押さえることができれば、賃借人は家賃を賃貸人である区分所有者でなく、管理組合に支払わなければなりません。万一その賃借人が管理組合に家賃を支払わない場合は、その賃借人を相手に家賃を支払うよう裁判をすることになります。

  この家賃の先取特権による差押えは、当該区分所有建物やそれに付属した動産の差押えと異なり、実効性があり、活用すべきものと考えます。

4 特定承継人に対する請求(建物区分所有法8条)

  区分所有建物の所有者が管理費や修繕積立金を滞納していた場合は、管理組合はその区分所有建物を購入した新所有者(競落人も含みます)に対しても滞納管理費等を支払うよう請求が出来ます。このことは、管理費などの債務はその区分所有建物と一体不可分のものと考えたら理解しやすいでしょう。管理規約では、区分所有建物を売却しても、修繕積立金を清算して返還するよう請求できないと書かれていますが、このことも同じように理解できます。

 また、滞納者が他の第三者に売却しようとしている場合や住宅金融公庫や銀行などの抵当権者が競売の申立をしているような場合には、管理組合は自ら裁判などをしたりせず、競落人(=特定承継人)が現れるのを待ち、競落がなされたら競落人に請求するというのも一方法です。

5 裁判や支払督促をすべき場合

 上記のように管理費等を滞納している区分所有者に対しては、先取特権を活用することが出来ますが、裁判や支払督促をしなければならない場合もあります。

 先ほど、先取特権があることを証明する文書として、管理規約や集会・理事会の議事録(管理等の金額・理事長の選任)などの書類が必要となると言いましたが、これらの書類が不備な場合は、裁判などをする必要があります。

 また、当該区分所有建物やそれに備え付けられた動産以外のものを差し押さえる必要がある場合も同様に裁判などをする必要があります。

 その区分所有建物以外の不動産を差し押さえる場合もそうです。

 当該区分所有建物の家賃以外の債権を差し押さえる場合もそうです。例えば、区分所有者の預金・給料・売掛金を差し押さえる場合です。

6 区分所有権の競売手続きの活用(建物区分所有法59条)

 長期間滞納が続き、時価以上の抵当権が当該区分所有建物に設定されており、競売の申立てをすることができない場合には、建物区分所有法の59条を活用して、その区分所有建物を競売をすることができます。

 長期間管理費等の納付義務を怠り支払う可能性がないような場合は「区分所有者の共同利益に反する行為」に該当するので、その区分所有者を排除するということです。競売がなされても、競売代金から回収することは出来ません。というより、そのような可能性がないからこの手続を利用することになります。

 滞納者が売却もせず、また抵当権者がいつまでも競売をしない場合には、この手続きを利用するしか良い方法はありません。

 このような手段をとるには、総会で4分の3以上の賛成を得る必要があり、裁判費用もかなりかかります。

 このような手段は伝家の宝刀ともいうべきもので、これを利用する目的は、早く新しい方に所有者になってもらい、その後は管理費等をきちんと支払ってもらうということです。

7 終わりに(管理規約上の工夫)

  建物区分所有法では、先取特権の定めがありますが、当該区分所有建物や建物に備え付けた動産を差し押さえるという方法は、バブルが崩壊しマンションが値下がりをしている現状では、実際には活用できないと言えます。

 賃借人がいる場合は、家賃の一部を管理費等に回してもらうよいでしょう。これはかなり有効です。

  また、そのようなことができるように、管理規約で、区分所有者が区分所有建物を他の第三者に賃貸・使用貸借をしようとするときは、契約条項の中に、「万一区分所有者が管理費等を支払わない場合は、借主が区分所有者に代わって支払う」という旨の規定を入れることを義務づけ、更に、誰が住んでいるのかを確認するため届け出を出してもらっているのが通常だと思いますが、その届け出書の下部に「区分所有者が管理費等を滞納した場合、占有者が区分所有者に代わって支払います」という趣旨の記載をしておくとよいと思います。

