弁護士 秋山亘のコラム

2017.05.22更新

賃料の不払いと転借人への催告

 

<質問>

 私は、家主Aさんの承諾を得て、建物の原賃借人Bさんから建物を転借しているものです。

 家主Aさんから、原賃借人Bさんの賃料不払を理由に原賃貸借契約を解除したので、建物を明け渡すよう通知が来ました。

 私は、転借料をBさんに毎月きちんと支払っていましたし、もしBさんの不払いがあれば私が賃料を代払いしてもよいと思っていました。いきなりの解除通知に納得いきません。どうしたらいいでしょうか。

<回答>

1 家主(賃貸人)が原賃借人の賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除する場合には、原則として、賃借人に対し、賃料を一定期間内に支払うよう催告をし、催告期間内に賃料が支払われなかった場合に解除する旨の通知をすることが必要です。

 転借人は、家主と原賃借人の原賃貸借契約が有効であることを前提に建物を賃借できる立場ですので、家主が原賃借人に対し、上記催告手続きを行った上で契約解除をされた場合、転借権を家主に対抗できないのが原則です。

 では、転借人に催告さえしてもらえれば、転借人が原賃借人の賃料を代払いできたという場合、家主が転借人に催告せずに契約を解除した場合、家主は契約解除を転借人に対抗できるのでしょうか。

 この点に関し、判例は、転借人に対する催告は原則として不要との立場をとっております(大審院昭和6年3月18日)。ただし、最判昭和37年2月1日は、原賃借人と賃貸人が「通謀」してわざと賃料を滞納するなどして債務不履行解除の原因を意図的に作り出したような場合には、解除をもって転借人に対抗できないと判断しております。

 このように判例は、原則として転貸人への通知不要説に立っておりますが、この点については、学説上は、家主が転貸借契約を一旦承諾している以上転借人にも通知すべきだという通知必要説から強い批判があるところです。そのため、将来、この点の判例が変更される可能性がないわけではありません。

2 このような事前の催告通知のない解除に備えて、転借人は、どのような対策を取っておくべきでしょうか。

 まずは、家主と転借人との間で、原賃借人による賃料不払の場合には転借人にも賃料の支払いを催告する旨の合意書を結んでおくことです。転借貸借契約を結ぶ場合には、原賃借人が家主に転貸の同意料を支払うことで同意書をもらうことが多いようですが、その際に上記のような合意書も取り付けてもらうとよいでしょう。

今からでは上記のような合意書が取れないという場合には、次善の対策として、転借人が家主に対し原賃借人に賃料の不払いがあった場合には代払をするので催告されたい旨の申出を書面で送っておくことが考えられます。

この点、東京地判昭和33年2月21日も事前の代払いの申し出がある事案において、大家の転借人に対する催告のない解除を対抗できないと判断しております。ただし、この裁判例は、原賃借人と転借人の不和が背景となって原賃借人が賃料の不払いを始めたという事案であり、前記の家主と原賃借人の通謀事例に類似した事案です。

そのため、転借人が家主に代払いの申し出を通知すれば必ず転借人への催告が必要になることが判例として明確に判断されたものではありませんので、注意が必要です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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