弁護士 秋山亘のコラム

2018.08.27更新

マンションの管理費等を長期間滞納し続けている悪質な区分所有者を当該マンションから追い出す方法

 

 

(質問)

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしております。私のマンションには3年以上もの長期間に渡りマンションの管理費を滞納し続けている区分所有者がいます。

管理組合では、既に内容証明郵便で支払いを催告してきましたが一向に支払いがなく、その為、弁護士に依頼して管理費の支払いを求め提訴をし、勝訴判決まで得たのですが、その滞納者はそれでも全く支払いに応じません。

裁判を依頼した弁護士の話によると、その滞納者の所有するマンションには既にマンションの時価を大きく上回る抵当権が設定されているため当該マンションの競売をすることもできず、また、滞納者の勤務先も不明であるため、給与の差押えもできないとのことでした。

管理組合としては、このまま滞納が続くことを容認するわけにはいきません。何とかならないでしょうか。

(回答)

 確かに、管理費の支払いを求め判決を得たとしても、滞納者に資産がなければ、差押えをすることができません。

 前記のように、滞納者のマンションに時価相当額以上の抵当権が設定されている場合、管理組合が、通常の管理費の支払いを命ずる判決に基づき競売申立をしても、「競売代金は全て抵当権者に配当され管理組合には配当されないのだから、管理組合には、抵当権者が競売する意思がないのに、これを請求する権限がない」という理由で、管理組合の競売申立は裁判所によって却下されてしまいます(これを民事執行法63条の「無剰余却下」といいます)。また、滞納者が年金暮らしであり勤務していない場合や行方不明その他の理由で勤務先が不明である場合には、勤務先の給与を差し押さえることはできません。滞納者の預金の差押えについても、どこの銀行のどこの支店に預金があるかを管理組合の方で特定しなければ差押えができませんし、仮に、預金口座が分かったとしても、このような滞納者にはお金がなく殆ど預金が残っていないのが通常です。

 では、このような場合、管理組合としては、管理費の滞納が日々膨らんでいくのを黙って待つしかないのでしょうか。

このような場合、区分所有法59条に基づく競売請求の裁判を提起することをお勧めします。

この59条の競売請求の裁判とは、ある区分所有者が当該マンションの共同の利益に著しく害する行為をした場合、管理組合は、その区分所有者に対してその者が所有する区分所有建物の競売を請求することができるという規定です。

本件のように長期間に亘り、管理費の滞納をしており、判決を得ても、支払いに応じないと言うケースでは、管理費等の長期滞納が共同の利益に著しく害する行為をした場合に当たりますので、59条に基づく競売請求が可能です。

そして、この59条に基づく競売請求裁判のメリットは、たとえ当該マンションの時価を超える抵当権が設定されている場合にも、前記の無剰余却下の適用がなく、競売を実施できると言う点です(東京高決平成16年5月20日)。

ただし、この59条の裁判をするには、管理組合は総会を開き、全区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成を得なければなりません。

59条により競売が実施された場合、その競売代金は、第1に、手続き費用としての管理組合が収めた予納金の返還に、第2に、抵当権者に配当され、当該競売代金からは管理費等の支払いは受けられません。

しかし、新所有者に代われば、その新所有者が旧所有者の管理費等の支払い義務を承継します。新所有者は、通常は、新たにマンションを購入するなど資力に問題がない正常な入居者がなりますので、請求をすればこれを支払ってくるのが通常です。

このようにして、59条の競売請求を利用すれば、不良入居者を追い出すことができ、新所有者のもと以後の管理費滞納で頭を悩ますことがなくなり、これと共に、以前の旧所有者の滞納管理費についても回収できることになります。

もっとも、前記のように管理組合から競売を請求するというのではなく、抵当権者が滞納者のマンションを競売に出すのを待つという方法もあります。確かに、これにより新所有者に代われば、費用をかけることなく、新所有者から区分所有法8条により滞納管理費の回収を図ることができるでしょう。しかし、抵当権者は、いつ競売を申立てくれるか分かりません。また、抵当権者は、通常、滞納者に対し競売を盾にしてローンの支払いを求めていますので、滞納者が抵当権者に対しローンの支払いを続けている限りにおいては、抵当権者は競売申立をしないでしょう。この間、抵当権者が競売を申し立てるか否か、申し立てるとして何年かかるか分からないのに、そのような不真面目な滞納者を居住させ続けていたのでは、真面目に毎月管理費を納めている他の区分所有者は納得しないでしょうから、その意味でも、前記59条の競売請求の裁判は意義があると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.08.20更新

マンションにおける店舗としての利用

 