 滞納者がマンションを売却したり、競売がなされた場合は、新所有者に滞納管理費等の債務について特定承継人になりますので、その人に請求できます。

 滞納者がきちんとしたところに勤めている場合は、給料の差押えをすることも有効です。 

 ところで、弁護士に依頼して裁判をしても、弁護士の費用は「裁判費用」に入っていませんので、通常回収が出来ません。そこで、管理規約において「管理費等の未払に関し訴訟を提起した場合の弁護士費用は敗訴者が負担する」という条項を入れておくことをお勧めします。これにより少しでも管理組合の負担を軽くすることとのほか、請求をする場合このことを滞納者に知らせれば、弁護士費用は負担したくないと思い、支払ってくる場合もあるからです。このようなアドバイスを管理組合にしていただければ喜ばれるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.02.25更新

必要費・有益費償還請求権 

 

(質問)

1 私は賃貸マンション3階の一室を賃借しておりますが、ベランダの手すりが壊れていて危ないので大家さんに修理をお願いしました。ところが、大家さんの方では一向に直してくれる気配がないので、自分で10万円の費用をかけて手すりの補修工事を行いました。

  修理にかかった10万円は大家さんに請求できるでしょうか。また、請求しても大家さんが支払ってくれない場合、修理費10万円と家賃月額12万円のうち10万円分とを相殺することは可能でしょうか。

  なお、賃貸借契約書には「必要費及び有益費は借家人の負担とする」という条項が入ってありました。

2 一軒家を借りていたのですがこの度引っ越すことになりました。5年前にこの近辺の下水道の完備に伴いトイレを汲み取り式から水洗式に改造しましたが、その際に私が支出した改造費18万円を大家さんに請求できるのでしょうか。

 また、上記の事例で、賃貸借契約書に「必要費・有益費は賃借人の負担とする」という条項がある場合はどうでしょうか。

(回答)

1 必要費償還請求権

  賃貸借契約中に生じた必要費は賃貸人の負担であり、その費用を賃借人が 負担したときには、直ちに賃貸人に請求できます(民法608条1項)。

 必要費とは、建物の原状を維持保存し又は賃借人が約定の目的に従った使用収益をするために必要な費用のことで、ベランダ手すりの修理費などもこれにあたります。

 そして、賃借人が必要費を負担した場合は、直ちに賃貸人にこれを請求できます。

 また、賃貸人が必要費を支払わない場合には、賃借人は家賃支払義務と相殺することもできます。

 もっとも、本件では賃貸借契約上「必要費・有益費は賃借人の負担とする」との条項があるため、本件でもこの特約条項の適用があるかが問題となります。

 この点、従来から判例・通説は、修繕費をその規模・程度及び費用の面から大修繕と小修繕に分け、小修繕については特約により賃借人負担とすることを認めるが、大修繕については特約によっても賃借人負担とすることはできないとしてきました(なお、「消費者保護契約法」の適用のある賃貸借契約については小修繕についても賃借人負担とする特約は無効になる可能性があります・本稿第18回参照)。

 本件でも、ベランダは建物の主要な構造部分であり、その費用も家賃8万円のマンションに対して10万円もかかっておりますから、ベランダの修理費は小修繕の範囲を超えるもので大修繕にあたります。

 よって、本件のような特約がある場合にも賃借人は大家さんに修繕費10万円を請求できます。

2 有益費償還請求権

賃借人が建物価値を客観的に高めるための費用を支出した場合、賃借人は賃貸人に対し賃貸借契約終了時にその費用を請求できます(民法608条2項)。

有益費とは建物の価値を客観的に高めるために支出した費用ですので、賃借人の好みによって価値が高まるか否か異なるようなものは「客観的」に価値を高めるものではないので有益費とは認められません。

