弁護士 秋山亘のコラム

2020.02.03更新

隣家の越境物による所有権侵害の法律相談

 

 

<事例> 

隣家の「木の枝」が伸びてきて、私の敷地に入ってきたため、毎年秋になると大量の落葉が私の家の屋根に落ちてきます。

そのため、腐敗した落葉により屋根の劣化が激しなる、雨樋が詰まってしまうなどの被害が出ています。

このような場合、どのように対応したらよいでしょうか。

また、隣家の「木の根」が越境して私の土地に入ってきたときはどうでしょうか。

 

(回答)

1 竹木の「枝の越境」による被害の場合

民法は越境に関して、枝と根で異なる規定の仕方をしています。

民法233条1項は、①隣家の竹木の枝が境界線を越える場合には、②竹木の「所有者」に対して、③枝を切除するよう「申し入れることができる」と規定しております。

民法では、それだけの規定しかありませんが、単に竹木の枝が「境界線を越え」たというだけで切除を請求できるのか、それとも竹木の枝の侵入を受けた隣地所有者が、それにより「何らかの具体的な被害」を被ったり、被るおそれのある場合に限るのかということが問題となります。

この点について、新潟地判昭和39年12月22日(下民集15巻12号3027頁)は、枝の越境により枝の切除を請求できる要件として、単に枝が越境しているだけではなく、それに加えて、枝の越境により、落葉被害が生じている或いは生じる恐れがあるなど、何らかの被害を被っていたり、被る虞があることを求めております。

本来「お隣りさん同士」である相隣関係は相互の協力・受忍関係のもと円満に物事を解決することが大切であり、民法もそのような関係を前提に条文が作成されているため、形式的な法律論で自己の法的な権利主張をするのではなく、実際の被害の有無という側面で、物事を解決すべきだと言っているように考えられます。

本件の場合には「毎年秋になると大量の落葉が私の家の屋根に落ちてくる」「腐敗した落葉により屋根の劣化が激しなる、雨樋が詰まってしまう」などの実際の被害が出ておりますので、隣家の樹木の所有者に対し、木の枝を切除するよう請求できます。

また、このような場合には、建物の屋根に対しての深刻な被害が予想されますので、木枝が必ずしも越境をしていない場合でも、建物の「妨害排除権」として、木の枝から大量の落葉が舞い込んでくることのないよう、枝の切除も含めて適切に枝を管理するよう隣家に対して求めることが出来ます。

なお、この場合、木の所有者に対して、あくまでも切除の「請求権」があるだけですので、こちら側で勝手に枝を切除することはできません。

相手方が任意にこれに応じない場合には、落ち葉被害による損害賠償の請求も含めて、枝の切除を請求する裁判を提起する必要があります。 また、民法233条1項による木の切除を請求できる相手方は、土地の所有者ではなく「木の所有者」ですので、隣地が借地の場合には、実際に木を植えた人に対してのみ請求できます。従って、土地の所有者が植えた植木ではなく、借地人が植えた植木である場合には切除請求の相手方は借地人になります。

2 竹木の「根の越境」による被害の場合

これに対して、根の越境の場合には民法233条2項は「隣地の竹木の根が彊界線を踰えるとき之を裁取することを得」と規定しており、根が境界線を越えてきた場合には、その越境部分に関して竹木の所有者の承諾なしに切ることができるとされています。

 よく、隣家の柿の木の枝が越境してもその柿の実は勝手に取れないが、竹林から越境して生えてきたタケノコは、勝手に取ってもよいとされるのは、上記規定によるものです。

 但し、先の新潟地裁の判例の趣旨からすると、根を切ることで隣家の樹木が枯れてしまうような場合には、単に根が越境していると言うだけではなく、何らかの「具体的な被害」を被っているか、または被る虞のある場合に限られ、勝手に根を切って木を枯らしてしまった場合、権利の濫用として損害賠償の責任を負うことも考えられますので注意が必要です。

したがって、まずは、竹木の所有者に対し、竹木を植え替えてくれるよう申し入れるなどするほうがよいでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2020.01.27更新

隣地排水施設の利用問題について

 

 

<事例>

 Xの家は袋地となっているが、新たに公共下水道の処理区域内となった。

 下水を公共下水道に流入させるためには、Xの土地から隣人Yの設置した排水管に接続して排水しなければならない。

 しかし、Yは、その接続を拒否しており、同意しようとしない。

 このような場合、Xは、隣人Yの設置したY土地上の排水管にXの土地から接続して排水することができるか。

<回答>

1 下水道法の規程

(1) 下水道法10条1項では、「公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道区内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管その他の排水施設(以下「排水設備」という)を設置しなければならい。」と定められており、公共下水道の処理区域内となった場合には、公共下水道への排水が義務付けられております。

   また、下水道法11条1項では、「第10条・第1項の規程により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地又は排水施設を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水施設を設置し、又は他人の設置した排水施設を使用することができる。この場合においては、他人の土地又は排水設備にとって最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない。」と定められております。

