弁護士 秋山亘のコラム

2017.10.10更新

マンション申込証拠金の法律問題

 

<質問>

私は、あるマンションの一室を購入する方向で検討しており、分譲業者の指示に従いって購入受付の際に「申込証拠拠金」として金10万円を支払いました。

しかし、その後そのマンションの建築工法に関する悪い評判を聞いたため、購入契約は締結せず、別の物件を購入することになりました。

この場合、前記の申込証拠金は返してもらえるのでしょうか。

<回答>

本件のように、マンションを購入するとして申込証拠金を支払ったが、結局、契約不成立には至らなかったという場合、申込証拠金の返還を請求できるのでしょうか。

この問題は、申込証拠金の法的性質をどのように捉えるかによって結論が分かれます。例えば、申込証拠金の法的性質を手付金の一種と捉える場合には、手付金を放棄しないと契約の解約は出来ないということになりますので、申込証拠金の返還はできません。

しかし、実務上は、申込証拠金は、特約のない限り、手付けと言うよりは、申込みを一時担保し優先順位を確保するための金銭であり、契約締結に至らないときは売主である宅建業者は返還する必要があるという見解が多数説(明石三郎ほか『詳解宅地建物取引業法』316頁、山岸ほか『ケース取引』4頁)となっております。また、各都道府県の不動産指導部でも、契約不成立の場合には全額返還するよう指導しているようです(昭和48年2月26日付建設省不動産室長通達も同旨)。正式な売買契約等を締結するには至っていない以上は手付金とは解せないこと、申込証拠金の法的性質について曖昧なまま金銭の授受が行われているという現状に照らせば、上記見解が妥当と思われます。

ただし、申込証拠金の受領証などに、例えば「契約が成立しない場合には申込証拠金は返還しない」旨の特約を設けていた場合には、そのような特約に従った処理をすべきことになりますので、原則として返還請求は出来ないことになります。

もっとも、消費者契約法からすれば、こうした条項も無効とされる可能性もあります。特に、申込証拠金の金額が通例に比して高額である場合には「全額返還しない」旨の条項は、無効とされる可能性も十分にありますので、購入業者との交渉次第では一部返金される可能性もあると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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