また、賃貸借契約終了時に発生するものですので、賃貸借契約継続中は賃貸人には請求できません。

なお、有益費と似た概念としては借地借家法の「造作」があります。双方とも建物に付帯して建物利用の価値を高める点では共通してますが、造作とは、畳・建具・水道設備・空調設備・調理台など建物から取り外すことができる独立した物として賃借人の所有物になるのに対し、有益費は、張り替えた外壁のタイル、張り替えた床板など建物に附合(民法242条)し独立した物とはならない点が異なります。

本件のようなトイレの汲み取り式から水洗式への改造は建物価値を客観的に高めるもので、かつ、建物に附合するものですので有益費に該当します。

そして、有益費に当たる場合、家主は当該有益費のうち現存価値について償還義務があります。

なお、現存価値の算定については、税務上の減価償却後の価値を参考に算定することになります。

よって、家主は、賃貸借契約終了時にトイレの改造費18万円のうち現存価値分について償還義務があります。

では、「賃貸借契約書に必要費・有益費は賃借人の負担とする」という条項がある場合はどうでしょうか。

この点、裁判例(東京地裁昭和46年12月23日・東京地裁昭和61年11月18日等)は、本件のように有益費償還請求権をあらかじめ放棄する特約も有効であるとの立場をとっています(もっとも、「消費者保護契約法」の適用のある賃貸借契約においては上記有益費放棄特約も全部又は一部が無効だとする裁判例が出る可能性があります・本稿第18回参照)。

有益費については、建物の客観的価値を増すものとはいえ、必要費のように建物の通常の使用に不可欠なものではないことから、上記のような特約を結んでも賃借人に酷とはいえないため、契約当事者の意思に委ねたものと考えられます。

よって、従来の裁判例によると、上記特約がある場合には賃借人は有益費償還請求権として改造費を賃貸人に請求できません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.02.18更新

暴力団組員が居住するマンション売買での説明義務

 

 

1 はじめに

 暴力団組員がその1部屋を賃借して住んでいる賃貸マンションを売却するに際して、宅建業者がこれを説明せずに売却しても法律上問題はないのでしょうか。買主との信頼関係が大切な取引は別として、できることなら少なからず売買価格や取引の成否に影響する事情は話したくないところでしょう。

 もっとも、これを知らずに買ってしまった買主からは、①民法上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求、②重要事項説明義務違反に基づく損害賠償請求、③売買契約の錯誤無効、④売買契約の詐欺取消を主張される可能性はあります。

 そこで、今回はこのような買主の主張が通るものなのか検討していきたいと思います。                                2 暴力団組事務所として使用している場合

 暴力団員が組事務所として使用している場合、瑕疵担保責任、重要事項説明義務違反によって損害賠償できることは、第8回法律相談で東京地方裁判所平成7年8月29日判決をご説明した通りです。

 組事務所である以上、そこには通常多数の暴力団員が出入りしているでしょうし、組合間の抗争も予想できますから、そのような事務所が存在すること自体通常住居が有する住み心地の良さを欠く状態(瑕疵)に該当します。

 但し、民法上の瑕疵は「隠れたもの」(外観から見て認識できないようなもの)でなければならないので、組事務所であることが買主の実地見聞時に看板、外装、黒塗りの自動車等から明らかである場合は、買主は当然このことを認識すべきであるので、瑕疵担保責任は成立しません。但し、宅建業者にはこのようなケースでも重要事項説明義務が生じている点は注意して下さい。

3 暴力団組員が個人の住居として使用している場合

  住居として使用している場合でも、単に暴力団員が住んでいることのみをもって、瑕疵担保責任や重要事項説明義務違反を追求することは困難です。

 この点の裁判例として東京地判平成9年7月7日は、瑕疵担保責任による損害賠償請求を肯定したものですが、それは当該住居に暴力団組員を多数出入りしていること、夏には深夜にわたり大騒ぎすること、管理費用を長期間にわたって滞納すること等の事情が存在することを根拠に瑕疵に該当する判示しているのであって、これら不当な行為が存在しないのに、単に居住しているだけで瑕疵を認定しているわけではない点に注意が必要です。