 また、民法上の相隣関係の規定では、下水に関しては、民法220条で高地の土地所有者は他人の低地を通じて下水道等に至るまで余水(雨水など)を通過させることができると規定しており(余水排池権)、民法221条では高地の土地所有者は低地の土地所有者が設置した排水管を使用し下水道等に至るまで排水することができると規定しております(流水用工作物の使用権)。

 これらの民法の規定は高地と低地との間の相隣関係の規定ですが、学説・判例等は、高知・低地間の相隣関係だけでなく、袋地の相隣関係への類推適用も肯定しております。

  また、上記下水道法11条の規定では、「流入させることが困難であるとき」と規定されておりますので、当該土地が袋地である場合だけではなく、隣地の排水設備を使用すれば設置費用は少額で止まるが、公共下水道までの排水管を全て自分で設置するとなると著しく過分の費用がかかる場合なども含まれます。 

  この点に関連する裁判例としては、東京高判平成9・9・30(判タ981号134頁)は、「付近の土地の排水設備の設置状況および本件土地の所在する場所の環境に鑑みると、本件土地につき排水設備等を設置することは、本件土地の利用に特別の便益を与えるというものではなく、むしろ、建物の所有を目的とする本件借地契約に基づく土地の通常の利用上相当なものというべきであるから、賃貸人である控訴人らにおいて、本件土地につき排水設備等を設置することにより回復し難い著しい損害を被るなど特段の事情がないかぎり、その設置に協力すべきものであると解するのが相当である。そうであれば、控訴人らは、被控訴人が本件土地につき排水工事および水洗化設備の新設工事をするにあたり、これを承諾し、かつ、右工事の施工を妨害してはならないものといわなければならい」旨判示しています。 

  もっとも、東京地判平成9・7・10(判タ966号223頁)は、水洗式の便所へ切り替えるため、下水の排水のために隣人の設置した既存の排水管の利用の承認を求めたという事案で、既設の排水管がたまたま建物の下を通っているという特殊事情を考慮し、新たに水洗式便所汚水が合流することにより、万一、管が詰まるなどして改修工事の必要が生じた場合には、建物を一部にせよ取り壊すなどして下水工事を施工しなければならなくなるおそれがあり、迂回路になるとはいえ、前記私道に排水管を新設するという方法も十分考え得ること等を理由に、請求を棄却しました。

このように、隣地の排水設備を使用することで隣地土地所有者に特段の損害を与える恐れがあり、費用はかかっても迂回路をとること排水することが可能な場合には、隣地の排水設備の使用が認められない場合があります。

(2) 隣地使用者の負担義務

    しかし、他方で、隣地の土地使用者は、排水のため他人の土地を使用することで損害を与えた場合、通常生ずべき損失を補償しなければなりません(下水道法11条4項)。

  これは、「損失を補償」と規定されているため、隣地の土地使用者の過失責任ではなく、無過失であると解されます。

  また、他人の排水設備を使用する者は、その利益を受ける場合に応じて、設置、改善、修理、維持に要する費用を負担しなければなりません(下水道法11条2項、民法第221条2項)。

  この費用負担の割合は、「その利益を受ける場合に応じて」分担すると規定されていることから、両地の排水量若しくは総床面積などを基準に算定することになると考えれます。

2 本設問の回答

 本件では、Xの土地が「公共下水道の排水区域内にある」ことから下水道法第11条が直接適用されます。

 そして、Xの土地は袋地でありますので、「他人の土地又は排水施設を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるとき」に該当しますので、隣人Yの設置した排水管に接続し利用することができます。

 したがって、上記のような法律の規定をYに説明し、それでもYがYの排水設備への接続を認めない場合には、Xは、Yに対し、「Yの排水設備への接続・利用の同意」を求める訴訟を提起することになるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2020.01.21更新

(質問)

  平成15年の民法改正で、旧民法295条の短期賃貸借制度が廃止になったと聞いたのですが、改正の概要を説明してください。

(回答)

1 短期賃貸借制度とは

  抵当権設定登記後に締結された賃借権は、抵当権者に対抗出来ないのが原則です。

  従って、抵当権が実行された場合、賃借人は、競売手続きにより競落した買受人に対し、借地や借家を直ちに明け渡さなければなりません。 また、敷金も買受人に引き継がれませんから、返済資力がない旧所有者(賃貸人)にしか請求できません。

  しかし、このように賃借権が保護されない状態では、抵当権が設定されている建物や土地については、誰も安んじて借りることはできず、抵当権付不動産の有効利用が妨げられてしまいます。

  そこで、旧民法295条は、民法602条に定める期間(建物は3年、土地は5年)を超えない賃借権については、抵当権者に対抗できるものとし、短期の賃借権に限りこれを保護することにしました。

