弁護士 秋山亘のコラム

2016.05.02更新

中途解約の場合の賃料支払義務

 

<質問>

私は、会社を経営するため、ビルの一室を会社の事務所として月額20万円で賃借しました。契約書では、契約期間が3年間とされており、中途解約に関する条項はなく、「期間満了前に解約する場合は、違約金として、解約日から期間満了日までの賃料を支払う」旨の条項がありました。

その後、会社経営がうまくいかないため、契約日から半年後に賃貸人に賃貸借契約の解約を申し込んだところ、賃貸人から残りの契約期間である2年6か月分の賃料を違約金として請求されました。

このような多額の違約金の請求は認められるのでしょうか。

 

<回答>

1 賃貸借契約においては、多くの場合、契約書に中途解約に関する条項が設けられていますが、中途解約は、当然に認められるものではなく、原則としてその旨の合意を契約書等でしておかなければなりません。また、中途解約の合意がある場合でも、中途解約の予告期間が定められることが多く、その期間に満たない解約をするときは、予告期間に相当する期間の賃料を支払う義務があります。

契約書の中には、中途解約に関する条項が設けられておらず、そのような場合には、中途解約が認められず、契約期間満了までの賃料の支払い義務を免れないのが原則です。

2 しかし、中途解約に関する契約書の条項がなく、中途解約ができない場合でも、残りの契約期間があまにも長く、違約金として支払う賃料があまりにも多額になる場合には、そのような違約金条項が暴利行為として公序良俗違反(民法90条)により一部無効になる場合があります。

 東京地判平成8年8月22日(判例タイムズ933号155頁)は、①契約期間満了までの賃料を違約金として支払い旨の違約金条項をそのまま適用すると、賃借人が賃料の約3年2カ月分を損害金として支払う事になりあまりにも高額すぎること、②当該建物において、賃借人の明渡後賃貸人は通常数ヶ月程度で新たな賃借人を確保してきており、1年以上を要した例がないことを理由にして、1年間の賃料相当額に限り有効とし、それを超える部分は暴利行為にあたり公序良俗違反として無効としました。

 賃借人が中途解約した場合の違約金条項は、賃貸人が新たな賃借人を確保するまでの間、建物を有効利用できないことによる損害を補填するための条項ですので、次の賃借人が決まるまでに通常かかるであろう期間を補填するための条項であり、そのような入居待ち期間を最大限見てもそれを超えるような期間の違約金は、暴利行為として無効とみなされるという判決です。

3 なお、本件においては、会社経営のためのビルの一室の賃借ですので、賃借人は消費者契約法上の「消費者」には該当しませんが、仮に、賃借人が通常の住居のために賃借したというのであれば、賃借人は消費者契約法上の「消費者」であり、貸主が賃貸業者の場合には消費者契約法上の「事業者」になりますので、消費者契約法の適用があります。

この場合、本件のような違約金条項は、消費者契約法第9条により、「平均的損害の額」を超える部分について無効とされます。

賃貸借契約の中途解約の場合の損害についは、次の入居者が決まるまでに要する期間の賃料が損害ですので、入居待ちの平均的な期間に相当する賃料額を超える違約金については無効になります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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