 次に、東京地判平成9年10月20日は、表札等の外見からは組合員であることとは分らず、他に暴力団関係者や組事務所として使用している外観を表示するものを設置しておらず、組員が出入りしていることも窺えず、賃料の支払も大方順調であり、賃貸人や管理人、他の本件マンション住人と紛争を起こしたり、苦情を寄せられたことはなかった点をもって、暴力団員が住んでいることは宅建業者の重要事項説明義務違反はないとしております。

 上記の2判例はいずれも、外観上暴力団としての不当な行為があるかないかという点に注目して結論を異にしています。ですから、単に暴力団員が個人として住んでるというだけで、外観的に居住状況が一般人とさほど異ならない場合は、これを説明する必要はありません。

 但し、上記判例が問題としたような不当な行為が、当該マンションにおいて見られるときは重要事項説明義務の対象となりますし、瑕疵にも該当しますので、この点の事実確認は必要かと思われます。

 もっとも、事実確認といっても、居住者のプライバシー権の関係上、近隣住民からのクレームが頻発しているか、帳簿上家賃を滞納してないか等をマンションの所有者や管理会社に確認すればで十分であり、改めて積極的な調査をする必要はありません。

4 錯誤無効の検討

 まず民法95条の錯誤無効について簡単に説明しますと、例えば買主がA物件を買おうと思っていたが勘違いしていてB物件を買ってしまった場合や代金100万円だと思って契約書にサインしたがそれは勘違いで契約書100万ドルとなっていた場合等、契約条項は正しいのだけれども自分が勘違いしていたためその物件やその代金で買うつもりはなかった場合に、その勘違いに重大な過失がない場合には、契約を無効に出来るというものです。

 では同じマンションにに暴力団員が住んでいるとは思わなかった、暴力団員が住んでいるだけで嫌なのでそのような物件は買う意思などなかったという場合はどうでしょうか。これは勘違いですし、単に物件を訪れただけでは暴力団員が住んでるか分らないのでその勘違いに重大な過失は認められないでしょう。

 しかし、このよう勘違いは「動機の錯誤」といって、そのことを契約時に売主に表明していないと錯誤主張できないというのが確立した判例です。A物件を買うつもりがB物件を買うというのと、A物件を買うつもりだったことはそのとおりだけどその購入動機として同じマンションに暴力団員が住んでいないことというのは別物です。勘違いに重過失がなければ何でも無効というのでは安全な取引などできません。そこで、判例は勘違いが単に付随的な購入動機(例;眺望がよいからこのマンションを買う)についての場合はそのことを契約時に表明していないと無効主張は出来きないこととしたのです。

 ですから、通常は暴力団員が同じマンションに住んでいないことなどとは表明していませんので錯誤主張はできません。

5 詐欺取消し

 民法96条の詐欺取消しとは、①嘘をつくことで②相手方を錯誤に陥らせ物件を買わせることです。この詐欺取消しでの錯誤には上記購入動機などの動機の錯誤も含みます。ですから、暴力団員が住んでいない点での動機の錯誤があっても良いことになります。

 しかし、詐欺は嘘をつくことが要件です。本件では何も説明していないだけですから積極的に嘘をついたわけではありません。もっても、説明義務があるのに説明しなかったというのであれば暴力団組員が住んでいることを隠したとして嘘をついたとみなされる可能性もあります。しかしながら、前記のように暴力団組員が単に住居として住んでいるだけの場合にはそもそも説明義務を負わないので嘘をついたとはいえません。

 従って、詐欺取消しもできません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.02.12更新

物件内で自殺・殺人事件、病死があった不動産売買での注意事項

 

 

1 はじめに

 近年不況に伴い自殺者数が急増しております。また、老化社会に伴い一人住まいのお年寄りの自然死も増えています。このような社会的事情のもと、自殺やお年寄りの自然死があった不動産の仲介にあたるケースはますます増えてくるものかと思われます。