  これにより、短期賃貸借の期間満了までは買受人に対し賃借権を対抗出来ますし、また、敷金返還債務についても買受人に引き継がれることになります。

  これが短期賃貸借の制度です。

2 改正理由

  しかし、実際には、賃貸借の実体がないにも関わらず、多額の敷金を預け入れていたとしてその返還を求めるものや高額の立ち退き料を要求するものなど、短期賃貸借を濫用して抵当権者の執行を妨害するケースが生じてしまいました。とりわけ、近時の不良債権処理の迅速化の要請には反するとして、一気に短期賃貸借の制度廃止論に拍車がかかりました。

 そこで、平成15年8月1日、民法を改正し、短期賃貸借の制度を廃止することになりました。

 なお、施行日は平成16年4月1日となります。

3 短期賃貸借廃止に伴う新制度

 (1) 明け渡し期間の猶予

 短期賃貸借が廃止になると上記の原則に戻ります。

 従って、賃借人は、競売により買受人が決まると、直ちに借地や借家を明け渡さなればならないことになります。

 しかし、これでは、賃借人は、不測の明け渡しに応じなければならず、転居先が決まらないまま立ち退きを余儀なくされるなど賃借人には酷な結果になる場合もあります。

 そこで、改正民法395条1項は、競売手続きの開始前から使用収益をなしている賃借人に対しては、買受人の買受けの時から6ヶ月間は賃借物の明け渡しを猶予するものとしました。

 もっとも、この期間も賃借人は、買受人に対してその間の「使用を為したることへの対価」を支払わなければなりません。買受人の催告にも関わらず、この対価を1ヶ月分以上支払わなければ、上記の明け渡し猶予の規定は適用されません。

 なお、買受人は、賃貸借契約を引き継ぐわけではないので、「使用を為したることへの対価」とは「賃料」と同義ではありません。法律的には、不当利得返還請求権として買受人が賃借人に対し請求できる性質のものです。従って、「使用を為したることへの対価」は、必ずしも従前の賃料額と同額というわけではありません。

 (2) 全抵当権者の同意の登記

  抵当権設定後の賃借権でも、①賃借権設定登記をし、②抵当権者全員から当該賃借権の設定に対する同意を得、なおかつ、③この抵当権者全員の同意について登記をしていれば、登記された内容の賃借権を抵当権(買受人)に対抗できることになりました。

 抵当権者に対抗できる賃借権の内容は、登記事項に限定されますので、存続期間、賃料、敷金に関す事項、更新に関する事項、転貸の許諾に関する事項などをきちんと登記しておかなけばなりません。

 また、賃借人は、当然には、賃貸人に対する賃借権設定の登記請求権を有しませんから、賃貸人との賃貸借契約締結時には、賃借権設定の登記請求権についても定めておかなければなりません。

 抵当権者の同意登記の後に賃料の減額があった場合など、賃借人に有利な内容に賃貸借契約が変更された場合には、これについても改めて抵当権の同意を得て、賃借権の変更に関する附記登記をする必要があります。従前の賃借権の登記のままでは、賃借人に有利な変更内容での賃借権を抵当権者に対抗することはできません。

 なお、本制度は、一般的な居住用アパートのように、1個の建物に対して複数の賃貸借契約を設定するような場合には利用できません。というのは、各賃借権の設定登記は、それぞれ、1個の建物の全体に対して行わなければならないからです。

 従って、本制度が利用できるのは、一軒家をそのまま1人の賃借人に賃貸する場合や区分所有建物を賃貸に出す場合、また、1個の貸しビルを一社の不動産業者に一括して賃貸し、これを複数の転借人へ転貸するようなサブリースのケースに限られます。

 4 仲介業者としての説明義務

   以上のように短期賃貸借制度は廃止になりましたから、今後は、抵当権付きの不動産の賃貸借契約を仲介する場合には、抵当権が実行された場合には買受人に対し賃借権を対抗できないことを説明しておくべきでしょう。

   この点、宅地建物取引業法においても上記説明義務の規定を設けるべきかについては議論がありましたが、今回の改正では、この点の規定を盛り込むことについては見送られました。

   しかし、賃借人にとって賃借権を抵当権者に対抗できるかは非常に重要な事項ですし、近時、専門業者の説明義務の強化の流れもありますので、トラブルを避けるためにも、この点はきちんと説明をしておくべきでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2020.01.06更新

暴力団事務所と売買契約の瑕疵

 

 

1 暴力団事務所の問題

 暴力団事務所として賃貸物件が使用されている場合に賃貸借契約の解除が問題となることについては皆様もよくご存じのことと思います。

 では、売買の目的土地の近隣に暴力団事務所が存在する場合、土地の買主は売主に対し、売買契約の解除等何らかの責任を問えるのでしょうか。

2 判例

 東京地方裁判所(判例時報1560号 平成7年8月29日判決)は、暴力団事務所について売主に対し一定の責任を認めました。

(1)事案

 原告甲及び被告乙はいずれも不動産の売買等を業とする会社で、甲と乙は平成4年3月30日、ある土地を代金9100万円で乙から甲に対し売り渡すという内容の売買契約を締結しました。甲は、同日売買代金のうち910万円を支払い、同年4月30日に残金8190万円を支払い、乙から土地の引き渡しを受けました。甲はその土地に事務所兼賃貸マンションを建設するつもりでした。ところが、その後、土地と交差点を隔てた対角線の位置にある建物(直線距離にして9メートル)には暴力団事務所があり、以前から暴力団の組事務所として存在していたことが判明しました。

