弁護士 秋山亘のコラム

2017.07.31更新

普通借家から定期借家への切り替えの可否

 

<質問> 

 私は、賃貸用マンションのオーナーをしておりますが、この度、将来の立ち退き請求がスムーズに進むように、現在借家人と結んでいる普通借家契約を「定期借家契約」に切り替えることを検討しております。

このような事は可能なのでしょうか。

 

<回答>

 (1) 平成12年3月1日以前に締結された居住用建物の普通借家を定期借家へ切り替えることは現在のところ不可

 居住用の建物について、平成12年3月1日以前から賃貸借契約を締結している場合、「当分の間」は定期借家契約に切り替えることはできません(改正法附則3条)。

 この「当分の間」の解除時期については、附則では明記されておりませんが、居住用建物の定期借家への切り替えの可否については改正法施行後4年の平成18年を目処に見直すことにされておりました。しかし、現在のところ見直しはされておりません。

 この点に関しては、全国宅地建物取引業協議会は、定期借家法の見直しの年として予定されていた平成18年6月に居住用建物の定期借家への切り替えの解除に向けた要望書を国に提出しておりますが未だ実現に至っておりません。

 したがって、現在のところ、平成12年3月1日以前に締結された居住用建物の普通借家を定期借家へ切り替えることは出来ません。

 なお、平成12年3月1日以降に締結された普通借家を定期借家に切り替えることは可能です。

(2) 居住用を除く事業用建物の定期借家に関しては普通借家から定期借家への 切り替えは可能

 居住用以外の建物(事業用)に関しては、従来の借家契約を一旦合意解除して、新たに定期借家契約を締結することは可能です。

なお、この再度の契約もやはり定期借家契約ですので、新規の定期借家契約を締結する際の手続きと同じ手続きが必要となります。具体的には、公正証書等の書面による契約の締結と更新がなく期間満了により契約が終了する旨の口頭及び書面による説明が必要となります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.24更新

民法が定める短期消滅時効

<質問>

 民法には、1年~3年というごく短い期間で時効になってしまう債権があると聞きますが、どのような債権がこれにあたるのでしょうか。


<回答>


1 民法上の債権の時効期間は原則10年です。商人(会社)との取引上の債権については5年が原則となっています。
 しかし、民法170条~174条では、これよりも特に1年から3年という短い期間で時効になる債権を挙げています。うっかりこの期間を経過するまで、取り立てもせず、訴訟も起こさないと時効によって債権が消滅してしまいますので、注意が必要です。
 以下、日常生活でよく問題になりそうなものについて、具体例をあげていきたいと思います(ただし、下記の例に限定されるものではありませんので、詳しく知りたい方は専門家にご相談ください)。
2 1年の短期消滅時効とされている債権(民法174条)
 飲食店やホテルの宿泊代金、運送料、レンタルビデオ・レンタルCD・貸本・貸ふとんなどの貸出料(レンタル料)、個人が短期間に借りるレンタカー料金などです。
 なお、同条1号では、労働者の賃金が挙げられているが、これについては労働基準法において時効期間が2年とされているため、1年の短期消滅時効の適用はありません。
また、同条5号では「動産の損料」、すなわち動産の賃料(レンタル料)が挙げられていますが、最高裁昭和46年11月19日判決(最高裁判判例解説民事編昭和46年度530頁)は、「民法一七四条五号にいう「動産ノ損料」とは、貸寝具、貸衣裳、貸本、貸葬具、あるいは貸ボート等のような極めて短期の動産賃貸借に基づく賃料をいうものと解するのが相当である。けだし、このような賃料は、極めて短期に決済され、その弁済につき領収書を授受しないのを通常とするため、特に短期の時効に服せしめてその権利関係を短期に決着させることにより、将来の紛争を防止する要があるのであつて、同条同号の法意はこのように解すべきものと考えられるからである。」と判示して、営業のために、数カ月にわたり借り入れられたショベルドーザーの賃料債権には民法174条5号は適用されず、通常の商事事項(5年)が適用されるとしております。したがって、業務用機器に関するある程度長期にわたるレンタル取引のレンタル料金などには、1年の短期消滅時効は適用ありません。
3 2年の短期消滅時効とされている債権(民法172条、同法173条)
 生産者、卸売商人及び小売商人から購入した物品の売買代金、理髪代、クリーニング代、学習塾などの月謝、弁護士報酬などです。
 とくに、物品の売買代金については、2年の短期時効なのに5年の商事時効が適用されるとの誤解により、時効が完成してしまっているケースが比較的多いため要注意です。
4 3年の短期消滅時効とされる債権(民法170条)
 医療費や工事に関する債権などです。
5 5年の消滅時効とされている債権(民法169条)
 以上のほかにも、賃貸借契約上の賃料、マンションの管理費・修繕積立金等については「定期給付債権」(一か月間につき○○円などの方法で支払う旨が定められている債権)といって、民法169条に基づき5年の時効期間とされています。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.18更新