<質問>

(1)私のマンションでは、管理規約において「専有部分を営業のために使用できない」との規定があります。

しかし、ある区分所有者がマンションの一室を利用して宅配料理の営業を始めました。

宅配業であっても、マンションの一室で料理店を開くとなると、衛生上問題でありますし、夏場などはゴキブリなどの害虫も増えるとして、住民間では問題になっております。

このような場合、管理組合としてはどのような対処ができるのでしょうか。

(2) 私のマンションでは、管理規約において、「専有部分を事務所として使用することを禁止する」との規約が存在します。

 しかし、この管理規約は、現在では有名無実化しており、半数近くの区分所有者が専有部分を事務所として使用しており、私もここ5年以上の間、会社の事務所として使用しています。

 ところが、ある理事会の席で、私とある区分所有者が不仲になり、それを切欠に、その区分所有者から、私が専有部分を事務所として使用している点を捉えて「管理規約に違反することから、専有部分を事務所として利用するな」と執拗に迫られるようになりました。また、近く管理組合の総会で、専有部分を事務所として使用するのを差し止める裁判を提起することが決議される状況です。

 このような場合でも、事務所としての使用差し止めは認められるのでしょうか。

 

<回答>

1 質問(1)について

(1)マンションの管理規約に、「専有部分を営業のために使用できない」「専有部分は住居としての利用に限定する」「専有部分を事務所に使用することはできない」と定めがある場合には、そのような管理規約も有効です。

 そして、上記のような規約違反の行為によって、他の区分所有者に悪影響を及ぼし、区分所有者の共同の利益にも反すると言える場合には、管理組合(原告となるのは区分所有法上の「管理者」である管理組合の理事長個人)は、総会の決議を経た上で、区分所有法57条1項に基づき、共同の利益に反する行為の差止めを請求することができます。

(2)本件でも、マンションの一室で宅配料理業を開業する行為は、「専有部分を営業のために使用できない」という管理規約に違反する行為であり、また、マンションの一室で料理店を開くとなると、衛生上問題が生じるほか、夏場などはゴキブリなどの害虫も増える恐れがあることから、共同の利益に反する行為と言えます。

 したがって、裁判を提起すれば、専有部分を宅配業として使用するのを差し止める請求は認められるでしょう。

なお、勝訴判決を経たにもかかわらず、相手方が判決に従わず営業を継続した場合には、「相手方が営業を辞めるまで一日当たり○○円の損害金を管理組合に支払う」ことを命ずる間接強制の申立が可能です。

(3)このように裁判によって最終的に解決することも可能ですが、できれば、訴訟に至る前に相手方において自ら営業を辞めるようにして欲しいものです。

このように、紛争解決のために裁判の提起まで要するのを事前に予防するためには、管理規約において「管理組合の警告にもかかわらず、違反行為を辞めない場合には一日当たり○○円の違約金を支払う」という条項を入れておくことをお勧めします。

金銭という明確な形で違約金が発生することを明記しておけば、相手方も営業を辞めるのに時間をかければかけただけ違約金の金額が増える訳ですから、任意に営業を辞める可能性が高くなります。

2 質問(2)について

  管理規約における事務所禁止条項が事実上有名無実化しながら、管理組合がこれに対し、警告等の措置を講じず、長年放置していたという場合で、事務所としての利用によって著しい支障が生じていない場合には、管理組合の使用差し止めの訴えは、権利の濫用にあたるとして棄却される場合もあります。

裁判例としても、東京地判平成17年6月27日判例タイムズ1205-207)は、管理規約に違反してエステティックサロンとして専有部分を使用していた事例において、「原告が、住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し、かつ、現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら、他方で、事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ、特に合理的な理由もなく、しかも、多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により、被告に対して、治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は、クリーン・ハンズの原則に反し,権利の濫用といわざるを得ない。」と判示しております。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.08.13更新

品確法と瑕疵担保責任

 

<質問>

ある不動産業者から新築の建売住宅を購入しました。購入して4年が経過しましたが、屋根裏から雨漏りがし出して、補修をしなければならなくなりました。そこで、補修費用を売主の不動産業者に請求したのですが、売買契約書では、瑕疵担保責任の期間を2年間に限定しているとして取り合ってもらえません。何とかならないでしょうか。

 

<回答>

1 民法の一般原則になりますと、契約書に特に記載のない場合には瑕疵担保責任の期間は、買主が瑕疵の存在を知らなかった時は瑕疵を知った時から1年以内、買主が知っていたときは契約の時から1年以内に行使しなければなりません(民法564条)。 

また、売主が瑕疵の存在を知っていながら告げなかった場合を除いて、売買契約書等において売主の瑕疵担保責任の期間を例えば2年間などに限定する或いは免除することも可能です(民法572条)。