  そこで、甲は乙に対し、

① 売買契約の詐欺による取り消し(民法96条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

② 売買契約の錯誤による無効(民法95条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

③ 売買契約の瑕疵担保責任による解除(民法570条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

④ 売買契約の瑕疵担保責任による損害賠償請求として代金(9100万円)の75%相当の損害賠償

という内容で裁判を起こしました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、甲の請求のうち①から③については認めませんでしたが、④については、

・本件土地は小規模店舗、事業所等が点在する地域に所在するところ、交差点を隔てて対角線の位置に本件暴力団事務所が存在することは、本件土地の宅地としての用途に支障を来たし、その価値を低下させることは明らかである。本件土地は宅地として通常保有すべき品質・性能を欠いているものであり、本件暴力団事務所の存在は本件土地の瑕疵に当たる→ 「暴力団事務所の瑕疵該当性」

・本件暴力団事務所のある建物は、契約時において、暴力団事務所としての存在を示すような物を掲げることもなく、暴力団事務所であることを示す外観はなかった。通常人が本件土地を購入しようとして現場を検分しても、暴力団事務所の存在を容易に知り得なかったであろう→ 「本件暴力団事務所の『隠れた瑕疵』該当性」

とした上で、本件土地の暴力団事務所の存在による減価割合を20%と認定し、これを損害としました。

3 本判決の意義

 本判決は、暴力団事務所が「売買の目的物である土地の中に」あるのではなく、「売買の目的物の土地の近隣に」ある事案において、「瑕疵」に当たるとしました。暴力団事務所の実態、社会に及ぼす危険性等暴力団事務所の害悪を適正に評価したと言えるでしょう。しかし、本判決は、通常人には暴力団事務所を容易に発見することはできないので、暴力団事務所の存在という瑕疵は「隠れた瑕疵」に当たると判断していますので、外観上暴力団の「組事務所」を示す標識などがあった様な場合には、瑕疵担保責任は問えないことになります。

 なお、本判決は、原告の「契約の取消・契約無効・契約解除」という主張については認めませんでした。これは、原告は一般の購入者ではなく不動産業者であること、代金も完済し物件の引渡しも済んでいることから、可能な限り契約を維持するのが相当と考えたのだと思います。いわゆる暴力団対策法施行の影響で外観上暴力団事務所と分からない建物が増加しているようですので、本件の事案のような裁判は増えることが予想されますが、「契約の取消・無効、契約解除」まではなかなか認められないと思われますが、仲介をする際には注意をしていただきたいと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.23更新

不法投棄と土地の明け渡しの法律相談

 

 

<事例>

  当社は、ある解体業者A社に資材置場として土地を賃貸していたのですが、 地代を長期間滞納されていたため、契約を解除しました。

ところが、その解体業者は、その土地一杯に、わけのわからない家電製品や建築廃材・土砂などを3メートル以上堆く積み上げており、土地の明け渡しには一向に応じてくれません。

当社は、やむを得ず、土地の明け渡しの裁判を起こすことになり、弁護士にゴミの撤去を含めた明け渡し費用について相談しましたが、土地が広いだけにまともに明け渡しの強制執行をやるとなると土地明け渡しの執行費用だけで600万円以上かかると言われました。

解体業者による地代の滞納は、契約解除後の遅延損害金も含めると300万円以上になります。しかし、解体業者は、他に借金も抱えているようで回収可能な資産は何もなさそうです。

明け渡しの強制執行には、ある程度の費用がかかるのは分かるのですが、できるだけ早く、費用を押さえて、明け渡してもらえる方法は何かないのでしょうか。

<回答>

 土地や建物の明け渡しの強制執行は執行費用がかかります。建物の明け渡しの場合でも、荷物が多い一軒家などの場合には、執行官が一日のうちに荷物を全て持ち出して明け渡しを完了させるため、人夫の手配や差押え禁止動産類の保管料などで100万円以上の執行費用がかかる場合もあります。

 本件のようなゴミが堆積されている土地の明け渡しの場合には、まともに強制執行をすると、数百万円レベルの費用を覚悟しなければなりません。

 しかし、強制執行以外の方法が取れれば、その費用がだいぶ押さえられる場合もあります。

1 廃棄物処理法違反による刑事告発の警告による任意撤去・任意明け渡しの 申し入れ

 廃棄物処理法第16条では、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定されており、同法第25条8号では、第16条違反の罪に対し「5年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処する」と定めるなど厳しい罰則が設けられております。

 近時は、同法違反の罪によって逮捕され厳しく処罰されていることは広く報道されているところです。

 そこで、このような悪質な業者には、土地への前記のような不法投棄(長期間の放置行為)が廃棄物処理法違反の犯罪行為にあたることと刑事告発の用意があることを告げて、任意の撤去・明け渡しを促すのが効果的と言えます。