借家人が死亡した場合の法律関係

 

<質問>

1 私は、マンションの一室をAさんに賃貸しておりましたが、Aさんが亡くなり、5ヶ月が経過しますが、Aさんが亡くなってからずっと賃料の滞納が続いております。賃料滞納を理由とする契約解除の通知を出そうと思っておりますが、解除通知は、Aさんと同居していた息子さんで、Aさんが亡くなった後にも本件建物に住んでいるBさんに通知すればよいでしょうか。Aさんには、Bさん以外にも息子が2人いると聞いており、まだ、Aさんの遺産分割協議も行われていないと聞いております。

2(1) 私は、マンションの一室に内縁の夫と共に10年近く住んでおりますが、内縁の夫がこの度なくなりました。賃貸人からは私には借家権はないとして立ち退きを求められているのですが、立ち退きに応じなければならないのでしょうか。なお、内縁の夫には他に相続人がいません。

(2) (1)の事例で、夫には養子がいて、その養子Bから夫の借家権に基く立ち退きを求められている場合は、どうでしょうか。

夫と養子Bは、もう10年くらい不仲で、交流がなく、養子Bとの離縁調停の最中に夫がなくなりました。養子Bは私には経済力がなく、単身で新たに住むところを探すとなると大変な出費になります。

<回答>

1 質問1の回答

 借家権も相続財産の一つと考えられておりますが、相続が始まると遺産分割協議によって相続財産の帰属者が決まるまでは、相続人全員で相続財産を共有しているものとみなされます(民法898条)。

 したがって、このような場合、賃貸借契約の解除の前提となる賃料支払の催告通知・解除通知は、相続人全員に対して行わなければならず、一部の相続人に対して催告通知・解除通知を出しても解除は認められません(民法544条、東京高判昭和36年6月26日・東京高判決時12-6-135)。

 したがって、本件ではAさんの戸籍謄本を取り寄せるなどしてAさんの相続人を調査した上で、その相続人全員に催告通知・解除通知を出さなければなりません。

 なお、Aさんの遺産分割協議によって、本件の借家権の相続人が確定した場合には、その者に対してのみ通知を出せば足りますが、その場合には遺産分割協議の提出を求めるなどして本件の借家権の相続人が確定していることを確認する必要があります。

2 質問2(1)の回答

 内縁の妻には、相続権がないのが原則です。したがって、内縁の妻というだけでは、内縁の夫が所有する不動産や預貯金の相続権はありません。

 しかし、借地借家法36条は、借家に従前から同居している内縁の妻又は養子について、死亡した元賃借人に他の相続人がいない場合には、借家権を相続する旨が定められております。

 したがって、本問の事例では借地借家法36条に基き、借家権の相続を主張できます。

3 質問2(2)の回答

 本問の場合には、他に相続人となる養子Bがおりますので、借地借家法36条では保護されず、借家権を相続した養子Bからの請求に対抗できないように思えます。

 しかし、最判昭和39年10月13日(判時393-20)は、設問と類似の事例で、養子Bからの請求は、権利の濫用に当たり許されないと判断しました。

 裁判所は、①相続人Bと被相続人の生前の関係、②相続人Bの借家の使用を必要とする事情、③借家から追い出される内縁の妻の生活状況などを考慮して、養子Bからの明け渡し請求を権利の濫用(民法1条3項)として許さなかったものです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.10更新

店舗賃貸借契約の中途解約と権利金の返還

 

<質問>

契約期間4年の店舗賃貸借契約を結ぶ際、かなり高額の権利金を支払いました。しかし、事業が思うようにいかなくなったため、賃貸借契約書における中途解約の条項に従い2年間の使用後に契約を解約しました(契約書では解約予告期間が半年前となっておりましたので、半年前に解約予告の通知をしました)。

このような場合、借家人は賃貸人に対し権利金の一部を返還請求することはできるのでしょうか。

 

<回答>

1 権利金の法的性質 

この問題を検討する前提として、権利金の法的性質について検討しておきたいと思います。

権利金の法的性質については、①営業上の利益の対価とする見解、②賃料の一部の一括前払いとする見解、③賃借権そのものの対価とする見解、④場所的利益に対する対価と見解、⑤上記①から④のいずれの性質も有するとする見解、などに分かれております。

いずれの見解も一長一短ですので、当該物件の場所的環境や契約締結の経緯など具体的事情に照らして、①から⑤のいずれの性質かを判断する必要があると思います。

2 賃貸借契約の途中解約と権利金の返還請求

(1) 契約期間満了による終了の場合

権利金は、通常は、契約期間の満了により賃貸借契約が終了した場合には返還されない(すなわち貸主が権利金の全額を取得する)ことを予想して交付される金銭です。

したがって、特別の合意が存在しない限り、賃貸借契約が「期間満了」により終了した場合には、借家人が権利金の返還を求めることはできません。

(2) 契約期間の定めがある場合に中途解約がなされた場合

契約期間の定めのある場合には、その契約期間内は賃借物件を使用・収益することを前提として権利金の額が定められているのが通常であり、契約当事者の合理的意思だと考えられます。このことは、前記の権利金の性質に関する①ないし⑤のどの考え方に従っても同様の事だと思われます。