 そこで、今回は、①このような物件であることが後に買主に判明した場合に、買主は売買契約を解除し又は損害賠償請求をできるのか、②また、このような不動産の仲介に際して、宅建業者には重要事項説明義務として当該物件内で自殺や病死のあった事実を報告する義務があるのかについて、ご説明したいと思います。

2 買主による契約解除、損害賠償請求の可否

(1)瑕疵担保責任について

 買主が当該物件の売買について解除、損害賠償請求する場合の法的根拠としては、瑕疵担保責任(民法570条)が考えられます。

 瑕疵担保責任とは、

 ①「瑕疵」(目的物が通常有している性能を欠く状態)が契約成立前から存し、かつ②その「瑕疵」が「隠れたる」(契約時に通常の注意義務を尽くしてもその瑕疵を発見できない場合)ものであるときに、生ずる責任です。例えば、売買目的の建売住宅が欠陥住宅で、かつ売買時にも外見上はその欠陥が分らなかった場合が典型例です。

 責任の内容としては、その瑕疵による目的物の価値の減少分については、損害賠償請求でき、また、瑕疵によって契約の目的を達成できない場合には契約を解除することもできます。

(2)「瑕疵」にあたるか

 本件で問題となるのは、まず、上記欠陥住宅例のような物理的欠陥は誰の目から見ても瑕疵にあたることは明らかですが、本件のような自殺・病死の例については、これを気にしない人もいれば気にする人もいます。そこで、このように人の感じ方によって瑕疵となるか瑕疵とならないかが違ってくるようなケース(「心理的瑕疵」といいます。)でも、瑕疵担保責任の「瑕疵」に該当するのかという点です(なお、ここにいう心理的瑕疵のケースでは、建物での死体の発見が遅れたので建物から死臭が取れない等の物理的瑕疵がない場合をいいます。このようなケースでは、物理的瑕疵がありますので当然「瑕疵」にあたります。)。

 この点、判例は、自殺・殺人事件があったという心理的瑕疵も「瑕疵」にあたり得ると判示しています(ケースバイケースですのでもちろん「瑕疵」にあたらないと判断された場合もあります。)。他方、単なる自然死、病死については一般に瑕疵にあたらないとしています。

 判例は、「瑕疵」にあたるかの判断基準について、心理的瑕疵の場合は、買主の個人的感情といった主観的事情ではなく、客観的に建物が通常有する「住み心地の良さ」を欠いている状態にあたるかで判断すべきだとしています。そして、建物が通常有する「住み心地の良さ」を欠くか状態か否かは、以下の事情を総合評価して、「人の死亡にまつわる忌わしさが当該物件から相当程度薄らいでいるか」で判断されるものとしています。

(ア)死体の数、死体の状況

  死体の数が多いほど、また死体の発見状況が、首吊り自殺、割腹自殺又は一家惨殺殺人事件であったり、死体発見が相当程度遅れていた場合等、死体発見の状態が忌わしいほど瑕疵該当性は肯定され易くなります。

 逆に、自殺が睡眠薬の服用であったり、自殺後直ぐに病院へ運ばれた場合等の場合は肯定され難くなります。

 前記病死や自然死が一般に否定されるのもその忌わしさが低いからです。

(イ)死体の存在した場所

  死体の存在した場所が、寝室やリビング等の人の日常生活空間であれば肯定され易くなります。

 逆に、複数人が出入りするマンションの階段・廊下については通常否定されるでしょう。離れの物置等についても居室等よりは否定され易くなります。

(ウ)死体発見時からの期間の経過

 年数が経過すればするほど過去の事実となってその忌わしさも軽減されます。事案にもよりますが判例は6・7年経過した物件について忌わしさを軽減する一事情としています。

  また、いったん他の人に貸してその間大過なく過ごして引っ越したのならば、これも忌わしさを軽減する要素になります。逆に、当該自殺等の事情にまつわる嫌悪感から引っ越したのであれば忌わしさを肯定する事情になってしまいます。