 差し押さえるものが何もない債務者にとって、単にお金の問題だけであれば、強制執行をすると警告してもあまり効果がない場合も多く、明け渡しの強制執行を実施されるまでは解体業を続けようと居直る者もいるでしょうが、懲役刑も含む刑事問題となれば話はまた別だと考えるでしょう。

 なお、廃棄物処理法第16条は、たとえ、ゴミを捨てたのが自分の土地であっても、廃棄物の放置期間、廃棄物の質・量、廃棄の態様、周辺への居住環境への悪影響などを総合考慮して「廃棄物」を「みだりに捨てた」と言える場合には適用されます。

 本件でも、ゴミとしか言えない建築廃材や土砂を長期間他人の借地上に堆く放置しており、A社においては、これを適法に処理する意思も能力もないと思われますので、廃棄物処理法第16条違反に該当する可能性は極めて高いと言えます。

2 破産申立をし破産管財人の協力による任意撤去・任意処分

次に、このような警告にも関わらず、相手方が、任意の撤去・任意の明け渡しに応じない場合には、債権者として破産申立をする方法が考えられます。

破産申立は、債務の支払能力又は意思がない債務者に対しその制裁として、債権者側からも申立ができます。

破産開始決定がおりると破産管財人が選任されA社の資産の管理・処分権限は全て破産管財人に移ります。

破産管財人は、A社の預貯金など資産価値のあるものを集めて破産財団を形成します。破産管財人は、この破産財団から費用を出してでも可能な限り会社の所有物を全て廃棄処分しなかればなりません。したがって、ゴミの任意の撤去・土地の明け渡しにも応じてくれます。

債権者側から破産申立をするには、債権額にもよりますが、70万円~300万円程度の破産予納金を納める必要があります。しかし、この破産予納金を考慮しても、土地の明け渡しの強制執行によって、短期間のうちに大がかりな撤去作業をしなければならないよりは、だいぶ費用面では抑えられるはずです。

なお、破産管財人による調査の結果、A社には預金がほとんどなく破産財団としては何もお金がない場合もよくあるところです。

この場合、破産管財人としては、任意の土地明け渡しはできても、ゴミの撤去費用までは破産財団から拠出することはできません。

しかし、それでも任意に土地を明け渡してもらえる分、強制執行によって撤去するよりは安くすむものと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.16更新

売買契約の成立時期

 

 

(質問)

① 不動産売買に際して、話がまとまり買付証明書と売渡承諾書を交わしました。しかし、突然買主から「契約書調印はできなくなった。契約は白紙撤回する。」と言われてしましました。このような場合、当時者間の基本的合意はできているわけですから、契約成立を主張して買主に代金の請求ができないのでしょうか。

② ①の場合、逆に売主から、突然、他に売りたいので契約調印はできなくなったといわれ売買契約の締結を拒否されてしましました。私は、契約調印日を直前に控え売買代金も調達し、また、購入物件で歯科医開業をしようとしていたので開業準備のための機材を購入したりしておりました。このことは、売主にもだいぶ前から話しております。この場合、何とか損害賠償を請求できないでしょうか。

 

(回答)

① 契約の履行請求の可否について

(1) 日本の民法では、契約書を交わすことを契約成立の要件とはしていません。従って、裁判での立証の話は措くとして、単なる口約束でも契約は成立しているのが原則です。売買の場合、売り主の「○○円で○○を売ります」という意思表示と、「買います」という意思表示が為されていれば売買契約は成立したことになります。

 この原則に従えば、①のような場合にも、契約は成立しているように思えます。   

(2) しかし、不動産のような高額の物件を売買する場合には、裁判例は契約の成立を認定するには厳格な態度を示しており、買付証明書と売渡承諾書を取り交わした段階では、契約の成立を認めておりません。

 不動産取引の慣行を重視して、契約書を締結する時までは契約成立に向けた「確定的な意思は有していなかった」ことを理由としたものです。

(3) このような裁判例に照らせば、①の事例でも、「契約の成立」は認められていないわけですから、契約の履行請求、すなわち、代金の請求まではできないことになります。

②損害賠償請求の可否

   では、契約の履行請求はできないとして、②のような場合、不誠実な相手 方に対して損害賠償請求をできないのでしょうか。

このような場合、損害賠償の請求はできるものと思われます。

裁判例は、契約締結に至らなくとも、契約交渉に入った段階や交渉が進んで基本的な合意に至った段階には、その契約交渉の成熟度に応じて、契約の相手方には、信義則上の配慮義務、説明義務、誠実交渉義務などが生ずるとしています。

配慮義務とは、相手方の人格・財産に損害が生じないよう配慮する義務、説明義務とは、契約締結に関して相手方に不都合な事由がある場合にはこれを積極的に開示し説明する義務、誠実交渉義務とは、従前の交渉経緯を踏まえて契約の成立に努めるべき義務のことです。