したがって、そのような契約期間の途中に賃貸借契約が終了した場合には、借家人は、権利金を支払った分をいまだ十分に利用することができなかったものであり、他方、賃貸人側は権利金の全額を受領するに足る十分な期間借家人に対し賃借物件を利用させていないのですから、未経過の契約期間に相当する権利金については、返金を認められても、損失はなく、むしろ返金を認めるのが公平と言えます。また、中途解約による貸主の損失についても、相当な解約予告期間を設けるなどして損失を回避することも可能です。

したがって、下級審の裁判例(東京地判昭42・5・29判時497・49等)の多くは、権利金の性質が、営業ないし営業上の利益の対価であれ、場所的利益に対する対価であれ、賃料の一部の一括払いの性質であれ、その他であれ、賃借期間と残存期間とを按分比して、不当利得として残存期間分に相応する金銭の返還請求を認めております。これは、借家人の都合による合意解約の場合や中途解約条項に基づく中途解約の場合にも認められます。

また、借家人の債務不履行による契約解除の場合など賃借人が自ら招いた契約解除でも、権利金の返金が認められるかについて争われた事案でも、裁判例(東京高判昭29・12・6東高民時報5・13・298)は、契約解除の原因はともあれ、賃借期間を十分利用することができなかったことには代わりはないとして、やはり、残存期間に相応する分の権利金の返還を認めております。もっとも、借家人の債務不履行による契約解除によって賃貸人が受けた損害とは差引きされますので、この点には留意が必要です。

以上のように、契約期間が満了する前に契約が中途解約された場合には、未経過の契約期間に按分して権利金の一部の返金が認められるというのが裁判例ですので、本件でも権利金のうち2分の1相当額の返金を求めることが出来ると考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.03更新

借地権の相続の法律問題

 

<質問>

 父は、10年前から土地を借りて、借地上に店舗を建設し、洋品店を経営しておりました。しかし、昨年急逝したため、父の店は、相続人である私が引き継いで、経営を引き継ぐことになりました。そこで、地主に挨拶に行ったところ、借地契約の名義書換をしてくれなければ困ると言われ、名義書換料として地代の1年分を請求されました。

    地主が言うように名義書換料の支払いに応じなければならないのでしょうか?
 (1)の事例で、借地契約には「当該借地契約は借地人一代一限りで失効する」という特約が付されていました。

     この場合、借地契約は上記特約により終了するのでしょうか?

<回答>

(1) 賃借権の相続と名義書換料支払いの必要性

借地人が死亡した場合、相続が開始し、借地権はその時から当然に相続人に移転します(民法882条・896条)。

この場合、賃借権だけでなく、これに付随する一切の賃貸借上の権利義務関係ないし地位が相続人に移りますから、地主と借地人との契約関係も法律上当然に相続人に承継されます。

 そして、借地権の相続によって、その権利の持ち主の名義に変更が生じますが、この名義の変更は、賃借権の第三者への譲渡等とは異なり、地主の承諾を得る必要がなく、法律上当然に生ずるものです。

したがって、賃借権の名義変更による承諾料としての名義書換料を支払う必要はありません。

実際上、本問のように地主から賃貸借契約の名義書換や更新の申出を受けることもあります。

名義書換をしておいた方が権利関係を明確にするという意味では望ましいことですが、従前の借地契約が法律上当然に承継されますので、多額の名義書換料を支払ってまでして名義書換をする必要性は余りないのではないかと思われます。

(2) 契約期間を「一代限り」とする特約の効力

 「賃借人が死亡したときには契約が終了し土地を明け渡す」旨のいわゆる賃借人一代限りの特約を結ぶ例もまれに見受けられます。この特約の法的性質は、不確定期限を付した合意解除契約といえます。

しかし、借地借家法(旧借地法)では、法の定める借地権の存続期間(借地借家法では30年)に反する特約は、無効とされています(借地借家法3条、9条)。賃借人一代限りとする特約は、借地契約後30年未満に賃借人が亡くなった場合にはその時点で賃貸借契約の期間が満了するという特約ですので、借地権の存続期間を最低でも30年とする借地借家法の規定に反することになります。

この点、裁判例(東京高判昭48・11・28/判時726・44)においても、賃借人一代限りとする特約は、借地法の定める存続期間に反する結果となり、借地人に不利なものとして無効である判示しています。

したがって、本件でもこのような特約は原則として無効と理解してよいと考えられます。

そして、この場合の存続期間は、期限の定めのない借地契約ということになるため、借地借家法3条の定める存続期間である30年と見なされることになります(最判昭44年11月26日/民集23・11・2221)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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