 しかし、通常、建物における瑕疵の存在が明らかになるのは、契約して実際に住んでみた時から数年経ってからです。例えば、建物の引き渡し時から4年が経過して雨漏りが発生したという場合でも、建物は通常20年以上の長期に渡り、住居として使用可能な耐久性を持つことを前提に建てられるものですので、4年で雨漏りがしたということ自体からして、建物の建築時から何らかの瑕疵があったものと考えられます。そのため、契約書において瑕疵担保責任の期間を2年間と限定すること自体が不当と言えます。

2 そこで、平成12年4月1に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)では、新築住宅における以下の部位の瑕疵担保責任の期間を引き渡し時から10年間と法定しました(品確法94、95条)。

①構造耐力上主要な部分(柱、梁、耐力壁、基礎、地盤、土台等の構造躯体)

②雨水の浸入を防止する部分(外壁や屋根の仕上、下地、開口部等) 

これにより、たとえ売買契約書(新築建売住宅の場合)や請負契約書(新築住宅の発注の場合)において、瑕疵担保責任の期間を契約時から2年間と定めても無効であり、最低10年間は瑕疵担保責任を負うことになります。

なお、上記の「新築住宅」とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもので、かつ、新築されてから1年以内のものをいいます。

したがって、一旦人が住んだことのある中古住宅、また、不動産業者からの新築建売住宅の購入の場合でも建物の完成時から1年以上の間売れ残っていた物件は、品確法による保護を受けられないため注意が必要です。

3 本件は、品確法による保護が受けられる筈ですので、品確法95条に基づき、瑕疵担保責任として建物の補修費用の請求が出来ると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.08.06更新

借家人が死亡した場合の法律関係

 

 

<質問>

1 私は、マンションの一室をAさんに賃貸しておりましたが、Aさんが亡くなり、5ヶ月が経過しますが、Aさんが亡くなってからずっと賃料の滞納が続いております。賃料滞納を理由とする契約解除の通知を出そうと思っておりますが、解除通知は、Aさんと同居していた息子さんで、Aさんが亡くなった後にも本件建物に住んでいるBさんに通知すればよいでしょうか。Aさんには、Bさん以外にも息子が2人いると聞いており、まだ、Aさんの遺産分割協議も行われていないと聞いております。

2(1) 私は、マンションの一室に内縁の夫と共に10年近く住んでおりますが、内縁の夫がこの度なくなりました。賃貸人からは私には借家権はないとして立ち退きを求められているのですが、立ち退きに応じなければならないのでしょうか。なお、内縁の夫には他に相続人がいません。

(2) (1)の事例で、夫には養子がいて、その養子Bから夫の借家権に基く立ち退きを求められている場合は、どうでしょうか。

夫と養子Bは、もう10年くらい不仲で、交流がなく、養子Bとの離縁調停の最中に夫がなくなりました。養子Bは私には経済力がなく、単身で新たに住むところを探すとなると大変な出費になります。

<回答>

1 質問1の回答

 借家権も相続財産の一つと考えられておりますが、相続が始まると遺産分割協議によって相続財産の帰属者が決まるまでは、相続人全員で相続財産を共有しているものとみなされます(民法898条)。

 したがって、このような場合、賃貸借契約の解除の前提となる賃料支払の催告通知・解除通知は、相続人全員に対して行わなければならず、一部の相続人に対して催告通知・解除通知を出しても解除は認められません(民法544条、東京高判昭和36年6月26日・東京高判決時12-6-135)。

 したがって、本件ではAさんの戸籍謄本を取り寄せるなどしてAさんの相続人を調査した上で、その相続人全員に催告通知・解除通知を出さなければなりません。

 なお、Aさんの遺産分割協議によって、本件の借家権の相続人が確定した場合には、その者に対してのみ通知を出せば足りますが、その場合には遺産分割協議の提出を求めるなどして本件の借家権の相続人が確定していることを確認する必要があります。

2 質問2(1)の回答

 内縁の妻には、相続権がないのが原則です。したがって、内縁の妻というだけでは、内縁の夫が所有する不動産や預貯金の相続権はありません。

 しかし、借地借家法36条は、借家に従前から同居している内縁の妻又は養子について、死亡した元賃借人に他の相続人がいない場合には、借家権を相続する旨が定められております。

 したがって、本問の事例では借地借家法36条に基き、借家権の相続を主張できます。

3 質問2(2)の回答

 本問の場合には、他に相続人となる養子Bがおりますので、借地借家法36条では保護されず、借家権を相続した養子Bからの請求に対抗できないように思えます。

 しかし、最判昭和39年10月13日(判時393-20)は、設問と類似の事例で、養子Bからの請求は、権利の濫用に当たり許されないと判断しました。

 裁判所は、①相続人Bと被相続人の生前の関係、②相続人Bの借家の使用を必要とする事情、③借家から追い出される内縁の妻の生活状況などを考慮して、養子Bからの明け渡し請求を権利の濫用(民法1条3項)として許さなかったものです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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