これらの義務に反した場合、不法行為による損害賠償の請求ができます。

本件では、売り主が資金調達や開業準備を進めていることを知っていながら、突然、売主に対し売却を拒絶したわけですから、誠実交渉義務や配慮義務に反しているといえます。

従って、買主は、売主に対し、調達資金の利息分や開業準備費の一部について損害賠償の請求ができます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.09更新

農地転用許可申請協力請求権の消滅時効

 

 

<事例>

(1)A氏は、知人B氏から畑地を買い、代金全額を支払い、土地の引き渡しも受けました。購入後は、畑地に家を建てる予定で、必要書類が整い次第、転用許可申請を行う予定でしたが、知人B氏が許可申請に協力してくれないため、申請を行えないまま、9年が経とうとしています。

 このまま、知人B氏が申請に協力してくれない場合は、どのようになってしまうのでしょうか。

 (2) 知人B氏が申請に協力してくれないまま、10年が経過してしまった場合には、どうなるのでしょうか。

<回答>

1 (1)について

 農地を売買して宅地に転用するには、農地法第5条により、売主・買主の双方が農業委員会に対し申請をし、転用目的で売買することの許可を得なければならない。

 転用の許可を得ずになされた売買は、たとえ代金の授受が為されていても法的には所有権移転の効果は生じないとされている。また、刑事罰の対象にもなるので注意が必要である。

 もっとも、売買契約が締結され、代金の完済が為されている以上、売主は、法的にも許可申請に協力する義務を負っている。

 この許可申請協力義務が消滅時効にかかるかどうかについて、かつては、争いがあったが、最高裁昭和50年4月11日(判時778号61頁)は、肯定説に立つことを明らかにしている。

 従って、このままB氏との連絡が付かないまま、10年が経過すると、将来、B氏から許可申請協力請求権は10年の民事消滅時効にかかっているとの主張をされる可能性がある(なお、当事者の一方が会社である場合には商事時効として時効期間は5年となる)。

 従って、A氏としては、10年が経過する前に、B氏に対し、許可申請への協力を求めて訴訟を提起する必要がある。この訴訟で請求認容の勝訴判決が確定すれば、単独でも許可申請を行うことができる。

2 (2)について

 (2)の場合には、10年が経過しているため、許可申請協力請求を求めて、B氏に対する訴訟を提起しても、B氏からは消滅時効の主張をされる可能性が出てくる。

 もっとも、下級審の裁判例の中には、このような売主側の主張を認めるのは不合理だとして、信義則違反や権利の濫用を理由に売主側の時効の主張を排斥するものもある(東京高判昭和60年3月19日・判タ556号139頁、東京高判平成3年7月11日判時1401号61頁等)。

 裁判例は、その理由として、代金が全額支払われていること、買主側に特に権利の行使を怠ったような事情がないことなどを挙げているが、裁判所が権利濫用や信義則違反の主張を認めるのは、結論が著しく不当な場合などに例外的に認める救済措置に過ぎないことから、時効期間が経過する前に是非とも訴訟を提起しておくべきであろう。

 なお、売主側の時効主張が認められた場合には、その時点で、法定条件の不成就が確定する為、売買契約は無効となる。したがって、買主は、売主に対し、売買代金の返還請求をすることになる(なお、この売買代金の返還請求権は、売主が許可申請協力請求に対し消滅時効の援用をしたときから10年で時効消滅する)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.02更新

任意売却のメリット・被相続人が死亡した場合の任意売却の方法

 

 

(質問)

 ある不動産を所有している債務者が死亡したのですが、その相続人は全員相続放棄をしたため、相続人が誰もいなくなってしまいました。

 その不動産には多額の抵当権が設定されていて、亡くなられた債務者の方とは任意売却の交渉をしていたところでした。

 1 このような場合、死亡された債務者の不動産については、どのように処  分したらよいのでしょうか。

 2 また、任意売却は競売とどのように違うのでしょうか。任意売却のメリ  ットを教えてください。

(回答)

1 質問1に対して

  近年多額の債務を負ったまま亡くなられる方のケースが増えています。  そして、このようなケースでは、相続財産よりも負債の方が大きい為、相続人も相続放棄をしてしまうケースが多くなっております。

(1) このようなケースでは、まず確認のため相続人から家庭裁判所の相続放棄申述の受理証明書の交付を求めて下さい。相続人が相続放棄をしたといっても、被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしないと、相続人は被相続人の財産を相続したものとみなされます。

  相続人が上記期間内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をしていなかった場合は、相続財産や負債は上記申述をしていない相続人が相続しものとみなされますので、この相続人と任意売却の交渉をすることになります。

(2) 相続人全員が相続放棄の申述をしていた場合、任意売却を進める手だてとしては、被相続人の住所地の家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申立し、家庭裁判所から選任された相続財産管理人と任意売却の交渉をすることになります。

 なお、相続財産管理人の選任を申立てることができるのは、「利害関係人」に限られますが、被相続人の債権者(抵当権者)はこれに該当します。

(3) 以上が任意売却をする場合ですが、債務者(被相続人)が死亡した後に当該不動産を競売する場合も同様です。相続財産管理人を相手に競売を申し立てます。

  

