弁護士 秋山亘のコラム

2016.03.23更新

交通事故の示談交渉

 

(質問)先週主人が歩行中自動車にはねられるという交通事故にあいました。加害者側の保険会社から示談をしたいという連絡がありましたが、示談交渉の際どのような点に注意したらよいでしょうか。

 なお、主人は、今回の事故で左足を複雑骨折をしたのですが、担当の医者からは、治療をしても左足は思うように動かなくなる可能性があると言われています。

(回答)示談交渉の際に留意すべき点は以下の事項です。

①正当な示談金額

 これは、裁判をした場合に判決で認められる賠償金額にできる限り近い金額で示談ができるかと言う問題です。

 加害者が任意保険に加入している場合には、任意保険会社の社員が示談を代行するのが通常ですが、この場合保険会社が提示する賠償金額は、裁判所で認められる賠償金額に比べて低くなるケースが多いのが現状です。

 特に後遺障害が残った場合の慰謝料金額や逸失利益の金額の場合には裁判所基準と保険会社基準では比較的大きな開きが出てきます。

 しかし、だからといって直ちに裁判をして損害賠償請求をする方がよいとは限りません。示談には、事故被害の早期回復(賠償金を早く受領できる)という大きなメリットもありますし、弁護士を立てて裁判をする場合には相応の弁護士費用がかかります。

 これとの兼ね合いで、賠償金の総額が比較的少な物損事故や軽傷の人身事故の場合はご自分で示談交渉された方がよいかもしれません。逆に、後遺障害が残る傷害の交通事故や死亡事故などの場合は、場合によっては裁判所基準と保険会社基準で数百万円から1千万円単位での違いが出てきますので、お近くの弁護士に相談されて、裁判所基準での示談の交渉をしてもらうか(弁護士が強く交渉すれば保険会社も裁判所基準に近い金額で示談に応じる場合もあります)、それでも示談がまとまらない場合には損害賠償請求の訴訟を提起するのがよいでしょう。保険会社も判決が出ればそれに従うのです。

②示談交渉の時期

 示談交渉の時期は、一般に傷が治って職場復帰が可能になった後になると思われます。その時期にならないと、治療費や休業損害の算定ができないからです。

 また、後遺症が残る可能性がある場合には、担当医から後遺症の診断が出てからになります。それまでは治療に専念してください。なお、後遺障害とは、医学的にこれ以上治療を続けても傷が治らないと認められた状態のことです。

 これ対して、事故直後の混乱期に乗じて示談を迫ってくる者もいますが、これは眉唾ものです。混乱期には冷静な判断ができませんし、一体いくらの賠償金が妥当なのかも分かりません。500万円の札束を目の前に出されたのでその場で示談したが、その後正しい知識に基づいて計算すると正当な賠償金は数千万円にもなったという例もあります。一度示談すると、その後に治療が長引いてもその分の治療費、慰謝料、休業損害などは原則として請求できなくなります。また、判例上は、既に示談をしていてもその後に発覚した後遺症に関しては別途損害賠償ができることになっておりますが、一度示談をしてしまうとこれを争って新たに損害賠償の請求をするのはなかなかに大変です。事故直後に安易に示談に応ずるのは避けた方がよいでしょう。

 但し、どうしても、一時金として賠償金が欲しいと言う場合は、受領した金額は一時金であること、示談金の総額はその後の交渉によること等を明示して賠償金を受け取って下さい。保険会社によっては、一時金の支払いに応じてくれるところもあります。

③損害賠償請求の消滅時効

 交通事故などの不法行為による損害賠償請求は、事故発生時から3年です。後遺症による損害賠償は、後遺症の診断書が出たときから3年です。

 なお、自賠責保険の被害者請求は事故発生時(後遺症の場合は診断書が出たとき)から2年です。

 ただし、時効完成前に治療費の一部の支払いを受ける、交通事故の損害賠償請求権について承認書を書いてもらうなどすれば時効は完成しません。 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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