(エ)建物の物理的状況

 建物内に血痕や髪の毛等死体の痕跡が残っていると、忌わしさを肯定する重大な要素になってしまいます。逆に、当該建物を一度更地にし建て直した等の事情があれば忌わしさを軽減する重要な事情になります。

(オ)購入目的

 購入目的が居住目的ではなく営業目的、事務所目的、倉庫目的であれば瑕疵該当製は否定され易くなります。

(カ)売買価格

  売買価格が低く抑えられており、自殺等の事情がきちんと価格に反映されていれば瑕疵該当性は否定され易くなります。

(キ)地域

  当該地域が人の出入りが多い都市であれば、自殺等の噂も比較的早くなくなるでしょう。逆に、出入りがほとんどない田舎であったりするとその噂もなかなかなくなるものではありません。このような理由で、判例は当該地域の人の出入りの多さや地域社会の密接度等も考慮しています。

(3)忌わしさ軽減の為に売主として為すべきこと

 上記判断要素に照らして、以下のことをすることで忌わしさを軽減でき、瑕疵該当性を否定できるか、否定はできなくても損害賠償請求時の損害額軽減につながるものと思われます。

(ア)内装を一変する、建物自体を建て替えること(いったん取り壊して駐車場等にすれば大抵の事案では瑕疵該当性は否定できるでしょう)

 最低限血痕や死臭を残さないこと(これが残っていれば瑕疵を肯定されても仕方がありません)

(イ)自殺等について気にしないという人や営業目的の利用者にある程度の期間事情を話して安く貸すこと

(ウ)お払い等もしておくこと

(4)「隠れた」瑕疵にあたるか

 買主が予め自殺等があった事実を知って入居した場合は、「隠れた」瑕疵といえないので、売主は瑕疵担保責任を負いません。

 また、買主に自殺等の事実があったことを知らなかった点に過失があるといえる場合にも「隠れた」瑕疵には該当しません。ただし、物件を内見しただけでは既にリフォーム済みであったりして、買主はこのような事情を知り得ないのが通常ですので、当該物件が自殺・殺人事件として地元メディアで報道されており、かつ買主が地元の不動産業者であった場合のような特別の事情がない限り、知らなかったことの過失を理由に「隠れた」瑕疵の該当性を否定することは難しいでしょう。

(5)瑕疵該当性が肯定された場合の損害額

 裁判例では、事例にもよるが、殺人事件等のひどい事案でも購入価格から建物価格の30パーセント前後の損害額しか認めていない事例が多いです。

 また、殺人事件で床下に遺体を埋めた等の事案では建物の損害に加えて土地に対する損害賠償の請求もできるとしています(但し、損害額は建物より低いです。)。

3 自殺、病死の説明義務

 宅建業法35条1項には重要事項説明義務についての重要事項について列挙されていますが、この説明義務は列挙事項に限定されるものではありません。これまで説明してきたような心理的瑕疵が存する場合にも説明義務の対象になります。

 但し、説明義務があるというためには、前提として自殺・殺人事件の有無についての調査義務が認められなければなりません。そこで、自殺・殺人といったプライバシーに関する問題についても売主から根掘り葉掘り聞く義務があるかといえば、確定的な裁判例はないですが、売主のプライバシーの侵害を理由に消極に解すべきだとの見解が多いです。

 従って、説明義務が課されるのは、宅建業者が、ニュース報道や近隣の不動産情報として知っている場合か容易に知り得る場合に限られる場合が多いものと思われます。かかる説明義務が認められるのにこれを怠れば、宅建業者は説明義務違反を理由に損害賠償請求をされます。

 病死・自然死については、前記のとおりそもそも瑕疵にあたらないので、通常、説明義務の対象にはなりません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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