2 質問2に対して

(1)抵当権者が不動産を売却して債権を回収する手段としては、競売と任意売却の2種類があります。

任意売却は、債務者(不動産の所有者)、抵当権者(後順位抵当権者を含む)の同意を得て不動産を売却し、売却代金を債権の弁済にあてるというものです。

  後順位抵当権者には、通常判子代といって登記抹消同意料を支払って抵当権設定登記を抹消してもらいます。判子代は通常10万から100万で、この判子代をめぐって後順位担保権者と交渉をします。 

 この他に、債務者が税金の滞納をしており差押え登記がされている場合は、税務署や市役所の納税課等との間で差押えを取り下げてもらう代わりにいくら弁済するのかをめぐって交渉が必要になります。

(2)任意売却のメリット

(ア)任意売却は、債権者(抵当権者)にとっては以下のメリットがあります。

① 競売より高く売れること

競売の場合、時価の7割程度の金額が最低売却価格となります。

そして、競売の場合、競落人(買主)は建物の中を見れないので、一般に時価よりも低い価格(最低売却価格+α)でしか競落されません。

② 短期間で売却し債権回収ができること

任意売却の場合、関係者の合意が得られれば、その時点で売却で債権の回収ができます。

しかし、競売の場合には、手続き終了まで早くて1年から2年もかかってしまいます。

(イ)他方、不動産購入者にとっても以下のメリットがあります。

① 希望物件を確実に取得できること

競売の場合、第三者に落札される危険もあります。また、建物の中を見れないので、建物の傷み具合などは分からないまま落札しなければなりません。

② ローンが組みやすいこと

競売の場合、金融機関によってはローンが組めない場合があります。

任意売却の場合は、この点でも安心です。

③ 建物から債務者が任意に退去することを期待できること

競売の場合、債務者が建物から任意に退去しない場合があります。

このような場合、手続きが長期化することはもちろん、競落後、購入者は、決して安くない費用をかけて債務者を強制的に退去させる手続きをしなくてはなりません。

任意売却の場合、債務者(所有者)も不動産の売却に納得済みですから、任意に退去することが期待できます。また。これを条件に売買契約を結ぶことも可能です。

(3)任意売却のデメリット

以上のようにメリットは大きい任意売却ですが、債務者や後順位抵当権者、差押えをした租税機関等の同意が得られることが必要条件ですので、後順位抵当権者や国税等が頑強に任意売却に同意しない場合には、競売に移らざるを得ません。競売になれば一銭も得られないはずの後順位抵当権者や国税等ですが、この点を強調しても、任意売却にそう簡単には応じてくれません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.11.18更新

抵当権者による賃料債権に対する物上代位

 

 

第1 問題の所在

抵当権は抵当目的物の交換価値(担保価値)を把握する権利ですから、何らかの理由により目的物の交換価値が現実化した場合、この価値代替物にも効力を及ぼすのが妥当です。このように、抵当権者が、目的物の滅失・毀損等によって債務者が受けるべき金銭その他の物から優先弁済を受けることを物上代位といいます(民法372条、304条)。

ところで、近時の不動産不況下においては、抵当不動産の競売によるよりも、抵当権設定者が抵当不動産を第三者に賃貸している場合の賃料債権に対して物上代位権を行使することによって債権の回収を図る方が簡便であることから、抵当権者が賃料債権に対して物上代位権を行使する例が増加しています。

しかし、賃料は、抵当不動産の法定果実であって、目的物の滅失・毀損によって債務者が受ける金銭等の価値代替物とは性質が異なり、物上代位の対象になるのかどうか問題とされてきました。

第2 賃料に対する物上代位

1.学説

この点、学説上は、物上代位権の法的性質をどう考えるかと関連して、賃料に対する物上代位を肯定する見解と否定する見解とが争われてきました。

肯定説は、抵当権の効力は交換価値の現実化した物にも当然に及ぶとの理解に立って、不動産の交換価値の「なし崩し的現実化」である賃料にも及ぶべきであると主張しました。304条が、賃料についても規定しているし、実質的にも、抵当不動産を競売するより、賃料から債権の満足を得る方が関係者の利益にも合致するというのです。

他方、否定説は、物上代位権は抵当権者保護のために認められた特権であり、あまり拡張的に認めるべきではないという理解に立って、目的物使用の対価である賃料に対する物上代位を認めると、抵当権設定者の使用収益権(賃貸権限)を害するので、認めるべきでないと主張しました。

2.判例

このような状況下で、最高裁判所は、平成元年10月27日に、賃料債権に対する抵当権の物上代位を認めても抵当権設定者の使用収益権を害さないと述べて、これを全面的に肯定する判決を下したのです。

