弁護士 秋山亘のコラム

2018.06.18更新

裁判員制度とは?

-その2(裁判員の負担と有給休暇制度)

 

<質問>

1 裁判員になるとどのような負担が生じるのですか。また、日当や旅費は支払われるのですか。

2  就業規則において、裁判員用の特別の有給休暇制度の規定を設けました。その中で、(1)裁判員として受領した日当は全額使用者に納付する、(2)日当を受領した時はその金額について給与から減額するなどと定めることは問題ないでしょうか。

 

<回答>

1 裁判員としての負担

 裁判員事件の審理時間は、事件にもよりますが、約7割の事件が3日以内、2割の事件が5日以内、1割の事件が5日超と言われております。また、一日あたりの審理時間は、通常一日5時間程度ですが、中には丸一日かかる事件もあります。

 もっとも、裁判員になった者や裁判員候補者として裁判所に呼び出された者には、日当や旅費が支給されます。

 日当の具体的な額は、選任手続や審理・評議などの時間に応じて、呼び出された裁判員候補者については1日当たり8000円以内、裁判員・補充裁判員については1日当たり1万円以内で、決められます(裁判員の参加する刑事裁判に関する規則7条)。

 裁判員候補者については、選任手続が午前中だけで終わり、裁判員に選任されなかった場合は、そのまま帰宅することになりますので、最高額の半額程度(4000円程度)が支払われるものと思われます。 なお、日当は裁判員の職務に対する報酬ではありませんので、裁判員が有給休暇を取って裁判に参加した場合でも、就業規則に特別の規定がある場合を除き、給与と日当の両方を受領することは問題はありません。

 また、旅費としては、鉄道(JR、私鉄、地下鉄、モノレール、路面電車、新交通システム等)運賃、船舶運賃、航空運賃の実費が支払われます。もっとも、旅費の額は、原則として、最も経済的な(安価な)経路・交通手段で計算されますので、実際にかかった交通費と一致しないこともあります。

 また、鉄道・船・飛行機以外(例えば、バス、自家用車、徒歩等)の区間は、距離に応じて1km当たり37円で計算した金額が支払われます(裁判員の参加する刑事裁判に関する規則6条)。

 次に、裁判員の仕事に必要な休暇をとることは法律で認められており(労働基準法7条)、裁判員の仕事のために休んだ労働者を解雇することやその他の不利益な取り扱いをすることは、裁判員法第100条で禁止されております。

 しかし、裁判員の仕事に従事するための「特別の有給休暇制度」を設けることは義務付けられておりませんので、各企業の判断に委ねられることになります。

 現在、裁判員としての休暇を取った場合でも有給休暇として扱われるよう、裁判所から各企業や団体に理解と協力を求めているところですが、今後は法改正も含めた検討が必要と思われます。

2 裁判員の日当と有給休暇制度

 就業規則で裁判員用の特別の有給休暇制度を設けた場合に、例えば、「裁判員用の特別の有給休暇を取得した場合には、1日分に相当する給与額(例えば1万5000円)と日当相当額(例えば1万円)との差額(例えば5000円)を支給する。」というように、給与額と日当相当額との差額を支給するような特別の有給休暇制度にすることは何も問題はありません。

 しかし、質問の(1)のように、裁判員として受領した日当を全額使用者に納付するという規定を置いた場合、その規定により実質的に労働者が不利益を被るような場合は、裁判員法100条が禁止している「不利益取扱い」に該当する可能性があります。例えば、受領した日当が1万円であり、特別の有給休暇に支払われる給与額が6000円である場合には、日当を納付することで4000円の不利益を被ることになるからです(最高裁判所HP)

 また、質問の(2)のように、特別の有給休暇としているにもかかわらず、給与額から裁判員の日当を差し引くことは一般的に認められません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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