弁護士 秋山亘のコラム

2017.04.19更新

相続と保険金の受給の法律問題

          
(問)
(1) 私の夫は会社を経営していたのですが、莫大な借金をかかえて亡くなりました。相続財産より借金の方が多いのは明らかなので、相続放棄をしようと思うのですが、相続放棄をすると夫の保険金の受給権までは喪失してしまうのでしょうか。
(2) 父が亡くなったので父の財産(1200万円)を私と兄、弟の3人兄弟で相続することになりました。ところが、保険金の受取人が兄になっていた為、私の兄だけが父の保険金(3000万円)を受給することになりました。しかし、これでは相続人間で兄だけが取りすぎなような気がします。法律的にはどうなのでしょうか。
(答え)
(1)について
 上記のケースでは、保険金の受取人名義が誰になるのかで、結論が異なります。すなわち、保険金受給権それ自体は、相続により承継するものではないので、直ちに相続財産になるわけではありません。相続財産ではなく、受取人の固有の権利ということになれば、相続放棄とは関係なく受け取ることが出来るのです。
① 受取人名義が妻(私)の名義な っている場合
 この場合には、妻の固有の受給権となりますので、相続とは関係ありません。従って、受給できます。
② 受取人名義が「相続人」と書か れている場合                  この場合には、一見、保険金は相続財産として構成され、相続人に相続されるようにも思えます。
 しかし、判例はこの場合にも、保険金受給権者が「相続人」であることを注意的に記載したものにすぎず、保険金は、相続人それぞれが法定相続分に従って受給する固有の受給権であるとしています。
 従って、受給できます。
③ 受取人名義が被保険者名義(死 亡した夫)になっている場合
 この場合には、一旦は夫の財産となり、これを相続したことになります。
 従って、受給できません。
 なお、遺族年金や公務員の死亡給付金が支給される場合についても、これらは相続財産とは関係なく遺族の固有の権利と解されていますので、相続放棄と関係なく受給できます。
(2)について
 (1)で説明しましたように、保険金の受取人名義が特定されている場合はその人の固有の財産になります。従って、兄は相続とは関係なく保険金を受け取ることができます。
 しかし、これではご指摘のように兄にだけが多く取りすぎとなり相続人間で不公平のように思われます。
 そこで、法は「特別受益」の制度を設けました。これは、特定の相続人が生前に被相続人(父)から特別の利益を与えられた場合には、これをその人の法定相続分から差し引きくこと(特別受益分を相続財産に加えて法定相続分を算定し、特別受益者についてはその法定相続分から特別受益分を控除する)で相続人間の平等を図る制度です。
 本件では、保険金がこの特別受益に該当するかが問題になります。裁判例は、これを否定したものと肯定したものと分かれております。また肯定説にたったとしても受益の範囲をどこまでにするのか(死亡時までに父が支払っていた保険料の総額にする説、死亡時の解約返戻金額とする説等)についても見解が分かれています。
 ここでは、仮に、父の死亡時までに父が支払っていた保険料の総額が特別受益とする見解にたち、その金額が300万円だったとします。
 そうすると各相続人の相続分は以下の通りになります。
<通常の法定相続分の場合>
  私、兄、弟の相続分=400万円
  1200÷3=400 
<特別受益を考慮した場合>
  兄の相続分=200万円
 (1200+300)÷3=500
  500-300=200
 私、弟の相続分=500万円
  (1200+300)÷3=500

投稿者: 弁護士 秋山亘

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