弁護士 秋山亘のコラム

2016.02.29更新

建物内の自殺と不動産取引

 

1 はじめに

 近年不況に伴い自殺者数が急増しております。また、老化社会に伴い一人住まいのお年寄りの自然死も増えています。

 そこで、今回は、このような物件であることが後に買主に判明した場合に、買主は売買契約を解除し又は損害賠償請求をできるのか、についてご説明したいと思います。

2 買主による契約解除、損害賠償請求の可否

(1)瑕疵担保責任について

 買主が当該物件の売買について解除、損害賠償請求をする場合の法的根拠としては、瑕疵担保責任(民法570条)が考えられます。

 瑕疵担保責任とは、

 ①「瑕疵」(目的物が通常有している性能を欠く状態)が契約成立前から存し、かつ②その「瑕疵」が「隠れたる」(契約時に通常の注意義務を尽くしてもその瑕疵を発見できない場合)ものであるときに、生ずる責任です。例えば、売買目的の建売住宅が欠陥住宅で、かつ売買時にも外見上はその欠陥が分らなかった場合が典型例です。

 責任の内容としては、その瑕疵による目的物の価値の減少分については、損害賠償請求でき、また、瑕疵によって契約の目的を達成できない場合には契約を解除することもできます。

(2)「瑕疵」にあたるか

 本件で問題となるのは、まず、上記欠陥住宅例のような物理的欠陥は誰の目から見ても瑕疵にあたることは明らかですが、本件のような自殺・病死の例については、これを気にしない人もいれば気にする人もいます。そこで、このように人の感じ方によって瑕疵となるか瑕疵とならないかが違ってくるようなケース(「心理的瑕疵」といいます。)でも、瑕疵担保責任の「瑕疵」に該当するのかという点です(なお、ここにいう心理的瑕疵のケースでは、建物での死体の発見が遅れたので建物から死臭が取れない等の「物理的瑕疵」がない場合をいいます。物理的瑕疵については当然「瑕疵」にあたります。)。

 この点、判例は、自殺・殺人事件があったという心理的瑕疵も「瑕疵」にあたり得ると判示しています(ケースバイケースですのでもちろん「瑕疵」にあたらないと判断された場合もあります。)。

他方、単なる自然死、病死については一般に瑕疵にあたらないとしています。

 判例は、「瑕疵」にあたるかの判断基準について、心理的瑕疵の場合は、買主の個人的感情といった主観的事情ではなく、客観的に建物が通常有する「住み心地の良さ」を欠いている状態にあたるかで判断すべきだとしています。そして、建物が通常有する「住み心地の良さ」を欠くか状態か否かは、以下の事情を総合評価して、「人の死亡にまつわる忌わしさが当該物件から相当程度薄らいでいるか」で判断されるものとしています。

(ア)死体の数、死体の状況

  死体の数が多いほど、また死体の発見状況が、首吊り自殺、割腹自殺又は一家惨殺殺人事件であったり、死体発見が相当程度遅れていた場合等、死体発見の状態が忌わしいほど瑕疵該当性は肯定され易くなります。

 逆に、自殺が睡眠薬の服用であったり、自殺後直ぐに病院へ運ばれた場合等の場合は肯定され難くなります。

 前記病死や自然死が一般に否定されるのもその「忌わしさ」が低いからです。

(イ)死体の存在した場所

  死体の存在した場所が、寝室やリビング等の人の日常生活空間であれば肯定され易くなります。

 逆に、複数人が出入りするマンションの階段・廊下については通常否定されるでしょう。離れの物置等についても居室等よりは否定され易くなります。

(ウ)死体発見時からの期間の経過

 年数が経過すればするほど過去の事実となってその忌わしさも軽減されます。事案にもよりますが判例は6・7年経過した物件について忌わしさを軽減する一事情としています。

  また、いったん他の人に貸してその間大過なく過ごして引っ越したのならば、これも忌わしさを軽減する要素になります。逆に、当該自殺等の事情にまつわる嫌悪感から引っ越したのであれば忌わしさを肯定する事情になってしまいます。

