弁護士 秋山亘のコラム

2016.09.05更新

大規模震災による建物倒壊と借地人保護-その1

 

<質問>

 平成元年3月に地主から期間30年で借りた土地上の木造建物が地震により倒壊してしまいました。借地が土地所有者によって第三者に売却された場合、私の借地権はどうなるのでしょうか。

<回答>

1 本問は、借地上の建物が滅失している間に、地主が底地を第三者に譲渡してしまった場合、借地人は、当該第三者に借地権を対抗できるかという問題です。

この点、借地権の対抗力については、「建物保護ニ関スル法律」1条が規定しています。同条によると、借地権が対抗力を有するためには、土地上に登記してある建物があることが必要です。

すると、土地上の建物が滅失してしまった場合には、対抗力は失われるので、借地が第三者に売却されてしまうと、その買主に借地権を対抗することは出来なくなってしまいます。

ただ、それでは、震災で建物を失くしたうえに借地も失ってしまうという具合に、借地人にあまりに酷です。

そこで、政令により「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下、「臨時処理法」)を適用すべき震災とされた場合で、同法の適用地域とされた場合には、同法10条により、5年間は借地上に登記された建物がなくとも第三者に借地権を対抗することができます(同法25条の2)。

したがって、5年以内に建物を再築し、登記をすれば、第三者への対抗という点では問題は生じないといえます。

ただし、現時点では、臨時処理法の政令指定は行われていないようです。なお、臨時処理法はかなり古い時期に制定された法律で、様々な問題を含んでいると指摘されている法律ですので、今後改正される可能性はありますので、その動向に注意する必要があります。

3 以上により、本問の回答としては、臨時処理法の適用がある場合には、5年以内に建物を再築し登記をすれば第三者への対抗という点で問題は生じません。

しかし、同法の適用がない場合には、可及的速やかに建物を再築して登記をする必要がある、ということになります。

4 次に、臨時処理法の適用のない場合でも、借地借家法10条2項は、借地上の建物滅失後の場合の対抗要件に関して、「借地上の建物が滅失した後2年間は、借地権者が、建物を特定するために必要な事項、滅失の日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示することを条件に、借地権はなお対抗力を有する」旨を定めております。

 なお、借地借家法は、平成4年4月1日以降に設定された借地権に適用のある法律ですが、上記の条項は、それ以前に設定された借地権にも準用されますので、本問の場合にも適用があります。

したがって、建物滅失後2年間は借地に立て札を立てることで地主が底地を第三者に譲渡しても対抗できます。

ただし、前記のとおり、2年経過後は、2年が経過する前に建物を再築し登記をしていなければ、登記をする前に当該土地を買い受けた第三者に借地権を対抗することはできませんので注意が必要です。

5 最後に、地主が土地を第三者に譲渡し、仮に借地人が借地権を第三者に対抗できない場合にも、地主に対する損害賠償請求は可能です。

地主としては、底地を第三者に譲渡し、借地権を消滅させた場合には、借地人に対し、損害賠償責任を負うことになります。                     

                       

投稿者: 弁護士 秋山亘

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