弁護士 秋山亘のコラム

2016.08.15更新

有責配偶者による婚姻費用請求


<質問> 
 妻が浮気をした挙句、浮気相手の男性と一緒に住むと言って別居してしまいました。
その後、妻は、私との離婚を求めて調停を申し立ててきましたが、それと同時に離婚が成立するまでの婚姻費用として生活費の支払いを求める調停も起こしました。
 私としては、浮気をした上に一方的に別居した妻に対する婚姻費用を支払うことにどうしても納得がいきません。法的にはどうなのでしょうか。
<回答>
1 夫婦関係において、夫は、妻に対して自分と同程度の生活を保持する義務がありますので(民法760条)、夫は妻との別居後においても夫の収入に応じた一定額の生活費を支払わなければならないのが原則です。この生活費は、夫と同程度の生活レベルを保持するためのものですので、夫の収入によって変わってきます。
 これは、離婚原因について仮に一方当事者である妻側に何らかの責任がある場合においても同様です。
2 しかし、札幌高判昭和50年6月30日(判タ328号282頁)は、「婚姻関係の破綻につき専ら、若しくは主として責任を負う者が、その義務をつくさずして、相手方に対し、相手方と同一程度の生活を保持できることを内容とする婚姻費用の分担の履行を求めることは権利の濫用として許されない。」と判示しております。上記裁判例は下級審判例ではありますが、その後の多くの裁判例でも同種の判断がなされております。
したがって、本件のように妻側に一方的に破綻の原因があることが明らかなような場合には、前記1の原則の例外として、「夫の生活レベルと同程度の生活を保持するための生活費」の支払については拒否することができます。
3 もっとも、上記裁判例も「夫と同程度の生活レベルを保持するための生活費の支払義務」はないものの、夫婦である以上、夫には妻に対し「最低限の生活を維持させるという限度での婚姻費用の支払い義務」はあるとも判示しております。
 これはどういうことかと言うと、破たん原因について妻側に一方的な落ち度があるような場合には、夫と同程度の暮らしをさせる金額での婚姻費用の支払い義務はないものの、妻が生活するための最低限度の生活費については夫にはその支払い義務があるとしたものです。
 本件のようなケースでは、まず、妻側が自らのパート収入や同居している相手の収入などで生活していけるかどうかを検討し、生活していけるのであればそれ以上の生活費の支払い義務はないということになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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