(エ)建物の物理的状況

 建物内に血痕や髪の毛等死体の痕跡が残っていると、忌わしさを肯定する重大な要素になってしまいます。逆に、当該建物を一度更地にし、建て直した等の事情があれば、原則として、心理的瑕疵には該当しないでしょう。

(オ)購入目的

 購入目的が居住目的ではなく営業目的、事務所目的、倉庫目的であれば瑕疵該当製は否定され易くなります。

(カ)売買価格

  売買価格が低く抑えられており、自殺等の事情がきちんと価格に反映されていれば瑕疵該当性は否定され易くなります。

(キ)地域

  当該地域が人の出入りが多い都市であれば、自殺等の噂も比較的早くなくなるでしょう。逆に、出入りがほとんどない田舎であったりするとその噂もなかなかなくなるものではありません。このような理由で、判例は当該地域の人の出入りの多さや地域社会の密接度等も考慮しています。

               

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.02.22更新

借家の立退料

 

<質問>

 私は、あるビルの一室を借りて美容室を経営しております。ある日、突然、ビルのオーナーさんから立ち退きを求められ、次の契約更新はしないと言われました。オーナーさんは、ビルが古くなったので取り壊して、新しくマンションを建てるそうです。
 私は、新しい物件が決まるまでのある程度の猶予期間と相当額の立ち退き料をもらえれば立ち退きに応じてもよいと思うのですが、すぐに立ち退きに応じなければいけないでしょうか。

また、通常の立ち退き料は、どのように算定したらよいのでしょうか。

<回答>

1 近時における不動産価格の上昇と建物の老朽化を背景に借家の立ち退きに関する紛争と相談例が多くなっております。

  そこで、今回は借家の立退料についてご説明したいと思います。

2 借地借家法上、貸主が契約の更新を拒絶するためには「正当事由」が必要です。

この「正当事由」は、借家を貸主側が自己使用しなければならない必要性と借主側の借家利用の必要性を比較衡量して判断されますが、裁判では、「改築のため」「売却のため」と言った貸主側の都合だけで「正当事由」が認められる場合は殆どなく、相当額の立退料の支払いと引き換えに正当事由が認められる、或いは、いくら立退料を積んでも正当事由が具備されないと判断される場合が多いです。

したがって、借家人としては、「契約更新をしない」と言われても動揺することなく、立ち退きに応じるべきか否か、応じるとしてどの程度の猶予期間と立ち退き料が必要かを冷静に検討すればよいと思われます。

3 次に、どの程度の立ち退き料が相当な金額か、立ち退きの裁判になった場合どの程度の立ち退き料が認められるのかについてですが、これは、正当事由の具備の程度、退去後におけるビルオーナー側の当該ビルの利用目的、土地の時価・立地条件、借主の利用態様(自宅用か営業用か)などによって数百万円から数千万円、億単位になる場合もあるなど、事案によってかなりの幅があります。

  また、交渉によって立ち退き料を決める場合にも、交渉のやり方や相手方次第でだいぶ金額に幅が生じて来ることも確かです。

したがって、立ち退きに関する話し合いに入る前に、正当事由がどの程度具備される事案かも含めて、お近くの弁護士に相談し、あるいは、交渉を含めて依頼をされることをお勧めします。

4 交渉をする際、借主側の初回提示案としては、考え得る最大限の請求をすることになりますので、以下では立ち退き料の算定の際に積算し得る項目を挙げておきます。もっとも、これらの項目のうちどれが認められるかについては、貸主側の正当事由の程度によってだいぶ異なりますので、あくまでも交渉の材料程度にお考えください。

(1) 借家権価格

これを定める明確な基準はありませんが、借家権価格に関する不動産鑑定をすると、借地権価格(路線価の7割前後)の30%(住宅地)から40~50%(商業地)と出る場合が多いようです。

(2) 移転費用

①新店舗の設備費用

②入居費用(相当期間の差額家賃の補償)

③新店舗移転の案内状作成等の広告費用

④その他移転雑費

(3)  営業補償

移転工事期間の収入の補償、移転によって減収が予想される場合には相当期間に対して減収分の営業補償をする。

(4)  慰謝料

  上記(1)から(3)の補償では賄えない移転に伴う生活上の不便、その他精神的損害を補償するものです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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