弁護士 秋山亘のコラム

2016.11.21更新

預金債権と相続

(質問)
1 夫Aが亡くなり遺産相続をしなければなりません。私達には子がおらず、夫の両親も亡くなっています。このような場合、遺産分割協議は、誰と行ったらよいのでしょうか。
 また、私の法定相続分はどのようになるのでしょうか。
2 1の事例で、夫の遺産として残っているものは、銀行の普通預金だけなのですが、相続人が多いため遺産分割協議をするにも長引きそうです。銀行に対し、直接、法定相続人に従った預金の払い戻し請求はできないでしょうか。

(回答)
1 質問1について
 夫婦に子がおらず、亡くなられた夫Aにご両親がいる場合には、妻とご両親が相続人になり、この場合の法定相続分は、3分の2が妻、3分の1がご両親(これをご両親が二人で等分に分けます)となります(民法900条1項2号)。
夫Aのご両親も亡くなられている場合には、夫Aの兄弟姉妹全員が相続人になり、この場合の法定相続分は、4分の3が妻、4分の1が兄弟姉妹(これを兄弟姉妹が等分に分けます)となります(民法900条1項3号)。
なお、兄弟姉妹の中に亡くなられている方がいる場合には、その子全員も相続人になります(ただし、その子が亡くなっている場合にはその孫の相続権まではありません)。
例えば、3人の兄弟の中に亡くなられている方が一人おり、亡くなられた方の子が二人の場合には、その子の法定相続分は1/24=1/4×1/3×1/2となります。
2 質問2について
 最判昭和29年4月8日は、銀行の預金債権について、「金銭債権は分割債権であり、相続開始と共に法律上当然に分割され、各相続人はその相続分に応じる権利を承継する」という立場をとっております。
したがって、上記最高裁判例の立場からすれば、各相続人は、遺産分割協議をせずに、つまり他の相続人の同意がなくても、銀行に対し、自己の法定相続分に関する預金の払い戻し請求が可能です(東京地裁平成18年7月14日金融法務事情1787号54頁)。
しかし、銀行によっては、他の相続人からのクレームを避けたい、紛争に巻き込まれたくないとの考えから、他の相続人全員の同意がないと、法定相続分に関する払い戻しでも応じないという運用をしているところが多くあります。
このような場合には、銀行に対し、法定相続分の払い戻しに関する訴訟を提起し、判決を得た上で、払い戻しを受けることになります。
この訴訟については、前記のように判例もあるところですので、銀行側もほとんど争わずに、早期に勝訴判決を得ることができる場合が多いようです。銀行側としても、訴訟で判決を受けて払い戻しを実施したとすれば、他の相続人からのクレームに対し対処がし易いという考えがあるのでしょう。
そのため、あまりにも相続人が多くいたり、音信不通者がいる、或いは、感情的になってどうしても判子を押したくないという相続人がいるなどの理由で、遺産分割協議が進みそうもないという場合には、弁護士に依頼して銀行に対する訴訟を提起し、判決を得た上で、払い戻しを受けた方が解決が早いと思われます。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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