弁護士 秋山亘のコラム

2017.05.08更新

暴力団事務所と瑕疵担保責任

 

<質問>

 当社は、営業所の建設用地として、ある土地を購入しました。

 しかし、購入後、その土地の真向かいに暴力団事務所が存在することが判明しました。

 売買の目的土地の近隣に暴力団事務所が存在する場合、土地の買主は売主に対し、売買契約の解除等何らかの責任を問えるのでしょうか。

<回答>

 本件は、間に不動産仲介業者を入れない会社間の取引でありますので、不動産仲介業者の重要事項説明義務違反や消費者契約法による取消による仲介業者や売主の法的責任は問えません。

 そこで、本件では、売主に対する瑕疵担保責任に基づく売主の法的責任について解説したいと思います。

この点、東京地方裁判所(判例時報1560号 平成7年8月29日判決)は、本件と類似の事例で、瑕疵担保責任による売買価格の減額を認めました。

(1)事案

 原告甲及び被告乙はいずれも不動産の売買等を業とする会社で、甲と乙は平成4年3月30日、ある土地を代金9100万円で乙から甲に対し売り渡すという内容の売買契約を締結しました。甲は、同日売買代金のうち910万円を支払い、同年4月30日に残金8190万円を支払い、乙から土地の引き渡しを受けました。甲はその土地に事務所兼賃貸マンションを建設するつもりでした。ところが、その後、土地と交差点を隔てた対角線の位置にある建物(直線距離にして9メートル)には暴力団事務所があり、以前から暴力団の組事務所として存在していたことが判明しました。

  そこで、甲は乙に対し、

① 売買契約の詐欺による取り消し(民法96条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

② 売買契約の錯誤による無効(民法95条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

③ 売買契約の瑕疵担保責任による解除(民法570条)を理由とした代金返還請求(9100万円)

④ 売買契約の瑕疵担保責任による損害賠償請求として代金(9100万円)の75%相当の損害賠償

という内容で裁判を起こしました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、甲の請求のうち①から③については認めませんでしたが、④については、

・本件土地は小規模店舗、事業所等が点在する地域に所在するところ、交差点を隔てて対角線の位置に本件暴力団事務所が存在することは、本件土地の宅地としての用途に支障を来たし、その価値を低下させることは明らかである。本件土地は宅地として通常保有すべき品質・性能を欠いているものであり、本件暴力団事務所の存在は本件土地の瑕疵に当たる→ 「暴力団事務所の瑕疵該当性」

・本件暴力団事務所のある建物は、契約時において、暴力団事務所としての存在を示すような物を掲げることもなく、暴力団事務所であることを示す外観はなかった。通常人が本件土地を購入しようとして現場を検分しても、暴力団事務所の存在を容易に知り得なかったであろう→ 「本件暴力団事務所の『隠れた瑕疵』該当性」

とした上で、本件土地の暴力団事務所の存在による減価割合を20%と認定し、これを損害としました。

(3) 本判決の意義

 本判決は、暴力団事務所が「売買の目的物である土地の中に」あるのではなく、「売買の目的物の土地の近隣に」ある事案において、「瑕疵」に当たるとしました。暴力団事務所の実態、社会に及ぼす危険性等暴力団事務所の害悪を適正に評価したと言えるでしょう。しかし、本判決は、通常人には暴力団事務所を容易に発見することはできないので、暴力団事務所の存在という瑕疵は「隠れた瑕疵」に当たると判断していますので、外観上暴力団の「組事務所」を示す標識などがあった様な場合には、瑕疵担保責任は問えないことになります(但し、この場合でも信義則上の売主の説明義務違反は別途問題になり得ます)。

 なお、本判決は、原告の「契約の取消・契約無効・契約解除」という主張については認めませんでした。これは、原告は一般の購入者ではなく不動産業者であることから、価格を安く抑えて転売することによって契約の目的を達成し得ること、代金も完済し物件の引渡しも済んでいることなどから可能な限り契約を維持するのが相当と考えたのだと思います。

いわゆる暴力団対策法施行の影響で外観上暴力団事務所と分からない建物が増加しているようですので、本件の事案のような裁判は増えることが予想されますが、「契約の取消・無効、契約解除」まではなかなか認められないと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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