第3 その後の動向

1 この判例が出てから、先に述べたように不動産価格の低落に伴い、抵当権者が賃料債権に対して物上代位権を行使する事例が急増することになりました。

しかし、他方で、抵当権設定者側の自衛手段として、物上代位を妨害するような行為も多発することになったのです。

2.賃料債権の譲渡

抵当不動産の所有者(賃貸人)が抵当権者による賃料債権の差押前に賃料債権を第三者に包括的に譲渡してしまうということがあります。抵当権者が物上代位権を行使するためには被代位債権をその「払渡し又は引渡し前に」差し押さえる必要があります。

この場合、賃料債権の譲渡が「払渡し又は引渡し」に該当するかどうかが問題となります(該当すれば、それに遅れた物上代位は認められないことになります)。

この点、学説上は見解が対立していましたが、最高裁判所は、平成10年1月30日、債権譲渡は「払戻し又は引渡し」には該当せず、抵当権者は、賃料債権が譲渡されても、賃借人が賃料を譲受人に支払ってしまわない限り、これに対して物上代位権を行使できるという判決を下しました。

3.賃料債権と賃借人の債権との相殺

次に、抵当不動産の賃借人が、抵当権の物上代位により差し押さえられた賃料債権と自己の賃貸人に対して有する一般債権とを相殺してしまうという事例が問題となりました。

物上代位による債権回収の利益と相殺による期待利益のいずれを優先させるべきかは困難な問題であり、下級審の判断も分かれていました。

この点、平成13年3月13日の最高裁判決は、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているから、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差押えた後は、賃借人は抵当権設定登記後に賃貸人に対して取得した債権と賃料債権との相殺をもって抵当権者に対抗できないとして、物上代位を優先させる判決を下しました。

4.転貸賃料債権に対する物上代位の可否

このように判例を見てくると、抵当権者による物上代位の範囲がかなり拡大される傾向にあるように思えます。しかし、次の判例では、物上代位の拡大傾向にやや絞りがかけられているようにも見受けられます。

最高裁決定平成12年4月14日の事案は、抵当権設定者が抵当不動産を賃貸し、賃借人が更にそれを転借人に転貸したところ、抵当権者が賃借人(転貸人)の転貸賃料債権に対して物上代位権を行使したというものです。

転貸賃料債権に対する物上代位の可否については下級審・学説上争われてきましたが、最高裁は、抵当不動産の賃借人(転貸人)はその不動産について物的責任を負う者ではないから自己の賃料債権を抵当権者に供すべきいわれはなく、転貸賃料債権を物上代位の対象とすると賃借人の利益を害するという理由で、抵当権者の転貸賃料債権に対する物上代位を認めませんでした。

このように、判例は、物上代位にも限界があることを認めて賃借人を保護したのですが、もちろん、物上代位を回避するために転貸借を仮装して、賃料債権に対する物上代位の実効性を失わせるという事態までが許される訳ではありません。上記最高裁決定も、「抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合」には物上代位権を行使する余地を残すという安全弁を付けている点には注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.11.11更新

賃料自動改定特約(その1)

 

 

1 賃料自動改定特約

 賃貸借契約の中で、賃料が自動的に改定されるという趣旨の特約が定められていることがあります。特にバブルの時期には、このような特約が定められたことがよくありました。特約のタイプとしては

①物価変動自動改定特約

②定額自動改定特約

③定率自動改定特約

④路線価変動自動改定特約

⑤固定資産税変動自動改定特約

などが挙げられます。

 このような特約は借地借家法第11条・32条(旧借地法第12条・旧借家法第7条)との関係で無効ではないかという問題が生じます。と申しますのは、これらの規定は賃料増減額の要件を定めたもので強行規定(規定違反の行為の効力を失わせる規定)と解されているところ、特約は、賃料増額の要件を定めた法の趣旨を没するものとも考えられるからです。

2 裁判例

 賃料自動改定特約についての裁判所の考え方はどの様なものでしょうか。

 裁判所は、自動改定特約だからといって当然に無効とはせずに、当該特約を個々の事例にあてはめた結果、賃借人に著しく不利益であるなどという特段の事情がない限り特約は有効と考えている様です。

 この様に特約の効力は「当該賃借人に著しく不利益かどうか」という個々の事情により判断されますので、特約を定めるにあたり、借地借家法11条32条の趣旨に反しないように工夫する必要があります。少なくとも、値上げ後の賃料が近隣相場に比べて相当に高くなってしまうという様な特約は避けるべきでしょう。

 最高裁判所昭和44年9月25日は「固定資産税変動自動改定特約」について、特約条項としては有効であると認めつつ、「当事者の意思は、契約当時存在した事情と著しく異なる場合にも、その基準によるという意思ではない」として、特約の適用を制限しました。右の裁判例は、「賃料」の相当性を判断する際に、個々の事案において「具体的に考える」という裁判所の基本的姿勢を示したものと思われます。

  裁判所は、バブルの時期に定めた基準を機械的に当てはめることはせず、契約で定めた基準を適用して妥当なものについて、自動改訂条項を認めているものと言えるでしょう。

  したがって、このような賃料の自動改訂条項があっても、新賃料が著しく高額となり妥当とは思われないような場合は、貸主と交渉をしてみる必要があるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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