弁護士 秋山亘のコラム

2017.01.11更新

死亡保険金と相続の法律問題

 

<質問>

(1)父が生命保険の被保険者として加入し、その後死亡したのですが、保険契約上、死亡保険金の受取人は長男である私に指定されておりました。弟は、死亡保険金も父の相続財産だと言って、遺産分割をするよう求めております。死亡保険金も遺産分割の対象になるのでしょうか。

(2)(1)の事例で、父には生前に相続財産を上回る多額の借金があったため、相続放棄をしようと考えております。相続放棄をすると死亡保険金を受け取る権利も失うのでしょうか。 

(3)(1)の事例で、弟と遺産分割をする際に、弟は、私が父の死亡保険金を受け取っていることを理由に、父の遺産分割では私の相続分を減らすよう求めております。弟の求めに応じなければならないのでしょうか。

<回答>

1(1)の回答

最高裁昭和40年2月2日判決は、保険契約において受取人として相続人のうちの特定の個人が指定されている場合には、保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に当該相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱していることを理由に、死亡保険金は相続財産にはならないと判示しております。

したがって、本件のような場合には死亡保険金は遺産分割の対象にはなりませんので、弟の求めに応じる必要はありません。

なお、仮に死亡保険金の受取人が単に「相続人」されており、個人として特定されていない場合の扱いですが、このような場合についても最高裁昭和40年2月2日判決は、保険契約によって特定の相続人に相続されるものと解して、相続財産にはならないと判示しております。この場合の相続人間の分配方法ですが、保険約款に定めがあればそれに従い(約款の多くは「均等に分ける」旨の定めがあるようです)、保険約款にも定めがない場合には法定相続分に従い分配されることになります。

これに対して、保険契約上の受取人が亡くなられた被保険者本人となっている場合には、被保険者本人がいったん取得した保険金を相続することになりますので、相続財産として扱われることになります。

2(2)の回答

 前記1のとおり、生命保険金は、保険契約において特定の受取人が指定されている場合には相続財産にはなりませんので、相続放棄をしたとしても問題なく死亡保険金を受け取ることができます。

3(3)の回答

 この問題は、保険契約において死亡保険金が特定の相続人に与えられた場合、死亡保険金の授与を民法903条1項の特別受益と考えて、当該相続人の相続分を減じることができるかという問題です。

 この点に関して、最高裁平成16年10月29日判決は、原則としては特別受益には該当しないと判断しましたが(したがって当該相続人の相続分を減じる必要はないことになります)、「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には,民法903条1項の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる(すなわち、当該相続人の相続分を減じる必要がある)と判断しました。

 したがって、原則的には、死亡保険金を受け取っているという事情は、死亡保険金以外の遺産に対する遺産分割において考慮されることはありません。

しかし、死亡保険金の金額が高額であり、他方で、その以外の相続財産の金額がわずかであるなど兄弟間において死亡保険金も含めた相続による取得額に著しい差が生じ、また、そのような差を設けることが著しく不公平であると認められるような事情が特に認められるのであれば、死亡保険金を取得しているという事情は、遺産分割において当該相続人の相続分の減額事由として考慮されることになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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